「なぜ今、他業界がスポーツに注目しているのか」 スポーツと他産業の融合によって生まれる“スポーツオープンイノベーション”
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を目前に控え、国内外から注目が集まる日本スポーツ界。未来に向けて、スポーツ庁はSports Open Innovation Platform(SOIP)の構築を推進し、あらゆる産業との融合により新たなサービス・価値の創出を図り、スポーツの成長産業化を実現しています。
この事業の一環として、2020年2月18日(火)、東京・大手町プレイスカンファレンスセンターにて「スポーツオープンイノベーションネットワーキング SOIN 4」を開催。通算で第4回目を迎える今回、「スポーツを活用し、社会をどうアップデートできるか?」をテーマに、SOIPで優れた実績を上げている登壇者の方々から最新の情報や先進事例が紹介されました。
スポーツと他産業が結びつくことで生まれる新たな可能性
この日、「スポーツオープンイノベーションネットワーキング SOIN 4」では2つのスペシャルセッションが行われました。
《セッション1》『グローバルから見る未来、スポーツテック最前線』
■登壇者
David Dellea 氏(PwC Switzerland Director Sports Business Advisory)
中嶋 文彦 氏(株式会社電通 CDC Future Business Tech Team 部長 事業開発ディレクター)
稲見 昌彦 氏(一般社団法人超人スポーツ協会 共同代表)
■モデレーター
野口功一氏(PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 パートナー)
セッション1では、なぜ今、他業界がスポーツに注目しているのか、テクノロジーにより今後スポーツはどこまで進化するのかなど、世界を相手にスポーツテックビジネスに取り組むイノベーターたちが語ります。
中嶋文彦氏は「スポーツテック」の可能性について語ります。「スポーツ産業」を中心に、映像コンテンツ、AR/VR技術、AI技術、SNSといった「IT技術」を介しながら、観光、教育、販売、エネルギーなどの「他産業」が多様なマッチングを行うことによって、「アスリート・パフォーマン」「スタジアム・ソリューション」「ファン・エンゲージメント」といった各カテゴリーにおいて、新たな社会的価値観とビジネスが生み出されると言います。
稲見昌彦氏は「人間拡張工学」技術によって人間の知覚認知、身体など拡張する技術がどのようにスポーツに活かされていくのかを研究。そのなかでVR技術を使った「けん玉」の練習システムの様子を紹介します。実験ではVRゴーグルをかけながら、スローモーションで動く「けん玉」を行い、VRで基本的な動作を学んだことで、実際に「けん玉」を行うと出来るようになった例を映像で見せて「技術を用いたスポーツ・トレーニング」の可能性を見せてくれました。
PwCのDavid Dellea氏は、世界中のスポーツ競技団体、さまざまな産業とのグローバルなネットワークを通じ、スポーツ産業の動向を解説。『PwCスポーツ産業調査2019』では世界的に収益増加が見込まれるスポーツの1位として「eスポーツ」が挙げられています。スポーツ組織は革新の点で遅れていることを指摘したうえで、今後3〜5年間のスポーツ産業を推進にはデジタルメディアが重要と語ります。
スポーツとテクノロジーの融合による可能性の話は、スポーツ関係者にとって、たいへん興味深かったと思います。
セッション1の全編が動画で視聴できます
https://channel.nikkei.co.jp/d/?p=20200218soin&s=1981
《セッション2》『スポーツ活用による企業・社会課題解決とは?』
■登壇者
斎藤 聡 氏(GMRマーケティング スポンサーシッププランニング&アクティベーション 担当ディレクター)
鈴木 順 氏(公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)社会連携本部 社会連携部 部長)
■モデレーター
大浦 征也 氏(パーソルキャリア株式会社 執行役員)
セッション2では、スポーツ界の知見をオープンにすることで広がる可能性などについて語られました。
斎藤聡氏は、国内ではスポンサー企業でありながらスポーツをアクティベーション(活用)している企業は少ないと言います。平昌冬季オリンピックでの海外スポンサーの事例として、来場者のホスピタリティを大切したインテル社の「インテルハウス」、選手と母親の関係性をテーマに感情に訴える映像展開を行ったP&G社の例などを挙げながらスポーツイベントを通じて、いかに“心を奪う体験”を提供するか、コンシューマーのブランドへ対する思考・気持ち・行動を変えられるかが重要だと語ります。
鈴木順氏は、「Jリーグをつかおう!」プロジェクトの試みについて紹介。現在、Jリーグでは「シャレン! Jリーグ社会連携」と題して、社会課題について地域・団体・自治体・学校などと連携して取り組む活動を行っています。セッションでは、2019年、川崎フロンターレが行った「発達障害の子たちサッカー場に招く」プロジェクトが紹介されました。見た目では障害がわかりにくい発達障害の子どもたちの目線を大事にしながら、彼らが安心してサッカー観戦を行うまでの過程を映像で伝えます。
