新たなスポーツ環境の構築に向けて~子どもたちの未来を見据えた「部活動改革」~

子ども×地域×部活動の在り方「部活動改革」

中学生になったら部活動に入って顧問である教員の指導の下でスポーツに汗を流すという、これまで当たり前であった光景が成り立たなくなる未来が着実に近づいてきています。その原因は、少子化と学校の働き方改革の進展です。少子化により学校の生徒は減り、特にチームスポーツでは学校単位での練習や大会の参加がままならなくなっています。また、学校の働き方改革の進展により、教員が土日も含めて部活動の指導をしたり大会の引率をしたりする在り方はあり得なくなっています。

スポーツ庁 - 『30』年後には運動部活動の生徒は半減する?!
https://sports.go.jp/special/value-sports/30.html

このような社会情勢の変化を踏まえて、スポーツ庁では、子どもたちのスポーツ環境をより充実させるとともに持続可能なものにしていくため、改革の第一歩としてまずは休日の部活動を学校単位から地域単位の取り組みにしていくことを含めた「運動部活動改革」に取り組んでいます。今回、生徒だけでなく学校や地域にとっても大きな変革となる「運動部活動改革」について取材しました。

これまで部活動の在り方の見直しは、何度も取り組まれてきましたが、十分な変化を生み出すことなく、今に至っています。しかし、ここ数年の部活動改革については、これまでで最も大きな動きとして進められています。その大きなきっかけとなったのが平成30年に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定されたことです。学校の部活動において、現在どのような改革が進められているのでしょうか。

運動部活動における課題・これまでの経緯・取り組み

平成30年3月、「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が策定されました。これは、「生徒にとって望ましいスポーツ環境を構築するという観点に立ち、運動部活動がバランスのとれた心身の成長等を重視し、地域、学校、競技種目などに応じた多様な形で、最適に実施されることを目指す」もの。つまり、子どもたちにとって、より良いスポーツ環境を整備するためのガイドラインです。

スポーツ庁 - 非科学的“スポ根”はもう古い?運動部活動イノベーション~第1回~ ガイドラインから読み解く子供目線の運動部活とは【前編】
https://sports.go.jp/special/policy/sports-club-guidline-1.html

スポーツ庁 - 非科学的“スポ根”はもう古い?運動部活動イノベーション~第1回~ ガイドラインから読み解く子供目線の運動部活とは【後編】
https://sports.go.jp/special/policy/sports-club-guidline-2.html

例えば、少子化によって子どもの数が減り、学校や競技によっては、人数が足りずにチームが組めないケースが増えています。そこで増えてきているのが、合同部活動です。合同部活動とは近隣の学校が集まってひとつのチームを組み、一緒に練習をしたりする活動であり、近年では、大会に出場することが認められるようになってきました。こうした柔軟な対応が、人数不足でやりたい競技をあきらめざるを得ない子どもたちを救っています。

これまでは、競技経験のない教師が顧問として部活動を指導することは珍しくありませんでした。しかし、子どもたちの練習の質を担保するために、平成29年度に「部活動指導員」と呼ばれる学校職員を制度化し、部活動の顧問として、練習を指導したり大会に出場する生徒の引率をしたりすることが、可能になりました。子どもたちの視点に立って部活動の充実を図りながら、学校の働き方改革にも寄与する重要な制度といえます。

さらに、強豪校などでは、週に1日も休みがないと答える生徒もおり、過度な練習が問題視されることもありました。学校の働き方改革だけでなく、子どもたちもワークライフバランスを考えなければならない時代です。ガイドラインでは、適切な休養日の基準を示し、都道府県および学校の設置者、そして各学校において基準をふまえた休養日や練習時間を設定することとしています。

また、競技力の向上を望む子どもたちがいる一方で、勝ち負けにこだわりたくない、楽しく体を動かしたいという子どもたちのニーズをくむことも、近年具現化されてきています。「ゆる部活」と称される、レクリエーション部やヨガ部、軽運動部などがそれにあたります。これまでの慣例にとらわれず、多様な部活動の在り方を生み出すことで、より多くの子どもたちにとって、参加しやすいスポーツ環境を整えることができるのです。

スポーツ庁 - “勝つ”ことがすべてじゃない! 多様なニーズに応えるイマドキの部活動「ゆる部活」をレポート
https://sports.go.jp/tag/school/post-13.html

スポーツ庁 - 生徒の多様なニーズに応えるスポーツ・レクリエーション活動部
https://sports.go.jp/tag/school/post-62.html

このように、子どもたちのスポーツ環境の充実の観点から、学校や地域の実態に応じて、スポーツ団体、保護者、民間事業者などの協力の下、学校と地域が連携して改革を進めることを、ガイドラインでは謳っています。
また、令和2年9月に策定された「学校の働き方改革を踏まえた部活動改革について」では、更なる運動部活動の推進を目指し、以下のように具体的な方針が示されました。

