スポーツを通じて世界とつながるポストSFT
東京2020大会に向けて2014年に始まったスポーツ・フォー・トゥモロー(以下、SFT)は、スポーツの国際交流・協力を進めることで、スポーツ界におけるわが国の国際的な位置づけを高めるとともに、スポーツを通じた国・地域・人々のつながりを強めるための取り組みを推進してきました。
東京2020大会を通じて得られたかけがえのないスポーツ・レガシーを継承し、ポストフェーズへと展開しているSFT事業についてご紹介します。
SFTとは何か
SFTは開発途上国を中心に100カ国以上・1000万人以上を対象として、スポーツの普及やスポーツを通じて社会課題の解決を目指した「スポーツを通じた国際協力及び交流」、国際スポーツ界における次世代リーダーを育成する「国際スポーツ人材育成拠点の構築」、スポーツの価値を基盤とした教育を通じた「国際的なアンチ・ドーピング推進体制の強化支援」の3つの柱を掲げ活動を行ってきました。
SFTは、「スポーツ・フォー・トゥモロー・コンソーシアム(SFTC)」が活動を推進しています。SFTCは、外務省やスポーツ庁を中心とした「運営委員会」と、SFTの趣旨に賛同しスポーツ国際交流・協力に携わる国内スポーツ関連団体や地方公共団体、民間企業、教育・研究機関、NGO/NPOなどからなる「コンソーシアム会員」から構成されたネットワークです。
スポーツに国境はない! スポーツを通じた国際貢献「スポーツ・フォー・トゥモロー」でつなげる世界の輪
https://sports.go.jp/tag/international/post-9.html
SFTによって生まれた変化
これまでSFTを通じて、さまざまな交流・ネットワークが生まれていきました。
たとえば、日本のスポーツ文化の一つ「運動会」が、コンソーシアム会員によって数多くの国で実施されました。運動会は、運動の得意・不得意に関わらずみんなが楽しみながら体を動かし、協力し合って目標を達成するという教育的価値を学ぶ機会を提供し、運動会の後には関係者から「協調性を持った子どもが増えた」という声もありました。
世界には障害者の社会的包摂の遅れや、女性の社会的地位が低い国々があり、そうした国や地域での活動も数多く実施されてきました。ユニバーサルスポーツを通じて障害者の社会参加を後押しする事例、パラリンピック教育プログラムを活用した人材育成および障害者スポーツ普及活動の事例、パラリンピック参加国の拡大に向けた支援の事例、ジェンダー平等や女性のエンパワメントに貢献する事例などにより、誰もがスポーツに接することができる環境の整備や競技アスリートの技術向上、また、スポーツを有効なツールとした社会課題解決に繋がるきっかけが創出されました。
また、世界に向けてスポーツを行う喜びや価値観、そしてオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを伝えてきたことで、世界との交流の輪が広がりネットワークの構築に繋がりました。
新たなフェーズに入るSFT
東京2020大会後、STFは新たなフェーズへ移行が始まり、2014年から8年間で築いてきたさまざまなネットワークを継続し、その経験を活かしながら発展しつつあります。
福岡県ではラグビーワールドカップ日本大会を機に、アジア諸国とラグビーを中心としたホストタウン交流を続け、2018年から「アジアラグビー交流フェスタ」を開催して、アジア地域の若い世代の選手たちと交流する場を創出してきました。2022年度からはオセアニア地域にも広げ、これまでの経験を活かして「アジア・オセアニアラグビー交流フェスタ」を開催しました。
以前、デポルターレでもご紹介した筑波大学の「つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)」はいまも継承されており、これまでのプログラムを土台に「TIAS2.0」という新たなプログラムへと進化しています。これまで輩出した修了生たちが、これから新たに世界で活躍しようとしている人たちと、再び一緒に学んでいます。修了生が自国で経験したことをいまの学生に還元する姿が見られます。育成された国際的スポーツ人材がグローバルに活躍できる土壌を広げ、さらに次代に向けてスポーツ人材育成の循環が起きているようです。
※参考:最先端の国際スポーツ学を学ぶTIASとは?筑波大学を取材!(2021年2月1日掲載)
https://sports.go.jp/special/policy/tias.html
新しいSFTでは、スポーツがどのようにSDGsに貢献できるのかといった視点でも取り組みを始めています。日本スポーツ振興センター(JSC)は国際団体と協働して、スポーツに関連するSDGs指標を開発してきましたが、いま、その普及・展開を進めています。これら指標を活用しながら、スポーツを通じた共生社会の実現に向けた取り組みや人々の健康づくりのための取り組み、またジェンダー平等社会の推進に向けた取り組みなどにおいて、SDGsへの貢献度合いを見える化することもSFTの新たなフェーズにおける一つの目標です。
SFTCの新展開
旧来のSFTCの会員は、スポーツ関連団体、非営利組織、民間企業、大学、地方自治体など約500団体ほどで構成されていましたが、実際に8年間で国際交流事業などの報告があったのは半数程度という状況でした。さらにアクティブな団体を増やすために、会員同士が自らの得意分野で協力しやすい環境として会員間のコミュニティを活性化して、国内での連携を増やしていきます。
会員制度も活動がアクティブな正会員と、潜在的に活動への関心が高い人、これから活動に取り組みたい人たちを準会員とし二層化しました。正会員には講習や研修などのサポートを行うことで、スポーツにおける国際交流・協力事業に取り組む人々の力の底上げに寄与していきます。
ポストSFTの可能性
SFTは、さまざまな団体が築いてきたネットワークが継続され、これまで輩出してきた国際スポーツ人材が活躍の場を広げ、さらに次代の人材に自らの経験を継承する新たなフェーズに入りました。
第3期スポーツ基本計画においても、「SFT事業を通じて培われた官民ネットワークの活用等により、スポーツを通じた国際協力による存在感の発揮やSDGsの達成に貢献し、世界中の国々の700 万人の人々への裨益を目指す」と記すように、日常的にスポーツを通じた国際交流が促進され、社会課題の解決に向けた関係者間での共創が根付いていくことを目指しています。SFTの可能性をさらに発展させるため、幅広い世代の方々に参画頂くことを期待しています。
●本記事は以下の資料を参照しています