運動美人、サクセスフル・エイジングで健康的な体になる方法

運動美人、サクセスフル・エイジングで健康的な身体になる方法

Withコロナ時代に見直す、スポーツの効能 シリーズ第6弾
スポーツ庁の調査によると、運動不足を感じている割合は男性より女性の方が高いです(※1)。また、新型コロナウイルス感染症の影響で運動不足の女性が増えていることが意識調査でもわかってきています(※2)。「おうち時間」が増え、体を動かすことが少なくなると、健康を害することや様々な疾患リスクが高くなることが危惧されます。特に女性特有のがんや骨粗しょう症、更年期障害等に対し、近年では運動やスポーツが有効であることが分かってきました。さらに、女性は月経、妊娠、出産、産後、更年期といった男性にはみられない女性ホルモンの影響により、ライフステージごとに心身の状態が大きく変化する特徴があります。そこで、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター准教授で予防医学を専門とする医学博士の小熊祐子先生から、御自身の出産や子育て経験を踏まえながら女性の生涯の運動・スポーツについて話をお聞きしました。
*体を動かすこと全般を身体活動(physical activity)といいます。ここでは、運動・スポーツを広く捉え、身体活動と区別せずに用いています。

※1 令和元年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」(令和元年11月調査)
※2 スポーツの実施状況等に関する世論調査
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/toukei/chousa04/sports/1415963_00001.htm

運動・スポーツは女性特有の疾患を予防し、快適な毎日にしてくれる

適度な運動・スポーツが、メタボリックシンドロームや生活習慣病、運動器疾患など様々な疾患の予防や治療に役立つことは多くの方が知っていると思います。その中でも、特に女性に運動・スポーツをお勧めしたい理由は、女性特有の疾患である乳がんや子宮体がん、骨粗しょう症などの予防に役立つことが様々な研究により分かっているからです(表1)。もちろん、若い世代や子育て世代の方には、今はピンと来ないかもしれません。しかし、10年後、20年後の自分の体のことを想像してみてください。今から、これらの疾患の予防に努めておくことが、どれだけ大切なことであるのかは言うまでもないでしょう。

また、適度な運動・スポーツをすると血液循環がよくなるので、女性の悩みとして多く挙げられる冷えやむくみの改善、便秘の解消などが期待できます。さらに、体力がついてくれば、階段を上るときの息切れがしなくなったり、重たい買い物袋を持ち帰ったときの疲労感がなくなったり、日常生活のちょっとした動作が楽になります。こうしたちょっとしたことで、快適な毎日を過ごせるなら嬉しいものなのではないでしょうか。快適な毎日を過ごすことで、自然と笑顔が増え、肌つやが良く見えるかもしれません。

表1
身体活動(regular physical activity)の効果<成人(高齢者を含む)>資料提供:慶應義塾大学 小熊祐子先生

女性ホルモンはすごい!

女性の心と体の健康は、女性ホルモンの影響を大きく受けています。女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)の2種類があり、簡単に言えば、前者は女性らしい体つくりや妊娠の準備、後者は妊娠の維持といった役割を持っています。特に、生涯を通じたエストロゲン分泌量の変化(図1)による心身への影響は大きいと言われています。エストロゲン分泌量は、初経を迎えるとぐんと上がり、閉経前後に下がります。女性の体はこのエストロゲンに守られていて、エストロゲン分泌量が減少する更年期では更年期障害と呼ばれる様々な不調が生じ、その後の老年期になると骨や血管等に影響を及ぼして疾患リスクが高まります。40代から発症する方が多い乳がんも、このエストロゲンの影響を受けているといわれています。また、閉経してエストロゲンが分泌されなくなると、コレステロール値が上がりやすくなることや太りやすくなることから、生活習慣病のリスクが高まります。

一方、閉経後の乳がんや子宮体がん、生活習慣病は運動によってリスクを減らす可能性が大きいことが、疫学調査によって国際的にも明らかになっています。したがって、これらの疾患リスクが高まる前、つまり若い時から運動・スポーツをすることが極めて重要なわけです。

図1
エストロゲンと骨量の関係 図資料提供:慶應義塾大学 小熊祐子先生

骨にもいいぞ!運動・スポーツ

男性よりも女性に多いのが、骨密度が低下して骨折しやすい状態となる骨粗しょう症です。これは、寝たきりの原因の一つにもなります。女性は、男性に比べると一般的に体が小さいことから元々の骨量は少ないのですが、エストロゲンの影響により閉経を境にこの低下が著しくなります(図1)。骨を成熟させる10~20代でしっかりと骨量(骨密度)を得ることが、将来の骨の健康のためにも重要です。そのためにはバランスの良い栄養と適度な運動で、健康な体をつくることが大切です。しかしながら、最近では、若い女性で、体型を気にして偏った食事となったり、無理なダイエットをしているためか、BMIが18.5kg/m2未満の「やせ(低体重)」が増えていています。女子中学生の約20%が、1週間の運動量が60分に満たないというデータもあります(図2)。骨に必要な栄養や運動刺激がないと、骨が十分に成熟されないので心配しています。子どもを育てる親御さんにはお子さんの将来の健康を考えて、バランスの良い食事を摂ること、適度な運動・スポーツをすることのサポートをお願いしたいと思います。親子で一緒に実行できるといいですね。

