親子で楽しめて、家庭でも実践できる! 栃木県に広がる幼児期からの運動遊び

スポーツ庁では、生涯にわたる運動習慣の形成には、幼児期から楽しく身体を動かす経験が重要であることから、「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」を実施しています。
本記事では、令和4年度からスポーツ庁が取り組む「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」の事業概要や3つの柱を紹介するとともに、この取組事例として栃木県の「運動会や保育参観等の行事における運動遊びの出前講座(親子運動遊びの出前講座)」の様子をレポートします。
幼児期からの運動習慣形成プロジェクトについて
幼児期に身体を動かしたり、運動遊びをしたりする機会が多いほど、体力や運動能力が向上するだけでなく、将来の運動習慣の形成にもつながります。
そのため、スポーツ庁では、幼児期から楽しく身体を動かしながら運動習慣を形成し、幼児だけでなく保護者や保育者などにも運動遊びの大切さを伝えるために、「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」を開始しました。取組や成果に関する情報を収集、整理し、それらを他の地域へ共有しながら普及・啓発を図っています。
幼児期の運動習慣が与える影響については、こちらの記事で詳しく紹介しています。
数字で見る!「6」歳までの幼児期における運動習慣が与える影響
3つの柱を掲げ、地方公共団体で取組を実施
スポーツ庁は地域の幼児や保護者などを対象に、幼児期に身体を動かすことの重要性を発信すると同時に、「幼児期運動指針」「アクティブ・チャイルド・プログラム(ACP)」などを活用しながら、運動遊びに親しむ機会を充実させる取組を推進しています。
ACPを活用した運動遊びの実例については、こちらの記事で案内しています。
「運動遊び」で子どもたちが笑顔になる「山梨市ACPクラブ」の活動紹介
本プロジェクトでは、以下の3つの柱で地方公共団体で取組を実施しています。
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体制整備(事業検討・評価委員会 の開催)
- 体験教室や成果報告会などの内容の検討、評価
- 本プロジェクトの成果を共有し、普及に向けた取組の検討、実施
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体験教室等の実施
- 幼児期運動指針を活用した運動遊びの重要性についての啓発活動の実施
- ACPを活用した運動遊びの機会提供
- 運動遊びを実践するための動画の作成、共有
- 体験教室等の効果を検証するためのアンケートの実施
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成果報告会の実施
- 幼児期運動指針を活用した運動遊びの重要性についての啓発活動の実施
- 体験教室等に参加された方からの取組紹介と、その成果や課題等についてのパネルディスカッションの実施
- 体験教室等の効果を検証するためのアンケート結果の共有
栃木県の取組について
「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」を推進する一例として、栃木県で取組を実施しています。こちらでは、栃木県の事業概要と、その代表的なプログラムの一つである「親子運動遊びの出前講座」について紹介します。
幼児期から身体を動かすことの大切さを子供や保護者へ普及・啓発
栃木県では、令和4年度から「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」に継続的に取り組んでいる中で、今年度は、「幼児等の健やかな成長を支える運動遊びの普及・啓発事業」を実施しています。この事業は、「普段は運動に親しむ機会の少ない保護者への普及啓発」「日常的に運動遊びを経験できる環境づくり」を柱としており、出前講座の開催や指導者の派遣によって保護者や保育者などに向けた運動遊びの重要性についての意識醸成と、県内の市町を主体とした幼児期からの運動習慣形成に向けた取組の推進を目指すものです。
栃木県の代表的なプログラムの一つが「親子運動遊びの出前講座」
栃木県の「幼児等の健やかな成長を支える運動遊びの普及・啓発事業」の中で、代表的なプログラムの一つが「親子運動遊びの出前講座」です。講師として大学教授やスポーツ指導員などの専門家を招いて、県内にある幼稚園や保育所、認定こども園の運動会や保育参観などの機会に、普段は運動に親しむ機会の少ない保護者に向けて幼児期に身体を動かすことの重要性や、家庭でも実践できる運動遊びを伝えています。
「親子運動遊びの出前講座」は、ACPを活用した運動遊びの実技と講話をセットにした内容です。実技では、講師が開催場所に合わせて運動遊びを選び、以下のような親子で楽しめる活動を行います。
| 系統 | 運動遊びの例 |
|---|---|
| ①回る・揺れる・登る系 | 大木まわり、お弁当屋さん、バイキング |
| ②ジャンプ・バランス系 | バンブーダンス、足のり歩き、親ガメ子ガメ など |
| ③ジャンケン・ゲーム系 | ジャンケンくぐり、足踏みコザック、バランス崩し など |
講話では、実技で体験した運動遊びについて、子供の発育・発達と関連付けながら、身体を動かすことの大切さを伝えます。
また、終了後には、保護者や保育者などを対象としたアンケートを実施しています。これらの回答結果に基づいて、保護者の意識や日常の運動遊びの状況等を把握し、取組の成果や課題を検証しています。
「親子運動遊びの出前講座」を栃木県内にある保育園で実施
令和8年10月3日、栃木県下野市にある学校法人愛泉学園 吉田保育園の運動会で「親子運動遊びの出前講座」を開催しました。こちらでは、当日の様子に加えて、関係者からの声を紹介します。
親子で楽しめる運動遊びを実施
宇都宮共和大学子ども生活学部 専任講師 霜触智紀氏を講師として招き、親子が家庭でも実践できる運動遊びを紹介しました。

