“中高部活女子”が抱える健康の悩みとその解決のために〜女子成長期の運動部活動に関する実態調査・中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム〜

“中高部活女子”が抱える健康の悩みとその解決のために〜女子成長期の運動部活動に関する実態調査・中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム〜

スポーツ庁では、女性アスリートの育成・支援プロジェクトの中で、中学校および高等学校の学校運動部活動に所属する女子生徒の皆さんが、健康にスポーツを続けられるよう、令和4年度に「女子成長期の運動部活動に関する実態調査」、令和5年度に「中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム」を実施しました。
令和4年度の実態調査では、アンケートを通じて中高部活女子がどのようなことに悩んでいるのか実態が見えてきました。令和5年度には、中高部活女子が抱える健康課題の解決のために、プラットフォーム「Girls in Sport」を開設し、中高部活女子たちが健康にスポーツを続けられる環境づくりに取り組みました。
今回、デポルターレでは中高部活女子の抱える健康問題と健康課題解決のためのプラットフォーム「Girls in Sport」について紹介いたします。

“中高部活女子”の抱える健康問題とは

令和4年度の実態調査では、中学校・高等学校の運動部活動の実施状況や競技レベルなどの現状と、中高部活女子が抱える健康問題について明らかになりました。そこでは特に、「無月経を放置すると骨密度が低下し、骨粗しょう症や疲労骨折、じん帯のけがを起こしやすくなる。」ことを約70%の生徒が知らなかったと回答するなど、フィーメール・アスリート・トライアド(Female Athlete Triad /以下、FAT)と呼ばれる、女性アスリートに起こりやすい3つの障害(エネルギー不足/無月経/骨粗しょう症)に関連する知識の理解が進んでいない状況が見えてきました。また女性特有の症状の悩みを誰に相談しているかという質問に対しては、保護者に相談は約50%、養護教諭に相談は約5%という結果でした。誰にも相談しない生徒は約30%いました。

令和5年度の「中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム」を受託し、「Girls in sport」を開設した順天堂大学「女性スポーツ研究センター」の鯉川なつえ副センター長に中高部活女子の現状について解説していただきました。

「中高部活女子は、自分がエネルギー不足に陥り、エネルギー不足がいろいろな問題を引き起こす原因になることに気づいていません。中高部活女子の年代は、身体における成長のピーク期であり、身体も心も成熟していくために最も “エネルギー”が必要な時期です。成熟に必要なエネルギーにプラスして、部活動で消費した分のエネルギー摂取が求められます」

エネルギー不足の中高部活女子に起きるかもしれないリスクについてお聞きしました。

「FATの発端となるのが“エネルギー不足”です。これを放置することで、“無月経”と将来的な“骨粗しょう症”へのリスクが心配されます。一方、IOCが提言しているREDs(運動で消費したエネルギー量と食事で摂取したエネルギー量が釣り合っていない、スポーツにおける相対的エネルギー不足)でも警鐘を鳴らしているように、貧血、メンタルヘルス、免疫低下などの医学的障害も引き起こします。中高部活女子は運動を頑張っている「アスリート」ですから、競技のパフォーマンス低下にも繋がってしまいます」

中高部活女子がエネルギー不足になる背景には、“乙女心”が関わっていると鯉川副センター長は語ります。

「中高部活女子はアスリートであっても、痩せたい・細く見せたいなど、痩せ願望が根強くあります。中高生でなくとも女性なら、世間で可愛いと思われているような容姿に憧れるものです。アスリートは、身体づくりのために食べなければいけないと分かっていても、“乙女心”で知らず知らずのうちに食べる量を減らしてしまう傾向があるのです。運動をしている中高部活女子が、運動をしていない人と同じ量しか食べていなかったとしたら、間違いなくエネルギー不足に陥ってしまいます。逆に中高部活男子の場合は、身長を高くしたい・筋肉をつけたいなど、身体を大きくしたいという願望から、言われなくてもたくさん食べる傾向にあります。
また、中高生の時期になると、男性は筋肉質な体型になるテストステロン、女性は脂肪が蓄積しやすくなるエストロゲンといった性ホルモンの分泌が多くなります。そのため、中高部活女子は人生で一番痩せにくい時期であることを理解しておく必要があります。」

