食事で「ささえる」公認スポーツ栄養士とは?

食事で「ささえる」公認スポーツ栄養士とは?

スポーツ活動全般は、コーチや審判をはじめ、救護や会場整備など観客からは見えないところにいる多くの「ささえる」人たちによって成り立っています。その「ささえる」人の一つ「公認スポーツ栄養士」のことをご存じでしょうか。競技者の栄養や食事に関する指導や食環境の整備などを行う人物であり、現場のニーズに応えてスポーツ選手のパフォーマンスを引き出す専門家です。

公認スポーツ栄養士は、公益財団法人 日本スポーツ協会(JSPO)と公益社団法人 日本栄養士会が2009年から共同認定を行う資格で、スポーツの高い知識を備えた管理栄養士です。厚生労働大臣の国家資格「管理栄養士」を持っていなければ取得できません。

今回は東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の選手たちを栄養管理面から支えてきた日本スポーツ振興センターの亀井明子さんにお話を聞いてきました。

スポーツ・競技に精通した管理栄養士

●公認スポーツ栄養士はどのような活動を行っているのですか。

亀井

活動内容は幅広いのですが、例えば、競技力向上のために体重を増量または減量したい選手に対して、その目標に合わせた計画を立ててアドバイスを行い、その目標が達成できているか評価していきます。

計画を立てるには、選手のことをよく知ることが大事でしっかりとヒアリングを行います。主に確認するのは、「増量・減量が必要な目的の明確化」「体重、体組成、体脂肪率など体の状態」「日頃の食事の量的・質的な内容」など。また、その選手が一人暮らしか家族と一緒か、寮で暮らしているのかといった住環境と食環境も確認します。

無理な計画では目標を達成できませんので、こちらから一方的に計画を立てるのではなく、選手とよく話し合うことが大事ですね。

●運動・スポーツにおける「栄養」「食事」の重要さとは?

亀井

体重を増量したい、体を大きくしたい場合、トレーニングだけではなく、筋量を増やすために何を体に取り入れるのかが大事になってきますので、日々の体づくりや、日々の体調管理にも「栄養」「食事」が重要になります。

競技者の場合、競技会や試合に向けた栄養管理が必要となります。試合前、試合中と、それぞれの場面において、いつ、どのタイミングで何をどれだけ食べれば、パフォーマンスの最大発揮に繋がるのか、また試合後はリカバリーとコンディショニングのためにいつ、何を、どれだけ栄養補給したらいいのか、エビデンスをもとに選手をサポートしています。

競技や種目によって体を動かす仕組みが違います。持久系の競技なのか、瞬発系の競技なのか、格闘技系の競技なのかなど、それぞれ競技の特長がありますので、体のつくり方も違ってきます。それぞれに応じた栄養補給を選手ごとに考えます。各競技に合わせたアドバイスを提示するためにスポーツの知識をたくさん持っているのが公認スポーツ栄養士なのです。臨床の管理栄養士さんが病気や疾病のことをよく知っているように、私たち公認スポーツ栄養士はスポーツ・競技のことを知った管理栄養士です。

亀井明子さん:イメージ1

東京2020大会における食事・栄養による体調管理

●東京2020大会ではどのようなサポートを行っていたのでしょうか。

亀井

東京2020大会は自国開催でしたので、多くの選手がハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)で事前合宿を積んで試合に臨んでいきました。HPSCでは試合に向けたコンディショニングができること、安全で安心して食事がとれる環境をつくることが大事でした。

新型コロナウイルスの感染者が多い時期でもあり、夏の暑い時期でもありましたので、徹底した感染症対策はもちろん、夏の暑さに対する体調管理といった暑熱対策の2点が重要でした。選手が体調を崩さないこと、食中毒を起こさないこと、選手に何かあってはならないという使命感でピリピリしていたところもありましたが、そんな緊張感を選手には見せないようにスタッフみんなで協力しながら、HPSC内のアスリートレストランの他、JISSコンディショニングスペースやサポート拠点(※)でも安全で安心な環境を整えることに気を配りました。

※参考記事=日本代表選手団の活躍を後押しする「サポート拠点」
https://sports.go.jp/tag/competition/post-72.html

海外開催の場合、日本人選手が食べ慣れた食事をとることが難しく、食材調達でも、あれしかない、これしかないと選択の幅が狭くなってしまう場合があります。今回は自国開催でしたので、必要な食品を選択できましたし、選手たちは食べ慣れた食事ができることで安心感があったと思います。選手が試合に臨むための良い食事環境がつくれたと思います。

代表選手たちからは食べ慣れた食事ができてパフォーマンスを発揮する力にもなったという声もありました。サポート拠点ではコンディショニングとリカバリーに必要な補食が、食べ慣れた補食でよかったという声がありました。あらためて、ふだん通りというのが大事なんだなと思いました。逆に言えば、海外ではいかにふだんの環境をつくれるかが重要になってくるんですね。

