スポーツ施策の新たな方向性を示す「第3期スポーツ基本計画」を解説!《前編》
皆さんは、スポーツ基本計画をご存じですか。スポーツ基本計画とは5年おきに改定され、文部科学大臣が定める今後のスポーツ施策の在り方を示す重要な指針です。この度、スポーツ庁では2026(令和8)年度まで運用されるスポーツ基本計画(第3期)を策定し、2022(令和4)年4月よりスタートしました。
新型コロナウイルスの感染拡大により変化したライフスタイル、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催を経て得たレガシーなど、現在の社会状況のなかでスポーツの価値を高めるべく「東京大会のレガシーの継承・発展に資する重点施策」、「新たな3つの視点」の2本柱が掲げられた施策内容となっています。デポルターレでは第3期スポーツ基本計画について前後編に分けて解説。
前編では「東京大会のレガシーの継承・発展に資する重点施策」を中心に取り上げます。
東京大会のレガシーの継承・発展に寄与する重点施策
2021年夏、東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京大会)が開催され、日本国内はもとより世界中から大きな注目を集めました。東京大会は新型コロナウイルスの影響により1年開催を延期し、さらにほとんどの競技が無観客で実施されるという、過去に例のない形での開催でした。第3期スポーツ基本計画では、開催を通じて得られた有形無形の「スポーツ・レガシー」を継承・発展させていくため、これまでの方法に加え、新たな考え方・視点・手法を取り入れ、さまざまな関係者との連携、協力のもと、重点的に取り組む施策を打ち出しました。
施策の方向性は大きく分けて6つ。
- 持続可能な国際競技力の向上
- 大規模大会の運営ノウハウの継承
- 共生社会の実現や多様な主体によるスポーツ参画の促進
- 地方創生・まちづくり
- スポーツを通じた国際交流・協力
- スポーツに関わる者の心身の安全・安心確保
それぞれの施策について解説します。
持続可能な国際競技力の向上
これまでスポーツ庁では「競技力強化のための今後の支援方針(鈴木プラン)」を掲げ、アスリートたちがパフォーマンスを最大限発揮できるような環境整備を行ってきました。昨年2021年12月には、これまでの競技力向上施策の成果と課題を検証し、新たに「持続可能な国際競技力向上プラン」を策定しました。少子化が進むわが国において持続的に国際競技力の維持・向上を図り、すべてのアスリートが可能性を発揮することができる環境の実現を目指します。
参考:次代へ向けた「持続可能な国際競技力向上プラン」を発表
https://sports.go.jp/tag/competition/post-79.html
「第3期スポーツ基本計画」においても「持続可能な国際競技力の向上」が大きなテーマのひとつとなっています。アスリートがひたむきに努力し、試合で躍動する姿は、国民の誇りや喜び、感動につながり、スポーツへの関心を高め、このことが国に活力をもたらすものです。それは東京大会で実証されたはずです。大会での好成績を一過性のものとせず、レガシーとして今後も国際競技力を向上させるために、これまでの取り組みの成果を引き継ぎ、中央競技団体(NF)が策定する中長期の強化戦略プランの実効化を継続的に支援するほか、アスリート育成パスウェイの構築、スポーツ医・科学、情報等による多面的で高度な支援の充実、地域の競技力向上に向けた体制の構築等に取り組みます。
安全・安心に大規模大会を開催できる運営ノウハウの継承
新型コロナウイルスの影響下という極めて困難な状況においても東京大会という大規模国際競技大会が安全・安心に開催・運営されました。この運営ノウハウを整理・蓄積して今後開催が予定されている大規模国際競技大会の開催運営に継承していきます。
東京大会に向けて育成・構築したドーピング防止活動に係る人材やネットワーク等を有効活用するとともに、ボランティアや専門的スタッフ等、スポーツ活動を「ささえる」人材の確保と養成に取り組んでいきます。また、スポーツにおけるホスピタリティの向上に取り組み、経済活性化や地域活性化等に貢献する方針を検討していきます。
共生社会の実現や多様な主体によるスポーツ参画の促進
東京大会は、国籍、性別、年齢、障害の有無などにかかわらず多様な人々が同じ場所に集い、それぞれの能力を発揮して競い合い、互いを認め合う場となりました。このような姿は「する」「みる」「ささえる」を通じて東京大会に関わった世界中の人々に大きな感動を与え、さらなる相互理解を深め、共生社会の価値を実感させました。
大会を通じた共生社会に対する理解・関心の高まりと、スポーツの機運向上を契機とし、誰もがスポーツに参画できるような機会の創出に取り組んでいきます。なかでも新型コロナウイルス感染拡大の影響等を受けてスポーツ機会が減少してしまった子どもたちには、スポーツ機会の確保や体力向上に向けた取り組みを継続していきます。
地方創生・まちづくり
新型コロナウイルスの影響により海外からの来訪者の制限、無観客開催など、ホストタウンとしての交流は充分に実施できませんでしたが、大会による地域住民等のスポーツへの関心の高まりを「スポーツ・レガシー」として地方創生、まちづくりの取り組みに活かし、将来にわたって継続と定着をさせていきます。
国立競技場をはじめとした国立スポーツ施設の整備や運営は、民間活力を活用し周辺地域のまちづくりと一体となった取り組みを推進します。またスタジアム・アリーナの活用についてはその知見や情報等を地方公共団体に提供し地域のスポーツ施設を起点としたまちづくりを推進します。
スポーツを通じた国際交流・協力
2014年から東京大会に向けて、世界のよりよい未来のために、開発途上国をはじめとする世界のあらゆる世代の人々にスポーツの価値とオリンピック・パラリンピック・ムーブメントを広げていくことを目指し、日本主導で実施されたSFT(スポーツ・フォー・トゥモロー)事業は、2021年9月末までに204カ国・地域の約1300万人にスポーツの価値を届けることができました。SFT事業で培われた官民ネットワークを活用し、さらなる国際協力を展開、スポーツSDGsへの貢献を目指します。
スポーツに関わる者の心身の安全・安心確保
東京大会でも課題となったアスリート等の心身の安全・安心を脅かす事態への対応に取り組みます。熱中症対策の徹底や夏季期間における練習や大会に関する健康面での見直しなど、スポーツ活動全般において、実施する者の安全・安心の確保を行っていきます。
またアスリートへの誹謗中傷や性的ハラスメントの問題等の事案を踏まえ、心理面のサポートの充実等の、メンタルヘルスの向上に取り組むとともに、団体内での暴力・虐待などの根絶に向けて、相談窓口の周知・活用を促し、安心して競技できる環境づくりを進めます。
まとめ
新型コロナウイルスの影響下にあって、さまざまなスポーツ活動が中止や延期を余儀なくされ、スポーツに親しむ機会が減ったなかで開催された東京大会は、多くの国民に勇気と希望を与えてきました。本記事では第3期スポーツ基本計画における東京大会でのスポーツ・レガシーを継承・発展させていくための指針を中心にご紹介しました。後編では、これからのスポーツの価値を高めるための新たな「3つの視点」について解説いたします。
●本記事は以下の資料を参照しています