こんなの見たことない!?新感覚のスポーツイベント「未来の大阪の運動会」に密着!
日本中が平昌オリンピックで盛り上がった少し前の2018年2月4日(日曜日)、大阪の梅田駅からほど近い体育館で、あるスポーツイベントが開催されました。
その名も「未来の大阪の運動会」。運動会といっても、学校でみなさんが経験してきたようなものとは少し異なります。最近では、企業が社員同士のコミュニケーションを深めるべくチームビルディングの一貫として運動会を開催する事例などもありますが、それともまた毛色の違った、まったく“新しい”運動会でした。
大会名の「未来」という言葉が、いったい何を示しているのか。それを探るべく、現地取材に行ってきました。
スポーツを「作る」ハッカソンという仕組み
みなさんは「ハッカソン」という言葉をご存知でしょうか。「ハッカソン」とは、「ハック」と「マラソン」が組み合わさった造語で、もともとはITの世界で、複数人が集まって新たなプログラムやサービスのアイデアを出し合う催しのことをいいます。
スポーツ庁の委託事業の一環として梅田で行われた「未来の大阪の運動会」は、そのハッカソンによって参加者が自分たちで競技種目を考え、ルールを決めるのが最大の特徴であり、おもしろいところ。そう、このイベントの参加者は、開発(デベロップ)と実践(プレイ)を両方とも行う「デベロップレイヤー」なのです。
合言葉は「運動会をハックせよ!」
地元から集まった約30名の「デベロップレイヤー」が、本番前日となる2月3日にスポーツハッカソンを行いました。「運動会をハックせよ!」という合言葉の下でさまざまなアイデアを出し合い、それを老若男女が楽しめるルールに落とし込むことで、“まったく新しいスポーツ競技”を考案していったのです。そうして、これまでに見たことがない「新しいスポーツ」の楽しみ方が広がっていきました。
スポーツには、「する」「みる」「ささえる」といった楽しみ方があります。ここに「作る」という取組を加えることで、集まった人たちが“自分ごと”としてより楽しめる参加型のスポーツイベントになる。それが「未来の運動会」なのです。
そして迎えた本番当日。男女を問わず子供から大人まで幅広く集まった約200人の方々が4チームに分かれ、前日に考案された6つの「誰も経験したことのない新種目」を楽しみました。いずれもスポーツハッカソンの中で出たアイデアを組み合わせ、絡み合わせ、変化させていき、「どうやったらスポーツを楽しめるか」を念頭に置きながら、ルールを変えて、形作られたハンドメイドの種目。参加型の運動会らしく、競技前にルールを説明する担当者も参加者の中から選ばれるなど、温かい手作り感が伝わってきました。
こんな競技、見たことない!
では、実際にどんな種目が行われたのか、少し例をご紹介しましょう。たとえば「ナニワさんが転んだ」(写真)。これは「だるまさんが転んだ」の要領でかけ声を「グリコ」「かに道楽」「たこ焼き」の3種に増やし、参加者は瞬時にかけ声に応じたポーズで止まらなければいけないという、身体だけでなく頭も使う競技です。ポーズのモチーフに大阪名物を採用した“地元感”が新鮮で、大きな盛り上がりを見せました。
各チームのメンバーが体育館の四隅から順番に倒れていき、中央のゴール(胃薬)を目指す「大阪食い倒れ競争」も目新しい競技でした。前の人の手足に必ず触れた状態で、全員が“ひとつなぎ”にならなければいけない。ゴールするのは必ず20人目でなければいけない。ルールはほぼこの2点でシンプルですが、どうやって20人目につなげるか、という各チームの作戦や駆け引きに独自性が見て取れ、まさに誰もが見たことがない競技になりました。
テクノロジーとスポーツが融合
また、「未来の」と銘打たれている通り、テクノロジーを活用した種目があったのも特徴。たとえば、写真の「大玉ポンポン」という種目は、大勢で持ったネットの上で大きなボールを揺らし、相手チームのボールを落とすというものでしたが、玉の中にはスマートフォンが入っており、両チームのボールが残った場合は揺れを数値化して勝敗をジャッジしました。
さらに「凌雲閣の攻防!」という種目では、ボウリングのピンをかたどった巨大風船の頭頂部にボールを当て、その揺れで勝敗を競いました。ここでも活躍したのはスマートフォン。モニターに示された数字に全員が興奮しました。
このように、従来の運動会では使われてこなかった現代的なテクノロジー機器から身の回りの道具まで柔軟な発想で取り入れるのが、このイベントの特徴なのです。これなら、運動がさほど得意ではない人でも、気軽に楽しめる種目を考えられます。現に参加者はイベントを通じて一様に笑顔で、各チームには驚くほどの一体感や熱気が生まれました。子供たちはもちろんのこと、大人まで童心に帰って、心からスポーツを楽しんでいる様子が伝わってきます。
