スポーツ施設による新たな価値創造に向けて〜スタジアム・アリーナ改革
スポーツによる地域活性化や健康まちづくりへの機運が高まるなか、これからのスポーツ施設には、スポーツを「する」「みる」「ささえる」場としてだけではなく、市民の交流拠点など多様な機能を発揮することで最大限に活用され、真に地域の資源となるような整備・運営が求められています。
スポーツ庁では、『スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー』を2019年10月15日より全国10カ所で開催。セミナーでは地域の身近なスポーツの場からスタジアム・アリーナやオープンスペースまで、具体的なスポーツ環境の在り方に関する考え方や事例を紹介。
2019年10月15日に行われた第1回では、オープンスペースを活用した「スポーツの場づくり」に取り組まれている事例を中心に紹介し第9回、第10回では「スタジアム・アリーナ改革」にテーマを絞り開催されました。
第1回の様子はこちら
スポーツ庁 - 「新たな価値で「スポーツの場」を生み出していく ~スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー開催~」
https://sports.go.jp/tag/equipment/post-31.html
スタジアム・アリーナを核とした官民による新しい地域活性化へ
スタジアム・アリーナは、多様な世代が集う交流拠点として地域活性化の起爆剤となり得る潜在力を持ち、その力を最大限に発揮することがスポーツの成長産業化には不可欠となっています。
政府の未来投資戦略2017(平成29年6月9日閣議決定)においても、2025年までに20か所のスタジアム・アリーナの実現を目指すことが具体的な目標として掲げられています。
また、スタジアム・アリーナ改革を核としたまちづくりは、国が取り組む地方創生策の切り札として「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略(令和元年12月20日閣議決定)」にも取り上げられています。
スタジアム・アリーナ改革実現に向けては、従来の行政主導から脱却し、民間活力の導入による官民連携が重要であり、スポーツ庁と経済産業省が中心となって改革の基本的な考え方や具体的手段を取りまとめた「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」を作成。今回のセミナーでもガイドブックでの指針や事例などを中心に話が展開されました。
スタジアム・アリーナの事例などを紹介
『スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー』の第9回目・第10回目では、「スタジアム・アリーナ改革推進」に取り組まれている事例を紹介。
- ●事例紹介
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【第9回】
①市民がつくるアオーレ長岡〜バスケによるまちづくり
講師:長岡市市民協働推進部市民協働課 課長 川合和志氏②横浜市における球団とスタジアムの一体運営
講師:株式会社横浜DeNAベイスターズ ブランド統括本部 マーケティング戦略部グループリーダー 小松幸夫氏 -
【第10回】
①官民連携による大阪市スポーツ施策の推進について
講師:大阪市経済戦略局スポーツ部スポーツ課スポーツ事業担当課長代理 榎木谷達人氏②桜スタジアムと長居公園パークマネジメント
講師:一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ理事 長居公園施設事業本部長 堤道明氏③大阪初 賃貸契約 アリーナ 管理運営につきまして(おおきにアリーナ舞洲)
講師:ヒューマンプランニング株式会社 エグゼクティブオフィサー 磯村英孝氏
事例紹介のトピックス
セミナーで紹介された事例のトピックスをご紹介します。
【第9回】
●アオーレ長岡
長岡市が「アオーレ長岡」を建設するにあたり掲げた基本姿勢の一つが「市民協働による活力あるまちづくり」。市民の自由な発想で自主的に活動が行えるように、運営はNPO法人(市民)が直接担うことにしました。
市民活動利用は使用料無料、開館時間を柔軟に設定するなど、細かな使い方やルールは行政と市民で作っていくことで、「自由度の高い運営」を実現し、市民活動支援および中心市街活性化に取り組んでいます。
