~障害者スポーツの裾野の拡大~ 鈴木長官 先進事例の現場視察レポート!

Specialプロジェクト2020

障害者スポーツは、パラリンピックの普及・振興をきっかけに多くの人に知られるようになりました。パラアスリートの活躍は、世界中の人々に勇気と感動を届けています。しかしその一方で、トップアスリートではない一般の障害者がスポーツに親しむ機会は、まだまだ十分でないといわざるを得ません。今後、どうしたら障害者スポーツをより広めていくことができるのでしょうか。6月8日、鈴木大地スポーツ庁長官は福岡県に降り立ち、障害者スポーツ振興に力を入れる学校や施設を視察。ここでは、その様子をリポートします。

障害者スポーツの現状と課題

スポーツ庁は2020年の東京パラリンピックに向け、パラリンピアンの競技力向上に力を入れています。しかし、一般の障害者や障害のある子供たちが気軽にスポーツを楽しめる環境整備は、いまだ十分に進んでいません。トップアスリートの育成だけでなく、障害者スポーツの裾野の拡大を視野に入れた取組が急務であると言えます。

週に1回以上、スポーツ・レクリエーションを実施している割合を見てみると、成人一般は51.5%であるのに対して、障害者は20.8%と半分以下。スポーツを実施していない理由については「金銭的な余裕がない」「体力がない」といったものもありますが、最も多かったのは「特にない」という回答でした。これはつまり、障害者にはスポーツをするきっかけがないだけで、場所や機会さえあれば、スポーツに親しむ障害者が増える可能性があることを示唆していると言えるでしょう。

しかしここで、別の問題があります。それは「場所」です。スポーツ施設は全国に約19万ヶ所ありますが、障害者が専用または優先的に使えるスポーツ施設はわずか139施設。日本の全人口に占める障害者の割合が約7.4%なのに対して、障害者が優先的に使用できるスポーツ施設の割合は約0.07%と、非常に低い数値を示しています。

新しい施設を増やすには限界があります。では、どうすればみなが気持ちよくスポーツに親しめる環境整備を進められるのでしょうか。鈴木大地長官が訪れた福岡県内の2つの施設で行われていた、障害者へのスポーツ現場の普及に寄与する工夫を見ていきましょう。

「Specialプロジェクト2020」とは

Specialプロジェクト2020

障害者スポーツにおける課題を踏まえ、スポーツ庁が推進している取組に「Specialプロジェクト2020」があります。このプロジェクトは2020年を特別な年として、全国の特別支援学校の子供たちに東京オリンピック・パラリンピックの感動を享受してもらうために始まったものです。

このなかには、特別支援学校を地域の障害者スポーツの拠点にする取組もあります。特別支援学校の施設はバリアフリーで、障害者が安心してスポーツを楽しめる場所です。そこで、障害者スポーツ指導者を特別支援学校に派遣し、外部専門人材の活用による特別支援学校の運動部活動の充実を図ります。それとともに、特別支援学校を拠点とした障害者の地域スポーツクラブを創設し、子供たちのみならず、地域住民にとっても特別支援学校を障害者スポーツの場として活用する取組を行っているのです。

Specialプロジェクト2020の優良事例「嘉穂特別支援学校」を視察

Specialプロジェクト2020

Specialプロジェクト2020の優良事例である「福岡県立嘉穂特別支援学校」では、学校と総合型地域スポーツクラブとの連携を視察。同校は、小学部と中学部で、計102名の知的障害の児童・生徒が学ぶ学校です。

登下校は、スクールバスか保護者の送迎。通学が徒歩ではない分、余計に運動の機会がありません。そこで、近くの総合型地域スポーツクラブ「オリエントスポーツ・みらいクラブ」と連携を図り、2年前から放課後に学校を開放した運動教室を始めました。学校が施設を解放し、クラブに教室を運営してもらうのです。

