Sport in Life 〜コンディショニングに関する研究成果報告会(第1回)を開催〜

Sport in Life 〜コンディショニングに関する研究成果報告会(第1回)を開催〜

2024年3月、室伏長官および研究受託者から『Sport in Life推進プロジェクト「スポーツ実施率の向上に向けた総合研究事業」コンディションニングに関する研究の成果報告会』が行われました。報告会は2回に分けて行われ、第1回では、テーマ①「身体挙動による胸腹部内臓器の挙動と健康状態との関連」、テーマ②「スポーツ観戦が観戦者の健康増進、well-beingおよびスポーツ実施に及ぼす影響」の2件の調査研究について成果報告が行われました。今回、第1回の報告会についてご紹介します。

当日の講演の模様は、スポーツ庁公式YouTubeでも動画公開しています。
https://youtu.be/onGGisc7nUw?si=IHsVDa4b81ul5Iry

コンディショニングに関する研究成果報告

スポーツ庁では、スポーツを通じて、性別、年齢、障害の有無等に関わらず多様な人々の心身の健康を高める「ライフパフォーマンスの向上」に取り組んでいます。本取組では、東京2020大会で得られた科学的知見の活用やスポーツ実施の機運等のレガシーを継承し、日々の生活の中でスポーツの価値を享受できる社会の構築を目指しています。
今回の「コンディショニングに関する研究」も、上記取組の一環として行われているプロジェクトの1つであり、運動・スポーツが身体に与える新たな研究促進と医学的知見の集積に向けた調査研究となります。

「コンディショニングに関する研究」の成果報告会を行う意義について、室伏長官は以下のように語ります。
「コンディショニングの有効性や重要性を明らかにすることは、スポーツならではの視点での研究であります。その成果は運動・スポーツの価値を高め、国民がスポーツに興味・関心を持っていただくことで、スポーツの新たな取組や継続へのインセンティブになることが期待されます」。

調査研究は2つのテーマで実施され、それぞれの成果報告が行われました。

テーマ①「身体挙動による胸腹部内臓器の挙動と健康状態との関連」
受託:早稲田大学
報告者:早稲田大学スポーツ科学学術院 金岡恒治(かねおか・こうじ)教授
テーマ②「スポーツ観戦が観戦者の健康増進、well-beingおよびスポーツ実施に及ぼす影響」
受託:筑波大学
報告者:筑波大学体育系 木越清信(きごし・きよのぶ)准教授 / 松井崇(まつい・たかし)助教

コンディションニングに関する研究成果報告:イメージ

身体機能と内臓の動きには関連があるのか?!

テーマ①「身体挙動による胸腹部内臓器の挙動と健康状態との関連」

早稲田大学の金岡恒治教授が調査研究を行ったのは「身体挙動による胸腹部内臓器の挙動と健康状態との関連」というテーマです。研究調査を平易に説明すると以下のような内容となります。

早稲田大学 金岡恒治教授:イメージ(写真)早稲田大学 金岡恒治教授

  • エクササイズなどで身体を動かしている際、内臓は動いているのか?
  • 内臓が動くことは身体機能を含む健康状態や消化器機能と関連するのか?

内臓と身体の動きに関連性があるのか「身体機能評価」「健康状態評価」「消化器機能評価」を行いました。

調査は20〜72歳の男女45名を対象に、MRI(身体の断層画像を撮影する装置)を使って、内臓挙動量を計測しました。MRIの中で①仰向けの状態で足を持ち上げる動き、②大きく呼吸をしながらお腹を膨らませたり引き込み、その状態で腹部の筋を収縮させ、その時の内臓の動きを評価した。また、室伏長官が考案・実演する身体診断「セルフチェック」のスコア、ロコモ度テストなども計測するなど、多角的に調査が行われました。

