非科学的“スポ根”はもう古い?運動部活動イノベーション~第1回~ ガイドラインから読み解く子供目線の運動部活とは【後編】

運動部活動イノベーション

学校における部活動について、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定し、その改革に踏み切りました。前編に引き続き、早稲田大学スポーツ科学学術院の友添秀則先生に伺ったポイントの後編をご紹介します。

前編はこちら。

前編のおさらい

スポーツ庁の策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(以下、ガイドライン)には、大きく4つのポイントがあります。

  • 学校における体制の見直しと、競技団体等の協力
  • 休養日の設定等、医・科学に基づく運動部活動
  • 少子化の中で、子供のニーズを踏まえた環境整備
  • 大会規定の見直し

前編では、最初の2つのポイントについて紹介しました。後編は、残る2つのポイントについて説明します。

ニーズに合わせて多様化していく運動部活動

部活動

子供たちが部活動に求めることを探っていくと、そのニーズは実にさまざまであることが分かりました。「うまくなって強くなりたい」「勝ち上がって全国大会を目指したい」という子供たちがいる一方で、競技力向上は特段望まず、仲間と楽しく運動したいと思っている生徒もたくさんいます。得意・不得意にかかわらず学校における部活の需要は、現在運動部に入っていない女子生徒も含めてとても大きいと言えそうです。では、今の部活はすべての子供のニーズに対応しているのでしょうか。

シーズン制で種目を変えながらいろいろなスポーツを楽しむ部や、体力づくりのための「トレーニング部」などがあれば、楽しく運動をしたい生徒の要望にも応えることができるでしょう。実際に、簡単なエクササイズや運動を楽しむ「軽運動部」という部活動が、非常に高い人気を集めています。このように、部活そのものの在り方を根本的に見直して多様性を受け入れるための提案もガイドラインに含まれています。

また、複数の学校の生徒で構成される「合同部活動」の提案もあります。

たとえば、A校は柔道部、サッカー部、陸上競技部に外部指導員を取入れていて、活動が充実しているとします。そこで、近隣のB校やC校でこれらの競技に取組みたい子供は、A校に行ってその部に所属できるようにするのです。そのほうが、安全で専門性の高い指導を受けられます。

さらに競技志向で全国大会を目指すチームと、短い時間で運動を楽しむためのチームに分けるために、1つの部を2つに分けるケースもあります。1軍・2軍などのレベル別ではなく、「強くなるため」と「楽しむため」といった目的別です。都立の学校ではこうした取組の先行事例もあります。どちらのチームも仲間として互いを認め合い、よい関係を築き合うのが理想です。

ただし、地域によっては学校側だけではこうした対策を行えないケースもあります。

町内唯一の中学校で、入りたい部活がないという生徒もいるでしょう。その場合、もしも町の総合型地域スポーツクラブに指導できる人がいれば、子供たちは放課後、クラブに出かけて練習することができます。あるいは、クラブに外部指導員を呼んでもらうことも可能かもしれません。

学校は、地域と連携をとりながら子供のスポーツライフを充実させることが大切。地域のクラブだけでなく、都道府県体育協会や各競技団体、そして保護者との関係づくりの重要性についても、ガイドラインの中で示しています。自治体にも、学校と地域全体を捉えた子供のスポーツ環境の場づくりが求められる時代になっているのです。

変化に伴って大会規定に柔軟性をもたせる

部活動

こうした多様な部活動の在り方を生み出していくと、現状で課題となるのが大会への参加資格です。たとえば、複数校が合併した合同部活動のチームは、全国大会に出られません(一部の競技を除く)。また、1つの学校から複数チームが参加することもできないのです。

そこで、ガイドラインでは大会規定の緩和を提案。1つの学校から複数のチームが出場することや、複数校の合同チームが出場することを認める規定の見直しを、全国高等学校体育連盟(高体連)と日本中学校体育連盟(中体連)に求めているのです。さらには、学校と連携している総合型地域スポーツクラブのチームも、こうした大会に出られることが望ましいと考えます。地域や社会が変わる中、高体連や中体連がその変化に合わせて仕組を変えていくことが、子供たちのスポーツ環境を持続可能にすることにつながります。

併せて、各競技団体や都道府県体育協会では、大会や試合の数を見直すことが求められています。生徒のバランスよい生活や体力の観点から、毎週試合があることがよいとは限らないためです。開催する試合の数や参加できる試合数の上限を、生徒の将来を預かっているという観点から改めて考えるべきでしょう。生徒以上に生徒の視点に立って、よりよい大会の方向性を模索することが目的です。