運動遊びの代表例として、バンブーダンスと足のり歩きを解説します。バンブーダンスは、保護者が座りながら足を開いたり、閉じたりする際に、子供がその足を踏まないようにジャンプする運動遊びです。このとき、保護者が子供の手を取りながらジャンプを補助することで、成功を続けやすくなります。

足のり歩きは、保護者の足の甲に子供の足を乗せながらいっしょに歩く運動遊びです。このときも保護者が子供の手を取りながら、「右」「左」と声を掛けながら足を動かすことで、歩き続けやすくなります。

こうした運動遊びを行った会場では、親子が笑顔で体を動かす場面が見られました。
なお、これらの運動遊びはWebサイト「とちぎっ子体力雷ジングひろば」に説明動画が掲載されていますので、ぜひご覧ください。
「親子運動遊びの出前講座」の関係者からの声
講座の開催当日、園や行政、それぞれの立場からお話を伺いました。
まず、吉田保育園 園長 小倉庸寛氏に「親子運動遊びの出前講座」を実施した背景や、受講後に期待する親子の変化、栃木県と連携した取組について聞きました。
「保育園の子供たちは、園生活ではやるべきことが多いうえ、保護者が共働きで帰宅後から就寝までの時間が限られることから、個人的に遊びの時間が圧倒的に足りないと感じていました。そうした中、栃木県が『親子運動遊びの出前講座』を実施する園を募っており、栃木県幼稚園連合会からその推薦を受けました。1学年6名程度の小規模な当園だからこそ講座内容を周知しやすく、保育園からの帰宅後に親子で身体を動かしたり、遊んだりするきっかけにもなると思い、この講座の実施を決めました。
この講座は、子供が保護者の膝に乗ったり、手を握ったりするなど親子が触れ合う運動遊びが充実しています。そのような運動遊びを各家庭でも実践してもらうことで、子供の遊びの時間が増えることを期待しています。また、コロナ禍以降、親子間のスキンシップが薄れているのではないかと個人的に感じていた中で、こうした運動遊びを通じてお互いに触れ合う機会が増えるだけでなく、愛着や心の結びつきも深まると良いと思っています。
栃木県の公式ホームページ上にある運動遊びの動画も活用しています。この動画の存在を保護者に周知したところ、『自宅でやってみた』『この動画の運動までできた』といった声があり、家庭での運動遊びを後押しするコンテンツになっていると思います」。

