地域版SOIPデモデイ2022受賞紹介②長野県スキー連盟×富士通ローンチパッド

地域版SOIPデモデイ2022受賞紹介②長野県スキー連盟×富士通ローンチパッド

スポーツ庁ではスポーツを核とした地域活性化の実現に向け、地域におけるスポーツオープンイノベーションプラットフォーム、通称SOIP(ソイップ)の構築を目指す「地域版SOIP」を推進し、地域に根差したスポーツチーム・団体と他産業界との連携による新規事業の創出を支援しています。今年度は北海道、甲信越・北陸、東海の3地域を拠点とするスポーツチーム・団体とともに、スポーツ産業の新たな未来をつくるパートナー企業を募集。10プロジェクト(以下、PJT)が採択され、アクセラレーションプログラム「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD」を通して事業アイデアのブラッシュアップが進められました。

3月1日には地域版SOIPの成果発表会(デモデイ)「INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 DEMODAY」が開催され、地域版SOIPを体現していると評価されたチームに対し、「審査員特別賞」「オーディエンス賞」の2賞を授与します。今回、審査員特別賞を受賞された「長野県スキー連盟」と新規事業の立ち上げや育成を行う「富士通ローンチパッド」による取り組みについて紹介します。

「地域×スポーツ×動画AI解析」〜スキーをもっと上達できもっと誰かと繋がれる

90年代には1800万人近くいたスキー・スノーボード人口でしたが、2020年には270万人と、ピーク時に比べ15%と減少しているのが現状です(※)。日本スキー発祥の地であり1998年に冬季オリンピック開催地となった「スキーの聖地」とも呼ばれる長野県で選手の育成や大会の企画運営を行っている公益財団法人 長野県スキー連盟と、株式会社 富士通ローンチパッドがタッグを組んで「スキー人口増加」へ挑んだのが本プロジェクトです。

スキー人口増加への挑戦:資料

リピートの鍵となる“楽しさ”に必要なのは「スキルアップ」「仲間」

スキー・スノーボード人口を増やすために「新規顧客の獲得」「リピートしてもらう」「継続の顧客の離脱防止」と、3つの施策の方向で考察をはじめます。調査する中で新規獲得と離脱防止策は順調な推移をみせていましたが、初めてスキーに来た人が2回目に繋がっておらず、リピートする比率が落ちていることが分かりました。プロジェクトでは「リピートしてもらう」ことにスポットを当てます。

リピートのための施策が重要:資料

壁の要因は何か?:資料

1度目に訪れながら、なぜ再びスキー・スノーボードに行かないのか、その大きな壁となっているものをヒアリング調査したところ下記のような回答が得られました

《ヒアリング調査の回答例》

◆もう一度行かない理由
  • スキルアップの方法がわからなくて諦めてしまう。
  • うまい人と行くと自分が浮いてしまい非常に孤独。
  • 一緒に行ける仲間がいないので行く気になれない。
◆何度も行く理由
  • 大自然の中でうまく滑走できると楽しい。
  • 難しいムーブができた時の達成感や友だちとの褒め合いが気持ちいい。
  • 友だちと検定バッチを集めることが生活のモチベーションになっている。

この調査から、リピートの鍵となる“楽しさ”に必要なのは「スキルアップ」「同じ競技の仲間」ということが分かり、事業のコンセプトを「より簡単にスキルアップでき、どこでも仲間と高め合えるサービス」に定めました。

動作AI解析でスキルアップ、解析結果を共有して仲間づくり

コンセプトが定まり、スマートフォン動画で撮影した自身のスキーの滑りを解析し、その動画や練習メニューを成長記録として保存可能なカレンダーツールとなるアプリの開発に取り組みます。
開発にあたり、長野県スキー連盟が作成して配布しているスキー教本と、富士通ローンチパッドの持つ動作解析AI技術、双方の強みを活かしました。アプリの特徴は大きく2つあり、①動作解析により自身のフォームや身体の動きを可視化することでスキルアップさせる、②自身が解析した動画をタイムラインに共有することでコミュニケーションを促進してモチベーションを高める、この2つの機能をすべてスマートフォンだけで完結させられます。

