これからの女性スポーツについて考えよう~全ての人がスポーツにアクセスできる社会の実現に向けて~【前編】

これからの女性スポーツについて考える~全ての人がスポーツにアクセスできる社会の実現に向けて~【前編】

スポーツ庁では、スポーツ基本法の基本理念に則り、スポーツに関する施策を総合的に実施しています。第3期スポーツ基本計画では、全ての人が「する」「みる」「ささえる」という様々な立場でスポーツに関わり、「楽しさ」や「喜び」を感じることがスポーツの本質であると捉えています。その中で、「性別、年齢、障害の有無、経済的事情、地域事情等にかかわらず、全ての人がスポーツにアクセスできるような社会の実現・機運の醸成を目指す」ことが新たな視点の一つに加わりました。

これらを踏まえ、今回のデポルターレでは「女性」という切り口から国内外の取り組みを紹介します。

スポーツにおける女性の活躍

「多様性と調和」をビジョンに掲げた東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)では、男女の種目数の是正・男女混合種目採用を進め、女性アスリートの参加がオリンピック約48%、パラリンピック約42%(大会史上初)となり、ジェンダーバランスの取れた大会となりました。我が国の女性アスリートの活躍も注目され、東京2020大会および北京2022大会での好成績をはじめ、ゴルフやテニスなどのプロスポーツの世界においても活躍を目にする機会が増えました。

国内では、サッカー(WE. LEAGUE)やソフトボール(JD. LEAGUE)などで、女性のプロリーグ設立や卓球(T. LEAGUE)、ダンススポーツ(D.LEAGUE)の開幕など、女性が競技を続ける環境が整うとともに、女性のスポーツを「みる」機会も増えました。

また妊娠や出産後に競技の第一線にカムバックする女性アスリートや女性コーチへの支援も充実してきており、育児をしながら競技やコーチングに取り組む女性の姿は、引退後のキャリアパスも含めた将来の選択肢の拡大に大きく貢献しています。

自国開催となった2019年ラグビーワールドカップや東京2020大会を契機に、スポーツボランティア活動への参加が高まるとともに、女性がスポーツを「ささえる」場面も増えています。また、2022年FIFAワールドカップカタール大会では、日本人女性が初めて審判として派遣され活躍するなど、様々なスポーツ場面で女性が注目されるようになりました。

女性スポーツの推進に向けて

このように「する」「みる」「ささえる」を通じた女性のスポーツを取り巻く環境は、近年急速な変化を遂げてきました。しかし、解決しなければならない課題も存在します。ここからは、女性スポーツの推進に向けて3つの視点から考えていきます。

するスポーツ

するスポーツ:イメージ

スポーツ庁では、生涯を通じてスポーツが人々の生活習慣の一部となることで、スポーツを通じた「楽しみ」や「喜び」の拡大、性別・年齢・障害の有無等に関わらずスポーツに親しむことができる社会の実現など、一人ひとりの人生や社会が豊かになるSport in Lifeの理念を掲げ、ライフステージに応じたスポーツ活動の推進とその環境整備に取り組んでいます。

現在、女性とスポーツを取り巻く課題としては、児童生徒の運動習慣の二極化(令和4年度「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」)と働く世代の女性のスポーツ実施率の低さ(令和3年度「スポーツの実施状況等に関する世論調査」)などがあげられます。また、障害者の実施率は健常者に比べてさらに低いという結果も出ています。(令和3年度「障害児・者のスポーツライフ調査」)

女性には、それぞれのライフステージで特有の健康課題があります。こうした健康課題の中には、適度な運動習慣を身に付けることで予防できるものがあり、生涯にわたっていきいきと過ごすために、運動・スポーツを日常生活に取り入れていくことが期待されます。

児童生徒の運動習慣の定着については、スポーツ庁としては女子を含め全ての子供たちに幼少期から運動習慣を身に付けてもらいたいと考えています。この問題については、学校だけでなく、運動部活動の地域連携・地域移行も含め、地域社会全体として取り組んでいく中で、女子を包含する形で生徒の志向や体力等の状況に適したスポーツに親しむ機会の確保も必要と考えています。

女性の健康課題については、スポーツに取り組む女性においても留意する必要があります。とりわけ、競技性の高いスポーツを行う女性は、エネルギー不足に起因する貧血や無月経、疲労骨折などのリスクが高くなります。過度なトレーニング・食事制限等によって健康被害に繋がる場合もあるため、関係者への正しい知識の普及・啓発や理解促進が重要です。

我が国の国際競技力強化においては、女性アスリートの活躍は不可欠であり、女性アスリートが活躍できる環境整備や育成システムの構築も求められます。

みるスポーツ

みるスポーツ:イメージ

国際オリンピック委員会(以下、IOC)のガイドラインによれば、スポーツメディアにおいて女性に関するコンテンツは4%、スポーツニュースのうち、女性に関する内容は12%と報告があります(ユネスコ、2018)。女性が活躍するスポーツを観戦してみると、技術面や戦術・戦略面など女性ならではの面白さを感じることができます。さらに体操競技やフィギュアスケートなどの採点型のスポーツは、男女問わず観客を魅了するスポーツとして人気があります。昨今ではテレビ中継のみならず動画配信サイトやSNS等でも見ることができるようになったことから、今後新しい魅力や価値を育む可能性を秘めています。

一方で重大な課題として、競技中のアスリートの盗撮、悪質なSNS投稿といったハラスメントに加え、若くして脚光を浴びたアスリートへの過熱報道が問題となっています。これは、スポーツの安全性を脅かす課題です。女性スポーツの認知向上はもとより、スポーツをみる人や発信する側の意識改革も必要です。

動画配信サイト等により「みる」スポーツへのアクセスは簡単になりましたが、やはりスポーツの醍醐味はライブで観戦した時の臨場感や観客同士の一体感です。休日に映画を観に行く、美術館へ絵画を鑑賞に行くような感覚で、競技場に足を運んでもらい、スポーツ観戦を楽しんでもらう工夫が必要ではないでしょうか。

ささえるスポーツ

ささえるスポーツ:イメージ

東京大会においては、大会役員や審判、コーチなど「ささえる」人のジェンダーバランスも重視されました。コーチや審判に女性が占める割合は、オリンピックコーチ約13%、パラリンピックコーチ約20%、オリンピック審判約31%、パラリンピック審判約38%でした。IOCの報告によれば、オリンピック競技の女性コーチや女性審判の割合は前回大会より上昇しているものの、依然として少ない割合となっています。

また、競技団体における女性理事の割合についても、目標となる40%には達していません。女性の視点が入ることで見落とされがちなニーズや意見を救い上げることができ、より良いスポーツ政策立案等に繋がり、ひいては我が国のスポーツ振興に大きく寄与することでしょう。

今後の課題としては、「ささえる」という観点で、資金面の課題があります。プロリーグの設立等の動きにより女性アスリートの活動環境が整いつつある一方、選手の待遇面やリーグの財政面においては、同じ男子スポーツや諸外国との間に差があるのが現状です。

こうした課題を解決するため、スポーツ庁や国内ではどのような取り組みが進められているでしょうか。後編で詳報します。
<後編に続く>

:前へ

スポーツを通じて世界とつながるポストSFT

次へ:

これからの女性スポーツについて考えよう~全ての人がスポーツにアクセスできる社会の実現に向けて~【後編】