【対談】Afterコロナ期に向けたスポーツ界の在り方② スポーツ団体の経営力強化・デジタル化・多業種連携 鈴木スポーツ庁長官×村井満(Jリーグチェアマン)×湧永寛仁(日本ハンドボール協会会長)

鈴木長官、村井チェアマン、湧永会長

With コロナ・After コロナに向けたスポーツ界の在り方について、鈴木大地スポーツ庁長官と各界のオピニオンリーダーが語り合うシリーズ企画記事「Afterコロナ期に向けたスポーツ界の在り方」。今回は日本プロサッカーリーグ理事長(以下、Jリーグチェアマン)の村井満さんと日本ハンドボール協会会長の湧永寛仁さんをお招きしました。(お二人のプロフィールはこちら)企業経営者としても活躍されるお二人にスポーツの産業化やWith コロナでの新たな観戦体験など、鈴木長官とWEB会議システムを使って語り合っていただきました。

コロナ禍での気づき

鈴木

スポーツ界もWith コロナの時代で新しい生活様式のなかで試行錯誤しながら活動している状況です。本日は競技団体、プロリーグのトップであり、企業経営者も経験されているお二方にお話を伺っていきたいと思います。スポーツ界はオリンピック・パラリンピック・イヤーで加速しようとしているなか、コロナ対策で大きな影響を受けているわけですが、その状況下でも再開に向け、お二方は最前線でご尽力されてきました。結果、一時は国内外ともに生活の中にスポーツがなくなる時期もありましたが、ようやく平時のようにスポーツが戻ってきて、日常の生活に潤いが戻るフェーズに入ってきていると思います。

スポーツの産業化という観点から、「With コロナ」の新しい生活様式によるスポーツ、また、「Afterコロナ」に向けたスポーツとして、あらためて、見えてきたこと、気づいたことお聞かせください。

村井

私は2月下旬から在宅勤務が半年以上続きました。運動不足や喜怒哀楽を表現する機会もないまま、妻と向かい合う生活をしていました。やはり太陽の下で汗を流し、大きな声で仲間と触れ合うことが大切で、当たり前のようにスポーツがあることが重要だったのだと再認識しました。

「With コロナ」の時代にスポーツを続けていくために、いくつかの「気づき」がありました。

①放映や通信などテクノロジー
スタジアムに行かなくても空調の効いた自宅で食事をしながらサッカーの臨場感を楽しむには、まだまだ改善の余地がありました。
②サッカースタジアムの基準
安全な空間、お客様の動線、密な状態にならないための新たなスタジアム基準が必要になると思いました。
③競技団体同士の協力
サッカー、ハンドボール、ラグビーなど、さまざまな競技団体がありますけど、共通しているのは「筋書きのないドラマ」です。競技間で限られた資源を奪い合うのではなく、協力しながらシェアしていく必要性も気づいたりしました。

湧永

村井チェアマンと重なりますが、スポーツのない生活はとても淡白であり、一生懸命頑張る選手の姿を見て感動する機会を失ったことによって、スポーツは国民の生活にとって重要なものであったのだとあらためて実感しました。今回、ハンドボールに限らず、すべての競技団体でほとんどの学生大会が中止や延期でなくなり、学生たちの喪失感はわれわれが想像する以上に大きかったと思います。いままで開催していたインターハイや選抜大会などの重要さに気づかされました。私の周りには高校生、大学生のお子さんを持つ方も多くいるため、話を聞く機会が多いのですが、毎日、オンラインで授業を受け、友だちと会うこともなく、淡々とした生活を送る子どもたちが可哀想だと言っていました。コロナ禍で「友だちと会うことの大切さ」「スポーツを通じて一緒に取り組む大切さ」があらためて見直されてきていると思います。
また、運動の大切さも感じていて、今後は「運動不足」の問題もクローズアップされていくかと思います。ポストコロナでは、コロナ禍で得られた教訓をしっかりと踏まえたうえで「スポーツ界の発展」「国民の健康と暮らしの楽しみ」に寄与していきたいと思っています。

スポーツと「デジタルテクノロジー」の親和性

サッカースタジアムイメージ

鈴木

村井チェアマンから観戦スタイルについて言及がありましたが、Jリーグでは早々にオンラインツールを活用した記者会見、デジタルツールを活用したコミュニケーションスタイルの確立に取り組まれてきました。「リアルなスポーツの場」における「IOTテクノロジー」の活用によって、スポーツ界も新しい局面に入ってきたのかと思います。科学的なデータ分析などを取り入れた「競技力向上」、テクノロジーを活用した「新規ファンの獲得」など、可能性が広がりつつあるなか、企業経営を経験されて、競技団体のトップを担っているお二方のデジタル活用のお考えをお聞きしたいです。

