医師がスポーツを勧める時代!

日本医師会より運動・健康スポーツ施策に関する提言書を受けるよ様子

人生100年時代、生涯を通じて健康で生き生きと過ごすためには、運動やスポーツが必要不可欠です。運動やスポーツは、健康な人が疾病予防のために行うのはもちろんですが、生活習慣病などの患者さんであっても適切に行えば、疾病の状態や生活の質を維持・改善するのに役立ちます。

そこで、鈴木スポーツ庁長官と日本医師会による対談で、「医師が勧めるスポーツ」について探っていきましょう。

「Exercise is Medicine」スポーツを通じて健康になろう

EIM国際代表者会議にて鈴木スポーツ庁長官のプレゼンテーションの様子

「Exercise is Medicine」(以下EIM)は、アメリカスポーツ医学会(ACSM)が展開して、世界40か国以上が参画しているスポーツ・運動療法普及プロジェクトです。Exercise is Medicineを直訳するなら、「運動は薬です」となりますが、「運動で健康になろう」「運動は治療の一環です」「薬を処方する前に運動を勧めよう」など様々な意味が含まれていると示唆されます。

EIMでは、医師やその他の医療提供者が患者さんの治療計画を立てる際に、エビデンスに基づいた運動・スポーツを取り入れることと、専門的な知識を持った運動指導者に患者を紹介し、連携することを奨励しています。

2019年5月、アメリカスポーツ医学会年次学術総会に伴い開催されたEIM国際代表者会議において、鈴木スポーツ庁長官がスポーツ庁における日本の取組についてプレゼンテーションを行いました。各国の代表者たちからは、「政府が医療とスポーツを連携させる事業を主導して行うことは素晴らしい」などと高い評価を受けました。

日本医師会と共に考えるスポーツを通じた健康増進

鈴木スポーツ庁長官と日本医師会による対談の様子

2020年6月11日、「運動・健康スポーツ施策に関する提言書」が日本医師会から提出され、スポーツを通じた健康増進について、日本医師会の横倉会長(当時)、長島常務理事と鈴木スポーツ庁長官が対談を行いました。

「1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後にクスリ」

日本医師会より

厚生労働省が提唱する健康増進普及月間の統一標語に「1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後にクスリ」というものがあります。
このように、厚生労働省は1に運動を掲げています。運動・スポーツの良いところは、食事療法や禁煙などと違って、嫌な思いや、我慢が生じるものではないという点です。

運動・スポーツは、楽しみや喜びを感じながら、それがそのまま疾病の予防や治療につながるというのが、極めて優れた点であると言えます。この運動・スポーツを通じた健康づくりを推進してくためには、スポーツ庁、厚生労働省、日本医師会がしっかりと連携を図ることが重要であると考えています。

医師が期待する「運動・スポーツ」の健康増進効果について

鈴木長官

医師として、運動やスポーツにどのような効果を期待されていますか。また、「適度な運動が免疫力を高める」とも言われていますが、医学的にも認められているのでしょうか。

日本医師会

世界中の様々な研究や報告によって、運動・スポーツは生活習慣病など様々な疾病の予防や改善に有効であることが分かってきています。また、各治療ガイドラインにおいても、運動療法は重要な治療の一つとして位置づけられています。

また、ライフステージ別にみても、幼児期から青年期(大学生)くらいまでは健全な成長やスポーツ活動における事故や障害予防などに、高齢者はフレイルやロコモティブシンドローム、認知症の予防などに、女性は更年期障害の軽減などにも運動・スポーツは有効だとされています。

さらに、免疫力を高める有効な方法の1つとして挙げられるのが運動・スポーツです。今回の新型コロナウイルスだけでなく、ウイルス性疾患というのは免疫力との戦いですので、たとえウイルスが体に入り込んだとしても、自己免疫力が高ければ発症しないで済みます。適度な運動・スポーツと良質な睡眠、栄養バランスの良い食事、この3つのバランスを良くすることが、免疫力向上につながります。

免疫力向上につながる「運動」「栄養」「睡眠」の3つのバランスの図

医師からの運動・スポーツ処方の必要性~リスクに合わせた運動・スポーツ~

鈴木長官

疾病を持った方が運動・スポーツを行う場合には、それぞれ何らかの配慮が必要になると思います。運動指導者だけでは、何を勧めるべきか判断ができません。医師が推奨する各リスクに合わせた運動・スポーツとはどういったものですか。

日本医師会

運動・スポーツは、やりすぎや正しくないやり方、リスクがあるのに無理するとかえって逆効果(マイナス)になり得ます。運動・スポーツは個別性が高く、一人一人に合わせたオーダーメイドの処方が必要なため、日本医師会認定健康スポーツ医等の専門的な知識をもった医師がしっかりと関わることが重要です。

具体的には、患者さん一人一人の体の能力にあわせた運動の強度や時間等を決めるために、医学的な評価が必要です。それにより、リスクの層別化を行います。例えば、コントロール不良の生活習慣病は高リスク、慢性的な運動器疾患は中リスク、生活習慣病予備群は低リスクとなります。

その上で、「体がこれぐらいの状況でしたら、これぐらいの負荷をかけた運動・スポーツが適切です」と医師が医学的に安全かつ効果的な運動・スポーツを処方することで、患者さんが安心して運動・スポーツが行えるようになります。

