競技団体の改革・自走を促進させる「競技団体の組織基盤強化支援事業」をリポート!

競技団体の改革・自走を促進させる「競技団体の組織基盤強化支援事業」をリポート!

皆さんは「中央競技団体」をご存じですか。日本には様々な種目のスポーツ団体がありますが、特定の種目の団体を統括し、アスリートの支援や育成、競技普及などを行う団体を「中央競技団体(NF)」と呼びます。NFの多くは競技普及だけでなく予算や組織運営に苦心を重ねているのが現状です。スポーツ庁は、2022年度より、選手強化・育成、競技普及など多くの役割を持ち、スポーツの振興に欠かせない競技団体が、その役割を十分に果たせるよう、組織基盤を確立・強化するための取り組みを支援するため新たに「競技団体の組織基盤強化支援事業」を実施しています。今回、デポルターレでは採択された団体の具体的な取り組みと成果などを紹介します。

レジリエント(強靭)な組織基盤の確立・強化するための取り組みとは

いま競技団体は以下のような問題を抱えています。

  • 中長期的な経営戦略を策定している競技団体は30%未満。
  • 普及・マーケティング戦略を策定している競技団体は20%未満。
  • 約20%の競技団体が年間の総収入が1億円未満。最少は100万円。

さらに新型コロナウイルス感染症の影響を受け、大会中止やスポンサーや協賛金収入の激減により、競技団体全体の収入規模が平均約6000万円減少となりました。
※出典:笹川スポーツ財団「中央競技団体現況調査 2020年度調査報告書」(2021年3月)、「中央競技団体現況調査 2018年度調査報告書」(2019年3月)

スポーツ庁では、2022年5月、組織基盤を確立・強化するための取り組みを支援することで、組織の持続的な成長・拡大に向けた競技団体の改革・自走を促進させる「競技団体の組織基盤強化支援事業」を開始しました。

支援対象団体は、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)、公益財団法人日本パラスポーツ協会(JPSA)、JOCの正加盟競技団体、JPSA日本パラリンピック委員会(JPC)の加盟競技団体で、下記①〜⑥の事業目的に合致する団体の組織基盤強化に向けた取り組みにかかる費用を支援します。支援期間は事業内容により1〜3年間とし、1年ごとに事業の進捗・成果の確認を行います。2022年度は申請のあった44団体から11団体が選定・採択されました。

①レジリエントな経営基盤を確立するための「ビジョン」の明確化
②競技普及のための新たな取組の実施
③競技の多様な価値創出に向けた取組の実施
④組織運営をマネジメントする中核的な人材の育成・活用
⑤業務改革の更なる加速
⑥競技団体間の連携・統合の支援

競技団体の組織基盤協会支援事業

採択団体による取り組みと成果

選定された11団体による2022年度「競技団体の組織基盤強化支援事業」の成果報告会が、2023年1月30日(6団体)、2月2日(5団体)に分けて開催されました。各団体の取り組みおよび成果などをご紹介します。

《1日目》日本ライフル射撃協会/日本ローイング協会(2023年1月・日本ボート協会より名称変更)/日本デフビーチバレーボール協会/日本山岳・スポーツクライミング協会/日本ブラインドサッカー協会/日本トライアスロン連合

《2日目》日本陸上競技連盟/日本サッカー協会/日本セーリング連盟/日本ホッケー協会/全日本空手道連盟

参考:令和4年度競技団体の組織基盤強化支援事業 採択団体の事業概要
https://www.mext.go.jp/sports/content/20221212-spt_kyosport-000022820_4.pdf

成果報告会(1日目)の様子

公益社団法人 日本ライフル射撃協会

事業名:競技価値創出による組織力・経営力強化事業

競技人口の拡大、競技の認知を広めることを主な課題として、①最新テクノロジーを活用した競技価値の創出、②ビーム射撃スポーツ体験会開催による普及・広報事業、③多様な競技価値創出による健康作り社会でのビジネス構築、④マネジメント人材の活用、以上4点を中心に取り組んでいます。
国際連盟と協働で、VR、ARなどの最新のデジタルテクノロジーを活用した競技プログラムを開発。本年度は実際の競技とデジタル技術双方の良さを融合させた「デジタル射撃プロジェクト」に取り組みました。また性別や障害の有無に左右されない共生スポーツという特性を全面に押し出し、ビーム射撃による誰もが参加できるスポーツ体験会を開催して、競技普及に努めました。
来年度はバーチャル国際大会開催やeスポーツアプリの作成や、射撃スポーツ=共生スポーツの認知を広げる活動などを計画しています。