村井

「ライブスポーツ」と「デジタルテクノロジー」の親和性は非常に高いと考えています。結果を知ってからスポーツを観るよりも、選手とともに戦う「ライブ感」を楽しむのがスポーツの醍醐味です。いつでも、どこでも観戦できるインターネット、そして、スタジアムにいるような迫力ある音響、360度見渡せるヴァーチャルリアリティ映像など、さまざまな先端技術とスポーツはたいへん相性がいいと思います。
Jリーグのスタジアムでは、最新の技術を活用して、プレイしている選手とボールの動きを捉えて、パスの成功率、加速度、ランニング距離など、さまざまなデータを同時に配信して、スポーツをより楽しくする要素として取り入れています。また、スタジアムにいなくても、スマホを通じたリモートの応援システムがあったり、スタジアムに自分の応援を届ける技術も出始めたりしています。5Gをはじめ大容量通信や通信速度の高速化などと相まって、これからスポーツの楽しみを広げてくれる期待感を持っています。試合以外でも、選手がYouTubeチャンネルを開設して動画を配信したり、SNSを活用して幅広く情報発信したりしています。

3類型のオープンイノベーション実現によりスポーツ市場の拡大

鈴木

コロナ禍で大会やイベントが中止・延期となるなか、私たちは「eスポーツ」に注目しました。すべての大会やイベントが止まっているなか、バスケットボールの八村選手やテニスの錦織選手といった一流のアスリートたちがその競技のスポーツゲームに参加することが、非常に世間の注目を集め、既存の客層以外の人たちに向けて大きなプロモーション効果に繋がることを改めて実感し、お金の流れもできることに驚きました。最初は「eスポーツ」はスポーツなのかという観点で半信半疑だったのですが、このコロナ禍で考えが変わりました。AR・VRなどテクノロジーの発達で実際に体を動かして疑似体験できるスポーツなど、スポーツの振興に繋がる観点も大いにあるなと。Jリーグでは早くからゲームとのコラボは行っていましたよね。

村井

FIFA(国際サッカー連盟)が「eスポーツ」を重要カテゴリーに掲げていまして、今年3月、ゲームを使った『FIFA eネーションズカップ2020』日本代表予選決定戦なども企画されていました。還暦を過ぎた私が10代の子と一緒に本気で戦えたり、障害のあるなし、男女も関係なく、本当のリアルなサッカーに引けを取らないぐらいの技術になっていたりしていますので、スポーツファンの裾野を広げる意味でもとてもいいと思いますね。昨年2019年の茨城国体で文化プログラムに「eスポーツ」が採用されて話題になりましたけど、もっと広がっていく気がします。

ビジネスの世界から競技団体運営を考える

鈴木

プロの経営者である湧永会長としてはデータやテクノロジーの取り入れ方はどう考えていますか。

湧永

2017年10月から日本ハンドボール協会の会長となりましたが、それまで協会の理事として活動しておらず、私にとってほぼ初めての協会活動となりました。会長となり、協会全体を見ていくなかで、オリンピックに出場してメダルを取ろうとする指導法や強化における一連の流れは非常に素晴らしいオペレーションだと感じましたし、さらに強めていきたいと思いました。

その反面、ビジネスの世界で生きてきた人間として、ハンドボール協会はとても高いビジネスポテンシャルがあり、協会運営にビジネス的な発想を組み込めば、様々なことができるのではないかと思いました。ハンドボール協会の場合、2011〜2018年の累計で約30万人の方が、2019年単独では約9万3000人の方が競技者として登録しています。こうしたデータをもとに、登録していただいた方に、もっと、いろいろなハンドボールの楽しみ方、ハンドボールをやっていて良かったと思えるようなサービスを提供できる仕組みを構築したいと考えました。まさに、企業的な発想です。

具体的には来年3月に会員サイトをスタートさせる予定です。サイトには登録者ごとのマイページがあって自分の出場した協会主催の大会写真や記録を蓄積できるようになります。そして、例えば写真であれば、登録者が試合後すぐに試合写真をダウンロードすることができたり、大会公式ポスターに自分の写真を入れることができるようにして、一生の思い出にしてもらいたいと思っています。私自身もスポーツ選手でしたが、活躍できる選手ではなかったので、試合写真がほとんど残っていません。もし、当時にそういうサービスがあったら自分の思い出として残していたかと思います。