後半のトークセッションでは、従来の「ささえる」スポンサーシップから、「つかう」という新たなスポーツの価値を再定義する意義について語られ、まだ世間は「スポーツの持っているポテンシャルに気付いていない」という発言も出てきました。これからのスポーツは「する」「みる」「ささえる」に加え、「つかう」の時代が到来するかもしれません。
セッション2の全編が動画で視聴できます
https://channel.nikkei.co.jp/d/?p=20200218soin&s=1983
4チームが日本ハンドボール協会に対して事業アイデアをプレゼン
SOIPの活動で「推進会議」「SOIN(ネットワーキング)」のほかに、新たに加わったのが「アクセラレーション」。スポーツ庁ではスポーツと企業の共創をさらに加速させる試みとして、2019年度から「Sport Business Build」をスタートさせました。
この試みに名乗りを上げたスポーツ団体は日本ハンドボール協会。この度、協会に対して50社を超えるアイデアの提案をいただきました。今回、その中から選考採択された4社がプレゼンテーションを行いました。
- プレゼンテーション1
- 東商アソシエート株式会社 × 大日本印刷株式会社 × パナソニック株式会社
『「フィジカル×デジタル×遊び」で生み出す新たなスポーツ体験』 - プレゼンテーション2
- SAMURAI Security株式会社
『スポーツ体験・想い出を商品化するプラットフォーム』 - プレゼンテーション3
- 株式会社スポーニア
『動画SNSによる新たなコミュニティ・ファンマーケティング』 - プレゼンテーション4
- 株式会社寿美家和久 × 軒先株式会社
『地元料亭のグルメ×空きスペースのシェアリング』
各社、特色を打ち出した提案のプレゼンテーションが行われ、そのアイデアの数々に会場の参加者たちも興味津々の様子。各社いずれも「ハンドボール」が持っている魅力を掘り出し、産業化への道筋を示した提案を行います。その優れた提案に審査員4人も意見が分かれ、4社から1社のみを「最優秀賞」「PwC」として選出するところ、急遽、「最優秀賞」と「PwC賞」に分けて表彰する事態となりました。
「最優秀賞」を受賞したのは、東商アソシエート株式会社 × 大日本印刷株式会社 × パナソニック株式会社の3社合同チーム。
デジタル技術を利用して映像を使いながら気軽にハンドボール体験ができるシステムを提案。スポーツ施設やイベント会場などコンパクトなスペースでも設置可能で、体験を通じてハンドボールの魅力を伝えることができます。今回の会場にも同システムが設置されていました。
「PwC賞」を受賞したのは、株式会社寿美家和久 × 軒先株式会社の合同チーム。
老舗料亭の味を宅配する「寿美家和久」と駐車場シェアシステムの「軒先」が、それぞれの得意分野で協同。マイナースポーツの大会会場の多くは、交通アクセスや周辺環境に恵まれておらず、駐車場や食事面で苦労することがあります。そこで両社が組むことで、スポーツ会場に訪れる選手や関係者、スポーツ観戦者の環境を改善し、ハンドボールの試合会場への集客率を上げ、満足度を高める提案を行いました。
今回に各社提案は「ハンドボール競技の浸透、貢献」「スポーツ全体としての活用」の2つ大別され、審査ではどちらを優先するのか意見が分かれたと、全体講評で語られました。このことは同時に、多様な視点で活用できるスポーツの持つポテンシャルを表しているのか知れません。
事業アイデアのプレゼンテーションの全編が動画で視聴できます
https://channel.nikkei.co.jp/e/20200218soin
ネットワーキングで繋がるスポーツと他産業
イベントの最後は、参加者の皆さま、採択企業、登壇者との交流の場「ネットワーキング」が行われました。会場内にはSport Business Buildでプレゼンテーションをした4社を含む8社が展示ブースを出展して、それぞれの取組や提案内容を具体的に紹介。各ブースには興味を持ったスポーツ関係者が集まり、和やかな雰囲気のなか名刺交換などが行われました。
ネットワーキングの前には鈴木大地スポーツ庁長官も展示ブースを視察、出展者に取組をヒアリングする姿もありました。
まとめ
「スポーツオープンイノベーションネットワーキング SOIN 4」では、多くの先進的な企業がスポーツのポテンシャルを感じ、さまざまなアプローチを行っている事例が数多く出てきました。また、今回のイベントには、300名の定員に対し650名を超える申し込みがあり、スポーツビジネスへの注目度の高さを感じます。
スポーツオープンイノベーションがさらに発展していく予感を覚えたイベントでした。ぜひ今後とも注目してみてください。
●本記事は以下の資料を参照しています
スポーツ庁 : スポーツビジネスイノベーションが生み出す新たな価値 ~「スポーツ×IT」のポテンシャルとは?~(2020-03-01閲覧)
スポーツ庁 : 資料3 スポーツオープンイノベーションプラットフォーム(SOIP)について(PDF:1082KB)(2020-03-01閲覧)
Sports Open Innovation Networking 4 スポーツを活用し、社会をどうアップデートできるか?(2020-03-01閲覧)
NIKKEI CHANNEL | スポーツオープンイノベーションネットワーキング SOIN 4(2020-03-01閲覧)