「健康インフラ」の構築で目指す、日本の「健康・活躍社会」

2026年7月8日、東京ビッグサイトで開催された国内最大級の国際スポーツ・健康産業総合展示会「SPORTEC2026」において、松本文部科学大臣は「運動・スポーツを通じた『健康インフラ』の構築による『健康・活躍社会』の実現パッケージ」を公表しました。
このパッケージは、運動・スポーツを国民一人ひとりが健康で活躍し続けるための社会基盤、すなわち「健康インフラ」と位置付け、社会全体で支える環境づくりを目指すものです。本記事では、「健康インフラ」の構築が求められる背景とともに、パッケージを構成する4つの柱について詳しく紹介します。
なぜ今、「健康インフラ」の構築が必要なのか
少子高齢化の進展に伴い、生産年齢人口の減少が本格化する中、あらゆる業種で人手不足が深刻化し、労働者の高齢化が進んでいます。我が国が社会・経済の活力を維持・向上していくためには、その基盤となる国民一人ひとりの心身の健康、体力を保持・増進させ、多くの人がより長い期間社会活動に参画し、それぞれの能力を持続的に発揮できる環境を整備することが喫緊の課題となっています。
一方で、若年層を中心に就業者のメンタル不調が増加傾向にあるほか、就業を希望する中高齢層において自身や家族の健康上の理由により就業を断念する事例が見られ、高齢労働者においては転倒による骨折や、墜落・転落等の労働災害の発生割合が高まっているなど、身体面・精神面の要因により、本来の力が発揮できない、就業が続けられないといった状況が顕在化しています。
こうした中、運動・スポーツの実施は体力の向上、生活習慣病の予防、睡眠の質の向上、転倒の予防、認知機能低下や認知症の予防といった身体的効果や、ストレスや抑うつの軽減、メンタルヘルスの改善といった精神的効果が明らかになっています。さらには、心身面の効果により、労働生産性の向上や離職率の低下、就労期間の延伸などの効果が得られることも明らかになってきています。
このため、運動・スポーツの実施を促進することを通じて、現下の社会全体が抱える課題の解決や日本経済の持続的な成長に貢献することが期待されています。
参考:働き続けたくなる職場へ。~その経営課題、スポーツで解決します~
参考:職場における運動・スポーツの取組がもたらす影響に関する調査研究
運動・スポーツが生み出す12.6兆円の経済効果
筑波大学人間総合科学学術院・久野研究室が令和7年度に実施した簡易試算では、運動・スポーツの実施による心身の健康改善による生産性向上や就労期間の延伸、社会保障費の適正化がもたらす経済効果は、年間約12.6兆円に上る可能性があるとされています。
久野研究室の簡易試算で導き出された経済効果の主な内訳は、次の図表のとおりです。
なお、このような効果を引き出すためには、継続的な運動習慣が欠かせません。求められる運動量の目安として、次のような水準が示されています。
- 中強度の有酸素運動:1回30分×週5回
- 筋力トレーニング(自重の場合):1回10分×週3回
現役世代のスポーツ実施率の低さという課題
一方で、スポーツ庁が令和7年度に実施した調査では、20〜50代の働き盛り世代は、他の年代と比べてスポーツ実施率が低く、1週間当たりのスポーツ実施時間も短い傾向にあることが明らかになっています。
その背景には仕事や家事・育児による忙しさがあり、運動・スポーツに取り組むための時間を確保しにくい実態があると考えられます。
運動・スポーツが健康維持・増進や労働生産性の向上などに大きな効果をもたらすことが期待される一方で、特に現役世代において十分な実施機会が確保されていないことは、大きな課題となっています。
こうした状況を改善するためには、個人の努力だけに委ねるのではなく、職場や地域など日常生活の身近な場で運動・スポーツに取り組みやすい環境を整備することが重要です。近年、運動・スポーツの推進を経営課題として位置付けて取り組む企業が増えてきており、取組を進めている企業と取り組んでいない企業とでは、従業員のスポーツ実施率に大きな差があるだけでなく、仕事のパフォーマンスや就労継続意欲にも差があることが分かっています。このため、企業や地域、スポーツ団体などが連携し、スポーツ実施率が低い現役世代も含めて継続的に運動・スポーツを実施できる環境づくりを進めていくことが求められています。
参考:令和7年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果を公表します
「健康インフラ」を構築するための4つの柱
