アンチ・ドーピングの国際会議へ、室伏長官が初の海外公務
2023年5月9日、室伏長官はカナダ・モントリオールで開催された世界ドーピング防止機構(WADA:World Anti-Doping Agency)執行委員会に出席しました。日本からは、スポーツ庁より長官をはじめ3名、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)より1名、日本スポーツ振興センター(JSC)より2名が参加しました。今回が、室伏長官にとって就任後初めての海外公務となります。
初参加でも光る存在感
室伏長官が出席した執行委員会は、WADAの活動や組織運営等に関する具体的な議論、決定を行う重要な機関です。スポーツ代表、政府代表、どちらにも属さない独立メンバー、アスリート代表で構成され、政府代表 は、各大陸より1名が委員に就任しています。室伏長官は、2023年1月にアジア地域の政府代表となり、今回初めて会議に参加しました。
委員会において長官は、世界アンチ・ドーピング規程の改定やWADAガバナンス改革をはじめ、さまざまな議論に参加し、他地域の政府代表および国際オリンピック委員会(IOC)等のスポーツ代表と意見交換を行いました。元トップアスリート(金メダリスト)というバックグラウンドを持つ長官がアジア地域の政府代表として、国際的なアンチ・ドーピングの議論に参画するということで、参加者からは長官の発言に注目が集まっていました。
長年トップアスリートとして世界を舞台に活動していた長官は、自ら英語でコミュニケーションをとり、初めての海外公務でありながら、会議において、また、休憩時間なども活用し、積極的に発言・意見交換を行い、わが国の存在感をしっかりと示しました。
会議に参加する室伏長官
政府代表としてスポーツを支え続ける室伏長官
会議を終えて長官は、次のように語りました。
今回の会議では、IOCや競技団体といったスポーツ代表の関係者だけでなく、各国の政府関係者ともネットワークを構築することができ、大変有益な機会でした。今後も、日本そしてアジア地域の政府代表として積極的に意見を発信するとともに、アンチ・ドーピングにおける国際的なルール作りへの参画を通じて、アスリートやスポーツを守ることに貢献していきたいです。
WADAヴィトルド・バンカ会長と室伏長官
スポーツにおけるドーピングとWADAの役割
ドーピングとは?
あらためてスポーツにおける「ドーピング」とは、選手がパフォーマンスを向上させるために薬物や不正な行為によって、他の選手とは異なる条件(筋力や持続力の強化、反応速度の向上など)で競技を行うことです。ドーピングによる違反行為が確定した競技者には、大会成績取り消しやメダルなどの剥奪、一定期間競技に参加できない資格停止などのペナルティが課されます。ドーピングは公平なスポーツ競技を阻害し、違反者の信頼はもとより、スポーツ全体の価値や意義を失うことにつながります。
意図せずドーピングを行ってしまう可能性も…
故意に不正な薬物を摂取することは絶対にいけませんが、ケガや病気などの治療薬のなかには、スポーツのルールで禁止されている物質が含まれているものがあり、意図せずドーピングを行ってしまうケースもあります。治療を受けたり薬を使ったりする際は、禁止される物質や方法が記された「禁止表国際基準(禁止表)」(注2)を、事前にチェックするようにしましょう。禁止表は1年ごとに定期的な改定と、途中でアップデートされることもあります。
注2:公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構 - 国際基準
https://www.playtruejapan.org/code/provision/world.html
同様に、サプリメントにも禁止物質が含まれている可能性があります。これらは「薬」ではなく「食品」に分類されるため、全成分の表示義務がありません。ラベルの表示だけを見ても確認はできず、違反になるケースが世界で多発しています。
禁止されている物質と方法|JADAクリーンスポーツ・アスリートサイト(realchampion.jp)より引用
巧妙な手口によって広がるドーピング
ドーピングの手口は常に進化しており、さまざまな方法が現れています。
例えば、本人または他人の血液や赤血球の輸血などを行う、人工的酸素運搬物質および関連血液製剤を投与する「血液ドーピング」、選手の遺伝子の発現を変更して身体能力を向上させる「遺伝子ドーピング」などです。このような高度で巧妙な方法によるドーピングを見逃さず、クリーンなスポーツ環境守るため、昨今、ドーピング検査技術の研究開発の促進が世界的に求められています。
こうした、スポーツにおけるドーピングとの闘いで中心的な役割を担う組織がWADAです。
WADAとは?
WADAは、世界のアンチ・ドーピングのルール(ドーピング検査基準やドーピング違反に対する制裁手続など)の策定やアンチ・ドーピング活動の促進を目的として、1999年に設立されました。国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)などのスポーツ代表と、政府代表が資金供与面、意思決定の面で半々に貢献するユニークな体制が特徴です。
WADAは、各国のアンチ・ドーピング活動において、「世界アンチ・ドーピング規程」やその他8つの分野の国際基準が遵守されているかのモニタリングや、アンチ・ドーピングに資する自然科学・社会科学系の調査研究の促進、ドーピング調査などを行い、最近では選手の相談窓口としての機能が期待される「アスリート・オンブズ」プロジェクトがトライアルとして始動しました。
アンチ・ドーピングの理念やルールの教育・啓発もWADAの重要な役割です。選手、指導者、医療関係者などに対してドーピングの危険性や倫理的な側面について指導し、クリーンなスポーツ環境の維持に向けた取り組みを促進しています。
未来のクリーンスポーツに向けて
アンチ・ドーピング活動は、クリーンでフェアなスポーツの実現のための重要な要素の1つです。アスリートだけではなく、指導者、医療関係者やスポーツ施策の策定・執行機関など、スポーツを支える側の私たちも含む一人一人の適切な判断と行動により、 クリーンでフェアなスポーツ環境が創られ、未来のクリーンスポーツにつながります。スポーツ庁では、引き続き国内でのアンチ・ドーピング活動を展開するとともに、WADAをはじめとする国際機関とも適切に連携し、世界的なアンチ・ドーピング活動にもしっかりと貢献できるよう、取り組んで行きます。
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大会を「ささえる」チカラ、東京2020大会でのアンチ・ドーピングの取り組み
●本記事は以下の資料を参照しています
世界ドーピング防止機構(WADA)(2023-06-01閲覧)
スポーツ庁 - 世界ドーピング防止機構(WADA)について(2023-06-01閲覧)
スポーツ庁 - ドーピング防止活動の取組(2023-06-01閲覧)
公益財団法人 日本アンチ・ドーピング機構(2023-06-01閲覧)