スポーツ基本法改正 〜社会課題の解決とウェルビーイングの向上〜

2025年6月、「スポーツ基本法」が大幅改正され、改正スポーツ基本法が同年9月1日より施行されました。今回は、スポーツ基本法改正の背景や、改正法の主なポイントについて解説します。
(参考)
改正後の条文本体や、地方公共団体・スポーツ団体向けの通知等は、スポーツ庁HPをご覧ください。
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1371905.htm

◆スポーツ基本法の成り立ち
我が国のスポーツ施策は、1961年に制定された「スポーツ振興法」に基づき実施されてきました。同法は、スポーツの振興に関する施策の基本を明らかにし、もって国民の心身の健全な発達、明るく豊かな国民生活の形成に寄与することを目的として制定され、体育施設の整備や指導者の充実等が一層推進されるようになりました。
一方、制定から50年を経て、少子高齢化や情報化の進展、地域社会の空洞化や人間関係の希薄化が進んだほか、国際的な協力・交流が活発になる一方で、国際競争も激化するなど、我が国を取り巻く社会環境や価値観は急激に変化してきました。また、スポーツ界では、ガバナンスの向上やドーピング防止、スポーツ仲裁等のスポーツ界の透明性、公平・公正性に対する要請が高まるとともに、プロスポーツや障害者スポーツの発展、国際化の進展等の大きな環境変化が生じてきました。
このような変化や新たな課題に対応するため、超党派の国会議員連盟の提案により、2011年、スポーツ振興法を50年ぶりに全部改正する形で、「スポーツ基本法」が成立しました。
〈成立時のスポーツ基本法の主なポイント〉
- 新たに「スポーツは、世界共通の人類の文化である」との言葉から始まる前文を設け、スポーツの意義や役割、効果等を明らかにするとともに、スポーツに関する基本理念を規定
- 「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは全ての人々の権利」とし、健康の保持増進や安全の確保等の規定を整備
- 国・地方公共団体の責務やスポーツ団体の努力、スポーツ基本計画の策定について規定
- プロスポーツや障害者スポーツを推進の対象とすることを明確化するとともに、国際競技大会の招致・開催や優秀な選手の育成、ドーピング防止等の施策に関する規定を整備
- スポーツ庁の設置等行政組織の在り方について、行政改革の方針に配慮して検討を加え、必要な措置を講じる旨を規定

◆令和7年の大改正の背景
スポーツ基本法の制定から10年を経過し、この間、少子高齢化・人口減少はじめ、スポーツを取り巻く社会環境は大きく変化しました。
- ▼急速な少子化・人口減少
- 子供の数が急速に減少し、部活動に参加する生徒の数も減少しています。地域によっては、団体競技のチームを組むのに必要な人数が集まらず、試合や日頃の練習が十分にできなくなっています。
- ▼気候の変動
- 気候の変動により年平均気温が年々上昇し、熱中症をはじめとした健康被害への対策等が喫緊の課題となっています。また、気候の変動が進むことで、従来通りの実施が困難になるスポーツが出てくることも懸念されます。
- ▼デジタル化の進展
- デジタル技術の活用は、スポーツ実施の在り方を拡大させ、「する」「みる」「ささえる」「集う」「つながる」などのスポーツとの多様な関わりの実効性を高めうると同時に、活用に当たっては、SNS上での誹謗中傷をめぐる問題への対応など、安心・安全なスポーツ活動の機会確保が重要となっています。
- ▼社会課題の解決への期待の高まり
- スポーツを通じた健康長寿社会や共生社会の実現、地域や経済の活性化など、社会課題の解決への期待が高まっています。
これら環境の変化を踏まえ、スポーツを通じた社会課題の解決に期待が高まっている現状に対応するとともに、ウェルビーイングの向上に向け、スポーツ権の実質化を図る観点から、2025年6月(スポーツ基本法の制定から14年、スポーツ庁の創設から10年)、スポーツ基本法は改正され、同年9月1日より施行されました。

