「いちご一会とちぎ大会」に見る障害者スポーツ大会のあゆみ
左側:第1回全国身体障害者スポーツ大会(写真提供:公益財団法人日本パラスポーツ協会)
右側:第22回全国障害者スポーツ大会(いちご一会とちぎ大会)
2022年10月29日〜31日の3日間にかけて、栃木県にて第22回 全国障害者スポーツ大会「いちご一会とちぎ大会」が開催されました。4年ぶりの開催となる全国障害者スポーツ大会は個人競技7競技、団体競技7競技、オープン競技3競技に全国から都道府県・指定都市選手団約5,640人が参加。これほどの大きな大会になるまでには、選手および障害者スポーツを推進してきた関係者による努力と、共生社会への認識の高まりによるものではないでしょうか。今回のデポルターレでは全国障害者スポーツ大会のこれまでのあゆみをふりかえり、「いちご一会とちぎ大会」をレポートします。
全国障害者スポーツ大会のあゆみ
全国障害者スポーツ大会とは、障害のある選手がスポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害者の社会参加を推進することを目的とした障害者スポーツの全国的な祭典です。
大会は、1965年から身体障害のある方を対象に行われてきた「全国身体障害者スポーツ大会」と、1992年から知的障害のある方を対象に行われてきた「全国知的障害者スポーツ大会」を統合した大会として、2001年から国民体育大会終了後に、同じ開催地で行われることになりました。
日本国内における障害者スポーツ大会の歴史
日本国内における身体障害者を対象としたスポーツ大会は、第一次世界大戦後、視覚障害者や聴覚障害者を対象にしたものが記録されています。また都道府県が主催する障害者スポーツ大会では、1951年の東京都、1952年に埼玉県、1958年の長野県、1961年の大分県にはじまり、以後、毎年開催されるようになりました。
写真:国民体育大会から引き継がれた炬火が灯される。来年は鹿児島県へ。
2つのスポーツ大会を統合
1964年のパラリンピック東京大会の成功を踏まえ、国内でも身体障害者のスポーツ振興を推進する動きが高まり「全国身体障害者スポーツ大会」の開催が決定。1965年11月6〜7日に岐阜県で第1回大会が開催されました。大会当初は陸上、水泳、卓球など個人競技が中心でしたが、回を重ねるごとに車いすバスケットボール、聴覚障害者バレーボールなど団体競技も増え、多種多様な競技が行われるようになってきました。
一方、知的障害者のスポーツは立ち遅れていましたが、70年代に入り都道府県内の入所施設合同大会や養護学校体育大会が開催されはじめ、次第に全国規模の大会開催が望まれるようになりました。1992年に東京都で「全国知的障害者スポーツ大会」が開催。以後、都道府県・指定都市を単位とする選手団の参加を得て毎年行われるようになりました。
2001年、これまで36回開催されてきた「全国身体障害者スポーツ大会」と、8回にわたり開催されてきた「全国知的障害者スポーツ大会」が統合され、現在の「全国障害者スポーツ大会」が新たに誕生。オープン競技で行われていた精神障害のある方のバレーボールは、2008年から正式競技となり、身体・知的・精神の障害のある方が一体となって行われる大会となりました。
大会ごとに、オープン競技として新たな競技が取り入れられてきた歴史があります。脳性麻痺者7人制サッカー、視覚障害者ボウリング、ブラインドサッカー、スポーツ吹矢、手のひら健康バレーなど、障害の種類や程度の異なる方が参加できるような競技が増え、参加者の間口が広がってきています。今回大会では初めて「ボッチャ」が正式競技として採用。今後も新たな競技種目が追加され、時代とともに大会も成長していくと思われます。
第22回 全国障害者スポーツ大会「いちご一会とちぎ大会」
2022年10月29日〜31日、第22回全国障害者スポーツ大会「いちご一会とちぎ大会」が開催。29日の開会式ではスタンドからの大きな拍手と声援の中、選手2031人が介助者らと共に入場しました。
写真:入場する選手団(左)と開会式での選手宣誓(右)の様子
いちご一会とちぎ大会では、個人7競技、団体7競技の合わせて14競技が正式競技として行われるとともに、会期前には「卓球バレー」「車椅子ダンス」「スポーツウエルネス吹矢」の3競技がオープン競技として実施されました。障害のある方がスポーツを楽しむことはもちろん、スポーツを通じた人と人との交流や、地域との連帯を深める場が「全国障害者スポーツ大会」の特徴です。
今回初めて正式競技になった「ボッチャ」は、東京2020パラリンピック大会の影響もあり、観客の注目度が高く、相手チームとの心理的駆け引きなどに会場の盛り上がりも大きかった競技の一つです。
陸上の投てき競技「ジャベリックスロー」は、ターボジャブと呼ばれるロケット型の用具を投げて距離を競う競技です。ただ力任せに投げるのではなく、飛距離を延ばせるように工夫が必要となります。基本的には助走をつけて投げるのですが、足に障害のある選手は助走をつけずにそのまま投げたり、車いすのまま投げたりすることができます。障害や年齢などに関わらず行える競技ということで、各選手の努力と工夫が垣間見られました。
各競技会場では、肢体をはじめ、視覚、聴覚、知的、精神といった障害のある選手たちが思い思いの目標を掲げながら汗を流していました。大会記録や自己記録を出せた選手もいれば、大会に参加できたことに喜びを感じていた選手もいました。それぞれのスポーツとの関わり方を楽しんでいるように見えました。
写真:ボッチャ(左)とジャベリックスロー(右)の競技風景
写真:立ち幅跳び(左)とサウンドテーブルテニス(右)の競技風景
写真:大会には選手や運営をサポートする「ささえる」人たちが数多く参加(介助者(左)、手話通訳者(右))
大会では施設内のバリアフリー化はもちろん、スタートランプや水泳競技のタッパーなど、障害種特有の用具などしっかりとした環境整備が行われ、また選手のみならず、多くの競技スタッフやボランティアが関わり、選手のサポートおよび安全確保、運営の補助に尽力している姿が数多く見られました。スポーツを「ささえる」人にとっても、本大会への参加はスポーツをともに楽しむ場だったのかもしれません。
まとめ
「いちご一会とちぎ大会」は、東京2020大会のレガシーを引き継ぐとともに、これからのスポーツを通じた共生社会への広がりが感じられた大会となりました。障害者スポーツの普及だけでなく、障害のある方もない方も共に楽しみ、共に支え合う、スポーツの魅力を充分にアピールできた場だったと思います。アスリート、運営者、ボランティアなど、さまざまな人たちが協力しスポーツを通じた一体感が醸成されていました。
スポーツ庁では、スポーツを通じた共生社会の実現に向けた取り組みをより一層進めるため、「障害者スポーツ振興方策に関する検討チーム」を設置し、今年8月に報告書(高橋プラン)を作成しました。障害の有無に関わらず、すべての人が個々の力を発揮できる、スポーツを通じた共生社会への実現に向けて推進していきます。本大会は、その一歩といえるのではないでしょうか。
●本記事は以下の資料を参照しています
いちご一会とちぎ国体・とちぎ大会(国体・障スポ)-第77回国民体育大会・第22回全国障害者スポーツ大会(2022-11-01閲覧)
障害者スポーツ振興方策に関する検討チーム報告書(高橋プラン)(2022-11-01閲覧)
全国障害者スポーツ大会(公益財団法人日本パラスポーツ協会)(2022-11-01閲覧)
パラスポーツの歴史と現状(公益財団法人日本パラスポーツ協会)(2022-11-01閲覧)