大学スポーツの振興×運動部活動地域移行~中学の部活の地域移行に不可欠な「地域スポーツ指導者」の育成

大学スポーツの振興×運動部活動地域移行~中学の部活の地域移行に不可欠な「地域スポーツ指導者」の育成

スポーツ庁では、子どもたちのスポーツ環境をより充実させるとともに持続可能なものにしていくため、「運動部活動改革」に取り組んでいます。その第一歩として、まずは休日の運動部活動を学校単位から地域単位の取り組みにしていくことを進めています。

改革を進めるにあたり、子供たちが将来にわたってスポーツ好きになるような、また、スポーツを通じてその後の社会で活躍できるような指導ができる人材の育成が必要であり、単に運動部活指導を実施できる人員を量的に確保するだけなく、そのような人材を多数研修するシステムや、生涯にわたって、「スポーツ指導者」を継続できるような経済的基盤が確保できるキャリアパスを整備することが求められます。

今回、中学の部活の地域移行に不可欠な「地域スポーツ指導者」の育成を行い、運動部活動地域移行のモデル形成に取り組む東京都渋谷区にある青山学院大学に話を聞きました。

既存の枠組みに捉われない新たなスポーツ指導者像を描く

スポーツ庁の委託をうけUNIVAS(一般社団法人大学スポーツ協会)が実施している2022年度「大学スポーツ資源を活用した地域振興モデル創出支援事業」に採択された青山学院大学では、キャンパスがある渋谷区、相模原市および関係団体と連携し、大学スポーツによる地域課題解決の実証事業「これからの社会を担う新たなスポーツ指導者育成システム開発」プロジェクト(通称:CASプロジェクト※)を開始しました。

※CAS=Community Activator with Sports

スポーツ系の学部を持たない大学だからこそ、既存の枠組みに捉われない新たなスポーツ指導者像を描けると考え、「信頼されるスポーツ指導者が我が国のスポーツを変える」をスローガンに、これからの社会に必要な、信頼できる、中学校部活動の地域移行に不可欠な「地域スポーツ指導者」の育成を行い、今後の全国レベルでの運動部活動地域移行のモデルとなることを目指しています。

運動部活動の地域移行における課題

現在、地域の課題として以下の点があげられています。

①子どものスポーツ離れ・二極化
スポーツを積極的に行う子どもと、まったくスポーツに参加しない子どもに分かれています。

②スポーツ指導者の質的・量的不足
スポーツ指導者の能力不足によるケガの増大、指導者が見つからないための廃止となる運動部の増加。

③運動部活動の地域移行
上記②の解決のために2023年度から徐々に実施予定ですが、それを担う人材の確保が課題。

これら課題を同時に解決するためには、運動部活動の指導をできる人員を量的に確保するだけでなく、子どもたちが将来にわたってスポーツ好きになるような、またスポーツを通じてその後の社会で活躍できるような指導ができる人材が求められます。

これからの社会を担う新たなスポーツ指導者育成システム開発

青山学院大学の「これからの社会を担う新たなスポーツ指導者育成システム開発」プロジェクトでは、本事業を全体的に統括・運営する「運営委員会」を立ち上げ、ワーキンググループごとに、研修プログラムや地域連携スポーツイベントなどの企画・運営について検討を行いました。そのほかにも、大学として課題解決に何ができるのか、競技団体や自治体などと地域の課題について話し合いを進めてきました。

青山学園大学「これからの社会を担う新たなスポーツ指導者育成システム開発」:資料

スポーツ指導者に求められるもの

2023年1月15日(日)、青山学院大学相模原キャンパスにおいて青山学院大学と一般社団法人 アスリートキャリアセンターの共催で「信頼されるスポーツ指導者」研修シリーズ Vol.1 導入講座が開催されました。会場とオンラインで行われ、現地とオンライン合わせて40名が研修に参加しました。

