自粛生活で「速く歩けなくなった」27.7%~高齢者は家族や地域が支える

高齢者の運動は、楽しく、安全に、家族や地域が支える

Withコロナ時代に見直す、スポーツの効能 シリーズ第2弾。
新型コロナウイルスに感染すると重症化の恐れがあると懸念されている高齢者の中には、いまも外出することをためらい、体を動かす機会が大幅に減っている方がいます。運動不足によって体力の低下や基礎疾患の悪化、認知機能の低下など健康二次被害が心配されるところです。Withコロナ時代における高齢者の生活スタイルとは、また有効な運動・スポーツとは何か、日本整形外科学会専門医・医学博士で日本医師会常任理事の長島公之先生に話をお聞きしました。

外出自粛により身体機能低下に

コロナ自粛後の身体変化に関するアンケート調査結果出典:JCOAコロナ自粛後の身体変化に関するアンケート調査結果 ーコロナロコモとコロナストレスー

日本臨床整形外科学会が整形外科の医療機関に行ったアンケート調査によりますと、自粛生活後、「つまずきやすくなった」「速く歩けなくなった」「階段の上り下りが大変になった」などといった回答が高齢者に多くみられました。

ふだん、運動やスポーツとしては意識されていませんが、買い物や散歩など外出すること自体が身体活動としてこれまで役立っていたものが、外出を自粛するようになり「ロコモ(※)」になりやすい状況になっています。また、筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下する「サルコペニア」も心配です。

※ロコモ
正式名称はロコモティブシンドローム (運動器症候群)。運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態のこと。

もう1つ高齢者で問題になっているのが「フレイル」です。フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられ、体力低下等の身体的な面のみならず、認知機能の低下やうつなどの精神・心理的な面、経済的困窮などの社会的な面からいろいろな問題を抱えやすく、健康を害しやすいハイリスクな状態を意味します。

外出を自粛し、運動不足や人と人との直接的な接触を避けるようになったことによって、筋力の衰え等の身体的フレイルだけでなく、気持ち等の心理的フレイルや孤独等の社会的フレイルも心配されます。

運動・スポーツの内容は個人の体の状態に合わせて

長島公之先生 1

いまの高齢者に必要なのは「予防」です。適度な運動・スポーツは、自己免疫力を高めることによりウイルス性感染症の予防や、体力の向上等により健康増進や病気の予防などに役立ちます。また、高齢者においては、高血圧や糖尿病などの生活習慣病や、膝痛や腰痛などの運動器疾患をお持ちの方が多く、適度な運動・スポーツでそれらの病気の状態の維持や改善にも有効です。さらに、うまく歩けないなどの歩行障害がある方でも、適切な運動療法によって機能回復や社会復帰、生活の質の改善等が期待されます。

高齢者が運動やスポーツをするときに気を付けていただきたいのは、安全に、楽しくということです。特に高齢者は何らかの病気や、内科的・整形外科的リスクを有することが多くありますので、それぞれの個人の体の状態に合わせて運動・スポーツの量や方法などを変えていかなければなりません。ぜひとも、ご自身のかかりつけ医に相談してください。日本医師会では健康づくりのための運動について専門的なアドバイスができる健康スポーツ医を養成しています。かかりつけ医が健康スポーツ医の場合もありますし、そうでない場合はかかりつけ医は地域の健康スポーツ医と連携しながら専門的なアドバイスができるようにしています。また、高齢者一人一人が適した運動やスポーツを安全に安心して行うためには、適した運動場所や運動指導者などの情報を提供することも重要だと考えています。

運動・スポーツは楽しみながらやることが重要

Withコロナ時代においても筋力低下を予防・改善していくには「運動」が大事です。片足立ちやスクワットなど、家の中でもできる「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」を日本整形外科学会が中心となって紹介しています(図)。これらを毎日行うだけで効果があることがわかっています。

しかし家の中だけでは気持ちの面で楽しくないので、しっかりと感染防止対策を行いながら散歩をしたり、人と人の距離を保ちながら他の人と一緒に運動やスポーツをした方が楽しいですね。やはり運動やスポーツは楽しみながらやることが重要だと思います。

ロコトレ 片脚立ち ロコトレ 片脚立ち

ロコトレ スクワット ロコトレ スクワット出典:日本整形外科学会『ロコモONLINE』よりロコトレ

家族が一緒になって運動・スポーツを楽しむ

高齢者一人では運動する環境を作るのが難しいこともあるので、「家族」が環境づくりを行ったり、一緒に運動したりするのが望ましいと思います。日本整形外科学会ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトのロコモONLINEに「ロコモ度テスト」がありますので、ご家族が一緒にロコモの度合いをチェックしてみるのもいいかもしれません。ロコモに該当するようならかかりつけ医に相談してください。

いま子どもたちも外出自粛により外遊びができず運動不足になっているので、高齢者とお子さんが一緒に運動やスポーツをする機会をつくるのは、両方にとってメリットがあります。

「地域」の力で高齢者をサポートする環境を

最近では、独居の高齢者や高齢者だけの世帯が増えてきています。その方々には「地域」の力が重要です。地域包括ケアシステムを活かして地域全体で支えていきましょう。Withコロナ時代においては、人と人とが直接会うことが難しい状況ですが、心の状態をよくしておくためにも人と接する機会はとても重要です。直接会わなくても、電話やメールを使うなど、つながりを保つためにさまざまな工夫ができます。

運動やスポーツをするにも、一人ではなく何人かで行った方が楽しいですし、モチベーションも上がります。しっかりと感染防止対策を行い、安全を確保した上で、安心して楽しく運動やスポーツができる環境を整えていく必要があると思います。

まとめ:地域の窓口として、かかりつけ医を活用

これからは、ぜひ、かかりつけ医を持ってもらい、何か困ったことがあれば、できるだけ早く相談してほしいと思います。かかりつけ医は、地域のいろいろな情報を持っていますので、地域の窓口としても活用していただきたいです。高齢者が運動・スポーツをするときは、何らかの配慮が必要な場合が多いので、かかりつけ医に相談してください。

Withコロナ時代においても、しっかりと感染防止対策をした上で、かかりつけ医を活用しながら一人一人に合った安全かつ効果的な楽しい運動・スポーツをして心身の健康の保持増進に努めましょう。

長島公之先生 2

長島整形外科院長 医学博士 長島公之(ながしま・きみゆき)
1992年、自治医科大学大学院卒業、医学博士号取得。栃木県壬生町に長島整形外科を開業。下都賀郡市医師会理事、栃木県医師会理事を経て、2012年より栃木県医師会常任理事。2018年6月日本医師会常任理事に就任。

本記事は以下の資料を参照しています

日本臨床整形外科学会(2020-12-01閲覧)
ロコモONLINE(2020-12-01閲覧)
NPO法人 全国ストップ・ザ・ロコモ協議会(2020-12-01閲覧)

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