スポーツが国境を越え、未来をつくる力になる 〜TICAD9を通じたアフリカとの“共創”〜

2025年、横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(以下、TICAD9)では、「共創」や「若者の人材育成」が主要テーマとして掲げられました。アフリカ諸国と国際社会が協力し、持続可能な開発を推進するこの国際会議に合わせ、スポーツ庁では、東京2020大会を契機にスポーツの価値創出や社会課題の解決等を目的として取り組んできたスポーツ国際交流・協力事業「Sport for Tomorrow(以下、SFT)」を通じて、アフリカとの共創、若者の育成に取り組みました。
Sport for Tomorrowの強みをTICAD9で発揮
アフリカ開発会議(TICAD)は、1993年に始まったアフリカの開発をテーマにした日本が主導する国際会議です。2025年8月20日(水)〜22日(金)の3日間、横浜市にてTICAD9が開催されました。スポーツ庁では、会議期間中のテーマ別イベントや、それに先立ち企画された公式パートナー事業を通じて、Sport for Tomorrowの強みを発揮し、本会議の主要テーマである「共創」や「若者の人材育成」を体現しました。
Sport for Africa:日本発!スポーツを通じたアフリカ開発協力
21日、パシフィコ横浜にて、『Sport for Africa:日本発!スポーツを通じたアフリカ開発協力』と題したセミナー・シンポジウムを開催しました。スポーツ庁は、スポーツを通じた国際交流・協力を推進する多様な団体から成るSFTコンソーシアムの枠組みを活かし、コンソーシアム運営委員である日本スポーツ振興センター(JSC)、国際協力機構(JICA)とともに本イベントを実施しました。アフリカで活動するコンソーシアム会員団体、OECD開発センター、ダカールユースオリンピック組織委員会など、多様な国際アクターの実践事例紹介と対話を通じて、「社会課題の解決」「教育」「若者のリーダー育成」に貢献するスポーツの可能性やアフリカと日本の共創による信頼構築、その未来の在り方を多角的に探りました。
- ◆登壇者(敬称略)
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開会挨拶:
スポーツ庁審議官 籾井 圭子
モデレーター:日本スポーツ振興センター総合企画連携企画課長/スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(SFTC)事務局 阿部 篤志
取組紹介:OECD開発センター次長 佐谷 説子
パネリスト:一般財団法人アフリカ野球・ソフト振興機構代表(J-ABS)友成 晋也
一般社団法人A-GOAL代表 岸 卓巨
ダカールユースオリンピック組織委員会エンゲージメント局長 Fanta Diallo
また3日間を通じて実施したブース展示では、SFT事業における日本とアフリカ間スポーツ交流・協力の最新状況について発信しました。国際競技団体やアフリカ諸国の政府関係者、またアフリカや国際協力に関心を持つ大学生等、約150名が来訪しました。今後、本取組を契機としたネットワークの構築や連携・協働が生まれることに期待がされます。

Sport for Tomorrow × Africa Action Day 2025
TICAD9に先立ち、2025年8月2日(土)・3日(日)に、JICA横浜および横浜カントリー&アスレティッククラブ(YC&AC)において、TICAD9公式パートナー事業『Sport for Tomorrow × Africa Action Day 2025』を開催しました。スポーツと文化を通じて日本とアフリカ諸国との交流を深め、次世代の可能性を広げることを目的に、トークセッション、ユースオリンピック競技体験、ダンスや楽器のワークショップ、インクルーシブスポーツフェスタなど多彩なプログラムを展開しました。

本イベントは、SFTコンソーシアム会員等からなる実行委員会の主導のもと開催。会員同士が連携した取組としては初めてとなる、大規模な市民向けイベントとなりました。本コンソーシアムのネットワークを最大限に活かすことで、スポーツはもとより、国際協力、ビジネス、アート、音楽など、多種多様なアクターと協働し、様々な興味関心からアフリカとの出会いの場を作ることができました。来場者は2日間で延べ800名を超える盛況ぶりで、参加者同士で楽しみながら自然に国際交流の輪が広がりました。
夏休み中の開催ということもあり、親子での参加も多く、参加した子供たちにとって多様な”初めて”を提供することができました。また、スポーツについて研究する大学生ら多くの若者がイベント運営に携わりました。参加者からは「視野を広げる良いきっかけとなりました」、「新しい友人と出会い、新しい文化に触れることができて幸せです」などの声があり、アフリカと日本の共創による多様な体験機会を創出することができました。