研修では、同校の陸上競技部長距離ブロック監督である原晋教授による「現代に求められる指導者」をテーマにした講義や、日本オリンピック委員会強化委員会の星川精豪非常勤講師による「発達段階のからだを知る」をテーマにした講義をはじめ、同校の駅伝チームが長年練習に取り入れている体幹トレーニング・ストレッチ法「青トレ」の実技指導などが行われました。参加者のアンケートには、「素人でもわかりやすい」「スポーツマネジメントについて多面的に学べた」「実践的な内容で役立ちそう」などの声が寄せられ、約95%が「満足した」と回答しています。

1月21日(土)には「これからのスポーツ指導者に求められるものとは」と題したオンラインシンポジウムが開かれ、現場からの現状および課題などの報告、識者によるディスカッションなど、これから部活の地域移行に求められるスポーツ指導者について積極的な意見交換が行われました。

「信頼されるスポーツ指導者」研修シリーズ Vol.1 導入講座:イメージ1「信頼されるスポーツ指導者」研修シリーズ Vol.1 導入講座

オール青山スポーツコミュニティ推進プロジェクト

本事業では、地域社会貢献イベント事業「オール青山スポーツコミュニティ推進プロジェクト」も行われました。「地域・社会連携イベント」は、「研修」で培った知識、技術を実践の場として、指導者としての経験を積み、スキルを向上させる機能を持つ位置付けにあります。今後は、「研修」と「地域・社会連携イベント」を連携させることで、指導者育成およびスポーツで地域の活性化を更に促すことを目指しています。

地域社会貢献イベント:イメージ地域社会貢献イベント

誰からも信頼されるスポーツ指導者

「地域スポーツ指導者」の育成について、また、本事業への取り組みについて、青山学院大学でスポーツキャリプログラムを担当されている佐藤敏彦特任教授にお話を伺いました。

佐藤敏彦特任教授:イメージ佐藤敏彦特任教授

スポーツを通じた「人づくり」を大学としての社会貢献と考えて、市町村などと協力して運動部活動の指導者育成をはじめました。子どもたちが生涯にわたってスポーツに関わっていけるよう、「スポーツを嫌いにさせない」「けがをさせない」ことを理念として指導することを根底に、誰からも信頼されるスポーツ指導者の育成を目指しました。すなわち、教わる側の子ども、その保護者、そして社会から信頼される、客観的にも認められる指導者です。
青山学院大学は従来から「サーバント・リーダー」の育成を目標として掲げています。「リーダーはまず相手に奉仕し、その後相手を導くもの」という「サーバント・リーダーシップ」は信頼されるスポーツ指導者に不可欠な要素であり、これが、本学がこのプロジェクトを行う推進力の一つになっています。今回の取り組みを進める中で、運動部活動の地域移行と一口に言っても地域によって抱えている課題が異なることがわかりましたので、今後はヒアリングを行いながら、地域に合わせた進め方を考えていく必要があります。これは青山学院大学だけで成しえるものではありませんので、本事業で開発した研修事業内容を各地の事情に応じて適宜アレンジしてパッケージ化することにより、全国各地でより多くの指導者を生み出す仕組みが望まれます。引き続き、本事業に取り組んでいきたいと考えます。

まとめ〜部活動地域移行のモデルケースに

運動部活動が、これからも、子どもたちが安全に楽しくスポーツを行い、スポーツを通して社会を学べる場として存続させるためには、誰からも信頼されるスポーツ指導者の育成がカギになります。今回の青山学院大学の学内のスポーツ資源を活かした運動部活動の地域移行に向けた取り組みは、これから全国で行われていく部活動地域移行の貴重なモデルケースとなっていくことでしょう。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 運動部活動改革(2023-02-01閲覧)
青山学院大学 - これからの社会を担う新たなスポーツ指導者育成システム開発(2023-02-01閲覧)
青山学院大学 - 地域自治体や企業、スポーツ団体と連携、これからの社会が求める新たなスポーツ指導者育成事業をスタート(2023-02-01閲覧)

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