「部活=学校」である必要はない!?地域が主体となって子供たちのニーズに応える 「総合型地域スポーツクラブ」視察レポート 

部活動イノベーション

従来から学校教育の一環として行われ、日本のスポーツ振興を草の根から支えてきた「運動部活動」。しかし近年の少子化とともに、地域によっては、また競技・種目によっては部活動の存続そのものが難しくなり、廃部・休部を余儀なくされるケースも増えています。意中の部活動が存在しないために、「やりたいスポーツができない」「好きな競技を続けられない」という子供たちは決して少なくありません。

このような状況のなかで、子供たちがスポーツをする機会を確保するにはどうしたらいいのか? その答えの一つとして期待されているのが、「地域との連携による部活動運営」です。

平成30年7月14日、鈴木大地スポーツ庁長官は愛知県半田市にある総合型地域スポーツクラブ「ソシオ成岩(ならわ)スポーツクラブ」を視察しました。その様子をレポートします。

学校部活動の限界

現在、以下のような課題に悩まされている小中学校の運動部活動が増えています。

  1. ニーズの多様性 
    子供たちが取組みたいスポーツは多様性があります種目そのものが多様化する一方で廃部・休部によりその選択肢が減少しています。また、より高いレベルで記録にチャレンジしたい子もいれば、自分のペースで身体を動かしたい子もいるなど、部活動への向き合い方もさまざまです。

  2. 生徒数の減少
    ますます進む少子化によって小中学校では子供の数が減り、学級数・学校数の減少が進んでいます。部員が足りないために部活動が成り立たなくなり、廃部・休部に追い込まれるケースも少なくありません。「やりたいスポーツがあるのに部活動が存在しない」という環境では、子供たちの運動離れも懸念されます。

  3. 教員数の減少と負担増
    教員の減少により、部活動の顧問をする教員の負担増も問題になっています。また、特定のスポーツを専門的に指導できる教員が減少しており、競技経験のない(少ない)教員が顧問を務めざるを得ないというケースも。指導を受ける子供たちにとっても、決してよい環境とは言えません。

運動部活動の現状を鑑みると、従来の形での運営では遅かれ早かれ限界を迎えます。このような部活動のピンチを救うため、平成30年3月にスポーツ庁が策定したのが「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」です。

部活動ガイドラインでは、「外部指導者の協力確保」「総合型地域スポーツクラブとの連携」「複数校による合同部活動」「シーズン制などによる複数種目実施」などの取組によって、子供たちがよりよい環境で運動できる機会の確保・充実を掲げています。

部活動の受け皿として期待される「総合型地域スポーツクラブ」を視察

部活動

運動部活動ガイドラインでも示されているように、外部指導員の活用や地域との連携など、各地で部活動変革の試みが行われています。

今回、一つの成功事例として鈴木長官が視察に訪れたのが、愛知県半田市にある「ソシオ成岩(ならわ)スポーツクラブ」です。同クラブは平成8年に設立された総合型地域スポーツクラブで、体育館やテニスコートなどを完備するクラブハウスは、半田市立成岩中学校の体育館の建替時に社会教育施設として設置され、半田市から指定管理を受けて同クラブによって運営されています。学校・地域共同で利用できる施設として運用されているため、地域のコミュニティの拠点にもなっているのです。

同クラブのミッションは、「スポーツを通して、地域の子供たちを地域ぐるみで育てること」。これまで学校が担ってきた部活動の実施主体をクラブが担い、地域・学校・行政が連携し、多世代にわたる住民スポーツサービスの充実を図ることを目指しています。

コミュニティスクールのスポーツ版

部活動

同クラブのマネージングディレクターを務める榊原さんは、「学校の部活動を『街の部活動』にしたいと考えて、中学校の部活動を外に出したんです」と、設立の経緯を語ってくれました。榊原さんいわく、ソシオは地域と一体となって特色ある学校づくりを進める「コミュニティスクールのスポーツ版」。学校の部活動の受け皿として機能するだけでなく、子供たちの放課後の居場所としても活用が広がっています。

平成30年7月現在の会員(ソシオ)数は2,800人超で、年々数を増やしています。学校で部活動に所属しながら週末にクラブに通う子も多く、学区外から足を運ぶ子も。中学の部活動にない陸上や硬式テニス、チアリーディングやホッケーなどの種目に取組む子もいれば、中学の部活にあるバスケやバレーをはじめ、ホッケーでも元トップアスリートから指導を受けられるため、そこに魅力を感じて通う子もいます。

もっとうまくなりたい!他校の子たちとの交流が楽しい!

