運動部活動の地域移行事例紹介〜KUROBE型地域部活動(富山県黒部市)

運動部活動の地域移行事例紹介〜KUROBE型地域部活動(富山県黒部市)

2022年、スポーツ庁と文化庁は公立中学校における休日の部活動の地域クラブ活動への移行など、部活動の今後の在り方に関して、ガイドラインを全面的に改定しました。「地域の子供たちは、学校を含めた地域で育てる」という意識の下、生徒の望ましい成長を保障できるよう、地域の持続可能で多様な環境づくりを推進します。これまで主に教師が指導していた部活動において部活動指導員を活用したり、地域のスポーツクラブや民間企業、スポーツ少年団などの様々な団体が協力して運営する地域クラブ活動に移行するように取り組みを始めていきます。2023年度から3年間を「改革推進期間」とし、今後部活動の地域連携・地域移行の準備が進められる予定です。今回、2021年度から部活動の地域移行を実践している富山県黒部市「KUROBE型地域部活動」の取り組みを取材しました。

2021年度から現状の課題に対応すべく「KUROBE型地域部活動」をスタート

富山県黒部市は、中学生の競技力向上、スポーツを通じた健全育成などの充実を図るため、2021年度から地域運動部活動推進事業「KUROBE型地域部活動」として、拠点校の明峰中学校、連携校の清明中学校の2校の運動部活動の地域移行を開始しました。2校の運動部活動は30部あり、そのうち10部が休日の地域クラブとして活動しています。

黒部市の2つの中学校で抱えていた課題は以下のようなものでした。

●中学部活動が抱える課題

  • 部活動を指導する顧問が専門外の競技を担当しており、専門的な指導が得られないことで生徒たちのモチベーションが低下するケースも見られた。
  • 外部指導者を活用するも指導者と学校とのスケジュール調整が難しい。
  • 生徒数の減少により将来的に一部部活動において部員数不足がおきる懸念がある。

そのほか、教員の労働時間の問題や競技協会との連携不足などが課題にありました。また、将来の生徒数減少による部活動の減退も危惧されています。

このような現状の課題に対応すべく地域運動部活動推進事業「KUROBE型地域部活動」に取り組むことにしました。

「KUROBE型地域部活動」を実施するまでの道のり

KUROBE型地域部活動の実践概要:図

黒部市が「KUROBE型地域部活動」を立ち上げるにあたり最初に行ったのは「あり方検討会」の設立でした。事前に競技団体に仕組みを説明して、指導体制について打診を行い、中学校長会、中学校体育連盟、市体育協会、関係競技協会、PTA連絡協議会、市教育委員会から選出された代表者たちと複数回の意見交換を行いながら、拠点校の指定、課題の抽出、各関係団体との連携、部活動の実施方法などについて検討を重ねていきました。

拠点校に選ばれた明峰中学校から、女子バレーボール、男子バスケットボール、女子バスケットボール、アーチェリー、陸上(合同)、柔道(合同)、剣道(合同)の7部活動。連携校の清明中学校:陸上(合同)、柔道(合同)、剣道(合同)の3部活動、計10部活動で実施されることが決まりました。参加する部活動はいずれも外部指導者を迎えた経験があり、競技団体の協力が得やすかった競技という理由です。選ばれた競技に対して関係競技協会から指導者が派遣されます。2021年度は26名(うち教員3名)が地域部活動の指導にあたりました。

検討会を通じて、指導体制、活動時間と場所、部活動中の移動や備品・用具など、活動方針を定めていき、市ではガイドラインやマニュアルを作成。指導者(競技団体)と学校の間にスポーツ所轄課などが入り、連携を構築する役割を担っています。
対象となる運動部活動に所属する生徒の保護者には、事前説明会を開催し、活動内容など詳しく説明することで理解を得ることに繋がりました。

地域部活動の様子:イメージ1

地域部活動の様子:イメージ2

2021年9月25日(土)、10部活動をモデルに休日の部活動を地域移行する実践研究として、地域部活動が正式にスタートしました。
実施後も指導者への講習会、意見交換会など、活動内容の情報共有や事業の検証が行われました。年度末には2021年度の活動に対して、生徒、保護者、教員、指導者にアンケートを行ったところ、部活動の地域移行に関して約9割以上から「良い」「やや良い」との回答がありました。

黒部市スポーツ課担当者は、「生徒からは専門的な指導内容に対して刺激を受けた、競技への興味が増したといった意見が寄せられ、保護者や教員からは、地域の大人との関わり合いが生徒にとってプラスになるという意見がありました。これまで試合や大会などでは2校別々で応援していた生徒たちが、地域のスポーツ活動となってからは、両校を応援して、地域としてのまとまりが生まれてきたという指導者からの意見もありました。」とコメント。

2022年度からは保護者負担(受益者負担)を導入

部活動の地域移行に関して、全国どの地域でも課題となるのが「保護者負担(受益者負担)」です。地域部活動の運営には、指導者への謝金や練習場所の使用料などの費用が発生します。国や自治体からの予算措置もありますが、地域部活動を持続・継続するためには、保護者負担の課題は避けることはできません。

黒部市では前述のアンケートにて、保護者負担について保護者に意見を伺ったところ、6割以上が負担に協力できると回答しています。負担に反対する声のなかには、集金内容が明確にならないとわからないという意見もありました。

保護者アンケート:グラフ

「KUROBE型地域部活動」では、アンケートの結果と、保護者へ対して活動にかかる経費などの説明を事前に行い理解を求めたうえで、2022年度から受益者負担を実施しました。「個人の保険料」年額800円と「活動にかかる参加費」月額500円の集金を行いました。

黒部市スポーツ課担当者から、「保護者負担については、保護者の皆さんからは一定の理解を得られていると思いますし、負担金額についても否定的な意見はありませんでした。一方、保護者からは、休日に生徒を練習場所まで送迎することが負担になっているという意見の方が大きくなっています」とコメントがありました。まだ地域移行を行っていない運動部活動を次年度までに地域に移行させることも優先事項として推進していきたいとのことです。

まとめ

「KUROBE型地域部活動」を取材してみると、学校、競技団体、保護者、自治体などが意見を交わしながら、地域一体となって活動されている様子が伝わってきました。取材のなかで黒部市スポーツ課担当者が語った「それぞれの立場において課題を抱えていても、“生徒のためにやる”という目的をゴールに据えることで協力していける」という言葉が印象的でした。「KUROBE型地域部活動」の事例は、部活動の地域移行を進めるにあたって参考になるものが多くありました。

●本記事は以下の資料を参照しています

黒部市 - KUROBE型地域部活動について(2023-02-01閲覧)
スポーツ庁 - 運動部活動の地域移行について(PDF)(2023-02-01閲覧)

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