では、骨が既に成熟した成人はもう諦めなければならないのかといえば、そうでもありません。もちろん、今から骨密度をぐんぐん上げることは難しいですが、少なくとも現在の骨密度を維持すること、減少する速度を遅らせることはできます。
そのためには、日々の食事からカルシウムやビタミンDなどの骨の形成に役立つ栄養素をしっかり摂取すること、日光を浴びることに加え、やはり適度な運動が不可欠です。特に、骨に刺激の加わる動きが効果的と言われておりますので、縄跳びや軽いジョギングなどが効率的です。これらは、運動強度が高くなりますし、骨への刺激が強い分、膝や腰などの関節への負担も大きくなりますので、普段運動されていない方は、ウォーキングや負荷の軽い筋力トレーニングなどから徐々に始めるのがいいでしょう。また、日光浴を兼ねて、屋外で行えば一石二鳥です。

図2
スポーツ庁 令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査 図出典:スポーツ庁 「令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」

目指せ!「サクセスフル・エイジング」

「サクセスフル・エイジング」という言葉を聞いたことはありますか。日本語に直訳すると、「上手な老い」「幸福な老い」となるかもしれません。「サクセスフル・エイジング」は米国の老年医学の研究者であるジョン・ローと社会科学の研究者ロバート・カーンが提唱した概念で、以下の3つの要件を満たしている状態で年齢を重ねていくこととしています。

①病気になるリスクが低い
②心身の機能が高い
③社会的・生産的な活動が維持されている(積極的に社会に関わっている)

この3つの要件を維持するのに役立つのが運動・スポーツです。①②は運動・スポーツの効果として一般的に言われていることなので、分かりやすいと思います。③は地域の運動教室に参加することや、仲間と一緒に運動・スポーツを行うこと等が該当します。

体を動かすポイントは「ながら運動」

加齢に伴う身体機能の変化には、先述した骨密度の低下だけでなく、有酸素性能力(全身持久力)や筋力の低下、体脂肪率の増加などがあります。これらの加齢に伴う変化を少しでも遅らせたり緩やかにするためには、やはり運動・スポーツが重要になってくるのです。

健康な体を維持するためには、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と筋肉に抵抗(負荷)をかけるレジスタンス運動(筋力トレーニング)を組み合わせながら定期的に実施することがより効果的です。WHO(2020)や米国(2018)のガイドラインでは、健康維持・増進のために、成人は週に合計で150~300分間(例えば30~60分を週に5日)の中強度の有酸素運動に加え、少なくとも週に2日のレジスタンス運動を行うことを推奨しています。併せて大事なことは、「用量―反応関係」があることです。これは、少しでも行えば行ったなりの効果があるということです。特に、働いている方や子育てをしていて改めて運動する時間のない方にとっては、朗報でしょう。

家事や育児の合間など日常生活の中に「ながら運動」を取り入れるだけでも、身体活動量はずいぶん変わります。歯磨きしながらスクワット、火にかけているお鍋をみながら足踏み、洗濯物をたたみながらストレッチングなど。
また、家事や育児等の日常生活での活動は、実は意外と筋肉を使っていることがあります。私自身、双子を育てましたが、子どもが小さい頃は、抱っこやおんぶをしながらのスクワットなど、子どもの成長とともに徐々に負荷が増えてきて、いい筋トレになりました。腕の筋肉も随分ついていました。もう少し大きくなって、走り回る子どもを追いかけることもいい運動になりました。日々の仕事と家事・育児に追われる毎日でも、日常生活の中で体を動かすことをポジティブにとらえ、今の自分にできることを少し意識的に積極的に行ってみてください。行っているうちに、体や心の変化に気づくはずです!

「こそトレ!」もおすすめです。

ちょうど先日、当方(慶應義塾大学健康マネジメント研究科・スポーツ医学研究センター)と藤沢市、藤沢市保健医療センターとの官学連携事業で取り組んでいるオンライン動画プログラム「こそトレ!」を一般公開しました。本動画は運動が苦手な方でも実施しやすい内容であり、自宅で安全安心に段階的に実施できるように工夫しています。制作過程ではソーシャル・マーケティングの手法を用いており、「忙しい」「疲れている」「面倒くさい」等の理由で運動不足が深刻な就労世代(特に女性)を対象に、自宅でスキマ時間に無理なく体を動かせる内容になっています。
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/2021/2/9/28-78025/

オンライン動画プログラムを利用した「こそトレ!」
https://www.youtube.com/playlist?list=PLefNOW03iZSSKtcS6DBHBzvQ2liNI-Dar

まとめ:日常生活の中で運動・スポーツを意識しよう

私自身が日々の生活で意識していることは、通勤ではなるべく早足で歩くこと、キャンパス内の移動や駅の乗り換えなどもエレベーターやエスカレーターを使わずに積極的に歩くことなどです。とにかく、意識してよく歩くようにしていています。在宅ワークの際は、隙間時間や「ながら」の筋トレやストレッチングです。仕事で座っている時間が多い人は、20分に一度大きく背伸びをしたり、ちょっと足踏みしたり、意識して体を動かすようにしてみてください。ほんの少し意識をするだけで、日常生活の中に運動・スポーツを取り入れられます。

小熊祐子先生

慶應義塾大学医学部1991年卒。博士(医学)。公衆衛生学修士。4年間の内科全般の研修を経て、1995年腎内分泌代謝科に帰室。1999年よりスポーツ医学研究センター助手。2000年よりハーバード大学公衆衛生大学院に留学。運動疫学の研究を行いつつ、大学院修士課程に学ぶ。2005年よりスポーツ医学研究センター・大学院健康マネジメント研究科准教授、現在に至る。日本医師会運動・健康スポーツ医学委員会委員。東京都医師会健康スポーツ医学委員会委員。

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