~“遊び”によって「心」と「身体」を育てる~プレイリーダーは子供たちの“ガキ大将”!?
近年、「子供の体力・運動能力低下」が問題として取り上げられることが増えています。この子供の体力・運動能力低下による影響は大きく、肥満やケガが増えるだけでなく、将来的な生活習慣病リスクの増加、ひいては医療費負担の増加にまで及んでいます。また、子供たちの意欲や創造性が妨げられると不安視する声もあります。
スポーツ庁では「子供の運動習慣アップ支援事業」を通して、子供たちが日常的に運動・スポーツに取組める習慣づくりを支援しています。今回はスポーツ庁の委託を受けて幼児期運動遊びプログラムを作成し、保育園などで実践している滋賀県の取組と民間企業として独自にプレイリーダーを育成するミズノ株式会社を取材しました。
なぜ、子供の体力・運動能力は低下しているのか?
子供の体力・運動能力は、ピークだった昭和60年頃と比較すると低い水準で推移。その大きな要因として、次の2点が挙げられます。
- 日常的に身体を動かす機会が減少した
現代社会は、科学技術の飛躍的な発展などによって生活の利便性が向上。昔ほど体力や運動量が必要とされなくなり、子供たちが身体を動かす機会も減少したと考えられます。
- 身体を動かして遊ぶ時間・空間・仲間が減少した
近年の子供たちは、テレビを見たりゲームをしたりと室内で過ごす時間が増え、外遊びの時間が減少しています。また、都市化にともない身体を動かして遊べる場所が減っていること、少子化が進んで身近で一緒に外遊びできる仲間を見つけるのが難しくなったことも要因です。
幼児期の運動習慣がもたらす効果とは?
幼児期の運動習慣がもたらす効果は、「体力・運動能力の基礎ができる」「身体づくり・健康づくりができる」といったことだけではありません。幼児期の運動習慣は、心の働きにもよい影響を与えます。さらに、幼児期によく外遊びをした人は小学生になっても日常的に運動し、体力も高いといった持ち越し効果があるといわれています。
文部科学省が策定した「幼児期運動指針ガイドブック」では、さまざまな遊びを中心に毎日計60分以上、楽しく身体を動かすことの大切さや幼児期における運動の意義として以下をポイントとして挙げています。
- 意欲的に取組む心が育まれる!
幼児期に身体を動かす遊びなどをして思いきりのびのびと動くことで、何事にも意欲的に取組む姿勢が養われ、健やかな心が育まれます。
- 協調性やコミュニケーション能力が育まれる!
幼児期に多くの友達と一緒に運動することにより、ルールを守り、自我を抑制し、コミュニケーションをとりながら協調する必要があることを学びます。
- 脳の発達を支え、創造力が豊かになる!
近年、運動が知的能力によい効果をもたらす可能性が示されています。また、幼児はさまざまな運動のなかで、ルールを変えたり新しい遊び方を考えたりして、豊かな創造力を育んでいきます。
子供の運動習慣アップ支援事業
スポーツ庁が推進する子供の運動習慣アップ支援事業の目的は、「日常的に運動・スポーツを実施する習慣を身に付け、多様な身体の動きを獲得すべき年代の子供に対し、運動遊びプログラムを通じて、楽しみながら多様な動きを身に付けることができる機会を提供すること」です。その中で具体的な施策として力を入れているのが、「プレイリーダー」の養成です。
プレイリーダーってどんな人?
プレイリーダーとは、「運動遊びプログラムを通して、子供たちが主体的に活動できるようプレイリードする人」のこと。幼児期の運動は、遊びのなかで幼児自らが身体を動かす楽しさを体感することが大切です。さらに、身体を動かして遊ぶなかで、「走る」「投げる」「跳ぶ」「転がる」「ぶら下がる」「しゃがむ」「蹴る」といった多様な動きを身に付けていく必要があります。これらをサポートするのが、プレイリーダーの大きな役割です。
子供の運動習慣アップ支援事業では、幼稚園や放課後子供教室にプレイリーダーを派遣して、子供たちに運動遊びプログラムを提供。これを通して、多くの子供たちに運動の機会を提供し、その後の運動習慣の向上を図ります。
プレイリーダー養成・派遣の取組を動画でチェック!
プレイリーダー養成・活用事例
滋賀県の取組(スポーツ庁委託事業)
滋賀県は全国的に見て、小学生の体力が低い傾向にあります。小学生の体力向上を図るには、幼児期からの遊びで基礎的な動きを身に付けることが重要。そのため、滋賀県では幼児期運動遊びプログラムを作成し、保育園などで実践するとともに保護者にも家庭での運動遊びを啓発しています。この取組は、総合型地域スポーツクラブと連携した全国でもめずらしいケースです。
レインボークラブ × 水口北保育園
NPO法人 レインボークラブは、滋賀県甲賀市で総合型地域スポーツクラブを運営するほか、地域の保育園・小学校などにプレイリーダーを派遣しています。
今回、レインボークラブがプレイリーダーを派遣したのが、滋賀県甲賀市の認可保育園「水口北保育園」。ジャンプを取入れた遊びやマットを使った遊び、動物のまねをしながらの運動など、プログラムは工夫に富んだものばかり。新しい運動遊びに興味津々で、いきいきと身体を動かす子供たちが印象的でした。
なお、園児たちは「活動量計」を着用して運動遊びをしていましたが、これは、歩数や運動強度といった子供たちの活動量を測定して「プレイリーダーの有無によって、どれだけ子供たちの活動量が変わるのか」を調査するためです。
ミズノの取組
スポーツメーカーのミズノ株式会社では、子供がいきいきと遊べる環境をつくるとともに、それを見守る人として「ミズノプレイリーダー」の養成を行っています。
スポーツ施設サービス事業部の笹倉慎吾さんは、「(子供たちの)体力向上だけでなく、コミュニケーション能力や思考力といった考える力を育むお手伝いをしていきたい」と、プレイリーダーの役割を話してくれました。同社でプレイリーダーとして活動する堂森勝利さんのポリシーは、「子供たちの主体性を育むため、プレイリーダーも全力で子供たちと一緒に遊ぶ」こと。子供たちと本気で遊べる “ガキ大将” は、プレイリーダーに求められる大切な資質かもしれません。
まとめ
幼児期に遊びながら楽しく身体を動かし、「やりたい!」「できた!」をたくさん経験することで、身体だけでなく心が豊かになっていきます。幼児期に運動習慣を向上させた子供たちは、生涯にわたってスポーツライフをエンジョイできるだけでなく、人生そのものの質を高めることにもつながるでしょう。
今、より多くの子供たちが十分に身体を動かし、スポーツの楽しさや意義・価値を実感できる環境づくりが求められています。その中心的な役割を担うのがプレイリーダーという存在なのです。
●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
・スポーツ庁 - 幼児期の運動
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