「部活動サミット2018」リポート!”効率的な部活動”は生徒たちの「主体性」がキーワード
2018年3月に「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定してから約半年、スポーツ庁は、長時間・高頻度の過酷な練習状況を改善するために子供たちにとっての最適な部活動環境の提供を呼びかけ続けています。
そんななか、こうした課題に目を向け、よりよい部活動環境づくりを模索するために生徒自ら主催するサミットが静岡聖光学院で開催されました。運動部・文化部にかかわらず、全国から集まった多数の中高生が参加。昨今話題の「働き方改革」に通じる、日本人の生産性向上・業務効率化といったテーマについて、実に活発で高度な議論が繰り広げられました。
今回は、9月16日から17日の2日間にわたって行われた「部活動サミット2018」の様子をリポートします。
静岡聖光学院ラグビー部が主催「部活動サミット」とは?
9月16日と17日、第1回となる「部活動サミット」が静岡聖光学院で開催されました。このサミットには、時短で密度の濃い部活動を実現すべく日頃から工夫を凝らしている静岡県内の学校やクラブチームを中心とした運動部・文化部に所属する全国の生徒たちが参加。男子校の静岡聖光学院に他校の女子生徒たちが加わり活気あふれる空間となりました。もちろん、講師となる指導者や有識者を巻き込んで行われています。
時短部活を実践する全国レベルの強豪校の工夫と共通点
今回、講師として登壇した指導者は、春日部市立豊野中学校バスケットボール部監督の田中英夫先生、静岡聖光学院副校長・ラグビー部元総監督の星野明宏先生、広島県立安芸南高校サッカー部監督の畑喜美夫先生の3名。各校共に、ほかの部との兼ね合いで「グラウンドが狭い」「コート数が少ない」といった決してよいとは言えない環境であり、活動時間も1日に1~2時間と非常に短くオフも多くある状況でした。
そうした環境でも豊野中学校バスケ部や静岡聖光学院ラグビー部は全国大会で活躍しており、畑先生率いる安芸南高校サッカー部はわずか数年で県の3部リーグから1部リーグに昇格しています(前任の県立観音高等学校では全国大会で優勝の実績)。
これらの学校は一体どのように練習しているのでしょうか。
まず、どの指導者にも共通しているのが、生徒の将来を見据え、部活動を通じた人間形成を目的としていること。そのために取入れているのが「主体性練習」。自分たちの弱点や課題を話し合って把握し、それを克服するための練習メニューを生徒たちが自ら考えて実行します。
指導者に言われたメニューをこなすだけでは、子供たちの主体性のが生まれないうえ、練習に身が入らないケースがあるなど効率が悪くなってしまうのです。練習時間は「量より質」と考えて、全体練習の時間を少なくする代わりに練習をしても休んでもトレーニングをしてもよい自由な日を設け、生徒たちに選択肢を与えています。全体練習が少ないということは、自由時間がたくさんあると言えるので、そのなかでどう過ごすか、生徒たちは主体的に考えるようになります。そうした主体性が、より強くなるために、ひいてはより充実した学校生活・日常生活を送れることにつながるといいます。
一昨年に全国制覇へと導いた豊野中学校バスケ部の田中先生は「練習のドリル化」を紹介。バスケットボールには、ボールを持ってから24秒以内に攻撃を終えなければならない「24秒ルール」があります。それを意識し、一つひとつの練習は、どれも20~30秒で完結するテンポの速いメニューにしてドリル化。こうした工夫により、より実戦に近い形での練習になるだけでなく、多くのメニューを短時間でこなせるというわけです。
県大会優勝、全国大会常連校の静岡聖光学院ラグビー部は、課題や練習メニューの共通把握を大切にしています。1時間しかない練習時間の最初の10分で、その日の練習メニューのポイントを共有するために必ず映像ミーティングを実施。「なんとなく」をとことん排除することで、短時間でも質の高い練習を実現しています。
わずか数年で県リーグ昇格を果たした安芸南高校サッカー部には、「3S活動」という取組があります。3Sとは「整理・整頓・清掃」の頭文字を取ったもので、部員たちは、自ら進んで持ち物の整理・整頓から部室・トイレといったあまり人に見られないところまで徹底して清掃を行っています。こうした日々の心がけは気持ちよく活動に臨むためのスタートになるだけでなく、成果を可視化できるため、心を整えたり頭の中の情報整理をしたりすることにつながると畑先生は考えています。
問題意識をもった生徒たちが繰り広げる白熱した議論