しかし、疾病ごとに推奨される具体的な運動については、まだ全ての医師や患者さんに十分に伝わっていないのも現状です。そこで、具体的にどのような運動やスポーツが安全かつ効果的なのかを、まずは日本中の医師に知ってもらうことが重要だと考えています。日本医師会健康スポーツ医学委員会の答申の中には、患者さんの状態に合わせて運動を推奨することについて記載しており、日本中の医師に知ってもらいたい内容になっています。

加齢にともなうリスクの共存日本医師会健康スポーツ医学委員会「健康スポーツ医学委員会答申(2018年)」p13を基に作図

医師から地域の運動・スポーツ指導者へつなぐ

鈴木長官

医師の先生方と連携することで、疾病を持った方を含めて誰もが運動・スポーツを楽しむことができるようになると期待しています。医師から運動・スポーツを処方してもらい、運動・スポーツ施設でそれを受け止めて、正しく実践していくことが、人生100年時代を迎えるこれからの時代には大変重要だと考えています。

医療とスポーツを連携させるために、地域の運動施設や医療者、運動指導者の情報を「見える化」することや、かかりつけ医と運動施設・運動指導者等との連携体制を整備することを提言されていますが、具体的にはどのようなことでしょうか。

日本医師会

実際に運動・スポーツを行うときに、医師や住民の方が、地域にどんな運動・スポーツ施設があって、どんな運動指導者がいるかわからないと、その人にとって適切でない施設に行ってしまうこと、ミスマッチが生じることがあります。そこで必要になるのが、それぞれの地域で運動指導者(健康運動指導士の配置等)と運動・スポーツ施設(指定運動療法施設、受け入れ可能な対象者の特性等)を「見える化」すること、つまり運動関連資源マップです。

運動関連資源マップを作成するには、スポーツ庁、厚生労働省、スポーツ団体、医師会が協力してそれぞれの情報をまとめることが必要になります。

また、運動・スポーツ施設に患者さんが来たとき、運動指導者は不安だと思います。そのときに、医師からの運動・スポーツ処方の情報が共有できると、運動指導者は安心できるでしょうし、患者さん自身も安心できることでしょう。

医師から運動指導者へ患者さんの情報を共有するとともに、運動指導者からは医師へ患者さんの運動実施状況などをフィードバックし、双方向の情報提供をしながらPDCAサイクルを回していくことが要です。

このスポーツと医療との連携は進めていかなければならないと思っています。
スポーツ庁の運動・スポーツ習慣化促進事業の「医療と連携した地域における運動・スポーツの習慣化の実践」では、様々な地域が参画しているので、これらの好事例や知見を各々の地域の実情にあわせて参考にし、全国に展開していただきたいと思います。

スポーツを通じた健康増進のための厚生労働省とスポーツ庁の連携会議

鈴木医務技監と鈴木スポーツ庁長官第2回 2019年3月28日 鈴木医務技監と鈴木スポーツ庁長官

スポーツ庁と厚生労働省はそれぞれの所掌の下、スポーツの振興や健康増進に取り組んでいるところですが、両省庁の連携を強化し、スポーツを通じた健康増進を推進していくために、「スポーツを通じた健康増進のための厚生労働省とスポーツ庁の連携会議」を2018年に設置しています。
両省庁のそれぞれの取組のコラボレーションや普及活動、今後の連携などについて議論しています。

2020年5月、IOC(国際オリンピック委員会)とWHO(世界保健機関)が5年間のパートナーシップを結び、スポーツを通じた健康増進についての覚書を交わしました。その中では、各国のスポーツ省と健康・保健省(日本ではスポーツ庁と厚生労働省)が連携し、協力強化することで身体活動を促進するよう掲げています。

スポーツと健康を一体のものと考え、お互いに連携しながら対策を勧めることは、国際的に見ても潮流にのっていると言えます。

鈴木医務技監と鈴木スポーツ庁長官2020横浜スポーツ学術会議(Web開催)にて、鈴木長官は、WHO(世界保健機関)Fiona Bull氏と「COVID-19新常態における持続可能なスポーツ・身体活動促進」をテーマに対談、及び講演を行いました。

まとめ

世界的に見れば、日本は素晴らしい医療を受けられる国の1つと言えますが、病気にならない、病気にさせない体づくりが一番重要です。そのために、スポーツは重要な役割を担っています。

スポーツをすることで生活に潤いや楽しみが増え、人生が豊かになります。楽しいことが健康につながるスポーツは私たちの生活に欠かすことができません。

医師がスポーツを勧め、スポーツと医療が連携することで、健康な人だけでなく、患者さんであっても、誰もが安全に、安心して楽しくスポーツができる世の中になります。

スポーツ庁、厚生労働省、日本医師会が連携することで、このスポーツを通じた健康づくりの取組はさらに進むことが期待されます。

本記事は以下の資料を参照しています

●日本医師会からの提言書(令和2年6月11日) facebook記事(2020-09-01閲覧)
YouTube動画(2020-09-01閲覧)
「運動・スポーツによる健康増進・健康寿命延伸のための具体的方策」(令和2年3月、日本医師会運動・健康スポーツ医学委員会答申)(2020-09-01閲覧)
「健康スポーツ医等の指導のもと国民が運動したくなる環境の整備」(平成30年3月、日本医師会健康スポーツ医学委員会)(2020-09-01閲覧)
日本医師会の協力を得て作成した「安全に屋内・屋外で運動・スポーツをするポイントは?」(2020-09-01閲覧)
●スポーツ庁の関連する政策の動きを紹介 厚生労働省との連携会議 第1回、第2回(2020-09-01閲覧)
Exercise is Medicine(アメリカスポーツ医学会:英文)(2020-09-01閲覧)

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