アフリカのアスリート等への協力・支援と若者の学びの場づくり
TICAD9公式イベント以外にも、スポーツ庁ではSFTの一環として、アフリカとの共創や人材育成に注力した取組を行いました。2023年度から実施する『国際情勢に応じた海外アスリート等支援事業』では、紛争や災害等の国際情勢の影響により、自国内で十分なトレーニング環境を確保できない海外アスリート等に対して、国際競技大会への出場等を目的として日本国内での練習環境の提供等の支援を行っています。10月17日(金)〜24日(金)の間、アフリカの中でも干ばつの被害が絶えないマラウイとザンビアの選手・コーチ6名を含む11名の選手団を招へいし、日本体育大学(以下、日体大)が中心となり、パラ陸上トレーニングキャンプを行いました。

パラ陸上トレーニングキャンプにおける挑戦
日体大では2024年度から本事業を受託し、パラアスリート及びコーチ等の支援を担っています。「High-performance support for Overseas Para athletes under Emergency」、略して「HOPE」というプロジェクト名を掲げ、スポーツ系大学が有するリソースとネットワークを活用し、事業を推進しています。
10月、マラウイ、ザンビア、パレスチナ、イエメンの選手団受け入れに当たり、日体大が特に注力して取り組んだのが、模擬競技会の開催と、日本の大学生らの学習機会の創出です。
- ●模擬競技会(Mock Race)
- 自国内での練習のみならず、国際大会への出場機会も限られている選手団が、滞在中、国際大会への出場に近い経験をして多くの気づきや学びが得られるよう、日体大が独自に模擬競技会を開催しました。会場となった世田谷区の大蔵総合運動公園陸上競技場には、日体大、日本大学(以下、日大)、陸上クラブチーム「AC・KITA」をはじめ多くの方々が訪れ、競技者や運営スタッフとして参加しました。当日は競技スケジュールや招集時間を詳細に設定し、コールルームでの選手確認や競技者ゼッケンの装着、選手紹介を含む場内アナウンスを行うなど、実際の大会に即して競技が進められ、競技後には一人ひとりに記録証が渡されました。また、来日前から選手団に対し、宿泊先の環境等を動画や画像で共有して、競技会に向けて自らのコンディションや時差調整を行うように促す、日本でのトレーニングの時間帯を模擬競技会の開催時間に合わせて夜間に設定する、競技会翌日には専門家を招いて体のケアに関する講習会を実施するなど、競技会前後においても配慮が行われました。
招へい選手団への支援・協力の裏で、日本にとっても、大学内外から多くの協力者を集め連携を図るなどいくつもの挑戦がありました。その中で、無事に競技会を含むトレーニングキャンプ全プログラムをやり終えたことは日本側にとっても大きな成果であり、マラウイ、ザンビアを始め、相手国との共創の賜物といえます。
- ●HOPEプロジェクト with I'mPOSSIBLE
- 他方、若者の人材育成の観点から、日体大、日大、日本パラリンピック委員会(JPC)が連携し、選手団来日3週間前から事前学習を開始して『HOPEプロジェクト with I'mPOSSIBLE』を展開しました。日本の大学生など若者が、招へいする海外パラアスリート・コーチ、学外の人たちとの交流を通じて、将来に役立つ知識や気づき、ネットワークなどを得ることを目的としたものです。参加者は、日体大と日大の学生ら約15名でした。『I'mPOSSIBLE(アイムポッシブル)』は、国際パラリンピック委員会(IPC)が東京2020大会を契機として開発した、パラスポーツを通じたインクルーシブな世界を作る力を育むこと等を目指す教育プログラムです。事前学習では『I'mPOSSIBLE』日本版を使い、教材の一部を体験しながら「パラスポーツを通してインクルーシブな社会を作る力」の意味や、その実践を考える機会を設けました。また、現在起こっている紛争や災害などの世界情勢について各自が調べ、意見交換をする場も設けました。選手団来日後には、学生らがパラ陸上トレーニングキャンプに参加し、選手団と交流をしながら「多様性の尊重」「異文化理解」「共生社会」などについて実践的に理解を深めました。