指導者や有識者の講義に加え、参加校の生徒たちによるプレゼンテーションも行われました。静岡聖光学院ラグビー部、静岡県立韮山高校写真報道部、広島県立安芸南高校サッカー部の代表者が登壇し、各部活における日々の工夫を発表しました。
全国高校新聞コンクール優勝の実績をもつ韮山高等学校の写真報道部は、「今、部活動のあり方を考える~働き方改革と部活動ガイドライン~」と題し、前・厚生労働省職業安定局長への取材を実施。働き方改革と部活動の問題を絡めて話を聞き、時間外労働の上限規制ができたことで教員の勤務にも影響が出ることが予想されると導き出しました。それを踏まえて校内の運動部にも取材し、「部活動の意義や目的をもう一度考える必要があるのでは」と投げかけました。
静岡聖光学院ラグビー部は、時間の使い方に関する工夫を発表。ホームルーム後からウォーミングアップを開始する、水分補給中にもミーティングをするなど、時短練習を実現するための細かいポイントを紹介しました。そして「練習の質に波があるのが現在の課題」とし、それを改善するためにはどうしたらよいか、グループディスカッションを行いました。
各グループからは「日ごとの目標を設定して全員と共有する」「分刻みの練習を中心に行い、集中力が切れてきたら試合形式の実戦練習に切り替える」「実力の近い選手をライバルと認定し、その人より劣っているところを徹底的に練習する」といった、具体的かつ実践的な解決策が出されていました。
安芸南高校サッカー部は、畑先生の提唱する「ボトムアップ理論」を紹介。「ボトムアップ」は、指導者が上から指示・命令する上意下達「トップダウン」とは反対に生徒たちが自主的に考えて意見し、指導者に提案する形の組織論です。
前述の「3S活動」の一環として部室の整理整頓(写真上)をはじめ、日々の練習時間やメニュー、戦術やゲームプランを決めるだけでなく、試合に出るメンバー選考も生徒たちが自ら行っているといいます。
このように、決して上意下達で“やらせている”のではなく、生徒が主体となって役割と責任を担い、指導者は生徒自らの行動力を育てるための環境を整えるコーチングを行っています。その結果、学校生活だけでなく競技力の成果にもつながっているのです。
「人に言われてやるよりも、自ら考えて行動する力こそ、子供たちが大人になって社会に出るときに一番必要なこと」――。主体性やマネジメント力を育てるこれらの取組は、社会で必要とされる人材の育成に大きく貢献するでしょう。
部活動サミットは生徒が主体となって開催
本サミットを主催したのは、静岡聖光学院ラグビー部の生徒たちです。子供たち自らが部活動のあり方や全国での問題に目を向け、環境整備のために学ぶ場を設けようと大人たちを巻き込みながら準備してきました。クラウドファンディングで資金を募るところから、講師陣のアポイント、日程調整に至るまで、すべて子供たちが行いました。
本サミットを発案し、中心的に運営に携わった風間悠平くん(高3)は「準備の段階で想像していた以上に学ぶことが多くありました。自分たちは部内の活動にしか目を向けていませんでしたが、文化部や他校の生徒さんからの声を聞けたことで、ここでの学びを学内全体に発信したいと思いました。」「部活動だけでなく、授業や日常生活への取組み方も明日から工夫する必要があると感じています。今後も第2回、第3回と継続して開催し、学びの輪が広がっていくことを期待したいです」と語りました。
まとめ
有意義な講義や発表に続いて中高生とは思えない高度な議論が交わされ、濃密な2日間は幕を閉じました。限られた環境下で、どうしたら最適な部活動を実現できるのか――。そんな問題意識をもった子供たちが自らの生活をよりよいものにしようと全力を尽くす姿がそこにはありました。
部活動のあり方を考えることが、ひいては子供たちの人生を考えることにもつながります。高い意識をもって生活する子供たちのために私たち大人がサポートしてあげられることは何か。これを機にみなさんも考えてみてはいかがでしょうか。
【登壇者】
田中英夫(春日部市立豊野中学校バスケットボール部監督)
畑喜美夫(広島県立安芸南高校サッカー部監督)
星野明宏(静岡聖光学院副校長)
小寺良二(JOCキャリアアカデミー講師)
小林忠広(NPO法人スポーツコーチング・イニシアチブ代表)
【参加校】
北海道札幌南高校ラグビー部
広島県立安芸南高校サッカー部
静岡県立韮山高校写真報道部
藤枝順心サッカークラブジュニアユース
静岡市立安東中学校吹奏楽部
静岡聖光学院ラグビー部
【視察報告】
佐賀県立伊万里高等学校野球部
鹿児島県立川内高等学校バスケットボール部
※本記事は以下の資料を参照しています
運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(2018-09-01閲覧)(PDF)