◆改正の主なポイント① ― 前文・基本理念

<社会課題の解決>
上記環境の変化や、社会が急速に成熟・変化していくことに伴い、スポーツに求められる役割は多様化してきました。
スポーツを「する」「みる」「ささえる」といった参画を通じて人々に楽しさや喜びをもたらす、スポーツそのものが有する価値だけでなく、スポーツを通じて人々が「集い」「つながる」ことによって、スポーツが地域や経済の活性化、社会課題の解決、持続可能な社会の実現に寄与する価値への期待が高まっていることを背景に、基本理念の改正が行われました。
- ▼スポーツによる地域振興の推進
- スポーツは、地域振興に資するように推進されなければならない旨の追加
- ▼スポーツによる健康で活力に満ちた社会の実現
- スポーツは、健康で活力に満ちた長寿社会の実現に資するよう推進されなければならない旨の追加
- ▼スポーツによる共生社会の実現
- スポーツは、障害者をはじめとする全ての国民が自主的かつ積極的にスポーツを行うことができるよう、必要な配慮をしつつ、共生社会の実現に資することを旨として、推進されなければならない旨の追加
- ▼スポーツと文化芸術等の他の分野との連携
- スポーツと文化芸術との連携が、人々に感動と希望をもたらし、創造性を育み、共に生きる絆の形成に広く寄与するなど、スポーツと他の分野との連携は、ウェルビーイングの向上につながるものである旨の追加
<ウェルビーイングの向上>
さらに、このような社会環境の変化と、スポーツの価値や社会的役割の重要性のより一層の高まりを受け、今回の改正では、スポーツを通じた社会課題の解決への期待に応えるとともに、スポーツ権の実質化を図り、国民一人一人と社会のウェルビーイングの向上を図る観点から、前文と基本理念に、ウェルビーイングの考え方が盛り込まれました。
- ▼ウェルビーイングの向上
- 全ての国民にスポーツに親しむことのできる機会等が確保された上で、これら機会を通じ、国民一人一人と社会のウェルビーイングの向上(多様な国民一人一人が生きがいを持ち幸福を享受できるとともに、豊かさを実感できる社会の実現)が図られなければならない旨の考え方の追加
- ▼スポーツに親しむことのできる機会の確保等
- スポーツに親しむことのできる機会の確保等については、人種、性別、年齢、障害の有無等にかかわらず、確保されなければならない旨の追加

◆改正の主なポイント② ― 基本的施策の充実
上記基本理念の改正等を踏まえ、必要な基本的施策が盛り込まれました。
- ▼発達段階に応じたスポーツの推進
- 幼児、児童、生徒、学生等が発達段階に応じて継続的に多様なスポーツに親しむことができる機会の確保
- ▼部活動の地域展開等
- 中学校等の生徒が地域において継続的に多様なスポーツに親しむことができる機会の確保
- ▼気候変動への対応についての留意
- 熱中症対策等のスポーツの実施のための環境の整備や、持続可能なスポーツの機会確保のためのスポーツの場における環境に配慮した取組の推進
- ▼デジタル技術の活用等(スポーツDX、eスポーツ)
- スポーツの推進に寄与する情報通信技術の活用とそのための施策の推進、スポーツを行う者の心身の健康の保持増進や安全確保に配慮したeスポーツの充実
- ▼まちづくりと一体的なスポーツ施設の整備等(スポーツコンプレックス)
- まちづくりと一体的なスポーツ施設の整備・活用による、地域経済の活性化や地域内外の交流の促進
- ▼多様な需要に応じたスポーツを楽しむ機会等の確保(スポーツホスピタリティ)
- スポーツホスピタリティ(スポーツを楽しむ機会等に関連する良質かつ付加価値の高いサービスの提供)による、多様なスポーツを楽しむ機会の確保と地域経済の活性化等
- ▼スポーツの公正及び公平の確保(スポーツ・インテグリティの確保)
- スポーツにおける「暴力」、「パワーハラスメント」、「セクシュアルハラスメント」、「盗撮」、「(インターネット上の)誹謗中傷」等の防止や、スポーツ団体のガバナンスの確保等

◆最後に
今回のスポーツ基本法の改正は、健康長寿社会や共生社会の実現、地域や経済の活性化、デジタル化の中での人との豊かなつながりなど、スポーツを通じた社会課題の解決に期待が高まっている現状に対応するとともに、ウェルビーイングの向上に向け、スポーツ権の実質化を図る観点から、大幅に改正が行われたものです。スポーツ庁として、改正スポーツ基本法の趣旨を踏まえ、スポーツ施策の一層の推進を図ってまいります。




