新たな価値で「スポーツの場」を生み出していく ~スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー開催~

公園や道路をスポーツの場に

2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が近づき、スポーツによる地域活性化や健康まちづくりへの機運が高まっています。これからの地域におけるスポーツ施設の在り方として、「する」「みる」「ささえる」の視点から多くの利用者によって活用されることで、その施設が真に地域の資源となるような取り組みが求められます。

スポーツ庁では、『スポーツ施設のストック適正化ガイドライン』や『スタジアム・アリーナ改革ガイドブック』を公表し、スポーツ施設の計画、整備、運営に関する考え方を示しました。そして今年度、地域の身近なスポーツの場からスタジアム・アリーナやオープンスペースまで、具体的なスポーツ環境の在り方に関する考え方や事例を紹介する『スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー』を全国10カ所で開催。今回は、2019年10月15日に「オープンスペースを活用した身近なスポーツの場づくり」をテーマとして行われた第1回目のセミナーの様子をご紹介します。

誰もがスポーツに親しめる「場」の充実へ

鈴木スポーツ庁長官の挨拶

一人でも多くの人がスポーツに親しみ、健康で活力のある社会の実現を目指すためにスポーツ庁が推進しているのが「Sport in Life プロジェクト」。「Sport in Life」を実現するためには、誰もが気軽にスポーツを親しむ「場」の充実が求められています。

そうしたスポーツ施設に求められているものには大きく分けて3つのポイントがあげられます。
①スポーツ施設のフル活用とストックマネジメント
②スタジアム・アリーナ改革推進の取り組み
③オープンスペースの活用

①スポーツ施設のフル活用とストックマネジメント

施設の老朽化や人口構成の変化などへ計画的な対応が求められています。既存のスポーツ施設を最大限活用しつつ、今後、安全で持続可能なスポーツ環境をいかに確保・充実していくか、地方自治体が取り組まなければならない課題も多くあります。

②スタジアム・アリーナ改革推進の取り組み

スタジアム・アリーナは従来のスポーツ施設に対する固定観念から脱去し、「スポーツの成長産業化」の大きな柱として期待されています。飲食や観光などの周辺産業も巻き込み、地域活性化、まちづくりの核としていくことが重要です。

③オープンスペースを活用

スポーツのできる場所はスポーツ施設に限りません。公園などの身近なオープンスペースを活用し、キャッチボールや体操など気軽にスポーツのできる場所・空間を新たに創り出していくことも、施設の老朽化や財政制約などに対応した持続可能なスポーツ環境づくりの解決策の一つとして重要です。

注目されるオープンスペースの活用、約200名がセミナーに参加

公園や道路をスポーツの場に 事例1

会場全体図

『スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー』では、上記の3つの観点から、スポーツ施設の整備・運営に関する事例を紹介します。「第1回:オープンスペースを活用した身近なスポーツの場づくりセミナー」では、特にオープンスペースを活用した「スポーツの場づくり」に取り組まれている事例を紹介。当日は約200名の地方自治体、民間事業者の方々に参加いただき、会場からはセミナーへの関心の高さが伝わってきました。

セミナーの冒頭には、鈴木スポーツ庁長官が挨拶。「公園、広場、道路、河川敷などの公共空間から山や海まで、地域にはスポーツ施設ではない、スポーツに適した環境資源が眠っています。お金をかけて大きな施設を作らなくても、オープンスペースの環境を整えることで、気軽にスポーツに親しむ環境は創出できるはずです」とのコメントがありました。

事例紹介は以下の通り。

~街全体がフィットネスクラブ~「アウトドアフィットネス」事例紹介
講師:株式会社 BEACH TOWN 代表取締役 黒野崇氏

渋谷区どこでも運動場プロジェクト等(公園、道路等の活用)
講師:一般社団法人 TOKYO PLAY 代表理事 嶋村仁志氏

公園を活用した市民の健康づくり事業
講師:一般社団法人 公園からの健康づくりネット 理事 小野隆氏(一般社団法人日本公園緑地協会)

