生徒の多様なニーズに応えるスポーツ・レクリエーション活動部
近年、生徒の運動・スポーツに関するニーズは、競技力の向上以外にも、友達と楽しめる、適度な頻度で行えるなど多様化しています。一方、現在の運動部活動が、女子や障害のある生徒等を含めて生徒の潜在的なニーズに必ずしも応えられていない現状があり、競技志向ではなくレクリエーション志向で行う運動機会の創出を図るなど、生徒が楽しく体を動かす習慣が身につけられるよう、生徒の多様なニーズに応じた活動を行うことができる運動部の設置が求められています。
東京都八王子市では、教育委員会と八王子市レクリエーション協会が連携して、市内の6つの中学校に「スポーツ・レクリエーション活動部」を創設し、運動が得意でない生徒も楽しく運動習慣を身につけられるよう取り組んでいます。
今回は、八王子市立別所中学校での取り組みについて、取材してきました。
気軽に楽しく運動する機会を創出
八王子市立別所中学校では、部活動が盛んに行われており、生徒の約9割が部活動に参加しています。2017年には、生徒の多様なニーズに応えるため、学校に設置されている9つの運動部と4つの文化部に加え、レクリエーション部を創設しました。レクリエーション部は、室内で体をあまり動かさない活動が中心でしたが、2020年にスポーツ・レクリエーション活動部(以下、スポレク部)として再編。八王子市レクリエーション協会や大学と提携して、運動が得意でない生徒も楽しみながら運動習慣を身につけられるよう取り組んでいます。現在、スポレク部には9人の部員が在籍していますが、部員以外の飛び入り参加も認めており、活動日には部員ではない生徒も参加するなど、気軽に運動できる環境を整えています。
レクリエーション協会が中学校の部活動に参画した理由について、日本レクリエーション協会の原秀光さんにお話を伺いました。
「スポーツ庁のガイドラインに書かれている『生徒のニーズを踏まえた運動部の設置』と、レクリエーション協会の活動内容には重なる部分が多くあります。レクリエーション協会が中学校の部活動に参画し、スポレク部が設置されることによって、生徒同士が楽しい時間を共有しながら、日頃から運動を行うことで、これまで以上にスポーツに慣れ親しむことができるのではないかと考えました」
生徒のアイデアを活かした活動
スポレク部の活動は、新型コロナウイルス感染症の影響により、予定していた4月から実施することができず、9月からスタートしました。レクリエーション協会の公認指導者と大学生の指導のもと、校庭や教室などで活動しており、その活動場所に応じて、ディスクゴルフやラダーゲッター、インディアカなどのさまざまな種目を実施しています。
指導にあたっている八王子市レクリエーション協会は、数年前から市内の小学生を対象に課外授業『あそびの城』として、体を動かす遊びの数々を教えてきました。スポレク部では、どのように生徒と関わり指導しているのでしょうか。
「レクリエーション協会は、障害の有無に関係なく、幼児から高齢者まで、誰もが楽しく参加できる環境をつくることを大切にしています。そのため、部活動の指導においても、どのようにすれば生徒が楽しく参加できるのか、一人一人の考えや違いを大切にしながら、生徒への接し方や種目を考えています。また、指導者自ら生徒の輪の中に馴染むことも、生徒との信頼関係の構築や参加したくなる雰囲気づくりには大切です。私たちは生徒に対して、同じ目線で接することで、生徒の輪の中に溶け込めるようにしています」
(八王子市レクリエーション協会 塩澤廸夫 会長)
生徒たちと話し合いながら、活動場所や種目、ルールなどを決めるそうですね。
「スポーツというと立派な体育館やグラウンドがないとできないと思われがちですが、スポーツ・レクリエーションの場合、通路やちょっとしたスペースでも活動が可能です。例えば、学校の敷地内にある雑木林でディスクゴルフや、草むらでソフトバレーをやったり、他の運動部が使用しているグラウンドの隙間でゴルフスポーツをやったりなど、他の部活動と共存しつつ、その場所にあるものを上手く活用しながら、どのような運動ができるかを生徒と一緒に考えています。ゴルフスポーツであれば、私たちが生徒に通常のゴルフのルールを伝え、そのルールを生徒と一緒に作り変えて、より楽しくできるように工夫しています。私たちが楽しく活動する姿を見て、飛び入りで参加してくれる生徒もいるなど、生徒同士の交流の幅も広がったと思います」
(八王子市レクリエーション協会 塩澤廸夫 会長)
体を動かす習慣と自発的な積極性が芽生える
スポレク部を通じて、生徒たちの意識にも何か変化があったのでしょうか?また、今後、学校としてどのように活動を続けていくのでしょうか。
「これまで運動をしなかった生徒たちが体を動かすようになりました。特に特別支援学級の生徒たちから部活動が待ち遠しいという声を聞いています。今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、部活動の募集が思うようにできませんでした。来年度は、多くの生徒に参加を促すとともに、コロナが終息した際には地域の方も参加できるようにするなど、スポレク部の活動を地域にも広げていきたいと思います。加えて、本校の教育課程の柱の一つとして、スポレク部の活動を盛んにしていきたいと考えています。」
(八王子市立別所中学校 大房校長)
「レクリエーション協会や大学生の指導者の方が来ない日でも、生徒たちは積極的に屋外で活動するようになりました。いままでは準備体操などをすることもなかったのですが、いまでは自主的に軽いランニングやストレッチを行うなど、体を動かす意識が出てきました。指導者の方々とのコミュニケーションを通して、よく話を聞く、みんなで協力する、楽しむという資質が培われたかなと思います」
(八王子市立別所中学校 井出 主任教諭)
リモートでの会議の様子 別所中学校(左上・右上) 八王子市教育委員会(左下)
日本レクリエーション協会・八王子市レクリエーション協会(右下)
生徒の多様なニーズに応じた部活動
八王子市では、これまで子どもたちに「体を動かすことの楽しさ」を伝えるべく、運動不足の解消や体力向上の機会を増やすことに取り組んできました。今回のスポレク部の取り組みについて、八王子市教育委員会にお話を伺いました。
「生徒が部活動に求めることは多様化しており、そのニーズにも対応できるよう部活動の裾野を広げていく必要があると考えています。教育委員会としては、競技志向ではなく、気軽に体を動かしたい、友達と楽しく活動がしたい、という生徒のニーズに応じた別所中学校の取り組みを、大変うれしく思います。現在、先生たちだけで部活動を継続していくのは難しい問題もあり、今回のレクリエーション協会のように地域と連携・協力することで部活動を継続できる学校もあると思います。」
(八王子市教育委員会 福島氏)
まとめ
今回紹介した八王子市は、教育委員会とレクリエーション協会が連携して、生徒の「気軽に運動がしたい、友達と楽しく活動がしたい」というニーズに応えた取り組みを進めています。
取材した別所中学校では、生徒の運動に対する意欲が高まるだけでなく、生徒同士のコミュニケーションが増えたり、積極性が培われたそうです。
運動が得意でない生徒も楽しく運動に取り組める今回の事例は、子どもの体力向上やコロナ禍における運動不足解消の観点からも、全国の先導的なモデルケースとなり得るのではないでしょうか。
本記事は以下の資料を参照しています
八王子市立別所中学校(2021-03-01閲覧)
公益財団法人 日本レクリエーション協会(2021-03-01閲覧)
公益財団法人 日本レクリエーション協会 - スポーツ庁委託事業 運動部活動改革プラン スポーツ・レクリエーション活動部創設事業(2021-03-01閲覧)
スポーツ庁 - 運動部活動改革(2021-03-01閲覧)