~子供の運動習慣における課題とは~ 「二極化」の改善に取組む「体育」の優良事例をレポート!
子供のうちから運動習慣を身に付けることは、生涯にわたって明るく健やかな生活を送るためのカギとなります。今回は、毎年全国の小学校5年生と、中学校2年生を対象に行っている「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果から分かった現代の課題と、その解決のための取組を解説します。
「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」って何?
「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」は、体力・運動能力を評価する新体力テストと運動頻度や運動時間などの生活習慣のアンケート調査を通じて、児童生徒の体力・運動能力、運動習慣などの状況を把握し、その改善に役立てることを目的に行われています。
昭和39年度から行われている、6~79歳を対象とした「体力・運動能力調査」によると、子供の体力は昭和60年頃をピークに低水準となっています。ここ数年は低下傾向が抑えられ、ほぼ横ばい状態を保っていますが、改善には至っていません。そこで、近年の調査結果を踏まえ、スポーツ庁の「第2期スポーツ基本計画」では、昭和60年頃の水準まで引き上げるために「スポーツ嫌いな中学生を半減させる」などの数値目標を掲げました。
調査結果から見えた新たな課題とは?
過去5年間(平成25年~平成29年度実施)に行われた小学校5年生と中学校2年生の体力測定の結果を比較してみると、男子はともにほぼ横ばい、女子はわずかながら向上傾向となっています。
引用:スポーツ庁「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」報告書
一方で、中学校女子では「ほとんど運動をしない」という割合が約2割います。また「運動をする人」=「運動時間週420分以上(1日60分)と「あまり運動をしない人」=「運動時間が週60分未満(1日8分)」で二極化していることが明らかとなっています。
この「運動習慣の二極化」を食い止めるための策は「運動を好きになってもらうこと」です。調査の分析から「あまり運動をしない人」の割合が減少した学校は、「運動が好き」「体育の授業が楽しい」の割合が増加しているのです。
改善に向けた学校の取組レポート
小学校は「楽しく、運動への充実感を理解してもらうこと」がポイント
「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」報告書では、調査結果だけでなく、運動習慣の改善や体力向上などの成果が出ている学校や教育委員会のさまざまな取組事例を多数紹介しています(報告書本誌は本ページ下部を参照)。
小学校でのポイントは、「楽しく、運動への充実感を理解してもらうこと」。
神奈川県にある横浜市立神大寺小学校では、体力テストを参考に、児童それぞれが体力の伸びを実感できるカードを作成。そのカードを授業に取り入れ、自分の目標を達成することで感じる充実感を味わえるように工夫しています。
他にも、体育の授業で身に付けることができるように、各運動領域のロードマップを作成したり、外遊び週間や「運動遊び企画」を設けたりと、学校全体で運動の楽しさを伝える工夫を取入れている三重県の四日市市立三重北小学校や、週1回、6年生が中心となって異学年で交流する外遊び企画「元気アップタイム」を設けている山梨県の笛吹市立石和北小学校の取組などがあります。
中学生は「自主的に、主体的に運動へ取組める環境づくり」がポイント
福島県の湯川村立湯川中学校では、生徒会主催で学級対抗のレクリエーション大会を開催。誰でも簡単に参加できる種目を設定し、各学年は休憩時間などに生徒主体で練習を行います。また、小学校から高校までの自分の健康・体力状態のデータ蓄積ができる福島県教育委員会作成の「ふくしまっ子健康・体力自分手帳」に体力テストの結果や分析を記入。生徒自身が興味関心を持つことで希望者が朝にランニングを中心とした自主トレーニングを行い、支部の陸上大会などに参加するといった動きも起こりました。
秋田県の能代市立能代第二中学校では、体育の授業中にタブレット端末を使用して生徒がお互いの動きを撮影しながら確認し、自分たちで課題解決のために考え、教え合う環境を作っています。さらに、4月に行った体力テストの結果をもとに生徒が目標を設定し、掲げた目標を達成するために12月にもう一度、体力テストの場を設けている福岡県の豊前市立八屋中学校など、主体性を持って取組んでいる学校が“運動二極化”を改善しているというデータが出ています。
「スポーツ嫌い」を減らすスポーツ庁の取組
「スポーツ嫌い」を減らす取組に注力するスポーツ庁が、全国体力・運動能力、運動習慣等調査の分析結果をもとに現在の体育・保健体育をより魅力的に変化させるため、大きな柱として据えたのが新学習指導要領です。運動を苦手と感じている子供に対しての指導方法と、運動を「知る」意義の提示が記載されており、「身体を動かすことが苦手な子供には、苦手なりに楽しめること」に重きが置かれています。
「できる、できない」といった技能の指導ではなく、「その運動を通してどんな身体の動きを習得させたいのか」を指導者にしっかりと考えてもらうこと、そして指導者が児童生徒の発達段階に応じて授業の組立てができるよう導いています。
スポーツを「する」「みる」「ささえる」に、新たに「知る」の要素が加えられた意図としては、運動そのものの知識を増やすこと、そして運動を通じて身体や心によい影響があることを「知る」ことで、スポーツをより身近に感じてもらうのが目的です。体験で得た「知識」は、「する」スポーツだけでなく、「みる」楽しさや「ささえる」楽しさへとつながっていきます。スポーツをさまざまな方向から捉えることで、興味・関心を持つ可能性が広がる。これが「知る」ことを取組のポイントに置いた理由です。
まとめ
継続的な運動習慣を身に付けることは、ストレス解消や脳の活性化、将来的には生活習慣病の予防に役立つと言われています。嫌いなことを習慣化するのは難しいですが、小学生、中学生の間に少しでも「楽しかった」と思う機会を増やし、自発的に運動を日常の中に取入れることができれば、運動能力の向上だけでなく、将来にわたって運動が習慣化していく大きなエッセンスになるでしょう。
一人の先生が複数科目を教える小学校において、すべての小学校の体育の授業が充実したものになるよう、スポーツ庁では先生への指導法をサポートしてまいります。
●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
平成29年度 全力体力・運動能力、運動習慣等調査報告書(PDF)
平成29年度 全力体力・運動能力、運動習慣等調査報告書(第2章 テーマ分析と取組事例)(PDF)