部活動

同クラブ内のバスケットボールチーム「イデアス」の一員である鈴木さんは、中学校でも女子バスケ部に所属していますが、「スキルアップのため」にイデアスで元プロのコーチに習っているとのこと。「自分と違ったプレーを見ることができて、刺激をもらえる」と話してくれました。同じく山下さんは、「他校の生徒と関わりができて楽しいこと」をクラブのよい点として挙げてくれました。

部活動

「部活にない種目をしたい」「もっとうまくなりたい」「新しい仲間とスポーツを楽しみたい」「部活のように毎日ではなく、自分のペースでスポーツをやりたい」といった、子供たちの多様なニーズに応えているソシオ成岩スポーツクラブ。そして、和気あいあいとスポーツに取組む子供たちの姿に目を細めた鈴木長官。視察を終え、「理想的なスポーツクラブ運営を見た気がする。このような総合型地域スポーツクラブが、全国のあちこちで増えていけばいい」と展望を語りました。

その他、学校・自治体での取組レポート

今回視察したスポーツクラブのほかにも、人数が少ない部活動のサポートのために地域と連携を図って部活動を運営する自治体や学校もあります。

施設の社会体育施設化を目指す杉並区立富士見丘中学校

平成23年4月よりコミュニティスクールとなり、地域に開かれ、信頼される学校づくりを目指す杉並区立富士見丘中学校。平成28年4月に着任した渋谷正宏校長は部活動改革に着手するとともに、中学校を拠点とした総合型地域スポーツクラブへの移行を進めています。

渋谷校長は、部活動改革の理想の一つとして「部活動の継続性」について話してくれました。「たとえば、ある部活動で力を入れて指導していた教員が異動してしまうと、部活動そのものが断ち切られたような状態になってしまいます。ですから、教員の異動に左右されない体制をつくって、部活動の継続性を担保したいと思っています」

渋谷校長が最初に行ったのが、既存の部活動の精選でした。「すべての部活動を継続するのは困難だったので、大会出場を目指す従来型の部活動を絞り込むとともに、チームとして人数がそろわない部活動をなくすことにしました」。そして平成29年度にはバレー部を、平成30年度には野球部を廃部にしたのです。「これによって複数顧問体制にできたり、外部指導員を多く配置できたりするので、活動自体も充実したものになっています」

部活動の精選とともに取組んだのが、教員が主たる指導を担わなくていい体制づくりでした。現在は、杉並区の部活動活性化事業を利用して、外部から指導者を招いて部活動を見てもらっているとのこと。「これまで、中学校の部活はある意味、教員の善意に委ねられていました。教員が忙しい仕事の片手間で指導をするのは、教員にとっても生徒にとってもよいこととは言えません。ですが、部活動の指導を外部委託すれば、教員の負担を減らせますし、生徒も質の高い指導を受けられるようになります。」

部活動を絞り込む一方で、生徒の要望を取入れる形で部活動の新設もしています。その一つが、「トレーニングスポーツクラブ」。同クラブは、「複数種目に取組みたい」というニーズに応える側面もあり、ハンドボールやバレーボール、ダンスや卓球など、さまざまな種目を行っています。

また、生徒の「適度に身体を動かしたい」といった意見にも配慮。昨今、勝利至上主義が行き過ぎる“ブラック部活動”が問題視されるようになりましたが、同クラブは試合・大会がなく、趣旨からまったく異なります。渋谷校長は、「身体を動かすことを楽しむという、生涯スポーツのベースになるような活動をしています」と説明してくれました。

同校が取組む総合型地域スポーツクラブへの移行プロジェクト。渋谷校長は、「まだ1合目」だと言います。「近い将来、校舎・体育館の改築がありますので、そのタイミングで総合型地域スポーツクラブとしてハード面を整えたいと思っていますが、一方で、クラブの運営をどうするのかという問題もあります。いろんな選択肢がありますが、今、最適な運営方法を見極めるために杉並区と試行錯誤しながら協議しているところです」と、今後の展望を話してくれました。

自治体が主催する運動部活

部活動

江東区立女子サッカー部(東京都)は、総合型クラブではなく、江東区が主催する区内11校の生徒が集まった「合同部活動」。区立中学校に在籍していれば、誰でも入部できる拠点校方式を採用しています。

女子サッカーの課題は、小学校から中学校に上がるとプレーする環境がなくなり、単一校では部員が集まらなくなることです。そのため、区が受け皿となって女子中学生がサッカーをする機会を提供しています。また、平成26年度からは指導者ライセンスを持ったコーチ(外部指導員)を抜擢し、さらなる競技力の向上を目指して活動しています。江東区は女子サッカー以外にもカヌー部、セーリング部なども運営し、生徒に多様な選択肢を提供しているのです。

まとめ

社会環境の変化によって、子供たちがスポーツをする機会が減少してしまうのは残念なこと。これまで学校が一手に担ってきた部活動は、その運営を見直す時期が来ています。生徒・指導者の減少による部活動の存続問題を解決するには? 多様化する子供たちのニーズに応えていくには? その答えは、今回、鈴木長官が視察したような総合型地域スポーツクラブや自治体との連携のなかから見出せるかもしれません。

※本記事は以下の資料を参照しています
・スポーツ庁 - 運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018-08-01閲覧)(PDF)
・すぎなみ教育報No.221(2018-08-01閲覧)(PDF)

・区立中学校女子サッカー部|江東区(2018-08-01閲覧)

・杉並区立富士見丘中学校(2018-08-01閲覧)

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