全国に広がる「運動遊び」を知っていますか?

全国に広がる「運動遊び」を知っていますか?

現在、コロナ禍による外出自粛から子どもたちの運動不足が問題となっています。成長期に一定程度の運動習慣を身につけないことはその後の成長に影響を及ぼすことが懸念され、またストレス解消する効果もある運動やスポーツは健全な心身の成長にも不可欠なものです。

スポーツ庁では、国、自治体、民間の力を集結し、全国的に運動遊びを普及する「運動遊び定着のための官民連携推進プロジェクト」をスタート。子どもたちが日常的に運動を行う習慣を定着させるべく、楽しみながら積極的にからだを動かせるアクティブ・チャイルド・プログラム(ACP)の活用を行っています。運動遊びを行う環境や日常的にスポーツを行う場を持たない子供たちが身体を動かすことの楽しさと喜びを体験する環境を整えようと全国で推進プロジェクトを立ち上げ取り組んでいます。そうした取り組みの中から岐阜で推進している「つよいぞ!ぎふっ子」プロジェクトの事例をレポートします。

「つよいぞ!ぎふっ子」プロジェクト

「つよいぞ!ぎふっ子」プロジェクトは、岐阜県スポーツ協会、岐阜大学の子どもの発達学や健康科学を専門とする春日晃章教授が中心となって進められており、岐阜のプロバスケットボールチーム「岐阜スゥープス」や岐阜大学の学生たちも参加。地元の幼稚園や小学校を訪問しながら「運動遊び」を教える活動をしています。今回、「運動遊び」を体験したのは355人(2021年11月現在)の児童たちが通う土岐市「下石小学校(おろししょうがっこう)」の3、4、5年生。学年ごとに「運動遊び」を行いました。

まず子どもたちは2メートル間隔に置かれたマーカーに合わせて並び、ソーシャルディスタンスを保ちます。この「運動遊び」は2メートルの距離を取りながらもできるのが特長です。子どもたちのサポート役として、スゥープスの選手やチアダンサーの皆さん、岐阜大学の学生たちが立ち、指導するというよりも一緒に遊ぶ仲間のような役割を果たします。遊びのメニューは数分と短く、次々と遊びのメニューが変わるため子どもたちは飽きることなく思い切り体を動かします。

体育館:イメージ

実際に行われたメニューのいくつかを紹介しましょう。

●ハンドレット体操
メニューの中では準備体操のような位置にある遊びで、100(ハンドレット)まで英語の掛け声をかけながら体を動かします。体操といっても、大声で英語の数字を叫びながら、跳ねる、しゃがむ、体を反らすといった単純な動きに加え、ふだんとは違う英語で数えることも楽しんでいました。

ハンドレット体操:イメージ

●あっちとんでピョン
体全身を使ったジャンケンから始まり、さらに発展させたのが「あっちむいてホイ」を全身を使って行った「あっちとんでピョン」。指差しの代わりに前後左右にジャンプして同じ動きにならないようにする遊びです。相手と駆け引きをしながら楽しく体を動かします。

あっちとんでピョン:イメージ

●ポリ袋バレー
空気を入れた状態のポリ袋の持ち手を結び、風船のような状態にします。それをバレーのように3回までポリ袋風船をトスしながら、互いにパスのラリーを続けます。思うようにコントロールできないポリ袋に翻弄されていました。

ポリ袋バレー:イメージ

●バスケボール鬼ごっこ
昔からの遊びですが鬼役となるのが岐阜スゥープスの選手ということで、バスケットボールをドリブルしながら追いかけます。鬼からタッチされた子どもたちは一旦場外に出てドリブル10回行えば復帰できるというルールも追加。短い時間ながらも追いかける選手たちも大変だったようです。

バスケボール鬼ごっこ:イメージ

●ぎふっ子ダンス
ぎふっ子ダンスは、長良川の「鵜飼い」を模したポーズ、飛騨地方に伝わる郷土玩具「さるぼぼ」のようなポーズなど、岐阜名物を体で表現するダンスです。このダンスではきっちりとした振り付けではなく、子どもたちが自由な発想で地元の名物を体で表現します。

ぎふっ子ダンス:イメージ

プロジェクト関係者からのコメント

下石小学校での「つよいぞ!ぎふっ子」プロジェクトに携わった関係者の皆さんにお話を聞きました。

成人になっても運動やスポーツに親しむ習慣を続けてほしい

まずは公益財団法人 岐阜県スポーツ協会 有賀浩樹さんです。

「当プロジェクトは、子どもの時期から体を鍛えることで、成人になっても運動やスポーツに親しむ習慣を続けてほしいというのが大きな目的の一つです」。

「現在、岐阜県スポーツ協会がまとめ役となり、岐阜大学、アスリート、ダンサーの4者それぞれの立場からアイデアを出し合いながらプロジェクトの運営を行っています。連携で気をつけていることは、連携する皆さんの特色が消えないようにしっかりとマネジメントすること。運動遊びに参加することが楽しいと思っていただけるように心がけながら取り組んでいます」。