MRIによる身体を動かした際の内臓の動きを調べたところ、仰向けになり足を持ち上げる(下肢拳上)時やお腹を引き込んだ時に腹筋や横隔膜が収縮・弛緩することに伴って腹圧がコントロールされ、その結果、内臓が大きく動いていることが確認されました(胃は最大で約9.0cm、肝臓は最大で約7.0cm動いた)。そこから身体機能、健康状態、消化器機能との関連を分析したところ、次の知見を得ることができました。

《結果》

  • 下肢拳上時に腹圧を高めていない人は身体機能が低い
  • 意識的に腹圧を高められる人は身体機能が高い
■調査結果を受けての室伏長官のコメント(一部抜粋要約)

「医学の研究では整形外科と内科がなかなかコラボして研究を行うことはありませんが、今回はその垣根をなくして調査研究を行いました。本研究では内臓の動きのコントロールと運動器の機能に関係があることが分かり、新しい知見を得られたと思います。今回動きを評価した肝臓は約2kgと内臓の中でも比較的重量のある臓器です。今回の調査ではそれだけの重さがある内臓が最大6cmも動きました。運動中、例えば体操選手がグルグル回転している際に内臓はどうなっているのか? 運動パフォーマンスにも内臓の動きが関係してくると思います。コンディショニングは運動器の機能だけを高めれば良いというわけではないことが分かった研究だと思います。今後、さらなる研究にも期待しています」。

スポーツを「みる」だけでもメリットはあるのか?!

テーマ②「スポーツ観戦が観戦者の健康増進、well-beingおよびスポーツ実施に及ぼす影響」

筑波大学の木越清信准教授、松井崇助教が行った調査研究は「スポーツ観戦が観戦者の健康増進、well-beingおよびスポーツ実施に及ぼす影響」というテーマです。テーマタイトルどおり、「みる」スポーツが健康増進や運動・スポーツ実施へ影響を及ぼすのか研究が行われました。

①2022年度:観戦の長期的効果を検討(横断調査)
自身が贔屓にするアスリートやチームを応援することと観戦者の運動頻度および主観的幸福感との関係

筑波大学 木越清信准教授:イメージ(写真)筑波大学 木越清信准教授

上記研究について木越准教授から成果報告が行われ、報告の冒頭で研究理由について語りました。
「これまで『自他共栄の科学プロジェクト』としてインクルーシブスポーツとは何かと研究を続けてきました。そのなかで、人が競い合う姿を見ること、誰かと一緒に観戦することで生まれる“絆”が、共感性やそこから派生する非認知能力に対する新しい有益な効果が見出せるのではないかという仮説を持っていました。人間の健康にとって“孤独”が寿命に大きな影響を及ぼすことが知られていますが、その解決策としてスポーツを役立てられないかと思い、今回の調査研究を行いました」。

「スポーツ観戦の心身への影響」についての過去に行われた報告では、スポーツ観戦の頻度に分けて「うつ傾向ありの割合比」を調べたところ、観戦していない人と比べ、観戦をしている人の方が“低リスク”であるという結果が示されています。「現地での観戦」「テレビ・インターネット観戦」のいずれの観戦方法でも同様の結果です。

今回の研究では、20歳代から60歳代までの男女100名ずつ合計1000名を対象に実態調査を行い、その回答から贔屓にするアスリートやチームあり群、となし群に分けて、「主観的健康感」と「1年間の運動頻度」を比較しました。その結果、いずれも「贔屓あり群」が「贔屓なし群」と比較して高い値を示しました。また、データから現地観戦の頻度が高いほど主観的康感が高く、アスリートもしくはチームと、家族・友人・知人など関係が近いことでも主観的康感が高い傾向が分かりました。

②2023年度:一度の観戦が人間の心身に及ぼす影響
スポーツ観戦が高める心身の同調と一体感

筑波大学 松井崇助教:イメージ(写真)筑波大学 松井崇助教

続いて松井助教からスポーツ観戦が人間の心身に及ぼす影響についての調査研究報告が行われました。 「長期的なスポーツ観戦による効果やメリットが見えてきましたが、この研究では“一度の現地観戦”による心拍数やホルモンの分泌、心理状態の変化などの心身の反応について調査研究を行いました」。

