共生社会に向かい、多様性を認め合う次世代を育むオリパラ教育

あすチャレ!ジュニアアカデミー授業風景写真提供:I'mPOSSIBLE日本版事務局

2020東京オリンピック・パラリンピックの開催決定後から学校教育の現場では「オリンピック・パラリンピック教育(以下、オリパラ教育)」がスタート。大会の機運醸成や、特にパラリンピックへの関心の向上などを目的に取り組まれていきました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で大会は延期となりましたが、オリパラ教育は引き続き実施されています。今回、オリパラ教育の内容と各地での事例についてご紹介します。

授業で行われる「オリンピック・パラリンピック教育」とは?

スポーツ庁では、2015年度からオリンピック・パラリンピック教育(以下、オリパラ教育)を全国事業として展開しています。オリパラ教育は大会そのものへの興味関心の向上だけでなく、オリパラを題材とした学習機会として、スポーツの価値、国際・異文化、共生社会および持続可能な社会への理解を深めるとともに、規範意識を養うなど多面的な教育的価値を持っています。

○オリパラ教育の意義
(1)スポーツの価値
  • スポーツは、精神的な充足感や楽しさ・喜びをもたらし、人々が生涯にわたり心身ともに健康で文化的な生活を営む基盤。
  • スポーツには、自己充実・自己変革を促す力、社会や世界を変える大きな力がある。
(2)オリンピック・パラリンピックの理念とオリンピック・パラリンピック教育の意義
  • オリパラ教育の推進には、オリンピックの3つの価値(卓越 Excellence、友情 Friendship、敬意 / 尊重 Respect)とパラリンピックの4つの価値(勇気 Courage、決意 Determination、平等 Equality、インスピレーション Inspiration)が必要。
  • オリパラ教育は、スポーツの価値の再認識を通じ、国際的な視野を持って世界の平和に向けて活躍できる人材を育成するもの。
(3)オリンピック・パラリンピック教育の具体的内容
  • オリンピック・パラリンピックそのものについての学び(大会に関する知識、選手の体験・エピソード等)。
  • オリンピック・パラリンピックを通じた学び(スポーツの価値、参加国・地域の文化等、共生社会、持続可能な社会等)。

オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業を推進

2015年度より「オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業」として、開催都市だけでなく、全国各自治体でオリパラ教育推進校を指定し、各校で「スポーツ庁オリンピック・パラリンピック教育全国中核拠点会議」において議論され、決定された下記5テーマに沿った授業、競技体験などを展開しています。

①スポーツ及びオリンピック、パラリンピックの意義や歴史に関する学び
②マナーとおもてなしの心を備えたボランティアの育成
③スポーツを通したインクルーシブな社会(共生社会)の構築
④日本の伝統、郷土の文化や世界の文化の理解、多様性を尊重する態度の育成
⑤スポーツに対する興味・関心の向上、スポーツを楽しむ心の育成

また全国セミナーとして各自治体が一堂に介し事例を共有したり、大学や組織委員会などの関係団体からオリパラ教育の最新情報を提供したりしています。2019年度、2020年度では45地域(1道1府32県11政令市)で展開されました。

スポーツ庁のホームページでは、2017年度から各地域拠点で行われた実践事例が掲載された事例集も閲覧できるので、ぜひ、ご覧ください。
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop08/list/detail/1407880.htm

新型コロナウイルス感染症対策下における「新しいオリパラ教育」

全国各地で行われてきたオリパラ教育ですが、新型コロナウイルス感染症対策および学校休校などの影響もありました。現在は従来のオリパラ教育が可能な場合は従来通り実施し、実施できない地域や新しい生活様式への対応として「新しいオリパラ教育」を進めています。

新しいオリパラ教育としては「オンラインを活用」「大会延期から学ぶ」「自宅でも学べる」など、各地域の教育の実情にあわせた手段や内容で展開。オンライン会議システムを活用して、アスリートの講演や子どもたちとの交流を行ったり、学校だけではなく自宅で親子一緒に学んだりなど、新たな価値観も付加されています。

パラリンピックを題材にした教材『I'mPOSSIBLE』

I'mPOSSIBLEを用いた学校教育の様子写真提供:I'mPOSSIBLE日本版事務局

東京2020大会は、パラリンピックへの関心の向上の機会とされています。そこで学校教育を通じてパラリンピックの魅力、共生社会への気づきを伝えられる教材としてI'mPOSSIBLE日本版事務局(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会/日本財団パラリンピックサポートセンター)により開発されたのが、国際パラリンピック委員会(IPC)公認教材『I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』日本版です。

この教材は、テーマごとに小学生版各45分、中高生版50分の授業が行えるように構成されています。パラリンピックの歴史や競技を紹介したり、パラリンピックの価値を伝えたりすることで、知識を得ながら興味が湧いてくる内容となっており、教室で行う座学と、競技を体験する実技があります。

国際パラリンピック委員会(IPC)公認教材『I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』日本版写真提供:I'mPOSSIBLE日本版事務局

今回、『I'mPOSSIBLE』日本版について1998年の長野パラリンピックで金メダル3個、銀メダル1個を獲得したアイススレッジ・スピードレースの元選手で、『I'mPOSSIBLE』日本版の開発責任者で国際パラリンピック委員会教育委員のマセソン美季さんにお話を聞かせていただきました。

