未来のオリンピック・パラリンピック選手はあなたの身近にもいる!? 「アスリート発掘プロジェクト」をレポート!
「もし他のスポーツをやっていたら、どんな人生になっていたのだろう?」何かのスポーツに真剣に打ち込んだことがある方なら、そんな想像をした経験があるかもしれません。
自分に合ったスポーツと出会うことは簡単ではありません。でも、そんな「もしも」を知って、視野を広げるチャンスがあったなら……。今回は、そうした機会を日本中の若きアスリートたちに提供すべく、スポーツ庁が取組んでいるプロジェクトを取材してきました。
アスリートの可能性を発掘する“鈴木プラン”
日本高等学校野球連盟(高野連)によれば、硬式野球部員は日本全国で約16万人。また全国高等学校体育連盟(高体連)のデータを見れば、サッカー部員はそれを上回る約17万人もいます。それにもかかわらず、甲子園や全国高校サッカー選手権に出場できるのは少数。さらにプロまで進んで国際大会などを経験できるのはほんのひと握りです。
しかし、トップに到達できなかった多くのアスリートの中にも、運動能力が高い子、強い精神力を持った子、まったく別の資質を持った子はたくさんいます。そうした“眠れる才能”を、まだ競技人口が少ない競技で発揮することができたら……。もしかすると、オリンピック・パラリンピックでのメダル獲得も夢ではないかもしれません。
水泳選手としてソウルオリンピックなどで活躍した鈴木大地スポーツ庁長官は、2016年10月に「鈴木プラン」と呼ばれる指針を発表しました。その目玉が、「スポーツタレント発掘・育成(TID:Talent Identification and Development)」。競技人口が多い野球やサッカーのようなスポーツから、“オリンピックで世界を狙える”他競技に次世代のアスリートが転向することを支援する取組です。
他競技からの転向で成功したアスリート
オリンピック・パラリンピックに出場した選手には、他競技からの“転向組”が数多く存在します。たとえば2016年のリオオリンピックで、男子400mリレーの日本チームが銀メダルを獲得しました。このチームのメンバーだった山縣亮太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥の3選手は、小学生の頃にサッカーをやっていて、その後、陸上競技へ転向しています。
他にも、女子ウエイトリフティングの八木かなえ選手(2012年ロンドン、2016年リオ大会に出場)は中学まで体操競技の選手で、パラリンピック陸上競技短距離の辻沙絵選手(2016年リオ大会400m銅メダル)は、大学2年までハンドボール選手でした。また記憶に新しいところでは、平昌冬季オリンピックでともに金メダルを獲得した高木菜那選手・美帆選手の姉妹は、女子サッカーでも有望なプレーヤーだったといいます。
未来のメダリストを発掘する「J-STAR PROJECT」
昨年度より、スポーツ庁が主導する「ジャパン・ライジング・スター・プロジェクト(J-STAR PROJECT)」が発足しました。テーマは「メダルポテンシャルアスリートとなり得る、将来性豊かなスポーツタレントを全国で発掘する」こと。つまり各競技に適した有望な人材を見出し、専門家の検証・評価を通じて各競技団体の強化育成コースに導いていくのが目的です。
現在のプロジェクト対象競技は、オリンピック競技が以下の7つ(2018年3月時点)です。
- 水泳(飛込)
- ウエイトリフティング
- ソフトボール(女子)
- 7人制ラグビー(女子)
- ボート
- ハンドボール
- 自転車
またパラリンピック競技が以下の5つです。
- ボッチャ
- 身体障がい者水泳
- パワーリフティング
- 車いすフェンシング
- 自転車
いわゆる日本の「お家芸」と言われてきた柔道や水泳、体操、レスリングなどではなく、これからの発展が見込め、メダル獲得の可能性を高められる競技が選ばれています。
測定会と合宿で「適性」を見出す
プロジェクトは、オリンピック競技なら12~17歳、パラリンピック競技なら12~38歳までの男女が、まずオンラインシステムにエントリーするところから始まります。その後、書類選考を経て、昨年7~9月に全国14ヶ所で実施された「測定会」に参加。測定会では、30m走や垂直跳びなど、基本的な運動能力をテストします。