同クラブ代表の平塚富士雄氏は、「障害のある子供たちや地域の人にも、もっと運動の機会を提供したいと思い、助成を受けて、学校で運動教室をしています。障害者スポーツには場や指導者の不足といった課題がありますが、スポーツ・レクリエーションを通した地域交流を広げるため、学校の先生方や保護者の方、また家族に障害者をもつ人の地域の会など、多くの人の協力を得ながら活動しています」と説明しました。 Specialプロジェクト2020この日、体育館ではフットサルや風船バレーが行われ、鈴木長官は風船バレーを体験。チーム全員が、少なくとも1回ずつボールに触ってから相手コートに打ち込むルールです。子供から大人までが混じったなかに入り、会話を楽しみ声を掛け合いながら、長官も一緒に汗をかきました。

体験後、「みなさんとても上手ですし、私も楽しかった。いい経験になりました。障害者の人も、運動やスポーツが好きな人には、こうした場をもっと提供できるように働きかけることの必要性を感じました」と、鈴木長官。また、参加者のひとり(19歳・女性)は、「運動不足解消のため、去年から参加しています。ここで施設の仲間と一緒に身体を動かすようになって、楽しみが増えました」と話していました。

この運動教室について、田北裕昭校長は「こうした場は、より多くの障害者に身体を動かす機会を提供することはもちろん、教員や保護者の学びの場にもなると考えています。もっと多くの先生に、障害者スポーツを経験してもらいたいですね」と話しました。

クラブ側から見ても、クラブの指導者だけでは限界がありますが、こうして学校と連携することで、教員や保護者の協力が得られるのです。事実、特別支援学校の子供たちは、社会でスポーツの場に触れる機会が少なく、卒業後も学校と先生とのつながりで学校施設を使わせてもらっているケースが多いといいます。

これをシステムとして発展・定着させ、特別支援学校をスポーツの拠点とすることで、障害者のスポーツ実施率の向上が見込めるかもしれません。実際、嘉穂特別支援学校では「施設開放によるスポーツの場の提供」と「地域のクラブとの連携による指導の質の向上」、これら2つの好循環を生んでいました。

こんな取組も!東京オリパラホストタウン登録施設の視察

Specialプロジェクト2020

スポーツ推進都市を目指す福岡県田川市の総合体育館では、車いすフェンシングの練習に打ち込む選手との交流を楽しんだほか、「東京オリパラホストタウン登録施設視察」として、バリアフリーの工夫を凝らした同体育館の施設・設備を見学しました。

いくつかある体育館の1つには、輻射熱を利用して室内の温度を調節する機械が設置されているところもありました。障害者のなかには体温調節がうまくできない人もいるため、こうした機械で運動に適した室温を保つことが重要なのです。またこれは、バドミントンや卓球のように窓を開けることを極力避けたい競技においても使えるため、障害者にとどまらず、より多くの人のために役立つと言えます。

さらにこの体育館には、車いす用のシャワーやトイレも完備。障害の有無にかかわらず、多くの人が気持ちよく汗をかけるよう、施設の整備と開放に積極的に取組んでいました。

まとめ

障害者スポーツの現場では、依然として指導者不足や施設不足といった課題があります。しかし今回の福岡県での事例のように、地域が一体となってスポーツの場を提供することによって、そうした課題を解決できることが分かったのです。ここには、都道府県・市区町村と特別支援学校、総合型地域スポーツクラブ、そして地域住民とが連携することで、場の開放と指導者・ボランティア不足の解消の循環を生む、好事例がありました。

スポーツ庁が推進する「Specialプロジェクト2020」では、スポーツだけでなく、文化・教育活動を含めた全国的な祭典の開催を考えています。「スポーツ」と「芸術」に触れることで、障害の垣根を越えて心を通い合わせる機会をつくる取組を、これからも進めていきます。

●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
スポーツ庁 ー 障害者スポーツ/ Specialプロジェクト2020 事業報告書 平成29年度(2018-06-28閲覧)
スポーツ庁 ー スポーツ庁委託調査/地域における障害者スポーツ普及促進事業(障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)(PDF)(2018-06-01閲覧)

●その他、以下の資料を参照しています
内閣府 ー 障害者施策/平成30年版 障害者白書 全文(2018-06-20閲覧)
笹川スポーツ財団 ー 研究レポート/平成27年度 障害者専用・優先スポーツ施設に関する研究(2018-06-01閲覧)

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