審判員は高校生!?〜日本バスケットボール協会JBA学生審判員育成の取組〜

審判員は高校生!?〜日本バスケットボール協会JBA学生審判員育成の取組〜

パリ2024大会では10代のメダリストが誕生し、スポーツ界で活躍する学生アスリートたちに注目が集まっている一方で、スポーツを「ささえる」学生たちの存在が注目されています。2020年、高校バスケ日本一を決める『ウインターカップ』で、1人の高校生が審判としてコートに立ったことが話題となりました。これをきっかけに、バスケットボール界では審判員に興味を示すU18世代の中高校生が増えてきているそうです。今回、公益財団法人日本バスケットボール協会(以下、JBA)にU18・U22審判員育成への取組について取材しました。

若手審判員の育成を目指して

2024年現在、JBA公認審判ライセンスを取得している人は約5万人ですが、ブロック以上の試合や男女トップリーグ(全リーグ合計年間1,769試合開催)などを担当できるB級ライセンス以上を取得している審判員は約10%、さらにFIBAレフェリー(国際審判員)の選考対象となり、実際に男女トップリーグを担当している国内最上位ライセンスのS級は0.3%という状況です。新リーグ設立以降、年間試合数の増加によって、特に平日の審判員の確保が課題となっています。
JBA審判グループでは、中長期計画において示している「各種大会を運営するのに十分な審判員の確保」や「登録審判員全体のレベルアップ」に向けて、2024年度よりU18での審判登録、U22でのB級取得の推奨など、若い世代の審判の育成に力を入れ始めました。

若いからこそ審判員を目指すメリット

JBA審判委員長・前田喜庸さんに、U18・U22の若手審判員育成への取組についてお話を聞きました。

JBA審判委員長・前田喜庸さん:イメージ(写真)JBA審判委員長・前田喜庸さん

●なぜ若手審判員育成に力を入れているのでしょうか。

昨年よりも登録審判員の数は増えていますが、少子高齢化と人口減少などの影響により、将来も必要な審判員を確保できる保証はありません。5年後、10年後、もっと先を見据えて審判員の確保に動き出しました。現在、BリーグB1で10試合以上活躍しているクルーチーフ(主審)の平均年齢を調べてみたところ48歳を超えていました。

審判のB級ライセンスから、トップリーグで主に活躍しているS級に昇格するには平均で8年近くかかります。社会人から審判を始めた場合、活躍できる機会があっても仕事との兼ね合いで担当できないこともあります。審判員だけで暮らせているのは国内では5人だけで、残り99%は仕事をしながら審判をやっています。私も審判員だった頃は高校体育教師と兼業でした。

U18・U22のほとんどが学生で、社会人よりも審判員として活躍できる時間があります。大学を卒業するまでにB級を取得していれば、若い年代でS級に上がれることもでき、審判員として活躍できる時間も増えます。たくさんの経験を重ねることで国際バスケットボール連盟(FIBA)の国際審判員への可能性も広がります。

Bリーグは平日開催が多くなり、JBA公認プロフェッショナルレフリーをもっと増やそうという計画もあります。若い世代を増やして“審判員の底辺”と、プロフェッショナルとして“審判技術の向上”という両輪を回しながら、U18・U22の若手審判員育成に注力していくことが狙いです。

活躍するU18審判員たち

U18審判員の数も増え、その活躍する姿が見られるようになりました。2023年『U18日清食品トップリーグ2023』で、当時高校3年生で審判員を務めた佐藤快さんにお話を聞きました。佐藤さんは大学生となった現在もB級ライセンス審判員として活躍しています。

審判員・佐藤快さん:イメージ(写真)審判員・佐藤快さん

●日清食品トップリーグに審判員として派遣された経緯を教えてください。

詳しくは知らないのですが、JBAにリーグの運営担当の方から高校生の審判員はいないかと問い合わせがあったそうです。その時、自分はたまたま長野県バスケットボール協会に活動機会がないかと相談をしていたところで、北信越の会議に出席されていたJBAの前田審判委員長に紹介されて、そのまま派遣されることになりました。偶然が重なった感じです。

●初めて大舞台で審判員を務めていかがでしたか。

会場に行くまでの道中は本当に何も考えられないぐらいに緊張していました。それでも試合が始まれば緊張していることも忘れて、目の前の試合のことだけに集中できました。同世代である高校生たちの試合ということで、審判員の先輩方に比べ、世代間で共有できる感性や感情を持ちながら、選手への声がけなど意思疎通の面で良かった部分もあったと思います。

自分が審判を行った様子をJBAの公式YouTubeチャンネルに紹介してもらったところ、「これからも頑張って欲しい」「高校生でも選手以外でバスケに関わる道もあるのか」など、共感してくれるコメントをたくさんいただき、反響の大きさに驚いています。

試合で審判を行う佐藤快さん:イメージ(写真)試合で審判を行う佐藤快さん

●佐藤さんが審判を目指したきっかけ、どのように審判になったのか教えてください。

審判に興味を持ったのは、バスケットボール選手だった姉兄2人の試合に行った時、選手よりも審判の方が輝いているように見えたからです。そこから自分も高校までバスケットボールに興じて、プレイヤーと並行して審判員の勉強を始めました。

まず中学1年生の時にE級ライセンスを取得しました。E級は資格としては1番下であり、オンライン試験で取得することができます。自分は所属する協会の方の勧めで1度試合の審判をさせてもらったことをきっかけに、中学校のいくつかの小さな大会で審判員を任せてもらいました。審判の経験を積み重ねながら中学3年でD級、高校1年でC級、高校2年でB級と1年ずつライセンスを上げていき、徐々に審判員としてステップアップしました。自分の場合は、運よくライセンスを活かせるチャンスと巡り合うことができたのが大きかったと思います。

●審判員を目指す同世代へのアドバイスと、佐藤さん自身の目標を教えてください。

アドバイスとしては、E級ライセンスでは審判をできる機会が少ないので、積極的にチャンスを掴むように頑張るのがいいと思います。小さな大会でも経験を増やして、自分のできることを周囲にアピールしていくことが大事ではないでしょうか。

大学生となってA級を目指していますが、将来はS級まで登り詰めたいです。審判員には素晴らしい先輩方が多く、パリ2024オリンピックで審判員をされた加藤誉樹さんのように、自分も続いていきたいなと考えています。

まとめ

スポーツには「する」「みる」「ささえる」の3つの関わり方がありますが、スポーツ庁『令和5年度スポーツの実施状況等に関する世論調査』によれば、運動・スポーツを「ささえる」活動に参加した割合は、9.9%となっています(「する」は76.4%、「みる」は68.7%)。
JBAのU18・U22審判員育成への取組は、10代にもスポーツを「ささえる」選択肢があることを示し、世代を問わず多様なスポーツとの関わり方があることを教えてくれるものだと思います。
スポーツ庁は、年齢、性別、障害のあるなし問わず、スポーツとのさまざまな関係を楽しめる社会に向けて取り組んでまいります。

U18日清食品トップリーグ2023:イメージ

●本記事は以下の資料を参照しています

【バスケ】コート上のもう1人の高校生|審判員・佐藤快(2024-11-01閲覧)
公益財団法人日本バスケットボール協会 - 審判ライセンス制度概要(2024-11-01閲覧)
令和5年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」 の結果を公表します(2024-11-01閲覧)

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