アプリの実証実験では、スキーヤー76名に1カ月間試してもらいました。しかし実証から1週間経ってもユーザーがSNSにシェアした解析結果へのコメントはわずか2件と振るわない状況でした。直接ユーザーにヒアリングしたところ、自分よりも上手い人がいると思うと恥ずかしくて投稿できないという心理的ハードルが大きいことがわかりました。
お互いを高め合う仲間には、同じ競技者というだけではなく「競技レベルが同じ」ことも必要なのだと気づき、「それぞれの目標」「競技レベル」でコミュニティを分割したところ、それぞれのコミュニティで投稿やコメントが増えて、ユーザー間の交流が活性化しました。実証実験では、スキルアップや同志との高め合いを多くの人が実感し、結果としてよりスキーを楽しめたと回答してくれた方も9割以上という結果を残すことができました。また、初めてスキーを行った人が、アプリを通じて初心者間のコミュニティで盛り上がって、1週間後にもう1回白馬に来てくれました。

同士であふれるコミュニティに分けた:資料

アプリ体験に関しての結果:資料

ウインター・スポーツ普及促進に貢献したい

今回の結果を踏まえ、スキーだけでなくすべてスポーツへ、さらにスポーツの垣根を超えたコミュニティでも活用できるのではないでしょうか。今後も長野県スキー連盟と富士通ローンチパッドは、共創しながらスキー革命を起こしていきたいということです。

今回の実証実験の感想と今後に向けての展望など、長野県スキー連盟担当者からコメントをいただきました。

「富士通ローンチパッド様が開発されたスキー用モーション分析アプリは、スマホで撮影した動画上に頭と四肢の動きをカラフルな直線で示し、スキー場での体の使い方や重心移動を簡単に復習できる仕組みです。長野県スキー連盟では22年度末にスキーとスノーボード初心者向けの教科書を開発しておりまして、QRコードで基本的な動作をショートムービーとテキストで勉強できる内容となっております。今後はこうした当連盟独自のサービスに富士通ローンチパッド様とのサービスを連動させて、連盟傘下のスキーやスノーボードスクールにおけるレッスン満足度を高める試みを増やしたいと考えております。富士通ローンチパッド様は現場に何度も足を運んで、実務課題に立脚したサービス開発をしてくださいました。その熱意に当連盟担当者やスキースクールは深い感銘を受けました。特に、新たにウィンター・スポーツを始めるお子様に関心を持っていただけるか、ご両親の皆様が安心してお子様をレッスンに送り出せる工夫、生徒の皆さん相互に楽しかった体験を共有できる仕組みの開発などが今後の注力課題となります。 」

地域版SOIPに参加された感想も伺いました。

「過年度に参加したスポーツ庁様のプロジェクトと比べますと、プロモーションやイベントに力を入れられておられるように感じました。今回のSOIPは今までスポーツをメインにしてこなかった事業者様や、対象となるスポーツ未経験者の方への認知度を高める試みとして、大変意義のあるものです。今般、スポーツ庁様に特別審査賞を頂戴したことは大変光栄であるだけでなく、他県スキー連盟のお仲間にもこうしたデジタル化された新たなスポーツサービスをご紹介する際にも大変な実績となりました。この機会をいただいた全ての関係者皆様、そして富士通ローンチパッド様ご担当者のご尽力に感謝しております。この枠組みで巣立ったサービスがさらに進化して、日本全国のウインター・スポーツ普及促進に貢献できるよう、今後も関係者一同努めて参りたく考えております。」

まとめ

今回、ご紹介した「長野県スキー連盟 × 富士通ローンチパッド」の取り組みは、「スキルアップ」「コミュニティ」といったスポーツを楽しみながら続けられる重要な要素です。アプリを使いながら自分と同じような競技レベル、競技環境の人間同士が気軽に情報交換できるシステムは、スキーのみならず、他のスポーツでも充分に活用できるように思いました。

●本記事は以下の資料を参照しています

スポーツ庁 - 令和4年度スポーツ産業の成長促進事業「スポーツオープンイノベーション推進事業(地域版SOIPの先進事例形成)」の地域パートナーの公募について(2023-06-01閲覧)
【スポーツ庁】INNOVATION LEAGUE SPORTS BUSINESS BUILD 2022 DEMODAY2023.3.1(Wed)開催(2023-06-01閲覧)

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