こうした状況を踏まえ、松本大臣は、スポーツ実施率の向上やスポーツの裾野拡大を通じて「健康インフラ」を構築し、誰もが健康で活躍できる社会の実現を目指すため、「運動・スポーツを通じた『健康インフラ』の構築による『健康・活躍社会』の実現パッケージ」を公表しました。
本パッケージでは運動・スポーツを社会全体で支える環境づくりに向け、次の4つの柱を掲げています。
- 現役世代の運動・スポーツ実施率向上
- 身近な運動・スポーツの場の確保
- ハイパフォーマンスの知見をライフパフォーマンスへ
- スポーツを楽しむ機運の醸成
これらの施策を一体的かつ総合的に推進することで、「健康インフラ」を社会全体へ広げ、「健康・活躍社会」の実現を目指します。
柱① 現役世代の運動・スポーツ実施率向上
スポーツ実施率が低い20代から50代の現役世代を中心として、職場も含めた日常生活の中で運動・スポーツに取り組みやすい環境づくりを進めます。企業や自治体の取組を後押しすることで、運動習慣の定着を促し、従業員の健康維持・増進や労働生産性の向上につなげることを目指します。
具体的には、次のような取組を推進します。
- 都道府県等を通じて、運動・スポーツを活用して従業員の健康維持、生産性向上に取り組む企業を支援する仕組みの構築
- 企業向けに運動・スポーツ関連サービスを提供する企業の掘り起こしと、取組を行う企業とのマッチングの支援
- プロスポーツと連携した企業向けサービスの展開・強化のため、スポーツ事業運営人材の育成、交流の促進
柱② 身近な運動・スポーツの場の確保
運動・スポーツを継続するためには、誰もが気軽に利用できる「場」の存在が欠かせません。そのため、学校や地域の施設など既存ストックを有効活用しながら、身近な場所で運動・スポーツに親しめる環境づくりを推進します。
具体的には、次のような取組を推進します。
- 企業や大学・学校等が所有する運動施設等の地域資源を開放し、「コミュニティ・ジム」化を図り、生涯スポーツ推進のための場作りの推進
- 学校と地域が共同利用する屋内プールを含む地域スポーツ施設の整備促進
- 幼少期からの運動習慣形成や、新学習指導要領への対応、小学校体育専科教師等専門人材の活用など部活動の地域展開等の推進、大学スポーツの振興等を通じて、生涯にわたる運動・スポーツ実施の基盤の構築
柱③ ハイパフォーマンスの知見をライフパフォーマンスへ
運動・スポーツによる効果を高めるためには、どのような運動をどの程度行うことが効果的なのかといったエビデンスが重要です。そこで、トップアスリートを支える最先端のスポーツ医・科学の知見を広く社会に還元し、国民一人ひとりの健康づくりやライフパフォーマンスの向上につなげます。
具体的には、次のような取組を推進します。
- AI活用などのスポーツDXや、HPSCと地域のスポーツ医・科学センターとの連携による医科学的支援や研究の推進により国際競技力を向上させ、スポーツの魅力を向上
- トップアスリートへの支援から得られた知見やエビデンスを、ライフパフォーマンス向上に活用(スポーツDXデータバンク構想など)
柱④ スポーツを楽しむ機運の醸成
運動・スポーツを継続するためには、「やってみたい」「観てみたい」と思える環境づくりも重要です。スポーツの成長産業化やスタジアム・アリーナの活用促進などを通じて、スポーツの魅力に触れる機会を増やし、スポーツを楽しむ機運の醸成を図ります。
具体的には、次のような取組を推進します。
- スポーツ団体と他団体との連携やDX、スポーツ事業運営人材の獲得・育成によるスポーツの成長産業化の推進
- スポーツ団体やアリーナ等の経営・運営を行う人材を育成し、アスリートのセカンドキャリアにも資するよう、産業界・スポーツ界・大学とも連携し、資格プログラムの開発を検討
- スポーツのみならず音楽イベント等での活用も念頭においたスタジアム・アリーナの多機能化と、民間資金等確保のための協議会の設置
- まちづくりと連携したスポーツ環境の整備推進や、インバウンド客の呼び込みにも資するスポーツツーリズムの推進
- 総務省とも連携し、スポーツを観る機会の確保に向けた論点整理
まとめ
健康であり続けたいというのは世代を問わず誰もが抱く国民共通の願いです。また、運動・スポーツを通じて得られる様々な経験、人と人とのつながりは人々の生活を豊かにしてくれます。
少子高齢化が進む中、一人ひとりが健康で活躍できる社会を実現するためには、運動・スポーツを日常的に実践しやすい環境を社会全体で整備していくことが重要です。
スポーツ庁は、「運動・スポーツを通じた『健康インフラ』の構築による『健康・活躍社会』の実現パッケージ」を推進し、年齢やライフステージにかかわらず、誰もが運動・スポーツに親しみ、健康で活躍できる社会の実現に取り組んでまいります。