この日、会場で「言い出しっぺ」と書かれたゼッケンを身にまとっていた犬飼博士さんは、「未来の運動会」プロジェクトを推進する運動会協会の理事です。もともとはゲームクリエイターだったという犬飼さんは、こう話してくれました。
「テレビゲームやテクノロジーは『スポーツの敵』だと言われてきましたが、そうではなく、スポーツもゲームなんですよ。そもそも、ありとあらゆるスポーツで我々はずっとテクノロジーを利用してきました。サッカーボールだって、体操のマットだって、体育館だってテクノロジーですしね。だから、僕たちは新しいテクノロジーを使って、新しいゲームを作って、楽しくスポーツで遊んでいるだけなんです」
未来の運動会に込められた想い
イベント終了後、実行委員長である大橋淳史さんに話を聞くと、「けがなく、事故なく、みなさんが楽しんでくれてよかった」と胸をなでおろしつつ、イベントへの思いを語ってくれました。
「子供の頃って、みんなノートとか鉛筆とか、身の周りのものを使ってなんでも遊びに変えていましたよね。そういう原体験を、大人が本気でやるとおもしろい。それが実現できました。オリンピックは英語で『Olympic Games』ですが、スポーツとゲームは親和性が高いものだと思っています。ゲームを作るのも、スポーツを作るのも社会通念的にはそう離れていないんです」
スポーツはゲーム。誰もが気軽に考えて、遊べるもの。何より、そうやって楽しさを共有することによって、地域の人々が集まって一緒に笑えるコミュニティーづくりにもつながります。この日、自ら競技に参加して地元民と触れ合った大阪市北区の上野信子区長も、「スポーツの定義や垣根を超え、自然に人と人がつながってひとつになれるイベント。スポーツに関わる人の『広さ』を感じました」と感想を語ってくれました。
2020年、東京でも「運動会」を
「町の風土に合わせて、スポーツは草木のように生えてくる」と考える犬飼さんは、「未来の運動会」をより広げていくための今後の夢をこう話してくれています。
「2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されますよね。そこに合わせて、東京で暮らす一般の方々や外国人旅行者も参加できる『未来の東京の運動会2020』をやりたいんです。それが世界中に広報されれば、日本は『スポーツを共創できる国だ』と広く知られるようになります。運動会って、日本にしかないんですよ。その文化が世界中に広まったらいいなと思います」
誰もが楽しめる日本自慢の運動会文化を広めていくことが、ひいてはスポーツ庁が掲げる「スポーツ人口の拡大」という大きな目標につながっていくことになるのです。
参加者ボイス1
お母さんがインターネットを通じて「未来の大阪の運動会」の開催を知り、一家3人で訪れたという家族連れ。「けがの心配がない競技が多くて、子供も一緒に参加できたので楽しかったですね」とお父さん。
参加者ボイス2
「普段は週1回くらいしか運動しない」という8歳の女の子も、「大阪の街とつながっている感じがして、親近感がわいて楽しかった」とイベントの魅力を話してくれました。「子供と一緒に楽しめるのがいいですね」と親御さんにも好評。
参加者ボイス3
会社の会報でイベントを知り、同僚同士で声を掛け合って参加したというグループも。「普段はあまり運動する機会がない」そうですが、「集まっている年齢層もいろいろで、盛り上がっていて楽しいですね」と笑顔を見せていました。
まとめ
スポーツ庁では、既存のスポーツ競技のみならず親しみやすい新たなスポーツを創設することで、楽しみ方の選択肢を広げ、スポーツの参画人口の拡大を目指しています。地方自治体や民間企業、スポーツ団体などと連携し、多くの人々を巻きこんでいくことで、もっと多くの人々にスポーツを楽しんでほしいーー。そして、スポーツを通じた健康増進をはじめ、コミュニケーションを活性化していく。そんな願いが込められています。
そのためスポーツ庁は、平成29年度に「ALL for SPORTS(どんなことでもスポーツに!)」「SPORTS for ALL(すべての人にスポーツを!)」という2つのテーマと、「先端テクノロジー」「地域コミュニティー」という2つのスタイルを掛け合わせた新たなスポーツの創設を支援しました。
今回紹介した「未来の運動会」もそのひとつ。テーマは「ALL for SPORTS」、スタイルは「地域コミュニティー」にあたります。これを皮切りに、これまでのスポーツの概念とは異なる新しいスポーツに注目してみてはいかがでしょうか。
●本記事は以下の資料を参照しています
未来の大阪の運動会実行委員会 ー 運動会協会(未来の大阪の運動会)(2018-03-01閲覧)