休日の部活動における生徒の指導や大会の引率については、学校の職務として教師が担うのではなく地域の活動として地域人材が担うこととし、地域部活動を推進するための実践研究を実施する。その成果を基に、令和5年度以降、休日の部活動の段階的な地域移行を図るとともに、休日の部活動の指導を望まない教師が休日の部活動に従事しないこととする。

「運動部活動の地域移行に関する検討会議」設置

こうした経緯を踏まえて、スポーツ庁では、今年度より、予算事業として「地域運動部活動推進事業」(2億円)を新設しました。この事業では、47都道府県および12政令市の拠点校(地域)において休日における地域のスポーツ環境の整備充実のための実践研究を実施しており、地域人材の確保や費用負担の在り方、運営団体の確保などの、地域移行を進める際の様々な課題に取り組んでいます。

加えて、令和5年度から段階的に進めていく休日の運動部活動の地域への移行を着実に実施するとともに、地域におけるスポーツ環境を整備し、子どもたちがそれぞれに適した環境でスポーツに親しめる社会を構築することを目的として、運動部活動の地域における受け皿の整備方策などについて検討するため、有識者、スポーツ関係者、学校関係者、自治体の方々を委員として、「運動部活動の地域移行に関する検討会議」を設置しました。

10月7日には第1回会合を開催し、平成28年度から30年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」において、運動部や地域のスポーツクラブに所属していない生徒に対して、「どのような条件があれば運動部活動に参加したいと思うか」との質問に対し、運動部に所属していない生徒でも、ふさわしい環境があれば参加したいと考えている生徒が多いこと(図)などを示しつつ、運動部に所属していない生徒も含め、技能の程度、年齢や性別、障害の有無にかかわらず、すべての生徒のために、どのような地域スポーツの在り方を目指すのか、様々な立場の有識者から議論が交わされました。

例えば、運動部活動を総合型地域スポーツクラブや民間のスポーツクラブ、自治体の運動教室等での専門的で子どもの多様なニーズに対応した活動に移行することで、生徒が参画したくなるようなスポーツ環境の実現と、地域住民全体にとってよりよいスポーツ環境の整備の両立が見込めます。そのために、「地域での受け皿」「指導者」「施設」「大会」「会費」「保険」「関連制度の見直し」といったより具体的な項目について検討を進め、令和4年の夏ごろにとりまとめをする予定です。

本会議は、以降1~2か月に1回のペースで開催されます。各回で議論を深掘りし、課題に対してより具体的な検討がなされていくでしょう。地域運動部活動推進事業による実践研究に加え、様々な立場の関係者による具体的な検討の場を設けるなど、子どもたちがスポーツに親しみ心身ともに健全に発育する機会を守るとともに、このたびの地域移行を契機として、よりよい地域におけるスポーツ環境を構築するというスポーツ庁の強い決意が伝わるかと思います。

子どもたちのスポーツ環境を整備していくことは、我々大人の責任であり、多くの方の協力が不可欠です。また、自分の好きなスポーツを地域の子どもたちに教え、子どもたちの成長に携わることは、それ自体とても楽しくやりがいのある活動です。運動部活動改革が進むことで、そのような機会が地域に増えていくことになります。 会議の内容や資料は、開催ごとにスポーツ庁のホームページに掲載されます。どなたでも閲覧することができますので、この機会に、運動部活動改革が進んでいく中で、地域の子どもたちに自分がやれること、やってあげたいことなどについて考えてみてはいかがでしょうか?

どのような条件があれば運動部活動に参加したいと思うか:グラフ

スポーツ庁が目指す「運動部活動」の在り方

なお、ここで強調しておきたいのは、一連の部活動改革は、あくまで子どもたちのスポーツに親しむ機会を保障することが目的であることです。現在運動部活動に入っていない子どもたちも含めて、地域で様々なスポーツに親しめる環境を整備することで、子どもたちにとってより質の高い活動環境を担保するとともに、より多くのニーズに応えることができます。

競技力向上を図り、全国大会などを目指す子どもたちがいる一方で、友達と一緒に楽しく運動したい子、好きなスポーツに、自分のペースで挑戦したい子、それぞれの求めるスポーツ環境を整え、より多くの子にスポーツに親しんでもらうことで、ひいては生涯スポーツの広がりやスポーツを通じた地域の活性化などにもつながる好循環を生み出す。スポーツ庁は、部活動の枠にとどまらず地域におけるスポーツ環境の多様性を広げることで、子どもたちの未来をも見据えています。

参考:部活動改革ポータルサイト ~学校部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行に向けて~
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1372413_00003.htm

●本記事は以下の資料を参照しています

運動部活動の地域移行に関する検討会議(第1回)配付資料(2021-11-01閲覧)

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