いままでのハンドボール協会であれば、強化や指導普及、競技運営が重要項目であって、あまりビジネス的なプラスアルファの活動を行っていなかったと思います。せっかく私はビジネスの世界から来たので、多くの方に一生涯ハンドボールを楽しんでいただくサービスを提供し、その結果として協会の収益が発生してゆく、プラスアルファの効果が生まれるような仕組みをつくっていきたいです。

鈴木

選手としてはスポーツ関係者へのアピールとして、自分の試合写真や動画があると助かると思います。動画もあるのですか。

湧永

動画も考えています。動画撮影には人件費がかかり、地方大会の1回戦から撮るのは難しいので、人がいなくても自動で撮れる「AIビデオ」の導入を考えています。そのAIビデオを各地の体育館に設置して、自動的に撮れる仕掛けをNTT Sportictと検討しています。

鈴木

スポーツ庁では「スタジアム・アリーナ改革」も進めていますが、これから新たに建設するスタジアムやアリーナには、あらかじめ撮影できる設備を常設導入しておけば、可能性も広がりそうですね。

ハンドボール試合イメージ写真提供:公益財団法人日本ハンドボール協会

他業種と連携することで創造性が拡がる

鈴木

私たちとしては「スポーツ経営人材の育成」が重要だと思っております。お二方は企業経営からスポーツ界に参入してきたわけですが、「スポーツ経営をやってみようと思ったきっかけ」と、「プロの経営者として、スポーツ団体組織を運営していく意義」について教えてください。

村井

昔、部活動でサッカーをやっていましたが、まさか、こんな立場になるとは思っていませんでした。そもそもの発端は、転職相談とか就職相談を行っている人材系の会社に勤めていましたので、CSR(※)という形で社会に還元しようと、スポーツ選手のセカンドキャリアのサポートを、プロ野球とJリーグに行っていた縁から、現在のチェアマンとなりました。

※CSR
「Corporate Social Responsibility」の頭文字で、企業の社会的責任の意。企業が利潤を追求するだけでなく、市民や投資家、社会全体に対して影響に責任をもち、自発的な行動を起こすこと。

私がチェアマンとなって最初に始めたのは、2015年、スポーツ界での経営者を養成する学校「Jリーグヒューマンキャピタル(現・公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル)」のスタートです。もう100人近い卒業生たちがスポーツ経営に携わり、Jリーグ56クラブ中、2クラブで卒業生が社長を務めています。サッカー以外に、バスケットボール、ボウリング、野球など、さまざまな競技団体で活躍しています。ルールは競技ごとに違いますが、競技を支えるマーケティング、普及、集客など、さまざまな運営方法は変わりませんので、われわれスポーツ団体は具体的な実践の場を持っていると言えます。知識の修得と実践の歯車がうまく合っているからスポーツ経営者が育ち始めていると思います。

スタジアムを建設するのであれば不動産開発のノウハウだったり、資金調達のファンド組成の知識だったり、海外に放映権を販売するならグローバルなタレントであったり、先ほど話したテクノロジーもしくはデータのスペシャリストだったり、つまり「競技のエキスパート」というよりは、どこの企業でも求められるような人材が活躍できるフィールドが、スポーツ界の場合はとても広いのです。気がついてみれば、まったくサッカーに関心のなかった人がスポーツヒューマンキャピタルで学んで、経営者になっていたケースも多々あります。

湧永

湧永製薬の社長として自社のハンドボール実業団チーム「ワクナガ レオリック」の位置付けを考えた時、「CSRのみだと続かない」という結論に至りました。不況時に強豪クラブチームが続々と実業団から手を引いていくのを見て、企業として利益が出ている時は存続できるけど、利益が出ないと撤退という現実を目の当たりにしました。私は「ワクナガ レオリック」をずっと続けたい。だから、本業は本業で頑張らないといけませんが、「企業としてチームを持っていることが本業にとってプラスにならなければいけないんだ」と自分なりに考えるようになり、いろいろ試行錯誤しました。その様子を日本ハンドボール協会が評価してくださり、2017年に会長となりました。協会に入る前から「ワクナガ レオリック」で、あれこれと取り組んでいたことが、今でも活かせていると思います。

他業界からの参入に関しては、「多様な価値観から新しいことが生まれる」と信じておりますので、これまでスポーツとは無縁だった人で、新たにスポーツに興味を持った人とコラボした方が新しいことが創造できるのかなと思っています。スポーツ庁の掲げる「スポーツ団体経営力強化推進事業」のなかで、ハンドボール協会はビズリーチを通じて兼業・副業で協会運営を手伝ってくださる方を募集し、300名超の応募の中から、現在4名の方に手伝っていただいています。意図したわけではありませんが、結果的に採用した4名ともハンドボールをしたことのない人で、ハンドボール以外の考え方が入ってきてとてもプラスになっています。ハンドボール界の人も大歓迎ですけど、それ以外の人とも融合することによって、より創造性が高まる協会運営をしていきたいと思います。

