部活動の地域クラブ活動移行事例紹介〜大規模自治体による部活動改革(千葉県柏市)

部活動の地域クラブ活動移行事例紹介〜大規模自治体による部活動改革(千葉県柏市)

いま学校部活動の地域クラブ活動移行に向けて様々な自治体が取り組んでいますが、地域によって差があるのが現状です。特に大規模な自治体では、学校・行政・地域団体など関係者間での合意形成の難しさ、地域をすべてカバーできる団体の不存在など、多くの課題を抱えています。今回、中核市でありながら計画的に部活動改革を進めてきている千葉県柏市の取組について取材しました。

学校部活動の地域クラブ活動移行は2023年度から改革推進期間へ

あらためて学校部活動の地域クラブ活動移行の状況を説明します。少子化が進むなか、将来にわたり生徒がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保することが求められています。なかでも学校部活動のあり方が問われており、2022年12月にスポーツ庁と文化庁は「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を策定。2023年度から2025年度までを「改革推進期間」と位置付け、休日の部活動の地域連携や地域クラブ活動への移行など、早期実現を目指しています。

土日のクラブ活動を地域クラブに移行する柏市

千葉県柏市は千葉県北西部に位置し、交通の利便性から都心への通勤者が多く、人口43.4万人を要する大規模な郊外都市です。市立中学校21校、総生徒数10,538名(2023年5月1日現在・柏市調べ)、運動部活動は約200部を擁しています。

参考:柏市立小学校児童数・学級数/中学校生徒数・学級数【オープンデータ】
https://www.city.kashiwa.lg.jp/databunseki/shiseijoho/jouhoukoukai/opendate/school.html

柏市では、2021年から試験的に近隣クラブと連携して地域クラブを立ち上げ、2023年より段階的に土日のみ地域クラブ活動移行を実施。地域の総合窓口として設立された「一般社団法人 柏スポーツ文化推進協会(KSCA)」を中心に現状の部活動の構成に近いカタチで地域クラブがスタートしました。

《柏市の地域クラブ活動移行概要》

  • 活動時間は土日どちらか3時間程度
  • 活動範囲は東葛飾エリア(原則)
  • 参加費は年額5,000円+月額2,000円
  • 部員15人に対して1人の指導員

現在、休日に活動のある部のうち、陸上と吹奏楽を除くすべての中学校を対象に約150クラブが地域クラブ活動移行を開始。移行対象の部で参加を希望する生徒は2,600名程度、移行対象部員の約7割が登録を済ましています。一方、指導員も登録者約400名、契約対象者250名(兼職兼業教員150名、一般100名)となっています。またKSCAが主催となって全参加者が参加できる大会を開催し、参加者全員の出場機会を創出しています。

2017年度から独自の部活動ガイドラインを作成

2023年度より土日に活動のある部が地域クラブ活動移行を開始した柏市ですが、同市の運動部活動改革への取組は2017(平成29)年度から始まります。10年ほど前に「運動部活動の過熱化」が社会問題となり、生徒たちの健康安全管理や教員の負担軽減の観点などから国のガイドラインに先行する形で、柏市独自の「部活動・特設クラブ活動のあり方に関するガイドライン」を作成。そこから部活動改革への検討が本格的にスタートしました。

柏市における運動部活動改革のこれまでの経緯・取組について:資料

柏市では2020年度に、有識者を招いて部活動のあり方に関するワーキンググループを実施。文部科学省から示された教員の超過勤務(月)45時間以内という基準を遵守しながら、今後も部活動を継続するための改革案が話し合われました。話し合いでは土日における教員の部活動従事をなくすため、部活動指導員の増員、地域クラブ活動移行などが検討されました。

2021年度には、スポーツ庁委託事業「地域運動部活動推進事業」を受託。研究指定校1校にて休日の部活動をNPO団体に任せて地域クラブ化し、地域クラブ活動移行を想定した実践研究を実施。勤務時間の削減効果や地域クラブ活動の満足度などを調査しました。また同年度から部活動指導員の2名配置をスタートして改革の第1歩を踏み出します。2022年度も引き続き「地域運動部活動推進事業」を受託。前年度の研究成果を元に、保護者・市民への周知、関係団体との調整、運営予算の試算など、全市での地域クラブ活動移行実施に向けて準備を進めました。

2023年度、段階的に土日のみ地域クラブ活動移行を実施。地域クラブ活動の実施にあたり運営体制を構築するためのイニシャルコストは、「地域に根付いて地域で回す」ことを考え、市の補助金が用いられました。統括団体である一般社団法人 柏スポーツ文化推進協会(KSCA)を中心に、全市約150の地域クラブが立ち上げられ、地域クラブ活動移行が進められています。