公園、校庭、園庭等でのキャッチボール教室
講師:公益社団法人 全国野球振興会(日本プロ野球OBクラブ) 飯山晃生氏(一般社団法人日本プロ野球選手会)

チームの社会連携による公共空間でのサッカーを使った防災イベント
講師:一般社団法人 TCCM 統括部⾧ 中井久美氏、株式会社 HITOTOWA 執行役員 津村翔士氏

健康・スポーツのためのオープンスペースのデザイン
講師:東京農業大学 地域環境科学部 造園科学科 准教授 福岡孝則氏(国際余暇スポーツ施設協会日本支部:IAKS)(一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟:JLAU)

公園や道路を「スポーツの場」として使ったら、地域の人に笑顔が溢れていた

公園や道路をスポーツの場に 事例2

セミナーでは特色のある事例が6件紹介され、いずれも興味深い内容でした。いくつか例をご紹介してみましょう。

●渋谷どこでも運動場プロジェクト
渋谷区は、公園だけにとどまらず、区全体を「15㎢の運動場」と捉え、「運動することを特別な行為ではなく、生活習慣の一部にしたい。」と宣言。昨年度から同プロジェクトを立ち上げ、暮らしに身近な道路や緑道、公園など、人が行き交う場所を活用し、スポーツや遊びを通して体を動かしながら、地域に住んでいる人同士がつながることのできる機会づくりを応援。身近なオープンスペースを活用して生活のなかにスポーツを取り入れ、「Sport in Life」を実現している事例です。

●アウトドアフィットネス
「街全体がフィットネスクラブ」というコンセプトのもと、身近な公園や山、海といった地域の自然を生かし、屋外でヨガやトレッキングなどを実施する「アウトドアフィットネス」。美しい自然の中で「続けること」で、健康と心の開放感もプラスに。自治体や公園管理に携わる民間事業者との連携により実現している、インドアとアウトドアのフィットネスを融合したプログラムの事例などが紹介されました。

●チームの社会連携による公共空間でのサッカー防災イベント
「名古屋グランパス」のホームタウン愛知県豊田市では、豊田市駅前通りの公共空間を利用してサッカーを通じた防災イベントを実施。クラブの応援のみならず、「身近な街」として駅前に愛着や誇りを感じてもらえるようなコミュニティの創出も目的に、サッカーをしながら防災を学び、若者への「防災」意識の定着を図っています。公共空間を、スポーツの場ではなくJリーグが推進している「社会連携(シャレン!)」というコンセプトに基づき、スポーツを通じた地域課題解決の場として活用している事例です。

まとめ

いまだに熱狂の余韻を残しているラグビーワールドカップ、いよいよ間近に控える東京2020オリンピック・パラリンピックなど、国民の「スポーツ」への関心の高まりは、「みる」だけではなく、自らも「する」機運にも繋がりつつあります。誰もが気軽にスポーツを親しむには「場」の充実が求められています。

ただ施設をつくるだけではなく、既存の「場」を「スポーツの場」に変えられる可能性を、このセミナーでは示したのではないでしょうか。そのためには地域のさまざまな関係者が連携して安全なスポーツ環境づくりに取り組む必要があります。今回のセミナーを通じて、全国各地の自治体が実際にアクションを起こすことに期待したいところです。

年明けにも参加者募集中のセミナーもあるので、ぜひ、参加してみてはいかがでしょうか。

お申込みについては以下のページをご確認ください。
https://www.jeri.co.jp/joint-seminar/

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナーの開催(2019-12-01閲覧)
スポーツ庁 ‐ スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー(2019-12-01閲覧)
スポーツ庁 - スポーツ施設のストック適正化ガイドライン(2019-12-01閲覧)
スポーツ庁 - スタジアム・アリーナ改革ガイドブック(2019-12-01閲覧)

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