「痩せていれば病気にならない」は誤解!? 女性の大敵「痩せ」「運動不足」のリスクと解決策【前編】
日本人のうち、特に20~40代の女性はスポーツ実施率が低く、長年問題視されています。その理由として挙げられるのは、仕事や子育てによってスポーツをする時間を捻出できないこと。しかし、運動不足は肥満や生活習慣病につながるだけでなく、痩せている人にとっても健康を障害するリスクとなることがわかってきました。そこで今回は、女性の健康に深い関係があるスポーツに関する話題を中心に、忙しい日々にも取入れやすい解決策を前後編に分けてお届けします。
去る2019年3月12日、「スポーツエールカンパニーシンポジウム~スポーツによる企業活力の向上を考える~」が東京・目黒で開催されました。前編では、女性の健康にフォーカスして「働く女性にとってのスポーツ」と題する基調講演を行った順天堂大学国際教養学部グローバルヘルスサービス領域の田村好史先生の話をご紹介します。
「エネルギー低回転型」の“痩せ女性”は非常に危険!
Tastumi Y. et al., Diabetol Int, 2012 より作図
世界的に見ると、日本人女性は痩せている人の割合が高く、若い女性のおよそ5人に1人はBMI(ボディマス指数)が18.5未満。世間では、メタボリックシンドロームやそれに伴う生活習慣病リスクが叫ばれていますが、「痩せていれば病気とは無縁でいられる」と思っている人はいないでしょうか。上記のグラフからもわかるとおり、BMIが高い肥満の人と同様にBMIが低い(18.5未満)人においても、糖尿病の発症リスクは高いのです。また、若い頃の生活習慣が後の健康状態に関連していることもわかっています。
痩せた中年女性・高齢女性の数は、将来的にまだまだ増えると考えられています。田村好史先生は、女性が寝たきりになる原因は「転倒」と「骨折」が中心であり、痩せと運動不足がその原因になっていると言います。男性は脳卒中などの生活習慣病などに起因する疾病が原因になっているのに対し、女性は筋力不足による転倒と骨量不足による骨折が直接的に関係しているとのことです。今後高齢になっていく世代が痩せたままだと、転倒・骨折による寝たきり患者が増えてしまう恐れがあるのです。
田村先生の話から女性の健康に関する問題点を整理すると、「食べない+運動しない+痩せている」という「エネルギー低回転型」と呼べる状況に陥っているのが現状で、特に身体を動かさずに低体力な状態であることは非常に危険と言えそうです。
「運動不足」は病気の原因をつくりやすい
スポーツ庁の調査によると、特に35~39歳の女性の体力が低下傾向にあります。さらに、小学生・中学生女子の体力面で深刻なのは、運動をする子としない子との「二極化」です。運動する子はきちんとしていますが、中学生女子の30%以上は、1週間の総運動時間が60分未満であるというデータが出ています。
運動不足が死亡率の上昇につながるというエビデンスは数多く報告されています。あるアメリカの研究グループは、成人男性1万4345名を対象に約6年間のBMI値と体力の変化を計測し、その後の死亡率を追跡調査しました。すると、6年間の体重の変化に関係なく、体力レベルが低下したグループで圧倒的に死亡率が高い結果に。つまり、いくら身体が痩せていったとしても運動をせずに体力が低くなっていくと、太っていて体力レベルが低くなった人と同じくらい死亡リスクが高まるというわけです。
戦時中に日本の女子高に在学していた生徒のその後を調査した、類似した研究もあります。高校在学時の体力測定の結果が高かった人と低かった人を比べると、低かったグループほど早く亡くなる人や、70歳以降も死亡率が高まる傾向となりました。体力との因果関係は不明ですが、体力の低い人の中には心臓病や脳卒中などを発症する人が多い点が関連している可能性もあるとのことです。
「患者さんのなかには、糖質制限をしている人がいます。糖質制限によって体重は劇的に落ちますし、血糖値も低下して糖尿病の合併症リスクも減るのですが、だからといって運動をしないでいると、寿命を縮めたり寝たきりを早めたりといった、別の病気のリスクを高めます」
また、運動不足はさまざまな疾患につながることもわかっています。まず、メタボリックシンドロームで体力の低い人は中年から徐々に脳の変性が生じていて、それが将来の認知症のリスクを高める可能性があるようです。逆に、中年の頃に週2回以上運動していた人は、運動していない人に比べて高齢になったときにアルツハイマー病を発症する割合が0.38倍、認知症を発症する割合が0.48倍になるという報告もあるのです。
これ以外に、身体活動はがんとの相関も高く、特に運動不足の人は大腸がんになりやすいと言われています。女性であれば、子宮がんや乳がんといったがんのリスクも懸念されます。
「痩せ女性」のリスクは「脂肪筋」と「サルコペニア」!太った人と同程度の糖尿病リスクに
Someya Y. et al. Journal of the Endocrine Society 2018より作図