続いて、栃木県教育委員会事務局健康体育課 体力向上・部活動改革担当 大矢哲平氏に、「幼児期からの運動習慣形成プロジェクト」に応募した経緯や、その推進のために整備してきた体制、これまでの取組で蓄積してきたノウハウなどについてお聞きしました。
「栃木県では、平成23年度に『幼児の体力に関する部会』を立ち上げ、子供の体力向上、そして幼児期からの運動習慣形成に向けた取組を継続的に進めてきました。しかし、県内全域でその機運を高められていないことが課題になっていました。そうした中、令和4年度にスポーツ庁が『幼児期からの運動習慣形成プロジェクト』を始動します。この推進事業に参画することで、県内の市町が主体的に取り組むきっかけになるのではないかと考え、応募しました。
このプロジェクトの推進に先駆けて、主に保育士を対象としたリサーチを行いました。その結果、『運動遊び』という言葉を知りつつも、『運動スキルを高めるための活動』と捉えがちであったことが分かりました。そこで、運動遊びとはどのようなものかを具体的に示すために、親子で取り組める運動遊び動画を48本制作し、この動画を保育者に案内することで『運動遊びはハードルが高い』という印象を和らげるようにしました。これをきっかけに、運動遊びについて保育者の理解度が徐々に高まっており、『親子運動遊びの出前講座』を実施する幼稚園や保育所、認定こども園も増加。令和8年度にはその講座の開催地域が県内19市町に広がりました(2026年11月12日集計時点)。
令和4年度から『幼児期からの運動習慣形成プロジェクト』を推進してきた中で、成果の一つは、5年間にわたる指導者派遣や各種教室の開催など、現場の基盤づくりに尽力してきた鹿沼市などの取組を通じて、幼児期からの運動習慣形成に向けたノウハウが蓄積されてきたことです。さらに、もともと高い意識を持つ那須町との連携においては、そうした基盤を活かしながら主体的な取組をより継続的な形へと発展させることができました。これまでの各地域での実践と成果を周知し、県内全域での取組を加速させていきたいと考えています」。

同日、以下4名と情報交換会を行いました。
- 吉田保育園 園長 小倉庸寛氏
- 栃木県教育委員会事務局健康体育課 体力向上・部活動改革担当 大矢哲平氏
- 宇都宮共和大学子ども生活学部 専任講師 霜触智紀氏(「親子運動遊びの出前講座」の講師)
- 新宿区立四谷子ども園 園長 古川ワカ氏

古川氏からは、今回の出前講座を見学して「保護者と一緒に身体を動かすことの大切さを地域へ広げていくという栃木県の姿勢がとても今後に期待できる事業だと感じると同時に、大変参考になりました。子供たちから『やりたい』という気持ちを引き出しながら、自分たちで運動遊びを選ばせたり、決めさせたりすることの重要性を改めて感じました」というコメントがありました。

霜触氏からは、保育者を目指す学生が、運動遊びを指導するうえで必要なこととして、「『系統性を踏まえた保育・教育』の理解が課題だと捉えています。『こうした手遊びや運動がおもしろそうだから取り組もう』『子供たちが笑顔で取り組んでいたから良かった』で終わってしまいがちですが、幼児観や児童観などの子供たちの実態をはじめ、教材の意図を汲んだうえで取り組み、子供たちが何を取り入れ、どのような学びを得るかまで落とし込むことが必要です」という説明がありました。

まとめ
幼児期に特定競技の技能習得を目指すのではなく、遊びを通じて自発的に走る、跳ぶ、投げる、転がるといった動きを経験することは重要であり、その経験が生涯にわたる運動習慣を形成するための基盤になることについて紹介してきました。
この考え方を社会全体に普及・啓発していくためには、栃木県の「親子運動遊びの出前講座」のように幼稚園や保育所、認定こども園の運動会や保育参観といった既存行事を活用することは有効な方法の一つと言えます。
一方で、県内全域への普及・啓発や、運動やスポーツに親しむ機会の少ない保護者への働きかけに加え、スポーツ庁の委託事業が終了した後の事業の継続性も課題です。そのため、このプロジェクトを実施する市町での成果を、いかに実施していない地域へ横展開していくかが、これからの重要なテーマとなります。
今後も、スポーツ庁は地方公共団体の取組や成果を収集、発信し、他の地域への普及・啓発を後押しすることで、幼児期からの運動習慣形成を日本各地の子供たちに広げていきます。



