運動ができるようになると、アタマもよくなる!? 専門家に聞く!子供の能力を引き出すためのメソッド

子供の能力を引き出すためのメソッド

「自分は運動が苦手だし、自分の子供だから運動が得意になるはずなんてない──」

そんなふうに考えているお父さんやお母さんはいませんか? そもそも運動神経の良し悪しは「遺伝」なのでしょうか? いいえ、“運動オンチ”は遺伝しません。もちろん得手・不得手はありますが、「最初からできる」という子供は1人もいないのです。

「運動ができる代わりに勉強は苦手」または「勉強はできるけれど運動は不得意」といったように2つは並び立たないのが当たり前だと考えてはいませんか? それもまた違います。運動も勉強も、「頭で行うもの」という意味では同じ。むしろ運動ができる子は勉強もできるようになる、それは多くの研究で実証されているのです。

今回は、『スポーツのできる子どもは勉強もできる』(幻冬舎新書)や『賢い脳をつくるスポーツ子育て術』(誠文堂新光社)など多くの著書を持つ東京大学の深代千之教授にインタビューした内容をご紹介します。

子供の可能性を引き出す方法とは?動画インタビューをチェック!

【スポーツ庁】~運動ができるようになると、アタマもよくなる!?~専門家に聞く!子供の能力を引き出すためのメソッド

「運動神経が悪い」という決めつけが子供の可能性を潰す!?

東京大学の深代千之教授は、勉強も運動も、できるかどうかは「生まれた後の環境、つまり『やるかどうか』で決まってくるもの」と言います。飲み込みの早い子、遅い子といった差はあるものの、生まれつきなんでもできる子はいないのです。

たとえば、小学校で見られる運動の得意・不得意の差は、未就学時期にその運動に近い身体の動かし方を経験しているかどうかによって決まってきます。経験したことがない子は「初めてだからうまくできない」だけで、それは勉強と同じ原理なのです。

深代教授は、「運動ができる・できないも『脳の記憶』なので、運動の巧みさも頭で行うもの」と言います。つまりは勉強と一緒。運動は身体でするもの、勉強は頭でするもので、まったく別の行動──。そんな固定観念を取り去ってみると、子供が持つ可能性が大きく広がってくるはずです。

「勉強」と「運動」の相乗効果は証明されている!

「勉強と運動とは相関関係にあり、疫学的に双方が関係しているというデータがあります。「走る」「投げる」「打つ」「跳ぶ」などのいろんな動作を覚えて脳に格納しておくと、スポーツの場面で引き出して使えるのです。これは、数学の応用問題を解くときにいくつかの公式の中から適切なものを使えばその問題を解くことができるのと同じで、勉強とも似ています。そのため、運動能力が高い人は勉強もできるはずだと言えるのです」

 深代教授がそう語るように、勉強と運動も「脳で行う」という意味では、「できないことができるようになる喜び」が楽しみややりがい、また自己肯定感を得て成長できるという意味で一緒です。そして、さまざまな疫学・実験研究により「運動ができると勉強もできる」という相互関係も実証されています。

 実際に、日本よりも“二刀流”が進んでいるアメリカのハーバード大学はオリンピック選手を200名以上輩出しており、オリンピック出場後に弁護士や医師になる人も珍しくありません。また、アメリカで行われた研究によれば、カリフォルニア州の小・中学生を対象にした調査「カリフォルニア州の体力と学力の相関関係」によると、「運動能力が優れた子は学力テストの結果も同様にいい」という結果も出ています。イリノイ州で実施された別の研究「小学生の全身持久力と算数・読解テストの成績との関係(Hillman, C. H. et al. (2008)Be smart, exercise your heart: exercise effects on brain and cognition. Nat Rev Neurosci., 9:58-65.)」では、テスト中の子供たちの脳波は運動後も活発だったという結果も出ました。これらの研究は、運動による刺激や体力の向上が、記憶や認知、論理的思考の構築や集中力と関係があることを示しています。

カリフォルニア州の体力と学力の相関関係A Study of the Relationship Bitween Physical Fitness and Academic Achievement in California Using 2004 Test Resultsより作成

遊びから得た「動き」が子供たちの「基盤」となる!

