成長期の女性ジュニアアスリート必見!除脂肪体重を増やせば身長が伸びる!

女性アスリートヘルスサポートセミナー2020の様子

近年の日本人トップアスリートたちによる世界的な活躍は、ジュニアアスリートたちにとって大きな刺激と希望をもたらし、世界を見据えながら練習を行う選手も増えてきました。そこで課題となるのが体格の問題です。

海外選手の「身長」「体格」にも劣ることのない「身体成長」の知識をはじめ、特に女性アスリートには「女性アスリートの三主徴(利用できるエネルギー不足、視床下部性無月経、骨粗しょう症)」と呼ばれる問題も存在。第二次性徴期を迎えるジュニア時代こそヘルスマネジメントが必要とされています。

トラック競技 女性ジュニアアスリート

今回、スポーツ庁の「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」の委託事業で今年2月に行われた「女性アスリートヘルスサポートセミナー2020」を取材し、成長期を迎えるアスリート、女性アスリートが競技力向上のために気をつけなければならないことは何なのかを学んできました。

女性アスリートヘルスサポートセミナー2020

スポーツ庁では、女性アスリートの活躍に向けた支援や、ジュニア層を含む女性アスリートが健康でハイパフォーマンススポーツを継続できる環境を整備するために、女性特有の課題の解決に向けた調査研究や医・科学サポート等を活用した支援プログラムなどを実施する「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」に取り組んでいます。

女性アスリートヘルスサポートセミナー2020より鈴木志保子氏 井下綾子氏 柴田昌奈氏左から 鈴木志保子氏(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 教授、公認スポーツ栄養士)、井下綾子氏(順天堂大学医学部 准教授)、柴田昌奈氏(バレーボール女子日本代表 ストレングスコーチ)

女性アスリートヘルスサポートセミナー2020より松田貴雄氏松田貴雄氏(独立行政法人国立病院機構 西別府病院 スポーツ医学センター センター長)

除脂肪体重が増えれば身長は伸びる

除脂肪体重(Lean Body Mass:LBM, 以下LBMと表記)とは、体重から脂肪を除いた体重のことで主に筋肉(骨・内臓・血液を含む)です。基調講演を行った松田貴雄先生の研究によれば、『LBM増加(+0.5kg)=身長の伸び(1cm)』とLBMの増加と成長期の身長の伸びは相関することが明らかになっています。LBMの増加を把握して、管理することで、成長率が最も高くなる「成長スパート」期に入ったジュニアアスリートの身長を伸ばす後押しとなります。

LBMは、体脂肪率を測定できる体重計があれば算出できます。
LBM(kg)=体重(kg)-体脂肪量(kg)(体重(kg)×体脂肪率(%)÷100)

例えば、小学生で43kg、体脂肪率25%であれば、

①体脂肪量(kg)を計算
43×25÷100=10.75(kg)
②LBM(kg)を計算
43-10.75=32.25(kg)

除脂肪体重の把握・管理で女性アスリートの三主徴問題を回避

女性アスリートが抱える「女性アスリートの三主徴」を回避するにはLBMの把握・管理が有効な手段となります。次世代の日本人女性アスリートにとって、人LBM減少はエネルギー不足であることを示し、貧血となる可能性が上がります。貧血は無月経へと繋がり、また骨粗しょう症にも。LBMを把握することは「エネルギー」を保つ指針ともなるのです。

さらにバレーボール女子日本代表で選手強化に取り組む柴田昌奈ストレングスコーチより、LBMを身長(m)で割った値(LBM/H)を用いて、身長の異なる外国人選手との骨格筋量の比較を行うなど、成人アスリートにおいても、LBMを活用したコンディション管理が標準となっていることが紹介されました。

次世代日本人女性アスリートの三主徴

ジュニアアスリートには「食事」と「睡眠」が大切

身長の伸びに関わるLBMの増加に必要な条件は、『適度な運動』『充分な食事』『質の良い睡眠』の3点。成長ピークを迎える前、小学校の中〜高学年の時期にしっかりと「運動」「食事」「睡眠」をとることが重要です。

「運動」
定期的な運動をすることで骨や筋肉、結合組織への刺激が加わり、成長スパートがより効果的になります。1日を通して60分程度の運動を心がけましょう。ただし過度な運動は避けます。
「食事」
体をつくる食事。身長を伸ばすためにもエネルギーを充分摂ることが大切です。カルシウムのほかにも、タンパク質、亜鉛、鉄分も意識しましょう。
「睡眠」
成長ホルモンは深い眠りの時に多く分泌されます。深い眠りを確保するためには、就寝前にスマホやテレビの画面は見ない、激しい運動は避けるなどを心がけ、8〜10時間の睡眠をとりましょう。

「到達予測身長を知ることができる」
成長期のアスリートをサポートするアプリ

「スラリマッスル」アプリのイメージ

今回、「女性アスリートヘルスサポートセミナー2020」を主催した順天堂大学女性スポーツ研究センターでは、身長と相関するLBMを管理するアプリ「スラリマッスル」を2月27日リリース。成長期の女子アスリートをサポートできるアプリとなっています。

順天堂大学 -「スラリマッスル」アプリ
https://www.juntendo.ac.jp/athletes/surari/surari_muscle.html

スラリマッスルの特徴

①到達予測身長を知ることができる
両親の情報を入力することで「到達予測身長」を知ることができます。また到達予測身長に達するために必要となるLBM(必須LBM)を把握することができます。
②LBMや必要エネルギー量をわかりやすく表示
身長と体重、体脂肪率を入力することで、日々のLBMと1日に必要なエネルギー量を把握することが可能。LBMの増減に対して補う必要があるエネルギー量を「おにぎり」に換算してわかりやすく表示してくれます。
③成長スパートのチェックに役立つ
日々の記録をグラフ表示して成長の様子を確認することができます。年間の身長成長率・LBM成長率を確認することで成長スパートのチェックにも役立ちます。

この「スラリマッスル」は成長期の女子アスリートだけではなく、男子アスリートにも活用でき、幅広くジュニアアスリートのサポートが行えます。また、成長期を過ぎた成人アスリートでも「現時点で摂取すべきエネルギー量」を把握するツールとして利用できるので、長期的なコンディション管理に役立つことでしょう。

まとめ

これまでのスポーツ界では、体重の増減だけが注目されてきました。成長期である思春期のアスリート、特に女子にとって「体重増」はマイナスなイメージを持ち、太りたくない理由からエネルギー不足を招く要因にもなっていました。

あらためてジュニアスポーツの指導者や保護者が「LBM」を増加させる重要さを認識することで、成長期のアスリートたちの身体的成長を促し、世界に通用する体格の選手を送り出せるようになるのではないでしょうか。

「女性アスリートヘルスサポートセミナー2020」は、独立行政法人 国立病院機構西別府病院へ委託、順天堂大学に再委託された女性アスリートの育成・支援プロジェクトの一環です。

セミナーは、国立病院機構西別府病院の松田貴雄先生による基調講演から始まり、パネルディスカッション・ミニセッションが行われ、ミニセッションでは、食事の観点から神奈川県立保健福祉大学の鈴木志保子先生、睡眠については順天堂大学の井下綾子医師、トレーニングに関してはバレーボール女子日本代表柴田昌奈ストレングスコーチといった専門家が、より除脂肪体重に着目した成長・コンディション管理の必要性について語られました。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 : 女性アスリートの育成・支援プロジェクト(2020-03-01閲覧)
順天堂大学女性スポーツ研究センター(2020-03-01閲覧)
順天堂大学 -「スラリマッスル」アプリ(2020-03-01閲覧)

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