日本代表選手団の活躍を後押しする「サポート拠点」
「サポート拠点」をご存知でしょうか? スポーツ庁では、オリンピック・パラリンピック競技大会でメダル獲得が期待される競技を対象として、多方面から専門的かつ高度な支援を戦略的・包括的に行う「ハイパフォーマンス・サポート事業」を実施しています。その中の取り組みの一つとして、ロンドンオリンピック(2012年)から設置している「サポート拠点」を東京2020大会においても設置。今回は、このサポート拠点について取材しました。
サポート拠点とは何か?
サポート拠点とは、オリンピック・パラリンピック競技大会などの国際総合競技大会において、アスリート、コーチ、スタッフが競技へ向けた最終準備を行うため、「選手村」付近の施設を活用し、医・科学、情報等に基づくコンディショニングやトレーニングなどのサポート機能を提供する施設です。
選手村でもそのような機能は概ね備わっていますが、アスリートがより高いパフォーマンスを発揮するためには、さらに充実した環境が必要との考え方が2000年代に入り広まってきました。アメリカとオーストラリアは、いち早く選手村の外に拠点を設置。以降、イギリスなどスポーツ強豪国が続々と設置するようになりました。日本は2010年の広州アジア競技大会でトライアルとして初めて設置し、ロンドンオリンピック(2012年)、ソチ冬季オリンピック(2014年)、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック(2016年)、平昌冬季オリンピック・パラリンピック(2018年)などで設置されてきました。
東京2020大会では、選手村付近にサポート拠点を2か所設置。また、自国開催ということで、ふだんアスリートの活動拠点となっている東京都北区西が丘にある国立スポーツ科学センター(JISS)やナショナルトレーニングセンター(NTC)の機能を一体的に捉えた「ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)」を最大限活用することにより、各施設のサポート機能の効果をより高めることができ、アスリートがより充実した環境でコンディションを調整し競技に臨むことができたそうです。
東京2020大会のサポート拠点ではどのようなことができるのか?
「サポート拠点」は、スポーツ庁からハイパフォーマンス・サポート事業を委託された独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が設置・運営しています。開設期間はオリンピック期間[2021年7月13日(火)〜8月8日(日)]、パラリンピック期間[2021年8月17日(火)〜9月5日(日)]。利用対象者は、日本代表選手団の選手、コーチ、スタッフ。サポート拠点では当然のことながら、セキュリティおよび新型コロナウイルス感染症対策を徹底した上で運営されました。
サポート拠点における主なサポート内容は以下のようなものです。
- ●トレーニング
- ストレングスからコンディショニングまで様々な用途に対応したトレーニング環境を提供。
- ●セラピー
- マッサージベッドや各種物理療法機器を設置し、施術を受けることができる環境を提供。HPSCの専門スタッフによる施術に加え、日本代表選手団に帯同するスタッフと共に利用することも可能。温水と冷水による交代浴や炭酸泉も設置。
- ●栄養
- 選手にとって安心・安全で、かつ効率的・効果的にコンディショニング・リカバリーへ繋げるための補食および栄養情報を提供。
- ●心理
- 個室ブースを用意し、対面またはオンラインによる心理サポートを実施。心理サポートが行われていない時はコンセントレーションスペースとして利用することも可能。
サポート拠点のトレーニングスペース(左)、セラピースペース(右)
サポート内容は、過去どの大会でも同様のサポートを提供していたわけではなく、利用者からの要望やサポート拠点となる物件の特性などを考慮しながら、大会毎にカスタマイズ。例えば、映像分析や食事などについて、これまではサポート拠点で提供されてきましたが、東京2020大会ではHPSCで行われました。
その他のサポート機能として、ランドリーやリラックススペースも提供されました。選手村にもそのような機能はありますが、日本代表選手団だけで利用できるということもあり、好評だったようです。
東京2020大会は、これまでの大会と違い、コロナ禍において開催されたため、スポーツ庁やHPSCのガイドライン、大会組織委員会のプレイブックなどを踏まえた感染症対策を徹底して運営されました。具体的には、感染症対策ガイドラインの作成、ガイドラインに基づいた消毒・検温・換気などの実施、スタッフの検査・関係機関との連絡体制の構築、動線整備などを行い、その結果、アスリートらは安心・安全に施設を利用することができました。
各サポート機能について、基本的にオリンピックもパラリンピックも同じ仕様ですが、パラリンピック競技利用時には、車いす対応としてスロープの設置やバスタブを連結させることで交代浴を利用しやすくするなどのハード面のバリアフリー化のほか、障害に応じたアスリートへの声掛けや引率方法などをスタッフにレクチャーすることで、パラアスリートでも利用しやすい工夫が施されていました。
サポート拠点の車いす対応(左)、交代浴(右)
東京2020大会でのサポート拠点の利用状況はどうだったのか?
サポート拠点の利用状況について、オリンピック期間でのピーク時は延べ239名/日、パラリンピック期間でのピーク時は延べ183/日が利用しました。
なお、HPSCについて、オリンピック期間でのピーク時は延べ1,427名/日、パラリンピック期間でのピーク時は延べ1,230名/日が利用しました。
ちなみに、競技へ向けたコンディショニングやトレーニングのための利用だけでなく、競技終了後のリカバリーで利用される機会も多かったようです。
また、サポート拠点の利用者からは以下のような声がありました。
●オリンピックでは「施設を利用して万全な状態で練習や試合ができ、メダルを取ることができた(卓球・選手)」、「時間外の対応をしてもらい、いい準備ができた(トライアスロン・コーチ)」、「選手村になかった経口補水液があったので助かった(栄養サポート利用アスリート)」
●パラリンピックでは「物理療法機器が一式そろっており、帯同しているトレーナーが利用したことのない機器に関して、スタッフがサポートしてくれるのはよかった(トライアスロン・トレーナー)」、「脱衣所やトイレ、シャワールームのスペースが広く、車いす選手は使いやすかった(車いすテニス・コーチ)」
まとめ
東京2020大会での素晴らしい活躍をはじめ、近年の国際総合競技大会で、日本人選手団が活躍をみせてくれているのは、HPSCはもとより「サポート拠点」による支援が競技へ向けたコンディションの維持・向上に大きく影響していると考えられます。今後も選手に寄り添ったサポートが、数多くの競技において一層の活躍に繋がることが期待されます。
●本記事は以下の資料を参照しています
スポーツ庁 - 高度なパフォーマンスを支えるために(2021-10-01閲覧)
独立行政法人日本スポーツ振興センター - ハイパフォーマンス・サポートセンターの概要と拠点設置のポイント(PDF)(2021-10-01閲覧)