「いまのところ予想以上に子どもたちが喜んでいて、どこの会場でも大盛況という状態です。学校の先生たちには技術的なことよりも、運動遊びの雰囲気を見ていただきたいですね。子どもへの声のかけ方やタイミングの取り方は、実践で見ていただく方が講習会よりもわかりやすいのではないでしょうか。このプロジェクトもいずれ学校の先生たちが率先して行って欲しいと思っています。できれば先生たちも一緒に運動遊びへ参加して欲しいですね」。

有賀さんにプロジェクトの展望をお聞きしたところ、来年度も継続していき、運動遊びやダンスを動画サイトにアップしてもっと多くの方たちと共有したいとのことです。

昔からの“伝承遊び”が基礎になっている

続いて同プロジェクトで運動遊びの仕掛け人である岐阜大学 春日晃章教授にお話を聞きました。

「全国的に感染症が広がり、学校も“体育”をどうやっていいのかわからない状況でしたので、ソーシャルディスタンスをしっかり保ちながらも楽しく体を動かせることをテーマにしました。2メートルごとにマーカーを置いているのも、子どもたちにソーシャルディスタンスを意識させるためです」。

「運動遊びは昔からの“伝承遊び”を元に考えています。伝承遊びには、子どもたち自身がルールを考えるクリエイトな可能性を秘めているものが多く、やっていて楽しいから伝承されているのです。その遊びをソーシャルディスタンスを保ちながらできるヒントを私たちは子どもたちに伝えています。遊びも子どもたち自身で工夫していってほしいです」。

春日教授:イメージ

「このプロジェクトは一過性のものではいけないので、岐阜県の運動・スポーツに関わるあらゆる業種が力を合わせて取り組むことが大事です。お互いにできることを忠実に実行し、活動を継続させるべくチームづくりをしています。今後は企業にも予算的なバックアップなどで参加していただきたいですね。
また学校の先生たちに、こんな遊びを通じても体を動かせるんだという“運動遊び”のハウツーを伝えたいと思います。これまでの“体育”という授業の価値観を変えて欲しいのです。たとえば授業の導入10分間だけでも子ども同士がペアになって運動遊びさせて、体も心も温めてから始めるだけでも変わってくると思いますので、ぜひとも先生たちにも参加してもらいたいです」。

運動遊びで子どもの心の掴み方を学ばせてもらった

選手とチアダンサーたちが参加する岐阜スゥープスのコメント
「選手たちから見ても運動不足の子が多いと感じているようですが、そうした子どもたちと遊びながら一緒に体を動かすことを心がけているようです。とにかく選手たちは子どもたちとの触れ合いを楽しみにして積極的に参加しています。この機会を通じて選手のこと、岐阜スゥープスというチームのことを知ってもらえるのが嬉しいですね」。

下石小学校4年生担当教諭のコメント
「ふだんの授業を反省させられました。子どもの興味・関心を引くようなことを行えば、これだけ積極的になるのだと再認識しましたし、決められた動きを求めるのではなく、それぞれ子どもたちが自分のやりたいこと、できる範囲の動きでもいいと認めることで、どの子も同じ土俵で楽しめることがわかりました。今回の運動遊びで子どもの心の掴み方を学ばせてもらったことを今後の授業に活かしていきたいと思いました」。

プロジェクトの様子:イメージ

まとめ

下石小学校での「つよいぞ!ぎふっ子」プロジェクトでは、運動遊びには規定の動きは少なく、子どもたちが自らの発想で動くことを前提とするものが多くありました。高くジャンプできなくても、動きが遅くても、ほかの子と比べられることはなく、自分なりの正解を持って体を動かせるので、運動神経の良し悪し、体型の違いも関係なく、楽しく体を動かしていたように思います。とにかく参加する子どもたちのイキイキとした表情が印象的でした。取材を通じて、子どもたちには体を動かす楽しさを体験できる機会が必要だと感じました。

●本記事は以下の資料を参照しています

Sport in Lifeホームページ 日本スポーツ協会の「子供の運動遊び定着のための官民連携推進事業」がスタート!(2021-12-01閲覧)
ACP(アクティブ・チャイルド・プログラム)(2021-12-01閲覧)

:前へ

大会を「ささえる」チカラ、東京2020大会でのアンチ・ドーピングの取り組み

次へ:

情報と人間社会を結びつける最新技術の現場をスポーツ庁長官が視察