公益社団法人 日本ライフル射撃協会:イメージ

公益社団法人 日本ローイング協会

事業名:RowingにおけるLTV最大化に向けたPF構築

同協会では、選手、観客・ファン、運営ボランティアなど、『する・みる・ささえる』のそれぞれの立場に向け、現状・履歴の把握および改善を可能とするべく、すべての人のすべての活動データを「統一ID」で管理するPF(プラットフォーム)の構築向けた3カ年計画に着手しました。本年度は体制構築や各本部へのヒアリングなどを行い、3年後の導入に向けて取り組んでいます。それぞれ活動や関わりごとにデータを管理することで、競技レベル・ロイヤリティ・運営ステージを向上させ、生涯を通してRowingから得られる価値(LTV:Life Time Value)の最大化に向けてアプローチを行います。
ボート競技の練習マシン「ローイングエルゴメーター」の記録管理データも収集できるような仕組みも検討しています。ローイングエルゴメーターは他競技の体力強化やフィットネス目的でも使用されており、競技転向やフィットネス需要の取り込みによる競技者獲得の可能性を求められています。
報告会では、将来的には「統一ID」を競技横断で共有したいというコメントもありました。

一般社団法人 日本デフビーチバレーボール協会

事業名:ノーマライゼーショントレーニングの商品化

聴覚、視覚、発達に多様性を持つ人に共通する課題である姿勢制御能力(バランス)の向上を主目的とした運動プログラム「ノーマライゼーショントレーニング」は、「体幹・バランス・コーディネーション」の各種エクササイズで構成されます。同協会では、ノーマライゼーショントレーニングを障害者向けプログラムではなく、健常・障害の区別なく参加できて個々人の運動資質向上という位置付けを行い、社会への伝搬性を重視し、より大きな市場獲得を図りました。
今年度は、早稲田大学の広瀬教授らと連携し、汎用型のノーマライゼーショントレーニングを開発して商品化。体験会などを通じて商品普及に向けた取り組みを行いました。

一般社団法人 日本デフビーチバレーボール協会:イメージ

公益社団法人 日本山岳・スポーツクライミング協会

事業名:安全登山推奨、スポーツクライミング及び山岳スポーツ競技における選手育成・普及・教育等の実施実現にむけた施策及びデジタルプラットフォーム事業の策定(デジタルプラットフォーム事業、JMSCAビジネススクール事業)

同協会の事業は大きく分けて3つ、「登山部」「スポーツクライミング部」、そしてミラノ2026冬季オリンピック大会で追加種目となった「山岳スキー」に分かれます。今回の事業では、登山者、山岳スポーツ競技者、各種指導者などの登録者情報を記録管理できるデジタルプラットフォームのシステム構築に向けて始動しました。蓄積されたデータを安全登山の徹底、登山計画・記録の把握、山岳スポーツマーケティング戦略の立案、スポンサーシップの開拓などに活用されます。
また、世界トップレベルの選手を輩出するスポーツクライミング競技では、ユース世代の選手向けにセカンドキャリアを見据えた競技人生の歩み方や資格取得をサポートするアカデミー「JMSCA BUSINESS SCHOOL」を開設。2023年1月から3月にかけてオンライン形式で当スクールを実施していきます。来期は、その結果を踏まえ、今後も拡充を目指しています。

特定非営利活動法人 日本ブラインドサッカー協会

事業名:サクセッションのための組織基盤構築事業

視覚障害者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現に目指す同協会では、スポーツ庁が策定した「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」およびJSPO加盟団体規程に基づき、将来に向けた次世代経営人材、幹部人材の育成に取り組みます。外部コンサルティング企業を活用し、複合化している教会の経営課題の整理および中長期計画のブラッシュアップを行います。人事評価制度をデジタル化するとともに、すでに運用されている人事評価制度を改善し、運用効率化のための新ステムを導入しました。

公益社団法人 日本トライアスロン連合

事業名:「トライアスロン=健康スポーツ計画」経営基盤強化事業

競技の普及および社会課題である「運動習慣と健康的な社会」の実現に向け、競技団体の持つ価値を明確にしたビジョンを策定して、DX・デジタルプラットフォームを軸とした普及カスタマーサービスを実行し、組織基盤強化を目指します。
収益力強化に向けた中長期戦略を見直し、特に普及に力点を置いたビジョンを策定。競技者の競技レベルや取り組み方に応じた属性定義と分析のうえ、各属性や施策毎の戦術を定義しました。
また、競技普及に向けて競技者の参加意欲を醸成させるシリーズイベント事業を展開する一方、競技団体と競技者、又は属性が近しい競技者同士のコミュニティ創出へ向けたデジタルプラットフォーム構築の推進に取り組んでいます。会員基盤システムやその他競技特性や日常にも関連するサービスとの連携を行い、競技者向けの大会結果・トレーニング等の記録情報、観客・ファン向けの観戦満足度向上サービス、運営やボランティアのモチベーション醸成等に活用できる環境整備を進めている。報告会では、いずれはスポーツマイレージとして他競技・一般共通ポイントサービスと連携しながら「スポーツの楽しさを共有」し、市場開拓を目指す構想も語られました。