中高部活女子のみなさん 身体のことで悩んでいませんか?:イラスト

“中高部活女子”の健康課題を解決する「Girls in Sport」

令和5年度に「女性スポーツ研究センター」が開設したのが、中高部活女子の健康課題解決のための情報プラットフォーム「Girls in Sport(https://research-center.juntendo.ac.jp/jcrws/girlsinsport/」です。
「Girls in Sport」には中高部活女子および、保護者、学校関係者(運動部活動顧問、養護教諭、栄養教諭、学校医等)のための情報が数多く掲載されています。中高部活女子にとって身近な健康課題である「エネルギー不足」「月経」「鉄欠乏」「栄養」などが、イラストや動画を交えながら分かりやすく解説されています。また、自分のコンディション管理ができるツールや学習ツールも無料で利用可能です。 中高部活女子も、自分でスマートフォンやタブレットなどを使って気軽に健康課題解決のための知識を得ることができ、健康にスポーツを続けるために役立つ情報プラットフォームとなっています。

女性スポーツ研究センター:サイトイメージ

「Girls in Sport」のポイント

ポイント①『中高部活女子サポート動画』
中高部活女子が、健康にスポーツに取り組むためのポイントを「動画」で解説。2分前後のショート動画なので部活の休憩時間などでも見ることができます。
ポイント②『中高部活女子コンディションサポートガイド/中高部活女子向け栄養指導マニュアル』
指導に携わる関係者が、動画やスライドを活用して中高部活女子に講習を行う際のガイド本となります。中高部活女子の健康サポートに役立つ教材を、自由に活用することができます。
ポイント③『中高部活女子対応マニュアル』
養護教諭、学校医・かかりつけ医等が、中高部活女子をサポートする際に参考となる教材です。
ポイント④『充実した中高部活女子向けツール』
男女の身体の違いや月経のしくみなどの女子アスリートに必要な知識を学べるeラーニング、オンライン健康チェックシート、コンディション管理ツールなど、これまで女性スポーツ研究センターが研究・開発してきたサポートツールが利用できます。

中高部活女子向けのプラットフォーム

今後、中高部活女子および、保護者・指導者・コーチなど周囲の大人が、どのように“中高部活女子”の健康課題に向き合うべきか、ふたたび、鯉川なつえ副センター長にお話を伺いました。

「いま世界的に女子の“スポーツ離れ”が問題となっています。その要因の一つに、エネルギー不足をはじめとする女性アスリートが抱える健康課題について、アスリート自身や指導者があまり認識していないことが挙げられます。まずは、女性アスリートの健康課題とその解決方法について、多くの方々に理解していただくことが一番です。
Girls in Sportでは、動画SNSサイトのように2〜3分の動画を飽きずに見ることができたり、イラストを使ったりして中高生が気軽に閲覧できるような工夫を行いました。また、女性スポーツ研究センターが蓄積してきた資料やツールも活用し、“中高部活女子が欲しいもの”が詰まったプラットフォームとなっていますので、保護者や指導者にもサイトを利用していただきたいです。今回、Girls in Sportを立ち上げたことで、海外からも反響があり、英語版の制作も進めています」

まとめ

令和4年度「女子成長期の運動部活動に関する実態調査」、令和5年度「中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム」では、中高部活女子が抱える健康課題等に関する調査と、課題解決に向けたプラットフォームの立ち上げを行いました。国としては、休日における学校部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行について、令和5年度から令和7年度までを改革推進期間と位置付けており、新たに指導者となる人が増えています。「Girls in Sport」は、学校関係者だけではなく、地域のスポーツクラブや関係団体の方々にとっても大変有益な情報が詰まっていますので、ぜひ、活用していただければと思います。
中高生は、身体能力・競技パフォーマンスが大きく伸びる大事な時期です。スポーツ庁は、中高部活女子を含め女性アスリートの活躍を応援しています。

●本記事は以下の資料を参照しています

Girls in Sport(2024-07-01閲覧)
スポーツ庁 - 女性アスリートの育成・支援プロジェクト(2024-07-01閲覧)
スポーツ庁 - 中高部活動における女子生徒の課題解決型実践プログラム「女子成長期の運動部活動に関する調査報告書(令和4年)」(PDF)(2024-07-01閲覧)
スポーツ庁 - 成長期の女性ジュニアアスリート必見!除脂肪体重を増やせば身長が伸びる!(2024-07-01閲覧)

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