“スポーツ×宇宙” 新たな可能性への挑戦~スポーツ庁とJAXAが連携協定に調印~
スポーツ庁と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)は、2025年2月19日、調印式を開催し、連携協定を締結しました。連携することで、互いの知見やノウハウを共有し、宇宙開発やスポーツの発展につなげ、社会および国民に新たな価値を提供することを目指します。
なぜ、“スポーツ”と“宇宙”が連携するのか?
“スポーツ”と“宇宙”にどのような関係があるのか? と思われる方も多いと思います。
スポーツ庁は、人々が運動・スポーツの価値を享受し、ライフパフォーマンスを向上させるための取り組みやトップアスリートやパラアスリートの育成を推進しています。一方、JAXAは、人類の活動領域拡大に向けて、宇宙科学に関する研究開発や国際宇宙探査等を通じて新たな知と産業の創造を推進しています。
「宇宙」という、空気も重力もない特殊な環境で身体を動かすことは未知な領域が多く、双方の特性を踏まえ、宇宙開発利用の取組とスポーツの取組が互いに知見を共有し連携することで、人類の活動領域拡大に伴う環境適応能力の開拓、地上における心身能力の向上など、新たな発見や可能性が広がることが期待されます。
宇宙空間に適応するためにスポーツの知見を活用
スポーツ庁とJAXAでどのような連携が考えられているか、室伏長官は以下のことを調印式で示しました。
- パラアスリートを含むトップアスリートと宇宙飛行士の一体的な強化に資するトレーニングの検討・実証
- 生物の進化や環境への適応能力、さらにはパラスポーツを始めとするスポーツで生かされてきた “一器多様”の観点を踏まえた人間の能力開拓の可能性に関する検討・連携
- 有人宇宙活動における健康管理等の技術・活動と、スポーツにおけるコンディショニング等の技術の連携による新たな価値を創造する研究・連携
- 人類の平和目的の活動を前提とするスポーツ交流、宇宙環境を考慮したスポーツの開拓
- 宇宙環境を考慮した新たなスポーツに参加するアスリートの健康および能力を守るための国際ルール作り
- 人類の宇宙進出と地上のライフパフォーマンス向上に向けた未来像の提示
地球とは異なる環境の宇宙空間において、人類が環境適応するために、これまでスポーツ界が蓄積してきた知見を活かしていくことが語られ、なかでも長官は「一器多様」の可能性についても触れました。「一器多様」とは、一つの器官で多様な機能を持つことです。例えば、筋肉が運動器以外に循環器の機能を備えていること、腸が排泄器以外に呼吸器としても機能できることなど、近年、数多くの知見が報告されてきています。宇宙という特殊な環境において、「一器多様」の機能が環境適応に関係する可能性があることが語られました。
トップアスリートと宇宙飛行士からみた連携の意義
調印式には、パラアスリートの木村敬一選手(パラ水泳日本代表)、川村玲選手(ブラインドサッカー男子日本代表)、宇宙飛行士の野口聡一さん、金井宣茂さんが出席し、トップアスリートと宇宙飛行士それぞれの視点からスポーツ領域と宇宙領域の連携について、コメントがありました。
右より、木村 敬一手(パラ水泳日本代表(パラリンピック金メダリスト))、川村 怜選手(ブラインドサッカー®男子日本代表)、野口 聡一氏(立命館大学特命学長補佐)、金井 宣茂氏(JAXA宇宙飛行士)
パラ水泳(視覚障害)の木村選手は、視覚情報が得られない代わりに手先の感覚で泳いでいるときの方向を感じることができるようになり、視覚以外の能力が新たに開拓した経験だと感じていると語りました。 「宇宙空間では、地球上と同じように身体活動をすることが難しいと想像します。パラアスリートが行っている新たな機能や感覚の開拓が多少でも役に立つのではないかと思っています」。
ブラインドサッカーの川村選手は、選手同士の声がけによるコミュニケーションやボールの音などから、互いのポジションや位置関係を確認し、空間認識や状況把握を行っていると語ります。
「サッカー選手は視覚情報からプレーをイメージしますが、我々は音などの聴覚情報です。視覚か聴覚の違いはあっても、インプットされた情報から頭でイメージし、判断して実行するプロセスは両者で大きな違いはありません」。
元宇宙飛行士の野口聡一さんは、両者の連携について「 “科学”というキーワードで繋がっています。“スポーツを科学する”、“宇宙をプレイする”、私たちは人の行動変容に繋げられるはずで、素晴らしいシナジーを生むと思います」と語りました。
JAXA宇宙飛行士の金井宣茂さんは、宇宙での社会から隔絶された閉鎖空間で過ごすことへのメンタルへの負荷について語り、メンタル面ではアスリートとも共通する部分も多いと語りました。「宇宙空間では筋肉や体調維持だけではなく、メンタルの側面からコンスタントに運動を行っています。孤立・孤独などの人間関係に基づくメンタルヘルスの問題において、宇宙での知見や健康管理技術が活用できるのではないでしょうか」。
調印式後半には有識者による今後の連携・展望についての討論が行われています。詳しくは、ぜひ、式典の動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=Tk3Y4seh1CU
まとめ
人類は活動領域を拡大しながら文明の発展を築き、その中で新たな環境への適応するために心身の能力をさらに開拓してきました。今回、有人宇宙活動やスポーツで蓄積してきた知見を互いに活用できる環境づくりを始め、宇宙開発やスポーツの発展、さらには社会・国民に新たな価値を提供していきたいと願っています。これから始まる“スポーツ×宇宙”の取組にご期待ください。
●本記事は以下の資料を参照しています
スポーツ庁 - 「スポーツ×宇宙」の取組による新たな可能性への挑戦(2025-06-01閲覧)
スポーツ庁 YouTube公式チャンネル - スポーツ庁とJAXAによる連携協定調印式(2025-06-01閲覧)