トップを目指す生徒は?競技団体と学校の役割

近年は、こうして「楽しむスポーツ」の需要が高まっています。高校まで競技志向のスポーツを行い、大学に入ってからは部活ではなくサークルに入る学生もいます。そういった生徒たちの中には、「サークルに入って、初めてスポーツが楽しいと思えた」と話す人も少なくありません。大学のサークルと同様に、中学・高校でも“楽しむための部活”が広がれば、参加する子の増加は大いに期待できるでしょう。

ただし、これまでの部活動と同様、ハイタレントを発掘・育成することも、同じくらい大切。これに対してガイドラインでは、「地域・学校・競技種目などに応じた、多様な形で最適に実施されることを目指す」としています。特に高校では、将来有望なアスリートの育成をしている強豪校があり、こうした高校の運動部活動が、日本全体の競技力向上に寄与していることも十分理解されています。

だからこそ、学校や地域の状況、競技特性、子供の発達段階に応じて、「最適に」実施されていることが重要です。子供が怪我やバーンアウト(燃え尽き)しないことが何よりも大切なので、練習は合理的・効率的・効果的に、短時間で集中して行うことが求められています。ただし、部活動には教育の観点がある以上、学校だけではハイタレントの育成を担えない部分があることにも理解が必要です。

そこで、各競技団体でトップを目指して強くなりたい子供を受け入れ、育成することを目指しています。競技団体や都道府県体育協会に子供を紹介し、橋渡しできるようなシステムを確立する必要があるのです。競技への適性を見極め、必要に応じて競技転向を勧めるプロジェクトも進んでいますが、少子化が進む中、トップアスリートを「偶然の産物」と捉えるのではなく、体系立ててさらに効率的に発掘・育成することが必要になるのではないでしょうか。部活動を越えて、さらに上に行きたい子供のためにも、こうした競技システムの確立を促しています。

スポーツ庁の発表資料(運動部活動の現状について)によると、平成28年度現在、中学生の65.2%、高校生の41.9%、中高生の約369万人が運動部活動に参加していますこれほどの参加人口を誇る運動部活動について考えることは、国の大きなスポーツ施策の1つだと言えるでしょう。今回のガイドラインは、これまでのスポーツの在り方を質的に転換し、日本のスポーツシステムそのものを組替えていくための提言なのです。

まとめ

練習中に“水を飲んではいけない”と言われていた世代の人たちは、今の子供たちに自分と同じような経験させたくないと思うのではないでしょうか。まさに、そうした非科学的な指導や体罰などを一掃し、子供たちによりよいスポーツ環境を提供できるよう改革を進めていきます。

しかし、だからといって競技志向を否定しているのではありません。「辛かったけれど、部活に入っていろいろな経験をしてよかった」と振り返れることもあるでしょう。今の子供たちにも、そうしたかけがえのない経験は残していくべきと捉えています。

勝利を目指す中で、真剣に努力することの大切さを学べる――。こうした運動部活動の価値を否定するのではなく、時代や社会の変化に合わせ、より多くの子供たちのニーズに応えられるよう、その価値を持続可能にするシステムを発展的に捉えていければと考えています。

■取材・監修:友添秀則(早稲田大学スポーツ科学学術院 教授)
友添秀則(ともぞえ・ひでのり)1956年、大阪府生まれ。筑波大学体育専門学群卒業、同大学大学院修士課程修了。博士(人間科学)。香川大学教授、ニューヨーク州立大学客員教授などを経て現職。全日本柔道連盟理事、日本スポーツ教育学会会長、(公財)日本学校体育研究連合会副会長、(一社)日本体育学会副会長、(一財)嘉納治五郎記念国際スポーツ研究・交流センター理事。文部科学省「学習指導要領解説」作成協力者、運動部活動の在り方に関する調査研究協力者会議座長などを務める。『体育の人間形成論』『スポーツ倫理を問う』(共に大修館書店)、『スポーツのいまを考える』(創文企画)など、著書多数。専門は、スポーツ教育学、スポーツ倫理学。

●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
スポーツ庁 ー 運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018-06-01閲覧)(PDF)
スポーツ庁 ー 平成29年度運動部活動等に関する実態調査報告書(2018-06-01閲覧)
スポーツ庁 ー 運動部活動の現状について(2018-06-01閲覧)(PDF)

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