亀井明子さん:イメージ2

ジュニア選手に必要なのは楽しい食卓

●亀井さんが公認スポーツ栄養士になった理由を教えてください。

亀井

実は思い当たるものがないんです。でも、昔からテニス、陸上、剣道、卓球、ダンスなど自分で体を動かす機会も多く、スポーツを観ることも好きでした。いま振り返ってみると、自分の身近なところに運動・スポーツがキーワードとしてあったのかもしれません。栄養系の大学で学ぶなかで自然に栄養とスポーツが結びついた感じです。

世の中で管理栄養士がスポーツ選手の栄養管理を担っていくことが注目されはじめ、管理栄養士のなかで「公認スポーツ栄養士」資格を設立しようとする動きがあって、私もその発起人の1人として協同しました。仲間たちと勉強を重ねながら公認スポーツ栄養士の資格をつくり、私たちが第1期生となりました。それからは後進育成のためのカリキュラムを整備し、いま現在も続いているという状況です。

●クラブやチームなどスポーツに取り組むキッズ・ジュニアも多いですが、保護者として栄養・食事面で心がけておくことはありますか。

亀井

ジュニア選手にとってまず大切なことは食卓が楽しいことです。何の栄養を摂取させようということより、楽しく食事できる場をつくることが大切です。いまジュニア選手もスポーツ以外に学校や塾など忙しく、日々の食事を楽しむことが難しいかもしれませんが、お休みの日は家族皆さんで食卓を囲んで食事できるように心がけるといいなと思います。

幼い頃に食事が嫌だなと思い込ませてしまうと、成長段階で「食事をとるチカラ」が育ちません。トップアスリートの皆さんを見ると「食事をとるチカラ」が備わっているようにみえます。国際舞台で戦っていく彼らは、どこに行ってもパフォーマンスを保つために食事の重要性を意識されているようで、食事面でも意識が高いんだなと思います。
すべてのジュニアがトップアスリートになるわけではありませんが、自分の健康を維持するうえでも「食べる」ことが大切なので、小さいうちは食事を楽しいと思えるように心がけるといいなと思います。

亀井明子さん:イメージ3

選手のライフステージに応じて栄養管理に携わる

●公認スポーツ栄養士という仕事の魅力は?

亀井

人との繋がりを持てることです。健康管理を通じて、選手だけではなく、そのご家族とも健康管理で繋がることがあります。例えばサポートしている選手が結婚したら、今度はその奥さんと一緒に栄養管理について話し、さらにお子さんが生まれたら離乳食の話に広がります。女性選手が妊娠された場合、アスリートでありますが、イチ女性として妊娠期や産後の競技復帰までの栄養管理の相談にのります。こうしてスポーツ選手のライフステージを通じて、本人とご家族の健康管理に携われるというのがスポーツ栄養士の魅力だと思います。

●公認スポーツ栄養士になりたい人へのアドバイスがありましたらお願いします。

亀井

管理栄養士の国家資格を取るのが必須になりますが、いろいろなことにチャレンジして視野を広げてください。栄養学の基礎を身につけておかないと応用ができませんので、しっかりと基礎を学びましょう。

まとめ

選手と信頼関係を築いていきながら競技に向けた体づくり、健康管理をサポートする公認スポーツ栄養士の仕事についてご紹介しました。国際大会で日本人アスリートが活躍できるのは、海外でもふだん通りの食事環境を整えることができているからかもしれません。また、子どもの頃から「食事を楽しむ」気持ちを育む大切さも教えていただきました。

いま公認スポーツ栄養士は全国で432名(2021年10月1日時点)いるそうです。もしスポーツクラブやチームなどスポーツに携わる人で公認スポーツ栄養士に相談したいと思ったら、JSPOのホームページで資格取得者を検索できます。一度、相談してみてはいかがでしょうか。

https://www.japan-sports.or.jp/coach/DoctorSearch/tabid75.html

亀井 明子(かめい あきこ)

【所属】
独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター/国立スポーツ科学センター 副主任研究員

【学位】
博士(栄養学) (2005年3月 女子栄養大学)

【資格】
・管理栄養士
・公認スポーツ栄養士

【ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)で担当する主な業務】
・栄養グループリーダー
・コンディショニング課サポート(分野横断サポート)、コンディショニングスペース運用
・診療事業(個別栄養相談、派遣前チェック)
・支援事業(競技団体チームサポート)
・研究事業(アスリートの栄養状態、コンディショニングに関する研究)
・女性アスリート支援事業(妊娠期・産後期アスリート支援)
・ハイパフォーマンスサポート事業(後方支援)
・栄養評価システム(mellonⅡ)運用
・アスリート向けレストラン運営

【略歴】
平成19年(2007年)3月まで 女子栄養大学 助手を経て専任講師
平成19年(2007年)4月より 国立スポーツ科学センター 契約研究員を経て現職

●本記事は以下の資料を参照しています

公益財団法人 日本スポーツ協会(2022-07-01閲覧)
公益社団法人 日本栄養士会(2022-07-01閲覧)

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