鈴木

2018年から「スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(以下、SOIP)」を開始しました。日本ハンドボール協会には昨年参画していただきましたが、その狙いと参画してみていかがだったでしょうか。

湧永

その節はお世話になりました。SOIPに参画したのは、自分たちだけで新たなアイデアを考えるよりは、多種多様な業界から「ハンドボールと組むと、このような可能性があるよ」とご提案いただいて、それを、しっかりと自分たちが実現することでハンドボールに貢献できると思ったからです。さまざまな価値観を取り入れたいと考えていたところ、そのような場をスポーツ庁につくっていただき、本当にありがたかったです。SOIPを通じてご縁のあった人たちと色々な協議をしていたのですが、今年はコロナ禍で競技大会が開催できず、残念ながら現時点までは具体的な成果は出ていないものの、現在も水面下で準備を進めています。

参考:スポーツ庁 : 「なぜ今、他業界がスポーツに注目しているのか」 スポーツと他産業の融合によって生まれる“スポーツオープンイノベーション”
https://sports.go.jp/tag/business/post-8.html

鈴木

JリーグではDAZNなど新しい観戦スタイルの導入で資金を獲得したり、アジア圏への展開をされたりしていますが、これからのスポーツ界に必要な視点などありますか。

村井

国連加盟国は193カ国(2020年1月現在・外務省発表)、FIFAに加盟する国や地域は211(2020年9月現在・FIFA)と、サッカーは大規模な団体。ボール1つさえあれば世界中どこでもできる国境なく楽しめるスポーツです。Jリーグといえ、国内に閉じることなく、さまざまな国や地域と連携が図れ、人口減少で苦しい地域もスポーツ外交やスポーツ・ツーリズムという形で国境を越えた連携が図れるはずです。また、インターネットで動画を配信して諸国や地域と繋がっていくことはスポーツや国同士の関係性をつくるには有効なことだと思います。

体を動かす楽しさを子どもたちに伝える

少年サッカーイメージ

鈴木

コロナ禍に加えて、人口自然減の問題もありますが、これからも競技人口を拡大していかなければならないと思います。サッカー協会や陸上連盟をはじめ各競技で、草の根的に競技人口の拡大を団体のミッションに掲げていますが、どのようにアプローチをされていますか。

村井

Jリーグでは理念の最初に「日本サッカーの水準向上及びサッカーの普及促進」を掲げており、普及こそがJリーグの原点となります。すべてのクラブがアカデミーという子どもたちを育成する組織を持つように義務付け、またパートナーであるスポンサーの皆様とともに全国レベルでサッカー教室や健活、キッズイベントを開催して普及活動を行っています。例えば11人でサッカーができなければフットサルルールで行ってもいいですし、「体を動かす楽しさ」の訴求を一番重要なテーマに活動しています。
また、子どものうちは1つの競技に絞りきれないと思いますので、例えば、ウインタースポーツとサマースポーツを組み合わせてみたり、サッカーだけではなくハンドボールなどと一緒に競技を横断した体験イベントを行い、スポーツ・運動の楽しさを伝える機会を増やしてみたりしていくのもいいかもしれません。

鈴木

多くの部活動で競技人口が減っているなか、ハンドボールは競技人口が増えていますが、どのような取り組みをしているのでしょうか。

湧永

競技者登録数は、小学校から社会人、男女合わせて2005年が約7万7000人、2010年が約9万人、2015年が約9万5000人となっており、現在はちょっと減って9万3000人程度です。おかげさまで競技者は増えています。増えた理由として、学校の指導要領にハンドボールが入っており、学校体育、部活動に依存するところが大きいと思います。しかし、少子化や働き方改革で部活動の見直しも行われていて、このまま競技者登録が増えるのかという課題もありまして、先ほど会員サイトの話をしましたが、サイトには指導者も登録するので、教えてくれる人を探している地域があればマッチングさせるような機能を使うことも考えています。
また、スポーツをこれから始めようとする幼児や小学生低学年の世代に、ファーストステップとして、スポーツの3要素「走る」「投げる」「跳ぶ」があるハンドボールを通じてスポーツ・運動の楽しさを知って欲しいと思っています。そこで「投げる」に特化したハンドボール教室を埼玉県で開催したところ、投げる力が伸びた、楽しかったという子どもたちの声が多く、沖縄県でも開催する運びとなりました。いまはコロナ禍で中断していますが、終息しましたら、子どもたちにスポーツ・運動の楽しさを伝えていきたいです。