では、子供たちに運動をより身近なものとして感じてもらうにはどのような方法があるのでしょうか。

まずは、運動を「スポーツ競技」と捉えるのではなく、「遊びの延長線上にあるもの」として考えることが大事だと、深代教授は話します。そのためには、4〜5歳の幼児期から「跳ぶ」「投げる」「蹴る」といった基本動作を遊びによって養い、スポーツへとつなげていくことが大事だと言います。

私たち人間は最初に頭が大きくなり、幼児期は脳の中に神経がどんどん張り巡らされます。この時期にさまざまな動作に挑戦すると、脳神経の道筋に活発に電気が通って、その動作が記憶されるようになります。『同じ道筋に電気が通ると、同じ動きが思い出される』というのが記憶の仕組で、これは九九でも、ボール投げでも、鬼ごっこで鬼から逃げるためにジグザグ走でも、すべて同じなのです」

このように、遊びを通じて“身体の動かし方”を覚えさせてあげることが、その後の子供の成長において大きく役に立つのです。

一緒に「遊び」ながら子供の能力を引き出してあげよう

たとえば、自宅のリビングでもできる遊びに「メンコ」があります。トランプやコースターなどでもできるメンコ遊びは、地面に置いた1枚を、別の1枚を投げつけて風圧でひっくり返す昔ながらの遊びです。勢いよく下に向かってカードを投げる動作を繰り返すことで、子供は自然に「どうしたらもっと強く投げられるか」という腕のムチ動作を身体と脳で考えるようになります。

また、2人でひもや手ぬぐいを引っ張り合い、片足から床が離れた方が負け、というルールで行う「バランスくずし」も、子供と一緒に手軽に楽しめる遊びです。この遊びは、ひもを通じて相手の身体の動きを感じ取り、身体の使い方を学んだり、バランス感覚を養ったりするのに効果的です。

そして「体幹」の感覚をつかむのにいいのが、「おしり歩き」。お尻を床につけて膝を軽く曲げ、手は床につかないようにして身体をくねくねさせながら親子で競争をしてみましょう。これは普段の生活やスポーツ競技ではあまり気にしない「体幹」の使い方を意識し、走る力を向上させるのにはもってこいで、実は陸上スプリント走のトップ選手なども練習に取入れている動きなのです。

このように、自宅でも簡単にできるちょっとした“遊び”で、子供たちは「スポーツの基本フォーム」の土台を自然と学ぶことができます。親子のコミュニケーションとして身体を使ってたくさん遊んでみてください。

「子供の体力向上ホームページ」(日本レクリエーション協会)では、「やってみよう運動遊び」の多くの事例が見られます。こちらもぜひご参考ください。

10分の運動で集中力は飛躍的に上がる

子供に限らず、こうした自宅でできるちょっとした遊びや運動は、私たち大人にとっても脳を活性化したり、頭をスッキリさせてあげたりという面で効果を発揮します。

10分の運動で集中力は飛躍的に上がる

「私の場合もそうですが、たとえば原稿を書いていて、行き詰まったときにはいったん席を外して、外を軽く歩くとか、ジョギングするなどしています。そうすることで脳がリフレッシュされます。また、運動をすると脳の血流も上がります。それによって新しいアイデアが浮かんだり、記憶力が上がったりといった効果が感じられます」

深代教授はそう言います。子供たちと同じように、大人にとっても頭を使うことや物事に集中することと、身体を動かすことの間には大きな相互関係があるのです。

まとめ

このように、幼少期からいろいろな遊びを通じて「身体の動かし方」を身につけておくことで、子供は運動への苦手意識を持たずに育つことができ、そうしてスポーツに親しんでいくことが、ひいては“考える力”や記憶力、つまり学力の向上につながります。

それだけでなく、身体を動かすことで「できないことができるようになる」という体験をすることで、その自信が勉強だけでなく、将来的に社会へと出るにあたっての人間形成などにも通じてくるのです。

健康・体力増進といった直接的な効能だけでなく、スポーツには「脳の発達」を促すチカラがあります。そういったことを、ぜひご家庭でも大人がプレイリーダーとなって一緒に遊びながら子供たちに伝えてあげましょう。

■取材・監修:深代千之・東京大学大学院総合文化研究科・教授。(一社)日本体育学会会長、日本バイオメカニクス学会会長。1955年群馬県生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。博士(教育学)。力学・生理学などの観点から身体運動の理解と向上を図るスポーツ科学の第一人者。『<知的>スポーツのすすめ』(東京大学出版会)、『運動会で一番になる子どもの育て方』(東京書籍)など著書多数。2018年、秩父宮章受章。

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