公益社団法人 日本トライアスロン連合:イメージ

公益社団法人 日本陸上競技連盟

事業名:JAAF REFORM推進事業

中長期計画「JAAF REFORM」では「未来に輝く人材育成と感動体験の提供」を掲げる同連盟の取り組みは大きく3つ。1つ目は、会員管理サービスシステムを一新し、登録会員と記録・ライフログを紐付けし、大会エントリーのプラットフォームを構築して大会管理や講習会イベント管理・募集をシステム化。2つ目は、陸上ファンが選手のパフォーマンスを観戦できるライブ感を味わうことができる臨場感や迫力のある映像配信。3つ目は、陸上の多種目コンテンツを生かし、アスレティック要素を楽しめるイベント「キッズデカスロンチャレンジ」を通して体を動かす楽しさやスポーツへの興味をもつきっかけづくりです。

公益社団法人 日本陸上競技連盟:イメージ

公益社団法人 日本サッカー協会

事業名:普及・育成事業領域の価値向上基盤整備事業

社会的インパクト評価として、サッカー・スポーツの社会的価値を可視化し、サッカー・スポーツの公共財としての地位確立や官民投資の拡大を通じたサッカーの普及・育成事業の充実を目指します。
育成年代の選手活動、各種計測結果を統合管理し、データの蓄積・可視化・分析を通じた効果的かつ一貫性を持った選手育成のロールモデルを作成するとともに、トレセン・代表等の招集歴および活動評価を一元管理することで、スカウティングの質の向上を図りました。

公益社団法人 日本セーリング連盟

事業名:人材活用・情報プラットフォーム構築・マーケティング能力向上による組織基盤強化

会員数の減少や事務局能力など組織運営に課題を抱えている同連盟では、組織基盤強化に向けて、「人材活用」「情報プラットフォームの構築」「マーケティング能力の向上」を目指し、今年度は主に6つの取り組みを行いました。
①ビジョン・中長期戦略の改定のため会員向けアンケート調査を実施。②会員・加盟団体・大会などの情報を一元化する組織情報プラットフォームの概要設計にむけて業者を選定。③海上での競技をより効果的に伝えるための最新映像伝送技術を選定。④自然スポーツの特性を生かしたサスティナビリティ/SDGsへの取り組みを可視化し、社会に訴求するアプリケーションを開発。⑤DEI(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)企業研修に関するアクティベーションの調査・トライアル。⑥連盟内外から管理・専門人材を確保し、あらたなノウハウを獲得。

公益社団法人 日本ホッケー協会

事業名:ホッケー組織基盤強化支援事業

2020年度に策定した中長期計画「Japan Hockey Road to 2030」を基に、組織基盤の強化を目指す同協会は、本事業においてテクノロジーやシステムを活用したホッケーの魅力・価値の提供、ホッケー界を担う人材育成に取り組みました。
①事務局の負担軽減に向け経理・労務業務のIT化およびアウトソーシング化による業務効率化を実施。また専門家と連携して業務フローのマニュアル化を図りました。②会員登録者数の増加、競技普及のためのデジタルプラットフォームを中心としたマーケティング活動を促進。③次世代に向けて人材育成に取り組み、今後ホッケー界を牽引していく人材を育成する「次世代リーダーズ会議」を開催。④デジタルツールを生かした競技価値を創出するべく、デジタルツールを活用した配信体制の構築および、解説者育成講座を開講。

公益社団法人 全日本空手道連盟

事業名:経営基盤強化プラン

「伝統に革新を」をテーマに掲げる同連盟では、競技価値の向上に向けて、「YouTube配信強化」「Karate Stats」などに取り組んでいます。配信では、小学生〜実業団の全日本クラスの大会のライブ配信、試合ハイライトをまとめたダイジェスト、教材としても価値のある自由視点映像など、視聴者ターゲットを定め、それぞれに適した大会フォーマットや会場の選択、演出の導入などを行いました。Karate Statsは、選手が仕掛けた技のデータをリアルタイムに集計、ビジュアル化し、ライブ配信で簡単にテロップ表示ができる仕組みです。観戦初心者でも試合の状況を即座につかむことができ、新しい空手の楽しみ方を提供しています。また東京2020大会で初めて導入された体重別を取り入れた、第1回日本空手道体重別選手権大会を開催しました。また都内の飲食店でパブリックビューイングなどの新しい試みにも挑戦しました。

公益社団法人 全日本空手道連盟:イメージkarate statsのイメージ

競技団体のさらなる支援、発展に向けて

成果報告会では、各団体とも自らの課題に向けた取り組みを紹介し合い、その取り組みについて活発に質疑が行われていました。会場では参加競技団体同士での交流も行われ、今後の連携などにも期待が持てそうです。オンラインで参加された競技団体も多く、報告事例が参考になったという意見も見られました。「競技団体の組織基盤強化支援事業」では次年度の募集も続いているので、興味を持った競技団体の皆様は、ぜひ、参加してみてはいかがでしょうか。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 競技団体の組織基盤強化(2023-02-01閲覧)

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