そしてオリンピック競技で1,189名、パラリンピック競技で114名、計1,303名のエントリー者の中から、測定会・面談などを通じて対象競技にいずれかの適性があると判断された59名(オリンピック競技42名、パラリンピック競技17名)が、続く「競技拠点県合宿」に進みました(2017年11月末時点)。
約1年間にわたって複数回の合宿形式のトレーニングなどを行い、検証・評価を経て、最終的な有望者は次のステップ(対象競技団体が実施する強化・育成プログラムなどへの参加)へと進み、その種目の競技者への道が拓けるという形です。
2017年度の合宿レポート
新潟県で行われた飛込競技の合宿では、実際にプールへ飛び込む練習はもちろん、マットに飛び込んで体勢をチェックしたり、トランポリンを使って空中での身体の使い方を学んだりといったメニューに参加者たちが励みました。なお、演技時の姿勢の美しさが重要視される飛込競技の合宿には、主に倒立などを得意とする体操経験者が多く参加しています。
また今年2月に埼玉県で行われたボート競技の合宿では、参加者たちは3日間みっちりと水上トレーニングや映像を使った座学に取組ました。指導には1996年アトランタ、2000年シドニーオリンピック出場者である日本ボート協会の長谷等氏も参加し、濃密な練習が行われました。
さらにパラ競技では、2016年リオパラリンピックで日本が銀メダルを獲得して話題になった「ボッチャ」の合宿が、今年1月に大阪市舞洲障がい者スポーツセンターで開かれ、車いすに乗った候補者たちはそこで、実技や座学、筋力トレーニングなどに励みました。
プロジェクト出身の全日本王者も!
実は、すでに「J-STAR」から国内トップレベルの競技大会で活躍する選手も出てきています。パラ・パワーリフティングでは、プロジェクトで発掘された2選手が昨年12月の全日本選手権に出場しました。そして森崎可林選手が女子67㎏級で、林剛史選手が男子54㎏級で、それぞれ優勝を果たしているのです。
今後はオリ・パラを含め他の競技でも、大会で頭角を表し、その勢いで国際舞台でのメダル獲得に挑戦する選手がきっと現れるでしょう。
イギリスでも、国主導のプロジェクトから発掘された選手が競技転向後にメダリストとなった事例が出てきています。へレン・グローバー選手はもともとホッケーやテニスなどさまざまな競技に打ち込んでいましたが、2008年に国の高身長者向けタレント発掘プログラム参加を経てボート競技に転身し、4年後のロンドン五輪、さらに2016年のリオオリンピックで2大会連続の金メダルを獲得しています。また冬季オリンピックでも、2014年ソチ大会および2018年平昌大会で2大会連続の金メダルに輝いたリジー・ヤーノルド選手は、女性アスリート向けの発掘プログラムを通じて、陸上からスケルトンに転向しています。
まとめ
「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」まであとわずか。夏季オリンピックで日本が最も多くの金メダルを獲得したのは、1964年東京大会と2004年アテネ大会で、「16個」です。2020年の東京大会では、これらの成績を上回る歴代史上最多のメダル獲得を目指しています。
その中に、「J-STAR」をきっかけにこれまでやっていたスポーツから転向し、他競技で大輪の花を咲かせた選手が続々と出てきても決して不思議ではありません。
まだ誰も知らない才能を、まだ見ぬ競技で生かすことができる可能性は、どんなアスリートにも眠っています。向き不向きは、やってみないと分かりません。みなさんも、「J-STAR」に積極的に応募してみてはいかがでしょうか。また、近くに有望なアスリートの方がいたら、「J-STAR」の存在を、ぜひ教えてあげてください。
※2018年度(2期生)の応募は、7月~9月上旬頃にWEBで実施する予定です
●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
ジャパンライジングスタープロジェクト(2018-03-01閲覧)