非科学的“スポ根”はもう古い?運動部活動イノベーション~第1回~ ガイドラインから読み解く子供目線の運動部活とは【前編】

運動部活動イノベーション

学校における部活動について、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(以下、ガイドライン)を策定し、その改革に踏み切りました。一体なぜでしょうか。また、これによって部活動は今後どう変わっていくのでしょうか。ガイドライン作成に携わった、早稲田大学スポーツ科学学術院の友添秀則先生に伺ったポイントを、前後編に分けてご紹介します。

部活動ガイドライン策定に当たる経緯

「部活」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべますか? 仲間と共有したかけがえのない時間、大会での思い出など、大人になっても色あせることのない瞬間に想いを巡らすことでしょう。その一方で、楽しいことばかりでなく、過酷な練習や敗戦など、辛く苦しいイメージを抱く人もいるかもしれません。

では今の子供が取組む部活に、みなさんは何を望むでしょうか? たとえば親として部活に何を求めたいでしょうか? 時代が変遷し、世の中の需要が多様化してきている現代において、学校における部活動も今、改革の時期を迎えています。

2018年は部活動改革元年!時代に合った部活動の模索へ

ランニング

3月に、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定しました。このガイドラインは、子供たちにとってよりよい環境での部活動の実施を目指してつくられたものです。

日本の学校の部活動には、明治時代以来の長い伝統があり、日本のスポーツを支えてきたといっても過言ではありません。しかし、少子化が進む中で学校の数も子供の数も減少しており、学校・競技によっては、人数が足りずにチームを組めないところが少なくありません。「小学校までスポーツ少年団でバスケットボールをしていたけれど、中学校にバスケットボール部がない」といったケースも珍しくないのです。

公立中学校・高校の数と生徒数の推移

平成29年度学校基本調査

引用:文部科学省「平成29年度学校基本調査」

大学入試に関する「2018年問題」という言葉があるように、2018年から18歳人口は大きく減少局面に入ります。すでに中学生や高校生世代は人口減少が始まっており、少子化の視点からも部活動はまさに分岐点に立っているのです。

中学生の運動部活動への参加率は65.2%(平成28年度)ですが、成人の平均スポーツ実施率は、それを下回る51.5%(平成29年度)。大人になると運動しなくなる人が多くなるというデータです。この点において、学校の運動部活動は生涯スポーツにつながっていないのではないか、という疑問が出てきます。特に働き盛り世代のスポーツ実施率が低いのは、部活での経験が大人になってからの日常生活に反映できていないからではないか――。こうした観点もガイドラインのテーマでした。

今回のガイドライン策定にあたっては、部活動を専門に研究している大学の先生だけでなく、中学・高校の教員や、日本中学校体育連盟(中体連)、全国高等学校体育連盟(高体連)、日本高等学校野球連盟(高野連)の関係者、弁護士、医師、競技団体や総合型地域スポーツクラブの理事長など、実にさまざまな立場の人が関わっています。

もっとも大切にしたのは、子供の視点に立つこと。子供たちのスポーツ環境を今後発展的にどう保障していくか、持続可能な在り方を模索することが、共通のテーマでした。また、部活動は子供たちの自主的・自発的な活動であることの意義を大事にして、学校教育との関連を重視しなければなりません。その点を踏まえ、慎重に議論を重ねています。

ガイドラインのポイントは、大きく4つあります。

  • 学校における体制の見直しと、競技団体等の協力
  • 休養日の設定等、医・科学に基づく活動
  • 少子化の中で子供のニーズを踏まえた環境整備
  • 大会規定の見直し

前編では、最初の2つのポイントについて説明します。

今の体制で大丈夫?部活の方針や数を見直す

1つ目は、適切な運営のための体制整備です。都道府県および市区町村の教育委員会は、このガイドラインに沿って方針を策定します。そして各学校の校長先生は、その方針に則って毎年の活動方針を明確にします。各部活の顧問は年間の活動計画や実績を校長先生に提出し、学校の方針・計画を地域に公表。練習時間や頻度などを公にすることで、周囲に理解してもらえるだけでなく、公表している方針と実態が違うのであれば、地域が声を上げることができます。

さらに、子供たちが部活で受けられる指導の「質」の改善を図るためには、各学校が運動部の数を見直す必要もあります。少子化の中、数を減らす処置をしなければならないこともあるでしょう。

日本体育協会(現・日本スポーツ協会)の調査では、保健体育専科でなく、その競技の経験もない先生が運動部の顧問をしているというケースが、中学校で46%、高校で41%を占めました。

