「ささえる力」が障害者スポーツ大会を成功へ導いた「燃ゆる感動 かごしま大会」

「ささえる力」が障害者スポーツ大会を成功へ導いた「燃ゆる感動 かごしま大会」(写真)開会式の鹿児島県選手団入場風景

2023年10月28日〜30日の3日間にかけて、特別全国障害者スポーツ大会「燃ゆる感動 かごしま大会」が開催されました。個人競技7競技、団体競技7競技、オープン競技3競技に全国から47都道府県と20政令指定都市から選手、役員ら約6,000人が参加。選手のほか、大会運営関係者、ボランティアら数多くの人々が大会をささえていました。今回のデポルターレでは障害者スポーツには欠かすことができない皆さんにスポットを当てて「燃ゆる感動 かごしま大会」をレポートします。

特別全国障害者スポーツ大会「燃ゆる感動 かごしま大会」とは

「全国障害者スポーツ大会」とは、障害のある選手がスポーツの楽しさを体験するとともに、国民の障害に対する理解を深め、障害者の社会参加を推進することを目的とした障害者スポーツの全国的な祭典です。1965年に「全国身体障害者スポーツ大会」としてはじまり、1992年に「全国知的障害者スポーツ大会」を統合した大会となりました。国民体育大会終了後に、同じ開催地で行われます。

2023年10月28日〜30日に特別全国障害者スポーツ大会「燃ゆる感動 かごしま大会」は開催されました。本来は、2020年開催の予定でしたが新型コロナウイルスの感染拡大により延期となり、特別大会として実施されました。鹿児島県では初めての全国障害者スポーツ大会となり、正式競技14競技に約5万2000人、オープン競技3競技に約1200人が参加しました。

室伏スポーツ庁長官が閉会式挨拶で「選手の皆さんが全力で競技に取り組む姿は、スポーツの持つ力、人間の持つ無限の可能性を感じさせ、勇気づけられます」と語ったように、各競技会場では、肢体をはじめ、視覚、聴覚、知的、精神といった障害のある選手たちが思い思いの目標を掲げ、全力でスポーツに取り組んでいました。各競技において大会記録が更新されており、選手の皆さんの大会に向けての練習の成果や競技力の向上が見られました。

開会式で選手代表宣誓を行う鹿児島県選手団/陸上競技・山口乃愛さん(手前)、陸上競技・久木留清冴さん:イメージ(写真)開会式で選手代表宣誓を行う鹿児島県選手団/陸上競技・山口乃愛さん(手前)、陸上競技・久木留清冴さん

選手たち・大会をサポートしてきた「ささえる力」

今回、総勢467人、過去最高の196個のメダルを獲得した鹿児島県選手団の皆さん。その大躍進には、選手たちを“ささえる”存在がいたことも忘れてはなりません。選手を直接ささえた人、大会運営など裏方からささえた人など、「燃ゆる感動 かごしま大会」には数多くの“ささえる人”がいました。デポルターレでは“ささえる人”からの視点でみた大会について、実際に大会運営に携わった6人の方にお話を聞いてみました。

選手から走りやすいと言ってもらえた時はすごく嬉しい

上園真吾(陸上/伴走者・コーラー)
陸上視覚障害で「伴走者」および「コーラー」を担当する上園真吾さん。「伴走者」は、“絆”と呼ばれる輪っかのロープを選手と握って導きながら走る役割で、「コーラー」は、陸上走り幅跳びで視覚障害がある選手の走る方向や跳ぶタイミングを手拍子や掛け声でガイドします。

上園真吾さん:イメージ

「このサポートを始めたのは、12年ほど前に伴走者の先輩から声をかけられたのがきっかけでした。とにかく最初はすごく難しかったです。伴走は2人3脚のように選手と映し鏡のような感じで走らなければいけません。始めたばかりは手足が選手とズレてしまい、合わせられるまで苦労しました。私は身長が高い方なので、いまは歩幅や手の高さを合わせるように気をつけ、いかに選手が走りやすいのかを考えています。選手から上園さんだと走りやすいと言ってもらえた時はすごく嬉しいですね。
障害者スポーツは楽しんでやってもらうことも大事ですが、真剣に打ち込んで欲しいと思っています。かごしま大会のように全国の選手たちと競い合える機会なんて滅多にありません。どうせなら高いレベルで競い合って欲しいと思います」