「するスポーツ」では、勝ち負けといった試合結果に関係なく、“絆”の形成が促進されます。このメカニズムとして、柔道や陸上、eスポーツなど2人以上で競い合う競技において生じる2つの社会生理学的現象が知られています、1つめは、対戦する人たちの互いの心拍数がシンクロする「心拍同調」、2つめは、“絆ホルモン”として知られる「オキシトシン」の作用です。本研究では、「みるスポーツ」でも同様に絆形成が促進されるという仮説を立てて、スポーツの観客を対象に調査を行ました。

実験では、実際の大学スポーツ大会の観客において、試合の前中後の時間経緯を追って、心拍数、唾液採取、心理尺度による「一体感」、「ロイヤリティ(再訪意向)」などが調べられました。その結果、スポーツ観戦が試合中や試合後の観客同士の心拍同調を促進することで、プレーヤーや観客との一体感、面白さ、そして、「また観戦したい」という再訪意向の高まりにつながることがデータとして示されました。
また、スポーツ観戦は、“ストレスホルモン”であるコルチゾル濃度を減少させ、オキシトシンが作用しやすいホルモンバランスを促進することも分かり、これがスポーツ観戦による一体感とロイヤリティの向上に寄与するメカニズムである可能性が見えてきました。

本研究により、スポーツ観戦が心拍同調とオキシトシンの作用を通じて一体感を高め、面白さと再訪意向を促進することが確認されました。「みるスポーツ」には、孤独の解消や心身の活動性を促進し、活力・健康増進に繋がる効果も期待できそうです。

《結果》

  • ①2022年度:観戦の長期的効果を検討(横断調査)
    →自身が贔屓にするアスリートやチームを熱心に応援する人において幸福感や運動頻度が高い
  • ②2023年度:一度の観戦が人間の心身に及ぼす影響
    →スポーツ観戦が心拍同調と一体感を高め、面白さと再訪意向を観客の専門性を問わずに促進する
■調査結果を受けての室伏長官のコメント(一部抜粋要約)

「『みるスポーツ』への研究内容はスポーツの価値をさらに高めていただく内容でした。高いレベルのスポーツだけではなく、自分の子どもの運動会レベルも含め、自分が応援したいアスリートや家族・友人など身近な存在がいることで、主観的な幸福度、運動の頻度も高まることが分かってきたことは大きな知見だと思います。またアスリートと観戦者の心拍同調の関係についても興味がありますし、今後、さらなる研究の発展を願うとともに、応援していきたいと思います」。

室伏長官:イメージ2

まとめ

今回、スポーツ庁が主体となって“運動・スポーツが身体に与える新たな研究促進と医学的知見の集積に向けた調査研究”の報告をする機会は初めての試みとなります。新たな知見を探求し広めることで、多くの人がスポーツを通じた健康増進等といったスポーツの価値を享受できる社会の構築、そして「ライフパフォーマンスの向上に向けた目的を持った運動・スポーツの推進」の実施に取り組んでいます。
室伏長官による報告会全体に対する総括を紹介します。「今回は研究発表でしたが、発表だけではなくエビデンスを基に政策として落とし込むことが一番大切だと思います。トレーニングや健康増進プログラムを行うことは医療費削減以外にも、幸福感やライフパフォーマンスを高め、労働生産性の向上にも繋がると思います」。

当日の講演の模様は、スポーツ庁公式YouTubeでも動画公開しています。
https://youtu.be/onGGisc7nUw?si=IHsVDa4b81ul5Iry

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - Sport in Life推進プロジェクト「スポーツ実施率の向上に向けた総合研究事業」 コンディショニングに関する研究の成果報告会を開催します。(2024-04-01閲覧)

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