短時間の効率的な練習で全国大会へ!その秘訣を視察レポート 静岡聖光学院中学校・高等学校ラグビー部

運動部活動イノベーション第2回

運動部活動の改革に向けて「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定したスポーツ庁。生徒のバランスのとれた心身の成長を促して豊かな学校生活を送るれるよう、各部活動では練習時間や頻度を見直す方針が掲げられており、全国各地の教育委員会でも新たなガイドラインの制定が進んでいます。練習時間が減ると競技力が落ちてしまうのではないかという懸念もありますが、実際に短時間の練習で全国大会に出場するほどの成果を上げている部もあります。スポーツ庁の鈴木大地長官は、平成30年7月12日、静岡聖光学院中学校・高等学校のラグビー部を視察。その様子をレポートします。

部活動に関する課題と現状

平成30年3月にスポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定しました。部活の練習について調査すると、1週間に1日も休んでいないと答えた人は11.2%もおり、休みは1日のみと答えた人を含めると約70%にも上ったのです(スポーツ庁「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」)。ガイドラインでは必ず休養日を設けることと短い練習時間で取組むことを提唱しています。

たとえば、1日2時間の練習を平日に4日間、土日はどちらかで1日3時間練習したとすると、週に11時間になります。スポーツ医・科学の研究では、週あたりの活動時間における上限は16時間未満とすることが望ましいと示されていますが、体育の授業時間や地域のクラブで練習する時間なども考慮する必要があるでしょう。

「強くなるために1日2時間の練習時間では足りないのではないか」「練習時間が減ったら弱くなってしまうのではないか」といった不安の声が上がりそうですが、決してそうではないのです。それを裏付ける強豪校の事例をご覧ください。

「週に3日、1日60分」の練習で全国大会に出場

静岡聖光学院中学校・高等学校

静岡聖光学院中学校・高等学校は、6ヶ年一貫の男子校。同校のラグビー部では高校生56名、中学生50名の計106名が活動しており、全国大会に出場するほどの強豪チームとして知られています。活動方針は「勝利よりMoral Victoryを目指す」。試合で勝つことよりも、部活動に取組む姿勢やマナー、立ち居振る舞いを大切にしています。試合に向けた入念な準備をすることができて初めて、本当の勝利をつかむことができるのです。

そんなラグビー部の活動は、火・木・土曜日の放課後のみ。平日の活動時間は、2月~10月が90分、11月~1月が60分、日曜日は時期によって試合や練習を実施しています。ガイドラインが求めている通り、部の活動方針はきちんとホームページにも記載されています。なお、朝練・昼練は禁止となっています。

こうした方針はガイドラインを受けて作られたものではなく、創立以来のルールです。スポーツ庁の策定したガイドラインの基準から見ても、圧倒的に練習時間が短いことが分かります。生徒のなかには、勉強はもちろん趣味や委員会活動の時間を大事にしたい子もいるため、全体の練習時間はなるべく短くし、空き時間を多く設けることで生徒個々が時間の使い方を選べるようにしているのです。同校の星野明宏副校長は、「ラグビー以外の学校生活で培ったさまざまな経験が人間力を高めることにつながり、ひいてはそれがラグビーにおいてもプラスになると考えています」と話します。

短時間で効率的に練習する工夫 「映像」「待ち時間」にヒント

静岡聖光学院中学校・高等学校

では、なぜ最短60分の練習でも高い競技力をつけることができるのでしょうか。それは、練習の「密度」に秘密があります。

たとえ60分しかなくても、冒頭には必ずその日の練習の目的やポイントを映像ミーティングで共有します。全員で一度その日の練習ポイントを理解し、課題を把握することで効率的に練習を行えるのです。

練習は学年ごとに分かれて行います。少人数でできるドリルを中心に行うことで、一人ひとりの「待ち時間」を極力なくすのです。また、コーチや選手同士で声を掛け合い、密にコミュニケーションを図ります。コーチが時間を測りながら「あと10秒!」などと声掛けするほか、選手たちは次の練習メニューの準備や水分補給をしながら話をするなど時間を効率的に使い、なるべく身体を動かしていない時間を短くするような工夫も散見されました。60分でも全力で動き続けることで運動量も相当確保を可能にし、質の高い効率的な練習が展開されているのです。

選手たちも練習効果を実感!空き時間は勉学などに有効活用

静岡聖光学院中学校・高等学校

星野副校長からの説明を受け、実際にラグビー部の練習を視察した鈴木長官。「工夫次第で短時間でも部活はできる」と感じたと話します。

「特に最初に練習内容の説明を受けることで理解を深めながら取組めるため、その点が時間のセーブになっていると思います。口頭だけでなく、映像を使うことでより明確かつ正確に理解できていると感じました。1日1時間でこれだけできるのですから、長時間の活動をしているところは工夫して濃密な部活動を心がけていただきたいと思います」。

かつてトップアスリートとして日々長時間練習していた鈴木長官は、「空き時間ができることで、一人で考える時間や勉学に励む時間を確保できます。私もこういう時代に生まれたかったなぁ」と漏らしました。

キャプテンの高成田光くんは、小学生まで野球に取組んでいましたが、それまでの長い練習時間とは打って変わって短時間集中型の静岡聖光学院ラグビー部に入り、当初は驚いたと言います。「集中して取組んでいるのはもちろん、練習中はダッシュしている時間も長いので、60分でも本当に疲れます。この練習方式のおかげで、部活だけでなく勉強や自主練習などの時間をもてるため、生活のタイムマネジメントをする能力が身につきます。それは社会に出てからも必要な能力だと思うので、大切なことだと感じています」。

静岡聖光学院中学校・高等学校

ラグビー部では「一人1リーダー制」を設けていて、掃除リーダー、ボトルリーダー、マーカーリーダーなど、一人ひとりに何かしらの役割があるそうです。部活以外の時間を取り仕切る「オフ・ザ・グラウンドリーダー」の高校3年生の風間悠平くんは、「部活の時間が短い分、私生活のウエイトが大きいので、僕はグラウンド以外のところで部員をまとめています。自分自身、すでに行きたい大学が決まっているため、部活外では勉強も頑張っています」と話します。

短時間練習で成果を上げている広島県の安芸南高校サッカー部に見学に行き、ミーティングや練習の様子を実際に見て、その工夫の仕方を学んだという風間くん。「より効率的で、より有意義な部活動の在り方を探るべく自分たちが学んだノウハウを、今後は後輩たちや他校にも広めていきたいと考えています」。さらに風間くんが発起人となり、生徒主導で全国から少ない練習時間で効率的に練習するチームを集めた研究大会「部活サミット」を主催する予定とのこと。

まとめ

練習時間が短くなると、今よりも弱くなってしまうのではないか――。そんな懸念をはねのけるたくましい好事例が、全国には多く存在します。怪我のリスクを減らすだけでなく練習効率を上げ、より効果的で質の高い内容を担保するためにも今一度練習時間と頻度を見直してみてはいかがでしょうか。今、子供たちにとってよりよいスポーツ環境を整備することが、現場の指導者に求められているのです。

●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
スポーツ庁 ー 運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018-06-01閲覧)(PDF)
スポーツ庁 ー 平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(2018-06-01閲覧)
スポーツ庁 ー 運動部活動の現状について(2018-06-01閲覧)(PDF)
スポーツ庁 ー 平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(2018-06-01閲覧)

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