『I'mPOSSIBLE』日本版の開発責任者で国際パラリンピック委員会教育委員のマセソン美季さん写真提供:日本財団パラリンピックサポートセンター

●教材をスタートさせた経緯について教えてください。
以前から大会開催地では子どもたちに向けた「パラリンピック教育」が行われてきました。いままでは大会の機運上昇のためにと思われてきたのですが、2012年のロンドン大会あたりから、パラリンピックが目指しているインクルーシブな社会(共生社会)を学ぶ機会として注目され、IPCは大会をきっかけにインクルーシブな社会に向けた考え方が、その地に根付いていくようにと構想を掲げるようになりました。
IPCは国際版の教育プログラムを作成し、それを私たちが翻訳してさらに日本向けにローカライズを行い教育現場にお届けしているのが『I'mPOSSIBLE』日本版となります。
●I'mPOSSIBLEの名称の由来は?
障害のある人に対して「不可能(IMPOSSIBLE)」という言葉をイメージされがちですが、パラリンピックの選手たちは何ができるか、いろいろ工夫したり、考えを変えたり、自分にできることを極めていくのが得意な人たちなんです。
そこで「IMPOSSIBLE」に「'(アポストロフィー)」を加えて、「不可能だと思えたことも、考え方を変えたり、すこし工夫したりすればできるようになる(I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル))」という造語にしました。教材にはアポストロフィーのように、ほんの少し「工夫」や、「新たな概念」を持ってもらえるようにという想いも込められています。
●教材の特徴を教えてください。
「I'mPOSSIBLE」は教員向けの教材です。授業の進め方を記載した「教師用指導案」、虎の巻としてご活用いただける「教師用授業ガイド」など、パラリンピックに馴染みの少ない先生たちが、自分の言葉でパラリンピックを伝えられるように必要なものをすべてパッケージにしてお届けしています。
また、先生たちがどのような声がけをしたらいいのか、どのように写真を説明したらいいのかなどのヒント集にも力を入れています。

パラリンピック競技は専門の指導者がいないとできない、特別な用具がないと体験できないと思われていますが、学校にあるものを使って実技体験ができるアイデアを提供しています。
子どもたちに人気の「ゴールボール」体験の授業では、音が鳴る競技専用のボールの代わりに、学校にあるバスケットボールやバレーボールをスーパーのレジ袋に包んで代用します。投げるとカサカサという音がするので、競技体験として充分に利用できます。

「ゴールボール」の体験授業写真提供:I'mPOSSIBLE日本版事務局

●教材を活用した先生たちの反応はいかがですか。
大会招致が決まってからオリパラ教育が始まった当初は、何を教えていいのかわからないといった、当惑する先生もいたと聞いています。そうした先生たちにも授業ができるように作り込んだ教材なので、先生からは負担なく授業を行うことができたという声をいただいています。選りすぐりの写真や映像もふんだんに使用しており、学校公開で授業を行ったところ、保護者からも評判がよかったそうです。
●授業を受けた生徒たちの反応は?
実際に私も学校にお邪魔して授業に参加させてもらいました。最初は子どもたちのパラリンピックへの興味は薄い感じでしたが、映像を観たり、ディスカッションを進めるうちに、子どもたちが前のめりになっていくのがわかりました。
授業が終わり、「障害のある人は特別な人だと思っていたけど、そうじゃないと思った」「可哀想だ、大変そうだと思っていたけど、映像に出てくる選手たちは違った」と意見が出て、1時間の授業で、子どもたちの固定観念や認識を変えることができうる教材なんだなと手応えを感じています。
●今後の展望があれば教えてください。
いま私はカナダで車いすユーザーとして暮らしていますが、自分の障害を意識することなく生活ができています。でも行く先々で障害が気になる国もあれば、まったく気にならない国もあり、残念なことに、日本は、人々や環境に「障害」がまだ受け入れられていないと感じます。
この教材では、日本の子どもたちにも障害に対する正しい理解を促していけるように願っています。パラリンピック教材は「体育」でとお考えの先生も多いですが、「道徳」や「社会」などの授業で扱ってもいいのではないでしょうか。

これまで「オリパラ教育」は大会が終わると衰退してしまう傾向があったのですが、大会後も教育現場に根付かせていきたいです。2020年度から学習指導要領の中にも「共生社会」という言葉が入り、私たちとしては今年が「パラリンピック教育元年」だと位置付けています。
パラリンピックをきっかけに、障害のある人について理解を深め、社会に目を向けるようになった子どもたちが、共生社会を築いていくために、自分たちに何ができるのかを考えながら行動して欲しいなと思っています。パラリンピック教育は大会後からが本当の始まりです。

まとめ

全国に広がりをみせている「オリパラ教育」。新型コロナウイルスの影響で、スポーツと触れ合う機会が減ってしまいましたが、オンラインを使った学習方法や、スポーツへの多様な関わり方が現れてきました。人々は制限されることで、模索しながら新たなことを学ぶ。この状況はパラリンピックが置かれている状況にも繋がるのかもしれません。パラリンピアンたちが、自分の抱える問題をどのように解決してきたのか、いまだからこそ彼らから学ぶことは多いのではないでしょうか。オリパラ教育を通して、スポーツの価値をはじめ、多様な人々が生きている社会、インクルーシブな社会についても学んでみませんか。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - オリンピック・パラリンピック教育(2020-08-01閲覧)
スポーツ庁 - オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業(オリパラ教育)(2020-08-01閲覧)
『I’mPOSSIBLE』日本版(2020-03-01閲覧)

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