~スポーツで世界とつながる~ 我が国の「スポーツ国際戦略」とは?
スポーツには、不思議な力があります。たとえ国籍や人種、言語、文化などが違ったとしても、一緒に汗を流して協力しあったり、正々堂々と競い合ったりすることで共感が生まれ、楽しさやうれしさといった感情を共有することで互いに通じ合うことができるのです。
「スポーツを通じた国際交流が、国境を越えて人々の絆を育む」。
スポーツが持つこの大きな力を借りながら、日本が「世界とつながる」ために行っている取組についてご紹介します。
スポーツ国際戦略の策定における背景と意義
今後3年間、日本では「ラグビーワールドカップ2019」「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会」「ワールドマスターズゲームズ2021関西」といった大規模な国際競技大会が行われます。こうした国際競技大会の開催は、日本国内のスポーツ文化を活性化させるだけでなく、スポーツ分野における日本のビジョンを広く伝えられるなど、日本がスポーツによる「世界の絆づくり」に貢献できるまたとない好機です。
2017年3月に文部科学省で策定された「第2期スポーツ基本計画」では、「スポーツで世界とつながる」ことを基本方針の1つとして掲げています。これを実現すべく、世界中から注目を集めるこの絶好の機会に2020年以降の長期的な視座に立ってスポーツ国際展開のビジョンと在り方を示し、各関係者が連携して戦略的な活動を行っていく必要があります。「スポーツ国際戦略」はこれを促進するものです。
1つの戦略の下で各関係機関が自律的に活動するとともに相互に連携しながら活動することで、国際的には日本として一貫性のある施策を打ち出し、限られた人的資源・物的資源・金銭的資源の中で効率的かつ効果的にスポーツの国際展開を推進できるでしょう。また国内的にはそれぞれの取組の充実・拡大に寄与し、ひいては我が国のスポーツを通じた社会変革に貢献しうるものと考えられます。
「スポーツが変える。未来を創る」。
そんな信念を世界中に示すべく、「スポーツ国際戦略」としてさまざまな取組が実施されています。
スポーツの力を活用する「スポーツ国際戦略」のビジョンと内容
第2期スポーツ基本計画の「世界とつながる」というコンセプトにおいては、スポーツの力を活用して「多様性を尊重する社会」「持続可能で逆境に強い社会」および「クリーンでフェアな社会」を実現することが提示されています。スポーツの国際展開により、これらの望ましい社会の達成に貢献することがスポーツ国際戦略のビジョンです。また、2030年までの中長期的な期間においては、スポーツを通じた国際連合の「持続可能な開発目標」、いわゆる「SDGs」に掲げる社会課題の解決に対して最大限の貢献を目指しています。
スポーツを通じたSDGs達成への貢献については、スポーツ庁では「スポーツSDGs」という取組を推進しています。SDGsの達成には、人々が日々の生活の中で意識・行動を変えていく必要があります。そのため、2019年ラグビーワールドカップ大会、2020年東京オリンピック・パラリンピック大会および2021年関西ワールドマスターズゲームズなど、日本で大規模国際大会が連続開催され、人々のスポーツへの関心が高まるこの機会を活用してSDGsの認知度を高めるとともに、スポーツが多様な社会課題の解決に貢献しうることへの気づきを促していきたいと考えています。
「スポーツ国際戦略」には11の観点に即した具体的な施策があります。たとえば、国際大会の誘致に向けた取組、国際オリンピック委員会、国際パラリンピック委員会および国際競技連盟などにおける日本の役員ポスト獲得に向けた取組などが記載されています。
スポーツとスポーツ産業の国際展開について
今回は、スポーツ国際戦略の1つであるスポーツ関連産業の「国際展開」に関する取組についてご紹介します。スポーツとスポーツ産業の国際展開の促進を目的とし、平成30年7月にスポーツ庁、経済産業省、独立行政法人日本貿易振興機構および独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は「4者連携」について合意に達しました。連携の内容は、主に以下の4点です。
- スポーツ国際展開のための基盤整備……情報収集や情報発信
- スポーツを梃子(てこ)にした日本の魅力発信・経済連携などの推進等における連携……日本のスポーツの魅力をPR
- スポーツ関連商品・サービスおよびコンテンツなどのスポ―ツ関連産業の海外展開に関する連携……国外におけるビジネス機会の提供
- スポーツ分野での外国からの誘客や投資誘致などのインバウンドビジネスに関する連携……スポーツツーリズムによる外国人誘客のための広報活動の支援
スポーツ産業国際展開の展望
拡大する海外市場を視野に入れ、我が国のスポーツ関連産業の国際展開に対する期待が高まっています。たとえば、西陣織で創業したミツフジが新しい繊維業界の未来を見出した導電性繊維とIT技術の融合により開発したウェアラブルの生体情報センサーには、アメリカのプロスポーツやフランスのヘルスケア産業から熱い視線が注がれています。
また、我が国で既存のスポーツ施設を活用してスポーツスクールなどを展開しているスポーツデータバンクが、台湾などへバッティングスクールを展開している事例にも『日本型部活の海外輸出』として注目が集まっています。さらに、サッカー元日本代表監督である岡田武史氏がオーナーを務めるFC今治は、「岡田メソッド」と言われる新しい指導理論と「岡田メソッド」に基づく選手育成の仕組みづくりのノウハウを海外に輸出するというビジネスを展開しています。
これらに続く様々な分野での海外展開が期待されており、そのような海外展開を促進する取組も行われています。今年ジャカルタで開催されたアジア競技大会では、JSCが委員長を務めるアジア強化拠点連合(ASIA)と大塚製薬が共同で、アジア初となる国際交流拠点「POCARI SWEAT OASIS(通称オアシス)」を主要会場近くに開設。大会期間中、アジア各国の政府やスポーツ企業の関係者(約700名)がここを訪れ、情報交換や会合などの交流を行いました。今後ASIAは、アジア各国の多種多様なニーズや課題を把握し、新たなマーケットプレイスとして機能することを目指しています。
今後の展開
こうした取組は、今後さらに増えていくでしょう。体育、部活動、運動会、プロスポーツリーグといった日本独自の強みを生かしたスポーツコンテンツを海外へと展開するため、4者連携による戦略的な情報収集、情報発信、プロモーション支援を続けていくことは、日本政府の成長戦略にも盛り込まれています。そのための市場調査や、欧米のスポーツコンテンツの海外展開戦略の分析も進められています。
また9月には、スポーツ交流の促進のため、ひいてはスポーツでの交流を通じて東アジア地域の平和と発展を実現するため、日本・中国・韓国のスポーツ担当大臣が東京に集まり「日中韓スポーツ大臣会合」が開催されました。その成果文書である「東京行動計画」の中に3ヶ国間のスポーツ産業振興についても盛り込まれました。
まとめ
ここで紹介した事例はあくまでも一部です。大規模国際大会が相次ぐ機会を捉えて、スポーツ庁では「スポーツ国際戦略」の諸活動を通じてSDGsの達成に貢献し、スポーツの価値を向上させていくことを目指しています。これからもスポーツによる社会課題の解決に向けて、取組を続けていきます。
●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
スポーツ庁 ―スポーツ国際戦略(2018-11-01閲覧)
スポーツ庁 ―スポーツSDGs(2018-11-01閲覧)
スポーツ庁 ―スポーツとスポーツ産業の国際展開の促進を目的とした4者連携(2018-11-01閲覧)
スポーツ庁 ―日中韓スポーツ大臣会合成果文書「東京行動計画」(2018-11-01閲覧)