理学療法士も活動の場を広げることが大切

松田史代(陸上/理学療法士)
これまで8年にわたり鹿児島県陸上障害選手団の移動補助を行っている松田史代さん。選手をバスや列車に乗せるために一人ひとりのコンディションを把握しながら、移動の順番や方法を決め、選手に極力ストレスがかからないように支援する役割を担っています。

松田史代さん:イメージ

「私は理学療法士なのですが、選手団ではトレーナーやコンディショナーのように選手の体に触れる役割ではなく、選手の移動サポートや生活支援など“総務”の役割です。誰が自力で何段まで階段を登れるのか、車いすから誰がどうやって抱えるのか、複数の車いすの選手で座席順をどうするのかなど、医療知識を持ったうえで選手たちのサポートを行っています。また選手団にはトレーナーも看護師も数が限られていますので、人手が足りない時は私が選手のバイタルを取ったり、ストレッチを手伝ったりします。もうチームの“何でも屋”ですね!
いま患者さんを退院させて自宅に帰すことが大きな目的になっている病院もあるようですが、患者さんにとっては、自宅に帰ってからの方が大変なんです。退院したけど車いす生活になったら、どういう仕事があるのか、どんな活動ができるのかなんて分からない。入院している時から、車いすでどういうことが出来るのか情報を伝えてあげることが必要じゃないでしょうか。私は選手団に関わらせてもらい、理学療法士には何が出来るのかたくさん勉強させてもらいました。“障害があってもこんなこともできるよ”って患者さんに言ってあげられるように、理学療法士もスポーツを“ささえる”をはじめ、いろいろな経験から知見を広げるのが大切じゃないでしょうか」

介入しすぎることなく選手の自主性を尊重

横溝和恵(陸上/情報支援ボランティア(手話))
情報支援ボランティアは「手話」と「筆談」の2つに分かれ、横溝和恵さんは手話のボランティアとしてこれまでも鹿児島県選手団の手伝いを行ってきました。今回、陸上競技の手話担当ボランティアリーダーという大役を任されました。

横溝和恵さん:イメージ

「聴覚障害者と接する時は、会話だけではなく周囲の出来事についても説明します。たとえば緊急車両が通過した、遠方でサイレンが鳴っているなど、私たちが日常では聞き流してしまうような“音”の情報が大事なのです。一方、選手のサポートで心掛けていることは“手を出しすぎない”こと。スポーツ選手は自己判断が求められる部分も多く、私たちが介入し過ぎると競技失格になってしまうこともありますから、なるべく選手の自主性を尊重するように心掛けています。
今回初めて手話の勉強をしている県内の人たちがボランティアに入ってくれ、また自ら聴覚障害のある人たちもボランティアに参加してくれたのは嬉しかったですね。ボランティアの方々には大会での経験を通じて多くのことに気づいて欲しいです。そして日常生活でもその気づきを周囲の人に伝えてもらいたいですね。かごしま大会は私たちボランティアが学ばせてもらう貴重な場であり、一般市民にも聴覚障害の理解を深めてもらう場になればいいと思います」

大会をきっかけに競技にかかわる義肢装具士を増やす環境を

弓木野勇次(陸上/車いす・補装具の修理)
陸上競技の車いす・補装具修理所の運営に協力する弓木野勇次さん。ふだんは義肢・補装具の製作・修理の仕事に従事されています。大会中は義肢・補装具の調整をメインに、選手たちをサポートしてきました。

