誰もが共に楽しめるインクルーシブスポーツの場を創出

誰もが共に楽しめるインクルーシブスポーツの場を創出

東京2020大会によって、スポーツを通じた共生社会の実現に向けた機運が醸成されました。しかし、障害の有無に関係なく一緒に運動・スポーツを楽しむ“場”は少ない状況です。障害のある方とない方が身近な場所でスポーツをともに実施できる、ユニバーサル、インクルーシブなスポーツ環境の整備が求められています。スポーツ庁では「令和5年度障害者スポーツ推進プロジェクト(障害者スポーツの実施環境の整備等に向けたモデル創出事業)」に取り組んでいます。
今回、障害者スポーツ推進プロジェクトの中から一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟(以下、JIFF)が民間企業や地域団体と協力して行っている「オープンスペースを活用したインクルーシブスポーツ」の事例について紹介いたします。

「歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき」を開催

2023年10月7日(土)に等々力緑地内催し物広場(神奈川県川崎市)で「歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき」が開催されました。主催は調剤薬局等を運営するクオールホールディングス株式会社、共催はJIFFと川崎市。イベントにはプロサッカーチーム「川崎フロンターレ」、障がい者サッカーチーム「パラSCエスペランサ」も協力を行い、イベントには参加者73名のほか、見学者・スタッフを含め128名が来場しました。

イベントは、今後地域での活動を自走させるべく、事前にウォーキングフットボールのコーディネーター講習会を受講したエスペランサのコーチ、選手等が中心となり進行しました。「歩くサッカー」体験では、障がいの有無や年齢、性別など関係なくチームを組み、合計10チームによって試合が行われました。一般的なサッカーと違い、歩くスピードなので誰にでも活躍の場面が訪れます。各チームとも声をかけ合い協力しながらゴール目指しました。また、川崎フロンターレによる「ミニフットゴルフ」も行われました。「フットゴルフ」を改良したミニゲームで、参加者はカップにボールをどれくらい遠くから入れられるかチャレンジします。そのほか健康相談ブースでは、血圧測定や握力測定や健康相談が行われました。広場での開催ということもあり、当日飛び入りで参加する人もおり、会場は大いに賑わいました。

「歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき」の様子:イメージ(写真)「歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき」の様子

コーディネーター講習会(左)、イベント時に設置した健康ブース(右):イメージ(写真)コーディネーター講習会(左)、イベント時に設置した健康ブース(右)

共生社会の実現を目指して誰もが気軽に参加できる環境を!

「歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき」の経緯や開催意義について、JIFFの事務総長 山本康太さん、イベントを主催したクオールホールディングス株式会社 DX・AI推進室長 樫尾浩幸さんに話をお聞きしました。

●クオールホールディングス株式会社 DX・AI推進室長 樫尾浩幸さん
調剤薬局の運営を行っている弊社では、JIFFさんの栄養相談や健康管理などの支援を通じて、2022年4月からパートナーシップ契約を結んでおります。今回、JIFFさんのお声がけから障害者スポーツ推進プロジェクト事業受託で協業させていただきました。本プロジェクトは、スポーツ統括団体・自治体・民間企業の3者が関わる理想的な取組ではないでしょうか。
開催地は、ゆかりのある神奈川県川崎市・広島県江田島市・愛媛県今治市にお願いしました。川崎市が人口約150万人、今治市が約15万人、江田島市が約2万人と、それぞれ人口数が1ケタ違うので、人口規模に合わせた運営方法を検証できると思います。
川崎市のイベント参加者は73名で、予約41名、当日参加32名とほぼ半々で、性別・年齢も均等に分かれていました。会場が多くの市民が憩う等々力緑地ということもあり、“何かおもしろそうだな”と当日参加してくれた方が予想以上に多く、オープンスペース開催の趣旨としては理想的な結果だと思いました。
オープンスペースでの開催に手応えを感じた一方、場所選びの難しさも感じました。公園・広場・河川敷などオープンスペースは多くありますが、地面の状況、トイレの場所、アクセス方法など、車いすや障害のある方が来れて気軽に楽しめる屋外空間の選択肢は意外と少ないことが、今回の川崎で初めてわかりました。
ウォーキングフットボールは緩やか動きで楽しめる運動ですので、インクルーシブスポーツとして非常に良い素材だったと思います。
薬剤師と管理栄養士による相談コーナーには、障害のあるお子さんを持つお母さんが薬や栄養について相談されていました。皆さん、相談できる機会が少ないのか、かなりの数の相談を受けました。医療従事者が居ることがイベントのプラスアルファの効果がありました。このイベントを通じて、健康増進や地域貢献に努めていきたいと思います。
●一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟 事務総長 山本康太さん
クオールさんには、これまでも日本ブラインドサッカー協会、日本アンプティサッカー協会がアンチ・ドーピングや栄養管理などでサポートを続けていただいてきました。JIFFとのパートナーシップ締結後、全国に約900店舗あるクオール薬局の薬局機能の向上のほか、薬局と全国に約300チームあるサッカーチームが連携することで地域活性化に取り組もうと進めてきていたので、今回のプロジェクトにご一緒させていただきました。また、障害者スポーツは多くの人が集まり目に触れる場所で行われる機会が少ない環境ですので、“オープンスペースの活用”という趣旨にはたいへん興味がありました。
本プロジェクトでは、今後、各地域で自走できる仕組みを念頭に入れて企画を準備しました。単発のイベントで終わるのではなく、その地域で継続的にイベントが行えるように考えています。川崎ではCPサッカー(脳性麻痺の7人制サッカー)チーム「パラSCエスペランサ」の方々など自走する際に中心となる方々にウォーキングフットボールのコーディネーター講習会を受講いただき、その講習を受けた方々主導で運営を行いました。エスペランサとしても関心のある方々の受け皿を自分たちで作りながら活動していくモデルが出来たのかと思います。私たち連盟が付きっきりで運営に関わるのではなく、自走できるモデルを全国に作っていきたいと考えています。各地域でこうしたイベントを通じて健康増進と共生社会の実現の両輪を推進していきます。広島県江田島市での取り組みも、同様のスキームで広島県インクルーシブフットボール連盟を中心に進めていただいています。
私たちとしてはサッカーを通じた共生社会づくりに取り組んでいますが、サッカー界だけで実現できるものではありません。今回のように企業や行政、さらに地域のチームや他のスポーツ団体とも連携して仲間づくりをしていくのが大事だと思います。

まとめ

第3期スポーツ基本計画で掲げる「スポーツを通じた共生社会の実現」には、誰もがスポーツを楽しめる環境の構築が必要であり、今回のJIFFとクオールによる「オープンスペースを活用したインクルーシブスポーツ」の取組は共生社会の実現を大きく後押しするものと考えます。また、自走できるインクルーシブスポーツの推進モデルをつくることで、同じような取組みを全国に広げていくコンセプトに可能性を感じました。

サッカー界全体と地域が協力して7つの障害者サッカーをアシスト!
https://sports.go.jp/tag/disability/7-1.html

●本記事は以下の資料を参照しています

一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟 公式サイト(2024-01-01閲覧)
一般社団法人 日本障がい者サッカー連盟 - 歩いてシュート!だれでもウォーキングフットボール かわさき(2024-01-01閲覧)

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