レクリエーションがもつ力を高齢者と子どもに届ける 福島県レクリエーション協会の取り組み

レクリエーションがもつ力を高齢者と子どもに届ける 福島県レクリエーション協会の取り組み

スポーツ庁では、国民のスポーツ参加を促進する取り組みの充実を通じて、国民の誰もがいつでも、どこでも、いつまでもスポーツに親しむことができる「生涯スポーツ社会の実現」を目指しています。なかでも、誰でも簡易に楽しみながら取り組むことができるスポーツ・レクリエーション活動等を活用することにより、子どもから高齢者までの幅広い年代に運動の心地よさを体感してもらうこと。健康の保持増進や運動習慣を身につけるだけでなく、介護予防の現場などで、高齢者が自立へ向かうための動機づけを高めることなどに寄与するきっかけづくりに、レクリエーションは欠かせません。

今回、福島県レクリエーション協会の取り組みを取材。東日本大震災の被災者支援や、SNSを積極的に活用した情報発信など、独自の取り組みについて、事務局長の佐藤喜也さんに伺いました。

事務局長の佐藤喜也:イメージ福島県レクリエーション協会 事務局長・佐藤喜也さん

福島県レクリエーション協会のこれまで

1964年の東京オリンピックから5年後の1969年9月2日に設立された、福島県レクリエーション協会。最初は、主に行政(県)主導のレクリエーション協会と、民間主導のレクリエーション指導者クラブの両輪で、同県のレクリエーション運動を推進していました。「レクリエーション」という言葉自体は、社会教育の面が大きかったのですが、1980年代に入ってからは、インディアカやチュックボールなどのニュースポーツが取り入れられ、スポーツの側面も大事にしていく流れができました。

1981年には「第1回福島県レクリエーション大会」が、福島市にある福島県青少年会館を中心に開催され、その後今日まで続いています。これは、各種目の発表の場であり、それまで種目を超えての交流はなかったため、その役割は大きいものでした。

そして、2011年1月5日に法人化をしましたが、これからというときに東日本大震災が発生。これまでの活動ができなくなってしまいました。しかし、多くの人にいまの福島の現状を見てもらうことが大事だという思いから、震災から3年目となる2014年に第68回となる全国レクリエーション大会を開催。延べ約40,000人もの人が参加しました。

2019年9月には、創立50周年の節目を迎えました。現在は、新型コロナウイルスの影響も受けながらも、学校や公民館などを回り、精力的な活動を続けています。

福島県レクリエーション協会の取り組み:イメージ1

レクリエーションの重要性とは

同協会の活動対象は、主に高齢者と子ども、そして震災被災者の3軸です。高齢者に関しては、レクリエーションが生涯スポーツにつながると、事務局長の佐藤さんは話します。
「震災から11年が経ち、被災者も高齢化しています。介護や認知症には誰だってなりたくありませんから、いわゆる『健康寿命』を延ばすことが大切で、そのためには認知と運動を合わせた課題が効果的といわれています。スポーツ経験のない人や、あっても昔のように体がついていかない人には、パークゴルフやグラウンド・ゴルフといったニュースポーツは、健康のためにおすすめです」

事実、同協会の活動に足を運ぶ人のなかには、『健康寿命』と言われる年齢を超えた人も多くいます。「スポーツをするとこんなに元気が出るんだということにまだ気づいていない人、いまさらやっても遅いのではと感じている人に、少しでも楽しんでもらうために取り組んでいます」と、佐藤さんは後押しします。

子どもに関しては、震災後、福島県の子どもたちの体力は思わしくありませんでした。震災による風評被害から遊具や木などの自然には触れてはいけないと言われ続けたためです。佐藤さんも、この状況を問題視し、福島の子どもたちを日本一元気にしたいという思いで立ち上がりました。遊び道具を持って学校や幼稚園に出向き、運動遊びを教える事業を精力的に行ったのです。佐藤さんたちの取り組みは、各学校の先生たちも見ていて、その後も継続して行ってくれていました。

「はじめは南相馬市の幼稚園を回りました。南相馬市での活動が4年目に入るときに、ほかの市町村でも始めたのですが、各園でみんなに蹲踞(そんきょ)をしてもらったところ、初めて訪問する園の子たちは4割、一方南相馬市の子たちは6割ができたんです。それだけでも、活動の効果が見られてよかったなと思いました」

佐藤さんが見るなかでも、子どもたちの体幹が安定し、動きもシャープになったと言います。レクリエーションのなかで体を動かすことで、姿勢改善にも寄与したそうです。

福島県レクリエーション協会の取り組み:イメージ2

レクリエーションの力でコロナを乗り越える

2020年に入り、新型コロナウイルスの影響を受けて、多くの活動が制限されてしまいました。人との接触を避けるプログラムも考えましたが、レクリエーションは、特に人とのコミュニケーションが肝になるものです。そこで、ガイドラインを策定し、マスクの着用やこまめな消毒など、徹底した感染症対策を講じることで、皆が安心して参加できる会を継続しています。その甲斐あって、活動に関係して感染者は一人も出ていません。
佐藤さんが、これまでの活動で印象的だったのは、レクリエーションを通じて、体力面以外の変化があった子どもたちを見たことです。

「対人関係の苦手だった子がコミュニケーションを取れるようになったとか、いままで体育の授業にまったく参加しなかった子が、我々の遊びには参加してくれていると聞いたときは、やはりレクリエーションのもつ力を感じさせられました。健康増進や体力向上だけではない、人とのつながりを育んでくれるものなのです」

コロナ対策で、遊びの動画配信をはじめ、非対面のコンテンツ作りにもずいぶん力を入れました。しかし、やはり対面でないと、情報の共有はできても、思いの共有はできない。そのことをあらためて痛感したと言います。

福島県レクリエーション協会の取り組み:イメージ3

福島県民の健康を守っていくレクリエーション

大震災を経験し、故郷を失う悲しみを味わった福島県民。現在も、復興のなかで人生を変えなければならない人がいます。だからこそ、「レクリエーションの時間が楽しみだと言ってくれる人が一人でもいる限りは、この活動を続けていく思いです」と、力強く語る佐藤さん。一人一人に合ったスポーツ・レクリエーション活動を、継続して楽しんでもらうことを応援していくと言います。
子どもたちの運動遊びに関しては、現在コロナの影響で地域ごとの遊び指導ができない状況です。しかし、この制限が解除されれば、また地域ごとに集まって活動していきたいと佐藤さんは話します。

「高齢者も子どもも、プレーヤーだけではなく、応援する人、それを支える事務局の人、次に参加したいと思う人に活動を伝える人など、さまざまな立場の人が必要です。これからは、スポーツ以外の分野の人も巻き込んで、連携して活動していきたいですね」

高齢者の生涯スポーツとしても、子どもたちの体力向上に寄与するものとしても、レクリエーションはこれからも力を発揮していきます。

福島県レクリエーション協会の取り組み:イメージ4

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