地域クラブ活動:イメージ

地域クラブ活動を運用する統括団体の存在がカギ

今回の部活動改革の取組について、柏市教育委員会指導課 副主幹 羽田健太郎さんにお話をうかがいました。

土日の地域クラブ活動を実施してみてどのような反応がありましたか。
今年度9月からの実施なので調査結果は出ていませんが、生徒へのアンケートでは平日と土日で教えている指導者が違うことについては問題ないようです。教員からは地域クラブ活動移行によって土日と平日の切り分けができて休むことができたという声もいただいています。数字としても超過勤務の削減効果が現れているので、課題解決に向かっていることを実感しています。
地域クラブ活動移行におけるポイントは何でしょうか。
部活動の地域クラブ活動移行を検討するなかで、運営を行う統括団体の必要性が浮上しました。市内の中学生が約1万人いて休日に活動をする生徒は最大6,000人と見込んだ時、6,000人の活動を支えられる既存団体はありません。野球、サッカーなど競技別に団体を分けると参加費用や活動時間に差が出てしまいます。2022年まで研究していくなかで、統括団体が運営していくシステムが望ましいという結論に至りました。
ただ恒久的に市の予算で運営することはできませんので、運営する統括団体の立ち上げに係るイニシャルコストを市が補助金として用意しました。ランニングコストに関しては今年度から完全に受益者負担で賄っています。運営するKSCAは地域運動部活動推進事業での実践研究に協力してくれたNPO法人の方々が地域のためにと立ち上げた一般社団法人です。
地域クラブ活動移行について保護者や学校への理解はどのように得たのでしょうか。
保護者の方に地域クラブ活動移行の周知とアンケートを行ったのが2021年です。部活動の課題をお聞きしたところ「教員の超過勤務」という回答が圧倒的で、保護者の方も部活動改革の背景を理解されているようでした。費用については、反対される意見もありましたが、2,000円が妥当という回答が多く、アンケートに基づいて金額設定を行いました。学校は2017年のガイドライン作成時から教員の超過勤務問題もあり、先生方の負担を軽減し、休日の部活動を継続するには地域クラブ活動移行しかないという出発点からスタートしているので、それが推進力になったと思っています。
柏市は千葉県内でも大きな自治体ですが、その規模感が改革の後押しになりましたか。
担当者としては規模が小さい方が動きやすいと思います。しかし柏市ならではの利点もありました。柏市は「地域によって人口密度の差がない」ことです。
そのため、指導者が集まりやすく、現在、指導者は約250名ですが登録自体は400名います。また、生徒たちの練習場所も自宅から近い学校で活動ができるのは大きいと思います。
地域クラブ活動を運用するなかで何か課題はありますか。
課題としてはシステムの調整があげられます。地域クラブ活動に登録するためのシステム、活動内での連絡システム、指導者の出退勤システムなど、全部がバラバラのシステムを使わざるを得ない状況となっています。指導者は別々のシステムを使うごとにログインを行うのもストレスになっています。スケジュール管理システムについてもまだ改善点がある状況です。
最後に地域クラブ活動の将来的な展望などありますか。
現在、休日に活動していた部活動をそのまま横滑りして地域クラブとして運営している状況です。単純に同じ活動を有料にしているだけでは継続するのも難しくなると思いますので、今後は地域クラブとしてもメリットも押し出していかないといけません。
まだアイデアレベルの話ですが、KSCAにはプロスポーツチームでコーチをやっている方がいるので、KSCAに登録している人限定で無料教室に参加できるような仕掛けや、部活としてはありませんがダンススクールと協力してダンス教室開催などのアイデアがあります。またラーメン屋さんなど地元の商店にサポートしていただいて、ユニフォームに店名ロゴを入れるというアイデアもあります。中学生の活動をきっかけに地域がまとまっていく流れにしていきたいと思います。

まとめ

人口約43万人と規模の大きい柏市では、さまざまな関係機関との合意形成が必要だったと思います。取材をしてみて、独自の部活動ガイドラインを作成するなど早い段階から改革に取り掛かり、部活動の地域クラブ活動移行に向けて関係者間で同じ方向性を見出せたことが一つのポイントだったのではないかと思います。
地域クラブ活動について柏市は「地域に根付いて地域で回す」と掲げており、今後は部活動を起点にして、子どもたちのスポーツ活動の推進、市民の健康維持・促進など、地域全体での取組として広がっていくのではないでしょうか。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 運動部活動の地域移行について(PDF)(2023-12-01閲覧)
柏市 - 部活動・特設クラブ活動のあり方に関するガイドライン【第3版】(2023-12-01閲覧)
KSCA 一般社団法人 柏スポーツ文化推進協会(2023-12-01閲覧)

参考:部活動改革ポータルサイト ~学校部活動の地域連携・地域クラブ活動への移行に向けて~
https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/1372413_00003.htm

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