弓木野勇次さん:イメージ

「仕事では病院などの医療用の義肢・補装具の製作を行っており、競技用を製作する機会は多くありません。九州全体でも障害者スポーツ専門の義肢装具士はいませんが、本大会には地元の義肢装具士たちが各競技会場で運営の手伝いにあたっています。私たちの役目は、選手の義肢・補装具の修理や調整です。
医療用の義肢・補装具は身体機能を補完・代替するものですが、競技用はさらに強度や機能が求められ、剛性と軽量を兼ね備えた素材が使われています。部品交換が必要な修理はできませんが、調整はいつでも対応します。選手たちには安心して競技に打ち込める状態でいてもらいたいので、少しでも不安があれば修理所まで相談に来て欲しいです。
これからパラスポーツを普及させていくためにも、選手をサポートする環境を充実させることが必要だと思います。いま義肢装具士の養成学校でもパラスポーツ用の義手・義足の勉強も取り入れられているようですし、かごしま大会をきっかけに、選手とささえる人が活躍できる環境が整えられるといいですね」

障害のある子どもたちに水泳の楽しさを伝えたい

前村智志(水泳/タッパー)
水泳の鹿児島県選手団として参加する前村智志さん。大会ではスケジュール管理や選手の体調管理などの業務を担いながら、視覚障害の選手がゴールやターンの際に壁が近づいていることをバーで叩いて教える“タッパー”も兼務。

前村智志さん:イメージ

「選手に壁の位置を知らせることを“タッピング”といい、その役割をする人が“タッパー”です。私の息子も障害者で水泳選手として参加しており、昨年は保護者で“介助”として同行していましたが、監督からのお誘いで初めてタッパーを担当しました。相手に知らせるタイミングは選手ごとに違って、少し手前がいい選手もいれば、ゴール直前で叩いて欲しい選手もいます。いま考えれば、もう少し準備時間が欲しかったですね。選手へのサポートに関しては、練習の成果を出してもらうことが結果に繋がりますので、大会にはリラックスして挑んでもらえるように心掛けています。
残念ながら鹿児島県での障害者スポーツの認知度はまだ低く、かごしま大会を機に障害のある子どもたちに水泳に興味を持ってもらえたらと思います。大会の競技役員には県内各地で水泳の指導をされている方が多いので、それぞれのエリアで障害者水泳を盛り上げてくれるでしょうし、新しい大会の相談などもあるようなので大会レガシーを活かして欲しいですね」

大会を“ささえて”くれた人たちにまた関わって欲しい

永山大輔(水泳/入退水時の介助)
スタート前の選手をプールに入水できるように介助し、ゴールした後にプールから出る選手を手助けする役割を担う永山大輔さん。自身も学生時代は水泳のアスリートとして活躍を続け、現在は特別支援学校に勤めています。

永山大輔さん:イメージ

「ふだん相手にしている児童生徒とは違い、1人のアスリートとして選手の気持ちを大事にしながら接しています。選手が自ら行動できるために“介助というよりも補助”という考えです。私も一応アスリートだったので、1人1人レースへの入り方が違うことを理解しています。スタートからレースへの気持ちをつくる途中で邪魔にならないように心掛けています。
鹿児島県では県の障害者スポーツ大会が開催されていますが、かごしま大会のような全国大会は滅多にありません。そのため、競技補助員として高校生の水泳部、競技役員として健常者レースの審判など、障害者水泳と接点のなかった人たちが数多く協力してくれました。かごしま大会での経験から、障害者スポーツも面白いなと思って興味を持ってくれる人が増えるとことを願っています」

まとめ

「かごしま大会」では、「心のバリアフリー」を推進する観点からさまざまな取組が行われ、数多くのボランティアによってささえられながら無事に閉幕となりました。大会後、塩田康一鹿児島県知事は「競技運営の補助を高校生に、選手団サポートボランティアを大学・短大等の学生にお願いするなど、鹿児島の未来を担う若い世代に参加していただき、鹿児島の若者が障害のある方々と親しく接する機会を設けることができたと考えています」とコメントを寄せており、若い世代に障害者スポーツの魅力、大会レガシーの継承が行われたのではないでしょうか。
スポーツ庁では、障害の有無に関わらず、すべての人が個々の力を発揮できる、スポーツを通じた共生社会の実現と、それぞれのライフステージにおいて最高の能力を発揮できるライフパフォーマンスの向上に向けた取組を推進していきます。

●本記事は以下の資料を参照しています

燃ゆる感動かごしま国体・かごしま大会ホームページ(2023-11-01閲覧)

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