なぜこれほどまでに運動と健康との関連が深いのでしょうか。鍵を握るのは、筋肉の「量」と「質」。田村先生によると、日本人は正常体重でも筋肉に脂肪がたまってしまう「脂肪筋」になって、「インスリン抵抗性」という筋肉の「質」が低下した状態の人が多いと言います。筋肉は人の身体の50~60%を占めるため、その質が悪くなるとそれがメタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病を発症する原因になるのです。
では、正常体重だけでなく痩せている女性でも太った人と同じくらい糖尿病になりやすいのはなぜでしょうか? 田村先生たちの研究グループは、約60名の痩せ型の女性を集めた研究を発表しましたが、それによると閉経後の痩せた女性の約半数近くがサルコペニア(加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下)の基準に達していたのです。さらに、食後の血糖値が上がりやすいIGT(耐糖能異常:空腹時の血糖値が正常値と異常値【糖尿病と判断される値】の間にある状態)の人が、30名中11名と高率にいました。さらに細かく調べると、痩せていても脂肪筋となっていて、筋肉量が少ない人ほど血糖値が高い結果となりました。つまり、血糖値が高くなる痩せた女性は、筋肉の「量」と「質」の両方が悪い状態だったのです。
脂肪筋を作る原因は、主に2つ。「運動不足」と「高脂肪食」です。たとえば、3日間にわたり脂っこいものを食べ、1日に3000歩ほどしか歩かないと、その3日間で脂肪筋が1.5~2倍に増え、筋肉の質が10~20%ほど落ちることがわかっています。
ただし、脂肪筋は減らすことも簡単にできると田村先生は言います。「脂肪筋を減らすには、とにかく毎日しっかり動くこと。『運動をしても体重が減らない人』は多いかと思いますが、それでも運動によって筋内の脂肪を減らし、“質”を改善できます。たとえ体重が減らなくても、運動によって筋肉の質をよくすることが健康につながると考えています」
こうした現状を踏まえ、世の女性には痩せていることへのリスク啓発が急務だと田村先生は話します。「痩せ女性」のリスクを回避するために、まずは食生活の見直しが必要です。「痩せた女性に多いのが、炭水化物を少しだけ食べておかずをまったく食べないパターンです。これでは、タンパク質をとれないので筋量は増えていきません。しっかりと肉や魚、豆類、乳製品を毎食とるようにしましょう」
もうひとつは、骨量を増やすこと。もっとも骨量が増加するのは10代の頃です。若い頃から十分な栄養と運動によって骨密度を上げることで「痩せ女性」に多い骨折のリスクが減り、その後の人生の健康につながると言えるでしょう。
座りっぱなしを避け、運動はこまめに楽しく継続しよう!
痩せている女性が増えているのは、「食べないこと」と「運動しないこと」が原因と考えられます。動かなければお腹も空きにくく、筋肉もつきません。痩せ願望に結びつく社会的な問題や運動嫌いが原因となっているのかもしれません。
田村先生が推奨するのは、簡単かつ一人で継続できる運動。すなわちウォーキングです。続けるコツは、時間ではなく歩数でカウントすること。歩数を意識すると、こまめに動く機会が増えます。
「『いつ運動すればいいのか』とよく聞かれますが、30分おきに100秒運動すると血糖値の上昇を抑えられたという研究結果もあります。ちょっとした時間に少しでも身体を動かすと、無理なく継続できて効果的なのではないでしょうか」
座りっぱなしでいることをやめ、30分に一度立ち上がり動いてみるだけでも効果が期待できます。また、運動を継続するためには「楽しい」要素も必要です。今後始めてみたい運動やスポーツのアンケート調査では、ウォーキングを筆頭に、エアロビクス、ヨガ、トレーニング、マラソンなどが上位に上がりました。まずは、自分が楽しそうだと思う運動を始めてみることが継続の第一歩となるでしょう。
まとめ
太っているだけでなく、痩せていることにも健康上のリスクがたくさんあることをおわかりいただけたでしょうか。痩せ型の女性がより健康になるには、「しっかり食べて運動する」という「エネルギー高回転型」のイメージをもつのがよいでしょう。デスクワーク中心の女性も多いと思いますが、まずは1日8000歩を目標にウォーキングを始めてみてはいかがでしょうか。
骨量の形成のピークは20歳くらいと言われています。こまめに楽しく身体を動かして運動不足解消、ひいては「痩せ女性」のリスクを撃退し、健康な毎日を送れるよう心がけてみてください。後編となる次回は、スポーツ庁が取組む “Sport in Life” 生活の中に気軽に取入れられる運動メニューの提供とその効果について
●本記事は以下のスポーツ庁発表の資料を参照しています
関連記事
スポーツ庁 - 多い?少ない?スポーツをする人は約「5」割。 世論調査から見る!日本のスポーツ「する」「みる」「ささえる」
スポーツ庁 - 数字で見る!たった「10」分プラスで病気が防げる?
スポーツ庁 - プラス「10」分のウォーキングから始めるストレス対策