スポーツ界におけるジェンダー平等を考える(前編)~日ASEAN女性スポーツ協力の現場から~
スポーツ庁では、女性のスポーツへの参加を促進するための環境を整備することにより,スポーツを通じた女性の社会参画・活躍を促進しています。この取り組みの一環として、日本政府がスポーツ分野で協力しているASEAN10か国を対象に、東京2020大会期間中にスポーツ庁とASEAN事務局が連携して、スポーツを通じたジェンダー平等の推進を目的とした4日間のワークショップ「ASEAN-Japan Workshop on Promoting Gender Equality in Sports」を実施しました。今回、この事業について取材しました。
女性スポーツと日ASEAN協力
スポーツ庁は、「第2期スポーツ基本計画」(平成29年3月24日文部科学大臣決定)において、「スポーツを通じた女性の活躍促進」を重要な施策の柱の一つとして位置付けました。また、同計画に基づく基本方針の一つである「スポーツで世界とつながる」ことを達成するため、戦略的かつ効果的にスポーツ国際交流・協力を推進し、具体的取り組みを実施しています。
国際的な女性スポーツに関する動向として、国際女性スポーツワーキングループ(IWG)の活動があります。IWGは、1994年以来、4年に一度国際会議を開いています。2014年の第6回会議で採択された「ブライトン・プラス・ヘルシンキ2014宣言」は、スポーツのあらゆる局面における女性の参加に価値を見出すことを目標として、10の原則を提言しています。スポーツ庁はこれに賛同し、2017年に日本オリンピック委員会、日本スポーツ協会、日本スポーツ振興センター、日本障がい者スポーツ協会(現:日本パラスポーツ協会)とともに同宣言に署名しました。同年5月にボツワナで開催された第7回会議では、鈴木長官(当時)が、日本の女性アスリート支援について基調講演を行うなど、国内外に向けて女性スポーツに対して積極的に取り組む姿勢を示してきました。
このような中、日本・ASEAN間では、2017年に行われた「第1回日ASEANスポーツ大臣会合」において、優先的に協力する4分野の一つとして女性スポーツ協力の推進が位置付けられました。翌年には、インドネシアで開催されたアジア競技大会の機会をとらえ、東南アジアスポーツ連盟女性スポーツ委員会のメンバーとの間で、情報共有と今後の具体的なアクションについての意見交換の場が設けられました。さらに2019年には、「第2回日ASEANスポーツ大臣会合」と合わせて、「日ASEAN女性スポーツ会合」が立ち上がりました。
そうした背景があるなか、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京2020大会)期間中に開催されたのが、この「ASEAN-Japan Workshop on Promoting Gender Equality in Sports」です。ワークショップのプログラム構成やその運営は順天堂大学女性スポーツ研究センター(JCRWS)が協力し、スポーツにおけるジェンダー平等を促進するため以下の2つの目標を掲げ、8月10日から4日間にわたって本ワークショップが実施されました。
●ASEAN地域における女性と女児のスポーツ参加を促進するためのASEAN各国のアクションプランを策定する。
●スポーツを通じたライフスキル・リーダーシップトレーニングを実施し、ASEAN各国の若年女性のエンパワーメントを図る。
本ワークショップでは、ASEAN地域における女性スポーツの発展とスポーツを通じたジェンダー平等社会の実現を視野に入れ、ASEAN加盟国の政府関係者や、国内オリンピック委員会(NOC)の女性スポーツ委員会メンバー⾧、若手の女性スポーツリーダーたちが、オンラインで一堂に会し活発な議論を繰り広げ、各国参加者がアクションプランの検討を行いました。
世界中から有識者が集まったオープンシンポジウム
ワークショップ2日目は、世界各国からスピーカーが招かれたオープンシンポジウムが、オンラインで開催されました。冒頭、室伏スポーツ庁長官の挨拶で開会されたシンポジウムでは、講義やパネルディスカッションが行われ、関係者の有意義な意見交換の場となりました。
スピーカーには、ASEAN事務局社会・文化共同体人間開発局のロドラ・トラルデ・ババラン局長、UN Women(国連女性機関)のジャムシェド・エム・カジASEAN事務所代表といったASEAN関係者から、カナダ・ラヴァル大学のギレーン・デマーズ教授、東京2020パラリンピック女子重量挙げインドネシア代表のニ・ネガン・ウィディアシ選手、そして日本からは順天堂大学大学院の小笠原悦子教授、日本サッカー協会会長の田嶋幸三氏やソウルオリンピック女子柔道銅メダリストの山口香氏まで、非常に幅広くかつ世界的に活躍する有識者たちが名を連ねました。
講演では、「なぜASEAN諸国に女性スポーツ政策が必要か」といったテーマや、「アジアにおける女性スポーツの動向」といった話が展開されました。また、「女性のロールモデルの影響」と題したパネルトークでは、「いかに女性の活躍を促し、それを可視化し、マネジメントするか。それが、国ごとにどう進んでいるか」を把握することの大切さが強調されました。また、ジェンダー平等の先進国ともいえるカナダやイギリスでは、長期的に見て、国がジェンダー平等を実現するまで、そのデータを取るための巨額な予算を政府がつけていることも紹介され、研究者との連携の重要性も強調されました。
これらの講演・パネルディスカッションの後には、オンラインで視聴している参加者からのリアルタイムでの質疑応答も実施されました。「SDGs ゴール5(ジェンダー平等を実現しよう)におけるスポーツの貢献」というテーマで講演を行ったUN Women ASEAN事務所代表のジャムシェド・エム・カジ氏は、「あらゆる競技において、女性の種目の注目度が男性よりも低いことについて、どう改善すべきか」という質問に対して、次のように回答しました。
「スポーツ大国アメリカでも、一部の競技においては、どうしても男性スポーツに視聴者やスポンサーなどが集まる現状があります。しかし、つまりそれは、我々の観戦者としての責任も問われているのです。事実、今回のオリンピックでは、メダル獲得数1位だったアメリカ代表チームの半分以上が女性でした。その事実も、我々は認識すべきです」
日本とASEAN諸国が足並みそろえて取り組む
東京2020大会によって、スポーツの力に注目が高まるなかで開催された今回のワークショップ。画面を通して、参加者皆がその貴重な話に耳を傾け、関係者間の対話を通してアクションプランを作り、発表し、意見交換することで自国のジェンダー施策を改めて考える機会となりました。スポーツにおけるジェンダー平等は日本も今後しっかりと取り組んでいかなければならない領域です。本プロジェクトを通じてASEAN10か国関係者とのネットワークが強化され、共にスポーツを通じたジェンダー平等社会を目指すアジアの仲間ができたことは、日本の参加者にとっても大きな成果になったのではないでしょうか。このような機会を通じて日本とASEAN諸国の関係者のネットワークが広がり互いに刺激し合うことにより、スポーツにおける、またスポーツを通じたジェンダー平等社会を実現していきたいと考えています。