参加者たちの今の想いと未来に向けたそれぞれのアクション
10月24日(金)、帰国後の具体的なトレーニング計画を立て、全日程を終えた選手・コーチたち、また、滞在中、常に選手団と向き合ってきた学生たちに、プログラムを終えた「今の想い」と「未来」についてききました。
- ●Daniel Phiri選手(ザンビア)
- 模擬競技会は貴重な経験であり、他の競技者から多くの刺激を受けました。日本で学んだトレーニング方法や大会に向けた準備方法をザンビアの選手たちに共有し、自分自身も次のパラリンピック予選などに向けて頑張っていきたいです。日本人の歓迎の姿勢と人柄の良さを学び、日本で多くの仲間を作ることができたことも大きな財産です。
- ●Agness Chikwakwaコーチ(マラウイ)
- 今回模擬競技会で選手がとても良い記録を出し、非常に誇らしく思うのと同時に、今後の目標設定が明確にできました。プログラムを通じて得た多くの知識や技術を、確実に自国の選手・コーチたちに伝えることが重要だと思っています。また、日本の人々との交流は私たちにとって大きなモチベーションになりました。今回関わってくれた全てのみなさんのおかげで、まるで家にいるように居心地がよかったです。
- ●宮坂柊羽さん(日本体育大学3年)
- スポーツを通じた人のつながりに関心があり参加しました。今回、パラアスリートとの関わりを通じて、学校等で得た情報が一部に過ぎず、実際に向き合わないとわからないことがたくさんあると思いました。インクルーシブは、障がいのある方とそうでない方を連想しがちですが、国籍・人種・ジェンダーなど多くのものに及ぶ言葉であり、「インクルーシブ」の概念をゼロからで再考する必要性を感じました。
- ●山手勇一さん(日本体育大学大学院)
- 普段はコーチングについて研究しており、今回、選手やコーチと対話し、トレーニング方法などを提案する役割を担いました。日本の選手にはあまり見られないような、自分の意思を強く主張する選手に向き合うことで、選手へのアプローチの仕方について振り返ることができました。自分はパラアスリートとしての選手引退後、スポーツ指導者になることを目指しており、本プログラムへの参加は、自分の将来にとっても貴重な経験となりました。
本プログラムでは、大学の専門家による質の高い講習や、学生の力を取り入れた支援・協力など、大学スポーツ資源が活かされていました。参加者のコメントからも海外選手団だけではなく、日本人学生たちにとっても貴重な体験だったことが窺えます。本事業の主な目的は、海外アスリート等の支援ですが、その支援・協力の裏で、現場で関わり、選手・コーチたちと向き合った多くの日本人が気づきや学びを得ています。国境を越え、互いを尊重し、相互に刺激しながら共創していく、TICAD9で掲げられた日本とアフリカの”共創”の価値と、未来の可能性を本取組で見ることができました。
まとめ
今回のTICAD9は、アフリカを単なる「支援対象」ではなく「共創パートナー」として位置付ける重要な転換点になりました。今後、アフリカとは多分野において“共創”が行われていくことになり、その共創の大きな推進力となるのが“人材”です。アフリカへの協力・アフリカとの連携を推進するなかで“人材育成”が重要なカギとなります。
スポーツ庁では引き続きスポーツを通じた国際交流・協力における「共創」「人材育成」を推進してまいります。
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●本記事は以下の資料を参照しています
SFT - 第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)テーマ別イベント(セミナー・シンポジウム、ブース・パネル展示)のお知らせ(2025-11-01閲覧)
TICAD9公式パートナー事業「Sport for Tomorrow × Africa Action Day 2025」(2025-11-01閲覧)