アオーレ長岡は、B.LEAGUE所属のプロバスケットボールチーム「新潟アルビレックスBB」の拠点となったことで、バスケットボールを核としたまちづくりへ。オールスター戦会場、女子日本代表国際強化試合などへの会場の提供をはじめ、チームの選手と市民との交流イベントを行うなど、バスケットボールを街の活性化に積極的に取り入れています。
●横浜スタジアム
プロ野球球団「横浜DeNAベイスターズ」の本拠地「横浜スタジアム」では、多くのファンや観客がスタジアムに足を運び、野球を通じたコミュニケーションが育める場所になるようにと、さまざまな改修工事を重ねてきました。
家族やグループで利用できるようなBOXシート、フィールドに近いエキサイティングシートなど観客席をはじめ、場内設備も一新。昨年は観客席の稼働率では98.9%を誇るほどの人気になりました。
しかし改修工事においては、建蔽率の問題(建物面積を敷地面積の12%以下にしなければならない)がありましたが、市政の協力を得て、通常よりも短い期間で規制緩和を実現しました。スタジアム・アリーナ改革には民間と行政の協力が必要な事例といえるでしょう。
【第10回】
●大阪市
大阪市はスポーツによって「健康増進」「都市魅力の向上」「地域・経済活性化」という行政課題を解決すべく、限られたスポーツ資源(人・施設・予算)を有効活用してスポーツ施策に注力しています。
その中で取り組んでいる工夫の一つが官民連携です。指定管理者が稼ぎやすくなるように事業スキームを創意工夫している桜スタジアム構想や、行政財産を普通財産に変更した上で賃貸借契約を交わしたおおきにアリーナ舞洲等、民間企業にとって自由度の高い施設運営ができるように行政側が積極的な支援をすることが、官民連携のポイントであると考えています。
大阪市はこれからも行政課題解決のため、民間企業から様々な提案を募集し、新しいスポーツ行政に取り組んでいきます。
●桜スタジアム
長居公園内にあって、現在市立長居球技場を改修している桜スタジアムは、業務代行料を0円にすることを条件に、2021年から30年間の指定管理を受ける予定となっています。
桜スタジアムの収益アップに向けて、スポーツイベントでの利用料収入の底上げに加え、命名権や広告収入等の新たな収益源確保が必要となります。
この課題解決に向けて、一般社団法人セレッソ大阪SCが施設命名権を獲得、そしてスタジアムの広告収入を自主財源化できることになりました。これは株式会社セレッソ大阪の株主でもある大阪市からの強力なバックアップを受けたことにより実現したものです。
さらには大阪城公園や天王寺公園同様に民間投資前提の公園管理の導入を大阪市が予定していることから、長居公園全体での採算性も視野に入れた運営の検討に取り組んでいきます。
●おおきにアリーナ舞洲
B1所属の大阪エヴェッサのホームアリーナであるおおきにアリーナ舞洲は、Bリーグの試合運営も含め収益性アップのために様々な工夫を凝らしています。もともとは大阪市の行政財産施設でしたが、普通財産に変更となり賃貸借契約を交わして施設運営を行っています。
行政財産であった頃は設定していなかった施設命名権による収入の確保に加え、メインアリーナへの看板掲出による広告収入によって収益性を高めています。
また、従前から行われていた大会開催等に配慮するため一般利用の枠も確保し、時間帯や用途に応じた使用料金を設定しました。施設の稼働率は概ね90%を超えています。今後も舞洲エリア全体の活性化に貢献できるよう、アリーナ運営に注力していきます。
まとめ
セミナーでは、これからのスタジアム・アリーナに求められているものは「地域のシンボル」「新たな産業集積の創出」「地域への波及効果を活用したまちづくり」「地域の持続的成長」であると結論付けています。
民間事業者が構想段階から参加することで、スタジアム・アリーナが地域に求められる機能を備え、地域住民の交流拠点となるとともに経済活性化の起爆剤となるインフラに生まれ変わる、そのようなスタジアム・アリーナ像が見えてきたように思います。
●本記事は以下の資料を参照しています
スポーツ庁 - 「スタジアム・アリーナ改革ガイドブック」(2020-02-01閲覧)
スポーツ庁 - 「新たな価値で「スポーツの場」を生み出していく ~スポーツ施設のストックマネジメント及びスタジアム・アリーナ改革合同全国セミナー開催~」(2020-02-01閲覧)