大学スポーツ協会「UNIVAS(ユニバス)」が設立! 期待される大学スポーツの新時代へ【前編】

一般社団法人大学スポーツ協会、通称「UNIVAS(ユニバス)

スポーツ庁では、平成28年4月より大学スポーツを横断的に統括する組織の必要性が議論されてきました。平成30年夏には「日本版NCAA設立準備委員会」が発足。大学・学生競技連盟らを中心に議論を重ね、平成30年10月22日には一般社団法人大学スポーツ協会、通称「UNIVAS(ユニバス)」と新組織の名称が決定しました。約200の大学と20の競技団体の参加を目標とし、平成31年3月頃の設立に向けて準備が進められています。

では、一体なぜこうした組織がつくられるのでしょうか。また、UNIVASに加盟することでどのようなメリットがあるのでしょうか。今回の【前編】では、UNIVASの設立経緯と、そのモデルともなったアメリカの「NCAA」についてご紹介します。

日本における大学スポーツの現状

日本における大学スポーツの現状

日本の近代スポーツの多くは、明治時代以来、大学スポーツを起点にしてその振興を支えてきました。毎年正月の風物詩となっている箱根駅伝をはじめ、六大学野球、大学ラグビー、アメリカンフットボール(甲子園ボウル)といったプロ並みの観戦者、注目を集める試合も存在し、また多くのメダリストが大学スポーツから輩出されています。

大学スポーツは、競技ごとに学生連盟などが主体となり、各競技団体独自のレギュレーションや管理体制のもと大会やリーグ戦の運営を行ってきましたが、大学における運動部活動は、大学内でみるとあくまでも学生たちの自主的な活動であり、大学自体の関与はほとんどないケースが大半。学内でも競技横断的に全学的にスポーツ分野の取組を一体的に行う部局を置いていない大学が多いのが現状です。つまり、部ごとに学生による運営とOB・OGのボランティア的なサポートで成り立っているのが実情なのです。こうした自助努力によって発展を遂げてきたことは日本の大学スポーツの誇れる部分であると言えるかもしれません。

その一方で、運動部活動に属している学生たちには、本分であるはずの学業に費やす時間を十分に確保できないという問題があります。知識不足や情報不足、体制の不整備などに起因した事故やけがへの対応、学生の安全守る体制、また運動部活動が大学の管理外であるがゆえの会計制度の未整備といった種々のガバナンスに関する問題も生じています。学生にとっても大学にとっても、リスクマネジメントの観点から多くの課題があることが見えてきました。

こうした課題の要因は、大学スポーツ全体を統括する組織が存在しないことにあります。

大学スポーツは、学生や大学をはじめ各ステークホルダーに対してさまざまなメリットをもたらしますが、運動部活動に対する大学の関与が限定的であるがゆえに充分にそのメリットを活かせていません。これが日本の大学スポーツの現状です。スポーツには、人間形成や他者を思いやる心の育成に寄与する大きな価値がありますが、本分が疎かになることで、その価値を認めてもらいにくくなってしまうでしょう。これでは本末転倒です。

米国NCAAとその現状

米国NCAAとその現状

UNIVASの参考となったアメリカの組織「NCAA」、英国の組織「BUCS」のうち、本家とも言える「NCAA」はどのような組織なのでしょうか。

NCAA(全米大学体育協会/National Collegiate Athletic Association)は、アメリカの大学スポーツを、大学横断的かつ競技横断的に統括している組織です。現在約1200校(全米大学約2300校中)、約1万9000チームが加盟しており、約50万人の学生アスリートがNCAA主催の試合に出場しています。NCAAが創設されたのは100年以上前で、以来アメリカの大学スポーツ全体の発展を支えてきました。

20世紀初頭、大学スポーツは必ずしも公式な存在ではなく、共通のルールや財源確保の仕組もありませんでした。統括組織をつくる発端となったのは、1904年に起こった事故です。19人のフットボール選手が競技中の事故で亡くなったことで、「なぜ大学はスポーツを容認するのか」と社会から批判を受けます。そこでルーズベルト大統領が学長たちを集めて、学生たちの安全をいかに確保していくかを話し合う会議を行いました。これがNCAAの前身です。

彼らは、「ACADEMICS(学業)」「WELL-BEING(安全・健康)」「FAIRNESS(公平性)」の3つの柱にフォーカスし、学生たちの健やかな学生生活を守ることを決めました。これは、現在もNCAAの大きな3つの理念とされ、学業との両立、学生の安全などさまざまなサポートが実行されています。

大学スポーツの産業化の側面ばかりが注目されがちなNCAAですが、主としては上記理念の実現・維持に取組んでいることは、まだ日本でも知られていない一面と言えるでしょう。また、各加盟大学には学内のスポーツ分野を統括する「アスレティック・デパートメント(AD)」が設置されており、大学の主体的関与のもとで運営が行われているのも特徴です。

現在の日本のほとんどの大学には、ADやそれを統括するスポーツアドミニストレーターがいません。加えて、学習支援制度やスポーツのシーズン制といった活動制限も設けられていないことがほとんどです。これが、本家NCAAとの大きな違いであると言えます。

各大学のブランディングにも寄与

各大学のブランディングにも寄与

また、アメリカの大学スポーツは、各大学のブランド構築要素にもなっています。外部の競技場を借りるのはなく、大学内のスタジアム・アリーナでホームゲームを開催することで、学生だけでなく、父兄やOB・OG、地域の老若男女を巻き込み、その愛校心や知名度を上げることができるのです。

それだけでなく、NCAAが運営する90の大会のなかで最も有名と言える「マーチ・マッドネス」(春季に行われる男子バスケットボールのトーナメント)でベスト4まで勝ち残れば、それだけで瞬く間に大学名が全米の誰もが知るところになります。スポーツは、大学が社会に影響力を与える非常に有益なマーケティングツールになり得るのです。

日本の大学スポーツを支える「UNIVAS」の設立

日本の大学スポーツを支える「UNIVAS」の設立

一般社団法人大学スポーツ協会、通称「UNIVAS(ユニバス)」は、アメリカのNCAAと同様、大学スポーツを大学・競技横断的に統括する組織です。大学同士・競技団体同士の横の連携ができることで、情報共有し効率化できるプラットフォームとしての役割が求められます。

また名称の英字表記「Japan Association for University Athletics and Sport」は、競技や種目の集合体を表現する複数形の「sports」ではなく、文化としてのスポーツを意味する単数形の「sport」を用いているところがこだわりの1つ。大学スポーツの新しい文化を作り上げる思いが込められています。

まとめ

これまで、中学校には日本中学校体育連盟(中体連)が、高校には全国高等学校体育連盟(高体連)があるにもかかわらず、大学にはこのような統括組織が存在していませんでした。この度誕生するUNIVASによって、学生や大学にとってより良いスポーツ環境の整備が期待されています。

UNIVASの掲げる理念や具体的な加盟のメリット、提供されるサービスなど、大学スポーツがどのように変わっていくのかについては、続く後編でご紹介します。

●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています

・スポーツ庁 - 大学スポーツ協会 設立準備委員会メンバー 動画メッセージ
・スポーツ庁 - 一般社団法人 大学スポーツ協会(UNIVAS) 設立概要

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