部活動が担当の先生にとって負担になるだけでなく、子供たちは専門的な指導を受けられません。そこで、専門性を有する外部指導員を顧問に配置するといった対策が有効になります。2017年度から始まった制度では、「部活動指導員」と呼ばれる外部の指導者が大会に出場する生徒の引率をすることが可能。子供の視点に立って部活動の充実を考えたとき、スポーツ指導の専門性に加え、研修を受けて学校教育についても理解している外部指導者の力は必要だと言えます。

同時に、各競技団体に指導に関する手引の作成を依頼します。理想的な活動スケジュールや効果的な練習方法、安全面での注意事項などを盛り込んでホームページに掲載し、顧問が現場で活用できるようにするのです。競技特性を踏まえた合理的な練習を生徒が自主的に行えるよう、子供が見ても分かるものをつくるのが目的です。

過度な練習はNG!休養日を設定

部活の練習について調査すると、1週間に1日も休んでいないと答えた生徒が11.2%、「休みは1日のみ」と答えた生徒を含めると約70%にも上りました(スポーツ庁「平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」)。しかし、そんなに部活ばかりの毎日でよいのでしょうか。

身体のことを考えたときに、休養日はどれくらいが適切か、日本体育協会が海外事例の研究を行ったところ、活動時間は最大でも1週間に16時間が限度で、それを超えると明らかにスポーツ障害や燃え尽き症候群が多くなることが分かったのです。併せて、少なくとも週に1~2日は休まなくてはならないというデータも出ています。

世間では「働き方改革」が叫ばれていますが、中高生たちもワークライフバランスを考えなければならない時代です。朝から晩まで部活ばかりでへとへとの子供たちには、生活のゆとりがありません。中高生らしい生活を送るには、もう少し時間に余裕をもたせてあげることが必要なのです。勉強の時間はもちろん、趣味に充てる時間、友達や家族と過ごす時間、地域と交流する時間。そういったさまざまな時間が、子供たちを多面的に成長させます。

たとえば、1日2時間の練習を平日に4日間、土日はどちらか1日に3時間練習すると、週に11時間となります。各学校が打ち出す方針には、こうした練習時間を詳細に明示してもらうこととしています。

もしかすると、「強くなるために1日2時間の練習時間では足りない!」「練習時間が減ったら弱くなってしまう!」といった声があるかもしれません。大会で優勝を目指すなら不安もあるでしょう。しかし、強くなるためにはむしろ十分な休養が必要だという調査結果が出ており、実際に練習時間を減らすことで大会成績が上がった部活もたくさんあります。怪我の件数が減ることに加えて短時間の練習によって集中力が高まり、練習の質が向上するというメリットがあるのです。競技特性を軽視した長時間の練習では「強くなれない」ということを、指導者だけでなく生徒やその家族も理解し、質の高い活動を取入れることが大切です。

まとめ

部活動は、中高生に必要な人間形成において、大きな影響力をもっています。だからこそ、その質を担保するための改革が必要です。次回、後編では残る2つのポイントをお話します。後編は、こちら。

■取材・監修:友添秀則(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)
友添秀則(ともぞえ・ひでのり)1956年、大阪府生まれ。筑波大学体育専門学群卒業、同大学大学院修士課程修了。博士(人間科学)。香川大学教授、ニューヨーク州立大学客員教授などを経て現職。全日本柔道連盟理事、日本スポーツ教育学会会長、(公財)日本学校体育研究連合会副会長、(一社)日本体育学会副会長、(一財)嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター理事。文部科学省「学習指導要領解説」作成協力者、運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議座長などを務める。『体育の人間形成論』『スポーツ倫理を問う』(共に大修館書店)、『スポーツのいまを考える』(創文企画)など、著書多数。専門は、スポーツ教育学、スポーツ倫理学。

●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています

スポーツ庁 ー 運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018-06-01閲覧)(PDF)
スポーツ庁 ー 平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(2018-06-01閲覧)
スポーツ庁 ー 平成29年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査(2018-06-01閲覧)
スポーツ庁 ー 運動部活動の現状について(2018-06-01閲覧)(PDF)

●その他、以下の資料を参照しています
文部科学省ー平成29年度学校基本調査(2018-06-01閲覧)

:前へ

未来を見据えた競技力強化のための支援方針「鈴木プラン」とは?

次へ:

非科学的“スポ根”はもう古い?運動部活動イノベーション~第1回~ ガイドラインから読み解く子供目線の運動部活とは【後編】