今後のスポーツ団体の課題と可能性

WEB会議で対談する鈴木長官

鈴木

スポーツは日本最後の成長分野と言われているなかで、今後、マーケティングの取り組み、経営人材の活用、スポーツ界のDX(※)化(スポーツデジタルトランスフォーメーション)が重要視されています。今後のスポーツ団体の課題と可能性についてお聞かせください。

※DX
デジタルトランスフォーメーションの略。ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させるという概念。

湧永

まずは強化や指導、普及が大事なのが大前提です。その上で、チームワークや体を動かすことの楽しさなどの「教育」にも取り組んでいきたいですし、また、「健康」と「運動」は切っても切り離せません。これから高齢化が進むなかで健康寿命を延ばすにはスポーツはとても重要な要素です。体を動かしている人と動かしていない人とでは、病気のなりやすさは全然違ってきます。健康のためには、「食」「睡眠」「ストレス」、そして「運動」が重要であり、協会としては運動の面からしっかりフォローしていきたいと思います。また、ビジネスとしては、ここに大きなポテンシャルがあるのも事実です。
会員サイトの話に戻りますが、登録者は競技者が基本ですが、趣味としてハンドボールを楽しみたいという人たちもフォローしていくつもりです。これからの時代、仕事が18時に終わったら「体を動かそうよ」という人が多くなってくると思いますので、そうした人たちの受け皿としてハンドボール協会が関与していき、健康寿命延伸を手助けしていける取り組みを目指していきたいと思います。

村井

世の中が大きな変節を迎え「スポーツとは何なんだ?」という原点に戻るべきだと思っています。今回、『DEPORTARE』というサイトに掲載されると聞きましたが、そのスポーツの語源「DEPORTARE」に含まれる「日常を離れ、非日常を楽しむ」ことが本来のスポーツの定義であり原点だと思うのです。ですから、森に入って狩りをする、魚釣りをするというのもスポーツですし、先ほどの「eスポーツ」も余暇を楽しむ立派なスポーツです。

サッカーの場合、スタジアムやアリーナをお借りする行政、公共交通機関、スポーツボランティアの皆さん、スポンサーやファンの皆さんと、多くの人が関わり、接点がありますから、スポーツ界は、そうした人たちをネットワークで繋ぐHUB(ハブ)となって、さまざまな社会課題を解決できると確信しています。

スポーツ界は選手の食事やトレーニングなど、健康づくりに関する数多くのノウハウや、体を動かすための施設や設備を持ち、そして、何より選手は、多くの人たちに向けた「発信力」があります。こうしたスポーツ界の持つアセット(経済資源や経済価値)をさまざまな人たちと共有することで、産業振興、過疎、街づくり、教育問題といった地域社会の課題を解決していく起爆剤になれると思います。スポーツがスポーツの中だけに閉じこもらないことが大事な視点かなと思います。

鈴木

お二方ともありがとうございます。コロナ禍で「スポーツをやっている場合ではないだろう」と言われてしまうこともありますが、いまお話しいただいたスポーツの社会的意義を世間の人にも理解していただきながら、これからもスポーツを推進していかなければいけないと思っています。また、先ほど湧永会長も健康について話されていましたが、国民の健康増進もスポーツ庁のミッションの1つです。スポーツ経営人材育成や外部人材の流入促進の観点でもサッカーだけ、ハンドボールだけという同一種の集まりよりも他業種も取り込む有効性を感じましたし、コロナ禍による環境の変化に対応するには、多種多様な人たちとの連携、他産業との連携も改めて重要だと思いました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ産業の成長促進事業(2020-09-01閲覧)
スポーツオープンイノベーションの推進(2020-09-01閲覧)

【プロフィール】
村井満(むらい・みつる)
日本プロサッカーリーグ理事長(Jリーグチェアマン)。
早稲田大学卒業後、日本リクルートセンター(現リクルートホールディングス)入社。同社執行役員、リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)社長などを歴任。2008年よりJリーグ理事(非常勤)を務め、2014年1月31日に第5代チェアマンに就任。

湧永寛仁(わくなが・かんじ)
公益財団法人 日本ハンドボール協会会長。湧永製薬株式会社代表取締役社長。
慶應義塾大学卒業後、ソフトバンク株式会社に入社。1999年に退職後、湧永製薬株式会社へ。2007年に湧永製薬株式会社代表取締役社長に就任し現在に至る。2017年10月に日本ハンドボール協会会長に就任。

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